和歌山県北部の町紀美野町。
ぽつんとジェラート店の看板が。
山また山に囲まれたなんとも辺鄙な場所にありました。
実はここ県外からもお客さんが訪れる人気のお店。
飛ぶように売れているのは野菜のジェラート。
こちらは地元の農家が営むお店です。
ジェラートとかにして食べてもらう事でなんかこう…野菜に対してもっとこう…好奇心みたいなのを持ってもらえたらなみたいなのはあります。
この小さなジェラート店が今町おこしの大きな力を生んでいます。
『日本のチカラ』今週は過疎に悩むふるさとの町で奮闘するジェラート店オーナーの物語です。
和歌山県北部に位置する紀美野町までは大阪から車でおよそ2時間。
山々に囲まれ清流が流れる小さな町は高野山の西の玄関口とも呼ばれています。
初夏にはホタルの幻想的な乱舞。
秋にはススキのじゅうたん。
四季折々の美しい景色も魅力的なそんな田舎町に緑に溶け込むようなかわいいお店キミノーカがあります。
週末には1日およそ300人ものお客さんが訪れる手作りジェラートの人気店。
1時間以上かけて他府県から来る人も珍しくありません。
お客さんを虜にしているのが色とりどりのジェラート。
実はこれ素材はなんと野菜です。
例えばこちらはえんどう豆のジェラート。
ほのかな甘さが口の中に広がります。
こちらはチョコを合わせた山椒のジェラート。
ボルシチなどに使われる西洋野菜ビーツのジェラートは濃厚な味わいです。
お店のオーナーは紀美野町の出身で本業は農家です。
一昨年奥さんとこのお店をオープン。
紀美野町の農家という事で「キミノーカ」と名付けました。
自分のところで作ってる野菜は全部ジェラートにならないのかなっていうのが基本なんですけど。
出来たらね面白いかなみたいな感じがまずですよね。
実は宇城さんは元々はサラリーマン。
紀美野町で高校までを過ごし静岡県の大学に進学。
金融関係の会社に就職し岡山に移り住みました。
その頃奥さんと出会って結婚。
ふるさとにUターンしたのは33歳の時です。
会社勤めやってる…やってて得られるものより農業っていう選択の方が得られるものが大きいと思ったからです。
まあ元々実家も農業やから農業で出来る選択肢っていうのが色々ありそうやなっていう事で。
ふるさとに戻った宇城さんは両親や親戚の畑で農業をスタート。
キミノーカをオープンさせたのは2年前39歳の時です。
ジェラート作りはまずお店の近くに点在する段々畑から始まります。
丹精込めて育てている様々な野菜の数は年間30種類以上。
野菜はまあ自分のところで今出来てるもん…自分のところで作れるもんをジェラートにしようっていう感じですね。
まあ自分が作る野菜の味は大体わかるんで。
野菜そのものが美味しくなければジェラートも美味しくなりません。
紀美野町は朝晩の気温差が大きく甘みの強い野菜が育ちます。
宇城さんがハウス栽培ではなく自然に近い農法にこだわるのはこの土地ならではの気候を最大限に生かしたいから。
とれた野菜は必ずその場でかじってみます。
これも宇城さんのこだわり。
やっぱりどんな感じかなとか気にもなるし。
食べ物なんでやっぱ美味しい方がいいんで確認です。
はい。
毎朝収穫する野菜は店頭で販売したりスーパーなどへ出荷します。
そして新鮮さが失われないうちにジェラート作りも開始。
まずは野菜を煮るなど下ごしらえを済ませミルクと一緒にミキサーにかけて細かくします。
そのあと専用の機械にかければ…。
野菜ジェラートの完成。
味はもちろん香りや色までそれぞれの野菜の特徴が全て詰まったジェラートです。
ところで野菜をジェラートにしようと思ったその訳は?
