ふるさと再生 日本の昔ばなし 2015.08.02


昔むかし山里のはずれに貧しいおっかあとせがれが暮らしていました。
あるとき年老いた牛が子供を産みました。
おっかあはこれ以上牛が子供を産むことはあるまいと思い母牛を売ってしまいました。
牛を売ったお金も米や味噌を買うと日に日になくなりおっかあとせがれのもとには痩せた子牛が1頭残るだけとなりました。
正月が近くなって年を越す支度もできないと知るとしかたなく子牛を売ることにしました。
坊そんな痩せっぽっちの牛をどこへ連れていく?これは町へ行って売るんだ。
ヒャッヒャッヒャ牛を売ってもいくらにもならんよ。
どうじゃこのばあの豆と取り替えっこしないか?豆?これはなビックリするほどよく育つササゲ豆じゃ。
庭に植えればもう食うに困ることはなくなるぞ。
ヒャッヒャッヒャッヒャ…。
あの牛をこの豆と取り替えた!?これじゃ年は越せないよ。
オラこの豆まけばもう腹を空かすこともないと思って。
うわ〜ん!その夜2人はおばあさんから手に入れた豆を庭にまきました。
〜キャ〜ッ!おっかあ。
あ…あ…。
あっうわ〜!うわ〜。
お前の言ったとおりだ。
この木に豆がなりゃ一生かかっても食いきれないよ。
せがれは豆の木の伸びていったその先をこの目で見たいと思いました。
せがれが雲の中へ入っていこうとしたときです。
あっ。
おじいさんおじいさん。
おぉここは地上か?おじいさんも木を登ってきたのかい?何を言うわしは天の村から逃げてきたのじゃ。
だが足を踏み外した。
枝に引っかかって命拾いしたね。
ほら。
ん?あっおじいさん!よいしょよいしょよいしょ…。
せがれはとうとう雲の上へ出ました。
あっ…あそこで休ませてもらおう。
ごめんください。
すっごい家だな。
ここは地上か?違うよ。
ん?妙に見覚えがあるぞ。
さあ誰もいなかったので勝手に使わせてもらいました。
こりゃわしの家じゃ。
な〜んだ。
笑ってる場合ではない。
早く逃げないともう息子が帰ってくる。
なぜ逃げるのですか?わしの息子は鬼なんじゃ。
鬼?じじい!のんびり横になってないで早う飯の支度をせんか。
(2人)ひぇ〜!ん?よそ者を家に入れたな。
お前宝を盗みにきたのか!うわぁ〜ヒィ〜!こら待て〜!うっうわぁ〜!あぁ〜!あっ…。
昔はあいつもお前さんのように心優しいせがれだった。
え?じゃがある時わしが隠していたお宝を見つけての。
それ以来働くこともせず好き勝手のし放題。
あげくは金棒を振り回す鬼になってしもうた。
おじいさんオラん家へ来て暮らすか?え?助けてくれ〜!助けてくれ〜おっとう。
お前さんを見てたら気が変わった。
わしはここにいるよ。
行かないのかい?いやこの鬼が元の優しい我が子に戻るまで一緒にいるよ。
おじいさん。
聞いたかい?もう乱暴はなしだよ。
わかった。
お前はこの宝を持って早く帰れ。
ありがとう。
わしのほうこそありがとう。
地上へ戻ったら斧で木を切るのを忘れるな。
いつこいつが宝を取り返しにいかないとも限らんからな。
達者でなおっかさんを大切にしろよ。
ありがとうさようなら!あっうわ〜!ん?なんだ夢だったのか。
生き返ったんだね!豆の木の横に倒れてるからてっきり天から落ちて死んじまったのかと思ったよ。
夢じゃなかった。
おっかあこれは雲の上のおじいさんがくれた宝の箱だよ。
お前さえ無事でいれば宝などいらないよ。
おっかあ…そうだ!せがれはおじいさんに言われたとおり木を切りました。
せがれは大空に舞い上がったササゲ豆の木をいつまでも見ていました。
昔長崎で医術を学ぶ長尾という19歳になる若者がおりました。
故郷へ戻り町医者の家を継ぐためでした。
そんな夏のある日…。
届いた文はいいなずけのお貞が重い病に倒れた知らせでした。
(長尾)父上。
