プロフェッショナル 仕事の流儀「獣医師・蓮岡元一」 2015.08.01


診察室に小さな小さな患者が運び込まれた。
破裂寸前の腫瘍を抱えたハムスター。
他の病院では手術できないと断られていた。
どんなに小さな命でも男は全身全霊で力を出し尽くす。
口は悪いが腕は確か。
下町で絶大な信頼を集めるすご腕獣医師。
営むのは町の小さな病院。
だが遠方からも多くの人が押し寄せる。
たとえ手遅れと言われた動物も見捨てない。

(主題歌)1匹の診察に1時間をかける事も珍しくない蓮岡。
どんな治療が最適か慎重に探り出す。
30代何のために働くのか自分を見失った。
(ほえる声)愛犬が突如凶暴化。
途方に暮れた飼い主がやって来た。
予想だにしない深刻な事態。
全身全霊で立ち向かう不屈の獣医師に密着!町工場が建ち並ぶ東大阪市。
ここに蓮岡の自宅兼動物病院がある。
開院30分前。
蓮岡はなぜか下着姿だった。
蓮岡は急患と聞くと他の事はどうでもよくなってしまう。
診察着は決まって派手なプリント柄。
かしこまった雰囲気が苦手だという。
9時半。
開院と同時に多くの人が集まってくる。
関西だけでなく首都圏から新幹線で来る人もいる。
蓮岡が診療する分野は多岐にわたる。
内科や外科更には歯科までをもこなす。
(蓮岡)ほら。
獣医師として物言わぬ動物に向き合う時大切にする流儀がある。
ノミ取り剤を使ってから体調が悪化したという4歳の猫。
皮膚の湿疹と食欲不振があった。
蓮岡は体全体にじっくりと触れ呼吸や内臓の腫れまで感じ取る。
その診察は1時間を超える事も珍しくない。
毛並みの感触から僅かにはげている箇所やなめた跡を見つけた。
飼い主が疑っていたノミ取り剤は原因ではないと診断した。
蓮岡が用意したのは注射でも薬でもなくサラダ油だけ。
過剰な治療は動物にも飼い主にも負担となる。
時間をかけた診察で症状を見極め治療は必要最小限にとどめる。
それが獣医師の責任だと蓮岡は考える。
また急患が運び込まれた。
工事現場で重傷を負った生後間もない子猫。
小さな動物は手術が特に難しいが蓮岡は即断した。
長い間待って頂いてるのはよく分かってます。
申し訳ないです。
脈はかなり弱い。
麻酔の量やタイミングを間違えれば命が危ぶまれる。
ぎりぎりのラインを見極めねばならない。
麻酔を送り込む。
どこでストップするか。
子猫が意識を失う寸前で止めた。
麻酔が効く時間はおよそ5分。
顔?動かした?麻酔が浅くなってきた。
縫い終わった瞬間目を覚ました。
はぁ〜。
手術は無事に成功した。
診療が終わるのはいつも深夜0時過ぎ。
その後も急患は時間を問わずやって来る。
蓮岡の仕事に終わりはない。
今日本では全世帯の3割がペットを飼っていると言われる。
こんにちは。
ペットを家族の一員と考え大切にする人も多い。
この男性も引退した盲導犬を手放さず長年共に暮らしてきた。
(鳴き声)しかし絆が深ければ深いほど悩みも深くなる。
技術が進歩し犬の寿命は30年前の2倍に延びたと言われている。
しかし公的な医療保険がないため高額な医療費に悩む飼い主も多いという。
更にペットを失う事で大きな喪失感を抱くペットロス症候群も深刻な問題だ。
ペットを専門に診る獣医師は飼い主の気持ちや状況にも寄り添いながら治療を行わなければならない。
この日蓮岡のもとに老犬を連れた夫婦が救急で駆け込んできた。
脇田さん夫婦と16歳のチャッピー。
昨日から何度もひきつけを起こしているという。
血液検査で原因を探る。
加齢で腎機能が低下。
尿毒症を起こしていた。
ここにこうつないで…寿命が近い厳しい病状。
自宅での点滴と通院をしながら過ごす事になった。
脇田さん夫婦がチャッピーを飼い始めたのは16年前。
子供がいない2人にとって家族同然の存在として暮らしてきた。
脇田さんとチャッピーの最後の日々をどう支えていくのか。
4日後。
・はい蓮岡です。
この日来院するはずだった脇田さんから連絡が入った。
予約をキャンセルし家でチャッピーを見守りたいという。
蓮岡が迎えに行かせると言いだした。
チャッピーの寿命を知った脇田さんが悲観していないか気がかりだった。
脇田さんはもう寿命が近いならと点滴をやめていた。
チャッピーが苦しめば脇田さん夫婦にもつらい最後になる。
看取りまでの日々に寄り添う時蓮岡が大切にしている信念がある。
2日後。
よしよしよしよし。
チャッピーはほとんど寝たきりだがけいれんは治まっていた。
床ずれにならないようにウォーターベッドを作る。
医療的には手を尽くした。
それでもできる事を考え続ける。
翌日。
チャッピーが息を引き取った。
脇田さん夫婦は点滴を続け安らかな最期を迎えたという。
あぁ〜全然違う。
違うやろ。
(笑い声)はい。
(蓮岡)あっなかなか入ってんじゃん。
この日珍しくひな鳥が運び込まれた。
蓮岡さんはこんな時のために鳥の餌になる虫も育てている。
動物と飼い主の人生に寄り添いできる限りのサポートを続ける蓮岡さん。
