夏といえば建築です。
というのも『美の巨人たち』では毎年8月に日本の建築スペシャルと題して数々の傑作を紹介してきたからです。
それは時代ごとに最高の技術と美意識をつぎ込んだ日本人の夢の結晶なのかもしれませんね。
とりわけ人気が高いのが権力者が造り上げた圧倒的な美の象徴お城です。
兄さんもっとお城が見たいよ。
とっておきのがあるぞ。
ついにご紹介できるときがきたようです。
白く輝く城を白鷺とも讃えられるその姿を。
国宝にして日本で最初の世界遺産。
今年3月5年半に及ぶ修理が完成しました。
築城から400年その華麗な歴史絵巻とは?今日の作品…。
城郭の広さはおよそ23万平方メートル。
甲子園球場6個分です。
現存する…。
数多くの木造建築の遺構を今に伝えています。
まずは城の南に位置する現在の大手門から広大な三の丸広場を抜けて天守を目指してみましょう。
堅牢な菱の門には桃山風の火灯窓が施されています。
扉が開き一歩中へ入ると…。
右手に壮麗な天守が。
この三国堀から見る天守は『姫路城』絶景ポイントの1つです。
これは何かといえば鉄砲や弓矢を放つための狭間。
白い壁に穿たれた不揃いな形はどんな意味があるのでしょうか?美しい曲線を描く石垣は徐々に急勾配になっています。
せり出した石落としは熱湯を浴びせ石を投げ落として侵入者を防ぐためのもの。
3つの小天守を従えた連立式の大天守。
唐破風や千鳥破風を設えた壮麗な姿です。
壁はもちろん屋根までも鮮やかな白。
いったいなぜここまで白いのか?池田輝政という武将は美しい城を造るということにこだわっていた節が見受けられるんですね。
『姫路城』そのものに品格を持たせようと。
優しく美しいお城でしょ。
では『姫路城』はなぜこんなに白いのか?そのあたりをあの兄弟に探っていただきましょう。
兄さん日差しがきついね。
日本の夏は暑いな。
やっぱり僕たちが黒すぎるからかな。
白くなりたいのか?皆さんご無沙汰しています!僕たちモデュロール兄弟は建築家ル・コルビュジエが考案した寸法体型です。
初来日からもう8年。
日本の建築は本当に奥が深い!あっ兄さん白いお城だ!あそこなら涼しいんじゃないか?よし行ってみよう!うん!まずは切符を2枚買って。
早速入場!よろしくお願いします。
はいどうぞ。
ありがとうございます。
いってらっしゃい。
おっ結構坂がきついな。
エレベーターもないし大変だね。
おっ真っ白できれいな天守だな。
僕も白かったらあんなにきれいになれるかな?兄さんどう?確かに軽やかに動ける気がするな。
やっぱ夏は白だね!って弟よ!そんなことできるわけないだろう!だよね。
でも『姫路城』はなんでこんなに白いんだ?今まで見た日本の城とずいぶん違うね。
ひょっとしてそれが狙いだったんじゃないか?どういうこと?何故『姫路城』はここまで白くなければならなかったのか?それだけではありません。
『姫路城』にはもう1つ意外な秘密があったのです。
あれ?なんかずれてない?まさか!世界遺産だぞ。
果たしてそれはどういうことか?『姫路城』の天守からおよそ1.3km南に位置するかつてはこのあたりまでが城内でした。
17世紀の『姫路城』の縄張り図です。
平地の城下町までも堀で囲む広大な平山城。
姫路の名の由来となったともいわれる姫山と鷺山という2つの山に天守と西の丸を造営。
自然の地形を利用した高低差のある複雑な曲輪を構築したのです。
ところが…。
『姫路城』が戦場になったことはありません。
そしてこう呼ばれるようになるのです。
不戦の城と。
1600年関ヶ原の戦いで勝利を収めた徳川家康はすぐさま娘婿の池田輝政を姫路の藩主に命じます。
家康は豊臣家との最終決戦を見据えていました。
豊臣秀頼の居城大坂城を取り囲んでいったのです。
そのうえ…。
西からおそらく攻め上ってくるであろう九州中国の諸大名ですね。