(宇城さん)ジェラートとかにして食べてもらう事で野菜に対してもっと好奇心みたいなのを持ってもらえたらなみたいなのはあります。
お店を手伝う奥さんは…。
もう最初の時からビックリしてて。
まあ店作るのもそうですけど干し柿をアイスにするとか山椒をアイスにするっていう時点で何を言ってるの?っていう感覚だったんですけど。
発想がすごいと思います。
うん。
何を考えてるかわからないですよね。
ハハハ…!どうすればもっと野菜を食べてもらえるのか?真剣に農業に取り組んできたからこそのアイデアでした。
野菜買う人からしたらこういう山間地でやってようがもっと園の条件のいいところでやってようが出来上がってる商品の品質が一緒やったら同じですからね。
気候は野菜の栽培に向いている紀美野町ですが農作業をするには不向きな側面もあります。
町にある畑のほとんどが段々畑。
曲がりくねった畑は手間もかかり効率よく野菜を育てる事が難しいのです。
苦労して作った野菜だからこそ最大限に生かしたい。
考えた末にたどり着いたのがジェラートにする事でした。
今では売り上げの8割を占めています。
(宇城さん)ただいま。
(千晴ちゃん)おかえり。
(真喜子さん)おかえり。
宇城さんは奥さんと3人の子供たち家族5人で暮らしています。
じゃがいもパクッしてみ。
宇城さんはこの町の出身ですが元看護師の奥さんは広島県の出身。
私もね実家結構田舎なんで場所的にはあんまり環境は変わりなかったんですけど。
野菜も果物も美味しいし魚も美味しいでしょ。
言う事ない…。
ちょっと和歌山人になってきよるんかな。
アハハ…!お店が忙しくなる週末は近くの実家に子供たちを預け両親に面倒を見てもらっています。
逆にね。
見慣れていたはずの実家からの景色も…。
高校出るまでは本当になんとも思ってなかったですよね山しかないなあとか。
山しか見えないっていうのもいいよねとかそんな感じ。
外行って帰ってきたらねやっぱね思いますよね。
一度離れたからこそ気づいたふるさとの魅力。
しかしもう一つ感じたのは…。
っていう感じがしますよね。
この地域は高齢化が進み走っていた唯一の電車も20年以上前廃線に。
紀美野町は2006年2つの町が合併して誕生しました。
深刻な過疎化に行政も危機感を感じています。
現在町民のおよそ42パーセントが高齢者。
合併後の9年間で人口は2000人以上減りこのままだと数十年後にはほとんど人がいなくなる可能性も。
行政は補助金を設けUターンや移住を呼びかけています。
そんなふるさとにオープンして2年。
キミノーカのジェラートは町に人を呼び続けています。
そして宇城さんのよき理解者が同じUターン組フレンチレストランシェ・みなみの南雄介さん。
フランスで修業をしたあと父の店を継ぎました。
こだわりは地元の食材。
和歌山のブランド牛熊野牛のステーキは横に宇城さんの野菜も添えられています。
さらにスープにも宇城さんのとうもろこしが。
南さんの料理はクチコミで人気が広まり紀美野町以外からやってくるお客さんでレストランは連日賑わいを見せています。
ふるさとで腕を振るう南さん。
活性化への手応えは?一歩ずつ着実に。
宇城さんと思いは同じです。
そしてもう一人の仲間が宇城さんが野菜を届けているイタリアンレストランにいます。
おいっす。
万願寺っていうかまあ甘とうな。
これおまけであげるわ。
山本さんも紀美野町へのUターン組です。
関西のレストランで修業を積んだのちふるさとに自分のお店を開いたオーナーシェフ。
県であったり町であったりがすごい宣伝してくれたんで最初もうそれのおかげでお客さんも来てくれはったんで。
やっぱりUターン組同士互いに信頼し合っています。
山の中でイタリアンやけどまあ一切手を抜く事なく淡々と当たり前に料理やってるんですよね。
(宇城さん)楽しないんですよね。
山本さんの料理は本格イタリアン。
毎朝市場で仕入れる魚介類も宇城さんをはじめ地元の農家のものを使う野菜類も新鮮さにこだわって一切妥協はしません。
ふるさとを料理で元気付けたい。
その思いがお客さんとのコミュニケーションを大事にするオープンキッチンというスタイルにも表れています。
お店は予約客でいつも盛況。
同じように賑わうお店が周りにも増え始め少しずつでも確実に活性化の兆しが見えてきたと宇城さんは言います。
Uターン組の情熱は移住者も呼び寄せています。
宇城さんの畑で働く伊丹夏子さんは大阪出身。
大学では農業を学びましたが卒業後は営業の仕事に就いた伊丹さん。