しかし若き日に追いかけたのは今とは全く違う獣医師像だった。
蓮岡さんは1953年大阪の生まれ。
両親は共働き。
犬や猫と遊んで寂しさを紛らわせる少年だった。
高校を卒業後動物に関わる仕事がしたいと獣医師の道に進む。
蓮岡さんは最新の技術を学ぶため東京の病院で働き始めた。
1年がたった頃。
病院の留守を任されていた蓮岡さんのもとに一人の少女がやって来た。
腕には既に息絶えた一匹の子猫。
泣いて悲しむ少女に胸をつかれ一緒に埋葬しに出かけた。
しかし病院に戻るとこっぴどくしかられた。
蓮岡さんは朝から晩まで先輩について回り必死で勉強し始めた。
寝る間を惜しみ時には食事も忘れて全ての時間を治療にささげた。
そして3年後。
自信をつけた蓮岡さんは大阪で開業。
間もなく評判は広まり毎日何十組もが訪れるようになってくる。
ひたすら数をこなすため蓮岡さんは次々と素早く診断を下していった。
飼い主と会話はせず助からない動物は運命なのだと自分に言い聞かせた。
感情を押し殺して治療に当たる毎日。
次第に蓮岡さんは仕事を苦痛に感じるようになっていった。
言いませんでしたっけ?悶々とする中で一つの出来事があった。
当時1歳だった長男の姿を目にした時だった。
飼い主にとって病院に来る動物たちは自分の子供と同じ大切な存在。
獣医師にはその思いを受け止める責任があるのではないか。
それから蓮岡さんは診察の方法を一から見直した。
どんなに深夜になっても手を抜かず一匹一匹じっくりと診察した。
そして我が子のように動物を思う飼い主たちの不安や悲しみにとことん寄り添った。
蓮岡さんは自らの進むべき道を見つけ出した。
それからおよそ30年。
今日も深夜まで蓮岡さんの診療は続いている。
(笑い声)5月。
蓮岡は難しい診察に当たっていた。
飼い主の神太麻真由美さん。
穏やかだった犬が突如凶暴になったという。
(ほえる声)
(ほえる声)トイプードルのけんた。
あまりの凶暴さに他からは診察を断られ一縷の望みをかけて蓮岡のもとにやって来た。
(ほえる声)神太麻さんは別の症状で病院に行った時乱暴に診察された事が原因ではないかと考えていた。
しかし蓮岡の見立ては違った。
診察の結果脳腫瘍の可能性がある。
専門病院で脳を詳しく調べた方がいいと考えていた。
神太麻さんは大がかりな検査は更にけんたのストレスになると心配していた。
蓮岡は神太麻さんの気持ちを考え強くは勧めなかった。
6日後。
事態は急変した。
けんたが回転運動をして止まらなくなったという。
いいでしょうか?はいどうぞ。
制止しても止まらず何時間も回り続けていた。
やはり脳腫瘍の可能性が高い。
神太麻さん夫婦がけんたと暮らし始めたのは結婚して5年目の秋。
それから11年。
人懐っこいけんたとどんな時も一緒に生活してきた。
突然の変貌ぶりに神太麻さん夫婦は戸惑っていた。
けんたへの負担を心配し検査に二の足を踏む神太麻さんの気持ちはよく分かる。
飼い主の意向を尊重しながら治療を進めなければならないのが獣医師だ。
しかし原因を確定しなければ最適な治療が選べずけんたは更に苦しむ。
翌日蓮岡は再び神太麻さんを訪ねた。
神太麻さん夫婦はどうすればいいか決めかねていた。
ああでもないこうでもないとか言って。
ああだこうだとか言うて。
更に蓮岡は自分も検査に立ち会うと伝えた。
そっか…。
そやね。
先生よろしいですか?神太麻さんです。
しばらくして神太麻さんから返事があった。
検査を受ける。
2人はそう決心した。
検査当日。
約束どおり蓮岡が立ち会う。
できるだけ恐怖心を与えないよう蓮岡がけんたを抱きかかえる。
検査が始まった。
脳の画像が映し出される。
大きな腫瘍がけんたの脳を占拠していた。
小脳は圧迫され変形し痛みが出ている事も分かった。
(王寺)病気としては結構重篤ですよね。
うん…あの…。
今後は蓮岡が薬で症状を緩和していく。
3日後。
神太麻さんはけんたが昔から懐いていためいっ子たちを家に招いた。
けんたは蓮岡が処方した薬が効いて以前のように穏やかになっていた。
残された時間は決して長くない。
それでも最後の日々に精いっぱい向き合おうとしていた。
すごいね今までずっと家族が笑顔になるような…。
最後は2人で…。
何て言うのかな看取りたいなって言ってて。
半月後。
穏やかに暮らしていたけんたの病状が悪化した。
瞳の反応もかなり鈍い。
蓮岡は点滴で脱水症状と痛みを緩和する。
翌朝。
状態が更に悪化した。
心音が弱い。
一命は取り留めたが限界は近い。
1時なんですけど。
(蓮岡)1時?ん〜…。
夫の清司さんは朝から仕事に出たままだった。
できれば最期の瞬間に立ち会わせてあげたい。
午後2時前。
仕事を終えた清司さんが駆けつけた。
蓮岡が酸素を送っていたチューブを外す。
(蓮岡)きれいかったですこの子。
ありがとうございました。
(2人)ありがとうございました。
翌日。
神太麻さんがやって来た。
けんたを失った悲しみは計り知れない。
しかし最後に感謝の別れを告げる事はできた。