反政府勢力になる可能性のあるグループを姫路でおさえる。
同時に大坂の豊臣勢をにらむ…両にらみの形で軍事的拠点としての役割も果たしたいと。
姫路は戦略上重要な拠点でした。
池田輝政は8年の歳月をかけて天守を完成させています。
それは知略の限りを尽くした戦うための城でした。
菱の門をくぐった三国堀から大天守までの直線距離はおよそ65m。
しかし曲がりくねったいくつもの道筋を迷路のように張り巡らせたのです。
モデュロール兄弟ようこそ姫路城へ。
(2人)シルバーガイドの萩原さんよろしくお願いします。
ここからね道が3つに分かれてるんですけどどこから行きます?菱の門からは右直進左後方と3つに道が分かれています。
どのルートがいちばんよいのでしょうか。
そりゃあ右側の道でしょう。
それは罠だな。
僕は左後方。
正解はねどこから行っても大変なんですよ。
(2人)何それ!?では姫路城に攻め込むつもりで見てみましょう。
弟君の選んだ右側の道にはるの門という小さい入り口しかありません。
敵から狙われやすいうえにいざというときは土砂をかぶせて埋め立てる埋門になっています。
お兄さんの選んだ左後方から進むと…。
狭間から鉄砲で狙われながら坂を上りそちらに気を取られていると今度は反対側の武者溜りに待機していた兵士に襲われます。
そのうえずいぶん遠回り。
直進した場合は「いの門」「ろの門」更には「はの門」と立て続けに堅固な門を突破しなければなりません。
結局どこから行っても天守にたどり着くには難しいのです。
平和な時代でよかったね。
あぁ…。
『姫路城』はの門を描いた作品があります。
日本画家奥村土牛の傑作『門』です。
はの門を裏側から見た景色に見入られた土牛は光と影の鮮やかなコントラストでみごとに描き上げました。
このとき土牛78歳。
『姫路城』は老画家の魂をも揺さぶったのです。
最後の防衛である天守の石垣は高さおよそ15m。
内部はみごとな木造建築です。
七階建ての大天守を支える東大柱は築城当時のまま。
400年の歴史がしみ込んでいます。
今回特別にふだんは入れない場所を見せていただきました。
大天守の地下に設けられたのは厠。
つまりトイレです。
400年間一度も使用されることはありませんでしたが天守での決戦を見据えた設備です。
他にも長期戦に備えた調理用の壁には槍や鉄砲などを置くまさに最終決戦を戦い抜くための天守なのです。
いい眺めだ。
ここまで守りが堅いと殿様も安心だね。
でもお城で大事なのは堅さだけじゃないみたいだぞ。
そうなの?城とは何か。
それは戦いのための砦であり城主の美意識の結晶。
権力の象徴として力強さを際立たせるために黒い城こそふさわしかったのです。
例えば漆喰を雨から守る下見板に黒漆を塗ることで黒さが強調されているのです。
しかし池田輝政の発想は違いました。
『姫路城』は下見板がないうえに瓦をつなぐ目地にも白漆喰を大量に塗り籠めています。
『姫路城』は白漆喰総塗籠。
塗っては乾かし塗っては乾かししてるんです。
私と一緒で厚塗り。
そして美しいと言ったら私も入ってるみたいですがこの瓦は目地漆喰といって一枚一枚漆喰で留めてあるんです。
ところがねこれ雨を受けてますので湿気てカビが生えるんです。
この漆喰は水には弱いんです。
普通は1年半もすると黒ずんでしまうんです。
2009年から5年半の歳月をかけて『姫路城』天守の修理が行われました。
白さを保つには手間暇と資金が必要です。
修理が終わった直後の『姫路城』の美しさ。
なぜ池田輝政はこれほどまでの白さにこだわったのか。
それはこれまでの黒を基調にした武力というものではなしに知とか美とかですね。
これが求められるんだろうというふうに彼は考えたと思うんですね。
もし『姫路城』の天守が黒かったら…。
