ようやく安倍政権と沖縄県の対話の窓が開いたのだろうか。これを継続的な話し合いの場に育てなければならない。

 米軍普天間飛行場の沖縄県名護市辺野古への移設に伴う新基地建設をめぐり、安倍政権と沖縄県が9月9日まで1カ月間、すべての工事を中断し、集中的に協議することで合意した。

 近く本体工事に着手する方針だった政権と、前知事の埋め立て承認を取り消す方針だった沖縄県。このまま進めば、双方が対抗措置を繰り出す泥沼の衝突に発展するのは必至だった。

 その寸前に、かろうじて1カ月の猶予期間が生まれた。翁長雄志(おながたけし)知事の誕生から8カ月、すれ違いが続いてきた国と県が、本格的な話し合いの席に着くことは評価したい。

 だが、互いの歩み寄りは容易ではない。

 協議期間は1カ月に区切られている。政権が、辺野古移設が唯一の解決策という方針を転換する気配もない。

 おそらく政権にはこんな事情があるのだろう。

 これからの1カ月は、世論の批判が広がっている安全保障関連法案の参院審議と重なる。原発再稼働など国民の評価が割れる課題もある。そのうえに、沖縄県の強い反対を押し切って辺野古の埋め立てを強行すれば、内閣支持率のさらなる低下を招きかねない――。

 9月9日までの協議期間は、安保法案が成立するまでの、つかの間の「休戦期間」なのか。そんな疑念がぬぐえない。

 翁長知事も「辺野古新基地建設は不可能」とする姿勢を貫く構えだ。昨年の名護市長選、知事選、総選挙で繰り返し示された新基地建設反対の民意が知事の背中を押している。

 双方に事情はあろうが、せっかくの対話の機会を問題の打開につなげてほしい。

 まず確認すべきは「辺野古か普天間か」の二者択一の議論はもう終わりにすることだ。

 中国と長期的に安定した関係を築くには、どんな外交戦略が必要なのか。そのなかに米軍や自衛隊をどう位置づけるべきなのか。沖縄に基地が集中することに意味があるのか。海兵隊の基地は本当に必要なのか。大きな構図の中で、白紙から再考すべきである。

 それは、安倍政権と沖縄県だけで成り立つ議論ではない。

 解決には米国との本格協議が必要であり、それを避けている限り、政権が本気で沖縄と向き合っているとは言えない。この1カ月を、こうした議論を深めるための転機とすべきだ。