キミノーカのスタッフ募集を知りここで農業をやりたいとIターンを決意しました。
でも農家の仕事は初めて。
宇城さんに作業の基礎から指導を受けています。
結構ねしっかり学校も行ってやしいいの?みたいな感じでしたよね。
まあ出来ればその…楽しみながら働いてもらえれば一番いいし期待はしてるんですけどね。
キミノーカとしても農業部門のスタッフ採用は初めてです。
紀美野町で1人暮らしを始めた伊丹さん。
お昼のお弁当も自分で作って持ってきます。
(伊丹さん)めっちゃしょぼいですけど。
うん。
(スタッフ)どうですか?うまいです。
お昼ご飯の合間何やら手帳に書き始めました。
これは今日やった事を基本的に書くようにしてます。
勉強しなきゃと思いながら夜やってる最中に寝てしまうんで。
アハハハ…!まだまだですね。
町内にある伊丹さんのアパート。
1人暮らし用の物件は紀美野町では珍しく宇城さんが苦労して探してくれたそうです。
大阪を離れて3カ月余り。
町の印象を聞いてみると…。
まあド田舎なんですけど。
まあスーパーもちゃんとあるしコンビニもあるし特に困る事はなくって…。
自然がすごくきれいですし。
自分が考える時間もとてもたくさん取れるのでそれはすごく落ち着いて暮らせますね。
キミノーカで農業をしたいと思ったきっかけは?大学は農学部を出たのでじゃあちょっと農業出来るとこ探してみようってずっと思ってた中…。
ジェラートもものすごく美味しくて。
何よりも野菜を使ってるっていう事にやっぱり衝撃を受けて。
過疎化に悩む町の畑で伊丹さんは自分の夢も育て始めました。
変化が見え始めた紀美野町でさらに新たな動きが。
住民が集まって打ち合わせです。
出席者はキミノーカの宇城さんたちUターン組のシェフ南さん数少ない宿の1つかじか荘の関根さん町にある天文台の矢動丸さんです。
紀美野町にある町立のみさと天文台。
一般に公開されているものとしてはかなり大きい全国でも12台しかない望遠鏡のうちの1つがあります。
この巨大望遠鏡を使えば月はもちろん土星もご覧のとおり。
星がよく見える紀美野町を町の活性化にと考えたのです。
星の前で愛を誓うという形ですから結婚式を挙げて頂く方々にはもう本当に永遠に幸せになって頂きたいなと思いますし紀美野町の人たちも一緒にひとつのものを作り上げるっていう事をすると楽しいんじゃないかなという事で始めました。
20周年を記念して巨大望遠鏡のスペースで結婚式を挙げてもらおうというのです。
全国から募集し2組のカップルが選ばれました。
宇城さんは披露宴で新作ジェラートを出す事に。
早速新作ジェラートの試作が始まりました。
しかしかぼちゃ畑に行って集め始めたのはかぼちゃの実ではなくなぜか花です。
(宇城さん)結構イタリアでは普通に揚げたりとかしてよく食べるって言ってましたね。
なんか若いかぼちゃ食べてるみたいな味…。
かぼちゃの花はすぐにしおれてしまうため遠くまで運ぶのは困難。
そのため日本ではめったに食べません。
とにかく一度作ってみます。
まずかぼちゃの花の花びらの部分だけを取り除き花粉などを丁寧に洗い流しました。
続いて砂糖と混ぜ白ワインも加え煮詰める事に。
一体どんなジェラートになるんでしょうか?かけた方がよさそうやな…。
はっきりとした食感を出すためにシロップ漬けにした花を混ぜてみました。
こんな感じか。
なんて例えたらええんやろうみたいな味ですけどね。
うん。
奥さんにも味見をしてもらいます。
うんきれい。
きれいやけどやっぱ花の感じがちょっと出てない。
(真喜子さん)この花のね食感が美味しいわ。
細かい調整をしていこうかなという感じです。
試行錯誤を繰り返しました。
そしていよいよ結婚式当日。
披露宴会場の1つが紀美野町の宿かじか荘です。
新郎新婦は現在神奈川県に住んでいますが新郎は紀美野町の出身。
宇城さんはここのデザートを任されました。
この日の厨房は大忙しです。
何しろおよそ40人分の料理を一気に作らなくてはなりません。
最初のうちは様子を見ていた宇城さんもそのうち担当以外の作業を手伝い始めました。
そしてここからが宇城さんの担当。
しかしこれだけ多くの人数分を盛り付けるのは大変。
しかも自分の店とは勝手が違います。
今度は他のスタッフが次々に宇城さんをサポート。
ケーキオッケーです。
デザートオッケーです。
いよいよ新郎新婦のもとへ。
さてこの日のために作ったかぼちゃの花のジェラートの感想は?食べた事あるんやけど。
マンゴー?