こんな感じになります。
重厚感が増した印象ですがどうでしょう?つまり戦のためというより…。
美しさを優先したんだ!えっ…お前白いよ?ところが白く美しい『姫路城』をよく見てみると不思議なことに気づきます。
天守の軒先が整っていない。
微妙にずれている。
乾小天守の火灯窓には格子がない。
なぜなのか?ここに『姫路城』の最も意外な特徴があるのです。
果たしてそれは?白鷺城とも呼ばれる『姫路城』にはいくつかのビューポイントがあります。
つまりどの角度から見ても実に美しいのですが…。
兄さんなんかゆがんでない?ウソ…。
14世紀吉田兼好は『徒然草』のなかでこうつづっています。
わび茶の創始者村田珠光はゆがみ傷ついた茶道具に不足の美を見いだしました。
不具や不足の美。
『姫路城』にもそれらと通じるものがあるのです。
天守を仰いでみれば…。
その軒先はジグザグと不揃いです。
丸や四角あるいは三角が生み出す様の現代アートのような不揃いにはどんな意図があるのか。
少しバラつきがある。
だけど美は乱調にありとか言いますけれども…。
更に『姫路城』には日本独自の美意識があるのです。
天守の瓦のいたるところに施された揚羽蝶のデザイン。
これは池田家の家紋です。
ところが今から50年前の大修理の際に一枚の瓦が発見されました。
兄さんなんか変だよね?逆さだな。
揚羽蝶の紋様が上下逆さまになっていたのです。
この逆さ揚羽の瓦にはある伝説が残されてきました。
(2人)なるほど!萩原さんそういうことですか。
つまり『姫路城』はあえて未完成にしているかもしれないのです。
例えば乾小天守に設えた火灯窓は築城当時から格子を入れず意図的に完成させていないといわれています。
不揃いであることに美を見いだし未完成であることに不滅の願いを込めているのです。
『姫路城』という気高き城は…。
兄さん僕たちの旅はいつ終わるの?完成しないから美しいんだよ。
最後に意外なビューポイントを…。
広大な『姫路城』三の丸広場の片隅にはなんと動物園があるんです。
人気のシロクマと白い天守のツーショット。
オススメは観覧車。
ここから見る『姫路城』は…。
ね?いかがでしょう?400年の風雪に耐えてきた城です。
白鷺がまるで羽を休めたように…。
池田輝政築城『姫路城』。
白き品格不戦の城の不滅の輝き…。
その人の姿は野菜畑にありました。
2015/08/01(土) 22:00〜22:30
テレビ大阪1
美の巨人たち 池田輝政『姫路城』国宝&世界遺産!白亜の城に見る日本の美意識[字]
毎回一つの作品にスポットを当て、そこに秘められたドラマや謎を探る美術エンターテインメント番組。今日の作品は、日本の建築シリーズ第1弾!池田輝政作『姫路城』。
詳細情報
番組内容
4週連続日本の建築シリーズ第1弾!今日の作品は、姫路藩・初代藩主の池田輝政作『姫路城』。築城から400年経ち今年3月、5年半に及ぶ修理が完成しました。姫路城と言えば白。その美しさは白鷺と讃えられているほど。壁はもちろん屋根までも鮮やかな白なのです。戦いのための砦なのに、なぜ白にこだわったのか?また天守の軒先の微妙なズレなど、不思議な作りをしている意外な秘密とは…?白亜の城の華麗な歴史絵巻に迫ります。
お知らせ
★8月の「美の巨人たち」は日本の建築シリーズ★
【今後の放送予定】
◆8/8 築地本願寺
◆8/15 万平ホテル・アルプス館
◆8/22 伏見稲荷大社
ナレーター
小林薫
蒼井優
音楽
<オープニング&エンディングテーマ>
辻井伸行
ホームページ
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趣味/教育 – 音楽・美術・工芸
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