お貞お貞目を開けておくれお貞。
お貞…。
おぉ。
お貞。
お貞!
(お貞)この世がかなわぬのであれば…。
何を申しておるしっかりなされ。
長尾様…私が私であるならば再び生まれ変われしとき長尾様と夫婦になって生きていきたい。
お約束いただけますか?生まれ変わった私を見つけて妻にすると…。
約束する!きっと見つけて妻にすると誓う。
嬉しい。
(長尾)お貞!時が流れお貞の七回忌も済んだ頃長尾25歳。
お貞の父親の強い勧めもあって長尾は嫁を迎える決心をしました。
おんぎゃ〜おんぎゃ〜。
翌年男子誕生長尾26歳。
医者としての名声も上がり妻や息子との日々のなかお貞の面影は薄れゆくばかりとなっていました。
ところが…。
息子が10歳になった年ふとした病がもとで両親と妻そして息子までが相次いでこの世を去っていったのです。
長尾36歳。
うぅ…うっ…。
悲しみのあまり長尾の心は止まっていました。
人に対する思いの心も己の体に対する心も。
親しい仲間たちの勧めにより旅に出た長尾がいました。
彼は思っていました。
人の悲しみはもういらないと。
ただそれだけの旅。
長尾は体調も悪くかなり疲れを感じていたためしばらく湯の宿へ足をとどめることにしました。
旅で得たものはうつろな自分だけでした。
失礼いたします。
お茶をどうぞ。
お世話さま。
ごゆっくりなさってくださいまし。
湯のおかげだろうか長尾の体は回復の兆しが見えるもののその心は閉ざされたままだった。
おかえりなさいませ。
お茶をどうぞ。
いつもありがとう。
あっ…。
お…お貞…いやそなたの名は何と?私は貞と申します。
その声は忘れもしないかつての思いの相手であるお貞のものであった。
長尾様でいらっしゃいますね?ただただ時間が逆行していく自分を感じていた。
17年前私は15歳で死にました。
そのとき長尾様は私がもし生まれ変われるものならお嫁にもらってくださると。
約束のとおり。
お貞…。
この世でこうして長尾様と…。
お貞!長尾はお貞と夫婦になりました。
長尾が強く望んだのです。
長尾38歳。
お貞私の家は覚えておるか?えっ?なぜ私の知らぬ場所で時々問われますか?あれは覚えているかこれは覚えているかと。
そうだねお貞私はいつも一時たりともお貞と一緒にと思っているのだよ。
はい私は長尾様の妻ですもの。
そうだねお貞は私の永遠の妻だ。
嬉しい。
生まれ変われし者生き続けし者。
その出会いを決して否定はできません。
現世と来世の決まりし事。
命の存在を強く考えるなら運命さえ変えるのかもしれません。
昔比叡山は仏道修行の霊山でしたから女人禁制でありました。
女は一歩たりとも山に入ることは許されなかったのです。
しかしその山を目指して登る女はたくさんいたそうです。
いずれも思い詰めた様子で登っていたそうです。
ハァハァ…。
今日も1人の女がフラフラとおぼつかない足取りで登っていました。
顔色も悪くなにやら重い病を患っている様子でした。
ハァハァハァ…。
先を急いでおりますお通しください。
ならぬ!これより先は女人禁制で通すわけにはいかん。
そなたも知らぬはずはなかろう。
存じております。
わかっていてお願いしておるのです。
行かねばならぬわけがあるのです。
女は山法師に話し始めました。
息子は修行のため御山に来ております。
私は病に侵されて残された時間はあとわずか。
どうか死ぬ前に一度でいいから息子に会わせてください。
なんとかしてやりたいがそなたの息子は百と八日の修行に入ったばかり。
近くにお堂があるのでそこで体を休めて息子を待つがよい。
母親がお堂に行ってみるとそこには同じ思いで待っているたくさんの女たちがおりました。
皆長い間ここで待ち続けているらしく疲れきった表情をしておりました。
母親のただならぬ様子に1人の女がここに来た理由を尋ねました。
