社説:安保転換を問う 礒崎氏の招致

毎日新聞 2015年08月04日 02時32分(最終更新 08月04日 05時29分)

 ◇憲法軽視の疑い消えぬ

 礒崎陽輔首相補佐官が、安全保障関連法案をめぐり「法的安定性は関係ない」と語った自らの発言を撤回し、陳謝した。安倍政権はこれで幕引きを図るつもりのようだが、一連の対応は、納得がいかない。

 礒崎氏は、参院の特別委員会に参考人として出席し「軽率な発言」だったと陳謝。「合憲性、法的安定性は当然の前提」「誤解を与えて申し訳なく思う」「発言を取り消す」と述べた。引責辞任は否定した。

 問題となった7月26日の発言は「何を考えないといけないか。法的安定性は関係ない。わが国を守るために必要な措置かどうかを基準にしないといけない」というものだ。安全保障上の必要性は、憲法を頂点とする法秩序の安定性よりも優先されるべきだ、と言ったに等しい。

 関連法案に対し「憲法違反」との批判が高まり、法的安定性が保たれているかどうかが国会審議の焦点となっている状況で飛び出した発言だった。撤回、陳謝は当然のことだ。

 だが、参考人招致でのやり取りは、その場しのぎの印象がぬぐえなかった。礒崎氏の冒頭発言に続いて、鴻池祥肇委員長(自民党)が、首相補佐官の仕事や法案成立時期に言及した発言を問いただし、その後、野党を代表して民主党の福山哲郎氏が質問した。法案の根幹に関わる大きな問題なのに、全体でたったの20分程度で終わった。あまりに不十分だ。

 礒崎氏が、言い間違いにより誤解を招いた、という認識を示したことも受け入れ難い。

 テレビ報道によると、礒崎氏は、前日の7月25日にも「法的安定性で国は守れますか。そんなもので守れるわけがない」と、より率直な表現で同趣旨の発言をしていたという。

 2日続けての発言は、偶然に口を滑らせたという話ではなく、本音が出たと見るべきだろう。

 首相補佐官は、重要政策について首相を補佐するのが仕事で、礒崎氏は国家安全保障を担当している。集団的自衛権の行使を認めた昨年の閣議決定や、関連法案の作成に中心的にかかわってきた。

 安倍晋三首相は「誤解を生むような発言をすべきではない」と礒崎氏を注意したという。だが、野党が更迭を求め、与党の公明党からも一時、進退論が出ても、首相官邸は礒崎氏をかばい続けている。

 礒崎氏への甘い対応は、政権全体としてこの問題を深刻に受け止めていないことの表れのように見える。

 この間の首相官邸の対応と参考人招致でのやり取りを見る限り、安倍政権が憲法を軽視しているとの疑念は、やはり消えない。

最新写真特集