(スタッフ)これねかぼちゃの花なんです。
えっ!?あっそうなんですか!わからんかった。
喜んでもらえたようです。
宇城さんも満足そう。
(スタッフ)やれやれ…。
(宇城さん)やれやれっていう感じ。
いやいや…。
ありがとうございます。
もう一組の結婚披露宴会場はフレンチレストランシェ・みなみ。
乾杯!
(一同)乾杯!和歌山県内に住む新郎新婦は特別な記念になればと応募しました。
同じUターン組の仲間南さん。
およそ30人分の料理を手際よく完成させていきます。
そして宇城さんから託されたかぼちゃの花のジェラートには風味が出るようシロップ漬けの花を添えました。
その他にも桃のジェラートやジンジャーエールを注いでアレンジした山椒のジェラートも好評でした。
そして舞台は夜の天文台へ。
開設以来20年の歴史で花嫁が来たのはもちろん初めて。
前代未聞の結婚式が始まります。
紀美野町の町立天文台での結婚式。
キミノーカの宇城さんも2人を祝福します。
(2人)ありがとうございます。
幸せになります。
(宇城さん)人生のスタートをここで切りたいと思ってくれるほどいいなと思ってるっていう事はまあここの環境を生かすっていう方向で頑張ってもいいんじゃないかなっていう気がします。
自分のところの営みが一番大事としてまあ町の事についてもまた継続してっていうかなんかまあ出来る事を探していければなという感じですね。
フフフ…!和歌山県紀美野町。
ここにはふるさとに誇りを持って生きる人たちがいます。
今日もキミノーカの元気な一日が始まります。
『日本のチカラ』次回は山口県。
シャッター通りに命を吹き込むオヤジの熱き物語です。
2015/08/02(日) 06:00〜06:30
ABCテレビ1
日本のチカラ[字]
和歌山県の山奥に大人気のジェラート店があります。なんと使っているのは、えんどう豆や山椒などの野菜!さらに天文台で愛を誓う「星空結婚式」にも密着しました。
詳細情報
◇番組内容
大阪から車でおよそ2時間、自然豊かな紀美野町は今や大人気スポット。野菜のジェラート店をはじめ、オシャレなレストランやパン屋さんが増えています。現在、紀美野町の高齢化率は40%を超え、過疎化が深刻な問題となっており、Uターン組や移住者たちが故郷をなんとか活性化したいとお店を開いたのです。
◇番組内容2
大人気ジェラート店のオーナーは、実は農家。店のすぐ近くの畑で育てた新鮮な野菜を使ったジェラート…「野菜にもっと興味をもってもらいたい」という想いで手作りしています。
◇番組内容3
そしてこの夏、紀美野町で初めての試みが…。町にある天文台で、星空に愛を誓う結婚式が行われたのです。幸せいっぱいの新郎新婦と招待客をもてなそうと、ジェラート店のオーナーがUターン組の仲間とともに盛り上げに参加、新作ジェラートも登場し、会場に笑顔があふれます。故郷の活性化に向けて奮闘する人々に密着、小さな一歩から始まる夢を追いました。
◇番組内容4
全国各地の「魅力あふれる産業」を通して、地域の歴史や文化・人々の英知や営みを学び、日本の技術力・地方創生への道・温かいコミュニティー、生きるヒントを描き出す、教育ドキュメンタリー番組。
◇ナレーション
喜多ゆかり(朝日放送アナウンサー)
◇音楽
高嶋ちさ子「ブライト・フューチャー」
◇制作
企画:民間放送教育協会
制作著作:朝日放送
協力:文部科学省/中小企業基盤整備機構
◇おしらせ
☆番組HP
http://www.minkyo.or.jp/
この番組は、朝日放送の『青少年に見てもらいたい番組』に指定されています。
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – ドキュメンタリー全般
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