問題は首相補佐官としての発言の是非にとどまらない。安倍首相の任命責任、さらには憲法を軽視してきた政権全体の姿勢が問われている。

 安全保障関連法案をめぐって「考えないといけないのは、わが国を守るために必要な措置かどうかで、法的安定性は関係ない」と講演で発言した礒崎陽輔首相補佐官が、参院特別委員会で参考人として釈明した。

 自らの発言を「不適切だった」と認め、陳謝したが、首相補佐官の辞任は否定した。

 納得できないのは、礒崎氏が「大きな誤解を与えてしまった」と述べている点だ。

 たとえば問題発言のあった講演より前、7月19日付の礒崎氏のホームページには当初、次のような記述があった。

 「日本を取り巻く国際情勢が大きく変化しているにもかかわらず、従来の憲法解釈との法的安定性を欠くなどという形式議論に終始しているのは、国家にとって有益ではありません」

 ここでも法的安定性を「形式議論」と切り捨てていた。誤解でも何でもない、これこそが偽らざる本音だったのだろう。

 総務省出身の礒崎氏は、内閣参事官として有事法制の整備を手がけた後、自民党参院議員に転身。首相補佐官に起用され、特定秘密保護法の制定や、集団的自衛権の行使を一部容認する憲法解釈の変更、安保法案の作成に首相官邸の代表として調整にあたった。2月には自民党の憲法改正推進本部事務局長として「憲法改正を国民に一回味わってもらう」と述べ、物議を醸したこともある。

 いわば安倍首相の改憲路線の旗振り役でもある。

 首相は「疑念をもたれるような発言は慎まねばならない」と述べたが、その関係の深さを考えれば、単なる側近議員の失言で片付けるわけにはいかない。

 「憲法守って国滅ぶ」。自民党幹部からは憲法より安保政策の方が優先だ、と言わんばかりの発言が聞かれる。礒崎氏の発言と根っこは同じ憲法軽視、法的安定性軽視の姿勢だ。

 礒崎氏の発言は、安保法案の法的安定性の本質的な欠如をも改めて浮かび上がらせた。

 限定行使の名のもとに、集団的自衛権を「行使できない」から「行使できる」に百八十度転換したこと。時の政権の裁量の余地を、できるだけ限定せずに残しておこうとする姿勢。

 法案が法的安定性を欠くのは明らかである。その責めは、首相自身と、公明党を含む政権全体が負うべきものだ。礒崎氏の招致で済む話ではない。