聞き終えるとみんな黙り込んでしまいました。
次の日母親はそのまま寝込んでしまいました。
数日経ってやっと起き上がれるまで元気になりましたが病は進んでおり息子に会いたいという思いも叶わずとうとう亡くなってしまいました。
それから何日か経ったある夕暮れ時のこと。
町の用事を済ました山法師が戻ってきました。
山道は暗くおまけにもやまでかかってきました。
足もとを確かめながらゆっくり歩いていくと行く先に女たちのいるお堂が見えてきました。
あの母親も不憫であったのう。
息子の姿を見ることも叶わず死んでしまうとは。
う〜。
うん?念仏か?しかも女の声じゃ。
ここではなさそうだ。
こんな夜に女が山に登れるはずはない。
ん?ここはあの母親が葬られた墓か?間違いない思いを残して亡くなった女たちの墓じゃ。
うん?人魂か。
灯りを消し目をこらして見ると墓石から人魂が空に舞い上がりやがて1か所に集まり始めました。
なんということじゃ。
夜な夜なこのようなことが起きていたとは。
やがて人魂は大きなかたまりとなりまるで船のような形になりました。
しばらくは墓地の上をフワフワと漂っていましたがやがてゆっくりと山道を昇り始めました。
山法師は行く先を見届けようとそっとあとをつけ始めました。
それにしても今日はもやが濃い。
気をつけねば。
どこまで昇っていくのじゃ?
(女たちのすすり泣く声)ななんじゃあの動くものは?人…女か。
それもこれほど大勢いるとは。
成仏できず亡霊となって愛しい人に会いにいくのか。
ん?あれは。
この間の母親か!不意をつかれ目を合わせてしまった山法師はあまりの恐ろしさに気を失いその場に倒れてしまいました。
船じゃ!船に女…。
ここは山の中船も女人もおりませぬ。
しっかりしてください法師様。
朝倒れていた山法師を見つけ寺に連れ帰ったのですがうわごとを繰り返すばかりで正気を取り戻すのに何日もかかったそうです。
あ〜。
今でも月明かりのない冷え込んだ夜など山のふもとにもやがかかります。
それはどんどん大きくなり船の形になって山の頂上を目指し昇っていくそうです。
見た人はこれをもや船と呼び悲しい女たちのことを思い手を合わせました。
2015/08/02(日) 09:00〜09:30
テレビ大阪1
ふるさと再生 日本の昔ばなし[字][デ]

今週の怪談は「もや船」。死ぬ前に息子に会いたいと願う母親の思いが生み出したものとは!?ほかには「豆のつると天の館」「お貞のはなし」をお送りします。お楽しみに!

詳細情報
番組内容
私たちの現在ある生活・文化は、昔から代々人々が築き上げてきたものの進化の上にあります。日本・ふるさと再生へ私たちが一歩を踏みだそうというこの時にこそ、日本を築いた原点に一度立ち返ってみることは、日本再生への新たなヒントになるのではないでしょうか。
この番組は、日本各地に伝わる民話、祭事の由来や、神話・伝説など、庶民の文化を底辺で支えてきたお話を楽しく伝えます。
語り手
 柄本明
 松金よね子
テーマ曲
『一人のキミが生まれたとさ』
 作詞・作曲:大倉智之(INSPi)
 編曲:吉田圭介(INSPi)、貞国公洋
 歌:中川翔子
 コーラス:INSPi(Sony Music Records)
監督・演出
【企画】沼田かずみ
【監修】中田実紀雄
【監督】鈴木卓夫
制作
【アニメーション制作】トマソン
ホームページ
http://ani.tv/mukashibanashi

ジャンル :
アニメ/特撮 – 国内アニメ

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz

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