(主題歌)どれだけ力を尽くしても悲しい別れから逃れる事はできない。
それでも蓮岡は全身全霊で動物と飼い主に向き合い続ける。
オッケー。
お大事に。
日々新たに朝起きてマキシマムに働いて夜寝る。
また朝起きてマキシマムに働いて夜寝る。
その積み重ねがプロフェッショナルの道だと思います。
以上です。
これでいいですかね?世の中にはこんな人もいるんだね!2015/08/01(土) 01:00〜01:50
NHK総合1・神戸
プロフェッショナル 仕事の流儀「獣医師・蓮岡元一」[解][字][再]

絶大な信頼を集める大阪の獣医師、蓮岡元一。じっくり診察し最適な治療を見つけ出すプロ。長年連れ添ったペットのみとりをどう支えるか。小さな命に寄り添う感動のドラマ!

詳細情報
番組内容
犬や猫、鳥やハムスター、小さな命を救うペット専門の獣医師として、大阪下町で絶大な信頼を集める蓮岡元一。他で治療不可能とされた動物と飼い主が首都圏からも押し寄せる。時に1時間以上をかけじっくり診察、最適な治療方を見つけ出す蓮岡の診療。寿命が近い動物も見放さず飼い主に寄り添い、みとりまで支えていく。5月、犬が突如凶暴化し途方に暮れた飼い主がやってきた。予想を超える深刻な事態。命に寄り添う感動のドラマ!
出演者
【出演】獣医師…蓮岡元一,【語り】橋本さとし,貫地谷しほり

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – ドキュメンタリー全般
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
サンプリングレート : 48kHz
2/0モード(ステレオ)
日本語(解説)
サンプリングレート : 48kHz

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