トップページ特集インデックスWEB特集

WEB特集

わが家の弁護士「ホームロイヤー」

7月31日 17時30分

石崎理恵記者

老後の生活設計や財産管理などの困りごとに弁護士が対応する「ホームロイヤー」、“個人の顧問弁護士”が広がりを見せています。いわば“かかりつけの弁護士”として依頼者と顔なじみの関係となり、月々の定額で相談に応じる新たな弁護士像について社会部の石崎理恵記者が解説します。

「ホームロイヤー」とは

「ホームロイヤー」は弁護士の仕事の“新たな分野”といえます。
弁護士というと、刑事事件などで法廷に立ったり、高い金額で相談を受け付けるというイメージを持つ人がいるかもしれませんが、ホームロイヤーは高齢者の生活を見守る、いわば”個人の顧問弁護士”です。料金は月々5000円から1万円が主流だということです。
東京・八王子市の中山二基子弁護士は15年前からこのホームロイヤーに取り組んでいます。

ニュース画像

認知症などで判断能力が不十分な人にかわって弁護士などが財産を管理したりする「成年後見人」という仕組みがありますが、判断能力が十分なうちから高齢者をサポートする仕組みをつくれないかと考えたことがきっかけでした。ホームロイヤーの数は全国的に増えてきており、依頼者の数も年々増えてきているといいます。

広がる背景には“家族のあり方の変化”

こうした「ホームロイヤー」が広がりを見せている背景のひとつには、「家族の形の変化」が挙げられます。

ニュース画像

核家族化が進み、頼れる家族や親族がいない。または近くにいても、頼りたくない、迷惑はかけられないと考える高齢者も増えています。もはや「家族の中で支え合う」ということが必ずしも一般的とは言えなくなっています。

1人暮らしの女性は

東京・立川市に住む87歳の女性は、1人暮らしで、近くに頼る家族がいないため、生活に不安を感じ、8年前から中山弁護士とホームロイヤーの契約を交わしています。毎月1回は面会し、健康状態や判断能力に問題がないか、確認してもらいます。また、日常のトラブルや相談ごとへのアドバイスを受けられることになっています。費用は月1万円です。女性はことし、入居している施設から、終末期の医療をどうするか、あらかじめ意思確認を求められた際、「ホームロイヤー」の中山弁護士を呼びました。

ニュース画像

突然の病気などで救急搬送された際、人工呼吸器を着けるべきかどうか、最期をどこで迎えるかなど、ひとつひとつ相談したといいます。そして、施設に提出する書類へは、「家族代表」の欄に中山弁護士が「ホームロイヤー」として署名しました。女性は、「孤独感から解放されます。ひとりで決めるのは間違いもあると思うが、弁護士からは必ずいい意見をもらえるので、安心しています」と話していました。

近くに家族がいても

近くに家族がいても、「ホームロイヤー」を頼りにしている人もいます。
横浜市に住む83歳の女性は、近くに弟夫婦がいて、毎週末に様子を見に来てくれますが、「迷惑をかけちゃいけない」と感じているといいます。そこで、わからないことや困ったことがあるとすぐに「ホームロイヤー」に電話をして確認します。女性は届いた郵便物をためておき、いつも一緒に整理します。必要なものとそうでないものに仕分けをしてもらいます。
また、自分が死を迎えるときの準備も一緒に進めていて、遺影にする写真や遺言などもすでに用意しています。寺にも一緒に行ってもらい、戒名もすでに準備しました。

ニュース画像

女性はホームロイヤーについて、「本当に困ったことがあったら、朝早くから電話をしてしまったりします。親戚のように、なんでも相談できる」と話していました。

弁護士側の事情も

「ホームロイヤー」が広がる背景には弁護士側の事情もあります。

ニュース画像

弁護士の数は、この10年で1.7倍と急激に増えています。このため、裁判での弁護活動や企業の顧問弁護士というこれまでの活動だけではなく、新たなニーズを開拓したいという動きが広がっています。
静岡県弁護士会は、自治会ぐるみでホームロイヤーと契約する仕組みを去年から導入しています。弁護士は自治会から顧問料はとらず、同一の相談は3回までと限度はあるものの、基本的に無料で相談に応じます。弁護士の側も、地域に顔を知ってもらい、弁護士の需要を掘り起こすというメリットがあるといいます。
ただ、高齢者に寄り添う弁護士も学ぶべき事がたくさんあります。法律に詳しければよいわけではありません。医療や福祉の関係者との連携が欠かせません。
日本弁護士連合会の部会では、ホームロイヤーに関するマニュアルを整備しています。また、弁護士に向けた講習会を各地で行っています。さらに、講習を受けた弁護士を登録制にするかどうか、検討する必要があるとしています。
弁護士と依頼者の関係は、これまでは「ひとつの事案が終わったら終わり」ということが少なくありませんでした。ホームロイヤーは依頼者が亡くなるまで、場合によって亡くなった後も支援を続けるという「長いつきあい」になります。
新たな弁護士像の「ホームロイヤー」が高齢者を支える新たな担い手として広く浸透していくためには、弁護士がこれまでの分野だけでなく高齢者の多種多様な要望に柔軟に対応していく姿勢が欠かせないと思います。


→ 特集インデックスページへ

このページの先頭へ