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異世界とチートな農園主 作者:浅野明

植物栄養剤を作ろう

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火炎宮③

迷宮なのに戦闘はない!
なぜなら農園主だからです!
「グリーってばうっかり封印される前は貴女の話ばかりしていたんですよ」

本気攻撃を繰り出しまくるグリーを、軽くいなしながらにこやかに笑うセキ。そんなに自慢されたら会ってみたいって思うの当然でしょう?と大きな花びらでグリーを吹き飛ばし、変わらずにこやかな笑顔で言う。手加減、という言葉は彼らの辞書には存在しないようである。

「ずるいですよねえ。ボクら【魔王】に親なんていないのに、グリーだけ。いえ、別に羨ましくなんてないですよ?どうでもいいことなんですけどね」

でも、そう言う話ばかりされるとウザいですよね~。というその声には僅かながら羨望と嫉妬が含まれていた。

「?キミも魔王なのか」

「ええ、そうですよ。迷宮の管理責任者は大抵【魔王】ですね。勘違いしているやからが多いですけど、別に【魔王】って邪悪な存在とかじゃなくて、世界を管理するために必要な存在なんですよ。【番人】と同じで一種の称号ですね」

「そうなの?」

見れば、フェイルクラウトが唖然としている。【吹き抜ける風】の皆も意外な事実に驚いているようだが、フェイルクラウトの驚愕ぶりはその比ではない。

それはそうだろう。

勇者にも色々あるが、基本的には、魔王や魔王に準ずる強さの魔物を倒すべく立ち上がり、また相応の称号やスキルを持っているものたちである。それが、実は魔王は世界に必要な存在で、倒すべき敵ではないと今さら言われても困るだろう。というより、フェイルクラウトにとって、世界がひっくり返る程の衝撃的事実だ。

でもグリーは容赦なく国を灰塵に帰そうとしていたような?とリンが首を傾げていると、セキが小さな肩を竦める。顔に似合わず、妙に大人びた仕草が微妙に笑いを誘う。

「もっともボクらは別に人間が滅ぼうと、大陸が幾つ沈もうと気にしません。世界そのものに影響が及べば別ですけどね。だから感情のままに暴れるヤツも多いし、人間たちがボクらを敵視するのも間違いじゃないんですよ」

仲間には人間嫌いが多いから、とちらっとグリーを見る。確かにグリーは人間が嫌いだ。リン以外の人間はゴミだとおもっている。もちろん、そう思うようになったのには理由があるのだが。ともかく、グリー以外の【魔王】も人間嫌いが多いのは間違いない。

そう説明してくれるセキも、人間が好きではないようで、先程からリンのみを見ている。

「他に聞きたいことあります?」

起き上がって向かってくるグリーをまたもや吹き飛ばし、リンに問うセキ。見た目よりもずっと強いようだ。

聞きたいことはもちろん、沢山ある。ありすぎてどこから質問すればいいか分からないくらいに沢山ある。

だが、聞くのも面倒になりつつある。リンは長く人と会話するのが苦手なのだ。辛うじて保っている集中力もそろそろ限界だし。なんかもうどうでもいいような気がしてきている。本当に知りたいこと?リンは自分は一体何が知りたいのだろう、と首をかしげる。

リンは少し考えて口を開いた。

「一つだけ、知りたいことがある」

「一つ?」

「クロスの葉とクスコの実、ヘイレスの根がどこで採取できるかな?」

必要素材の中でも、クスコの実だけは炎樹という魔物を倒さなければ手に入らない。炎樹は通常は隠れていて、見つけ出すのも面倒な魔物なのだ。場所を教えてもらえるとか、素材そのものをもらえるとかだったら非常に助かる。

「はあ?」

ナゼだろう。セキだけでなく、一緒にきた仲間たちにも呆れたような眼で見られているのは。

いやいやいや、よくよく思い出して欲しい。一体何のために面倒な思いをしてまで、大事な野菜を下僕?たちに任せっきりにしてまでこんなところにきたのか?もちろん、植物栄養剤の材料を集めるためである。

初志貫徹。

そう言うと、仲間たちに生暖かい視線を向けられる。セキには、「コイツ馬鹿じゃね?」的な視線を向けられた。いや、表情は特に変わってないけどね?なんかそんな心の声が聞こえた気がした。……別にリンの被害妄想ではない。その蒼い瞳が雄弁に語っている!

だが、そんなことはどうでもいい。

リンははっきり言って、もう家に帰りたいのだ。すでに訳がわからないし、聞いても理解できる集中力がない。家にこもって一人になりたい。愛する野菜たちに癒されたい。それでもここまで来たのである。野菜たちのために植物栄養剤の素材は持ち帰らなくては!そして、完璧な植物栄養剤を作るのである!

リンはただの農園主なのだ。魔王も番人も勇者だって、農園発展に役に立たないならどうでもいい。世界のシステムがどんなものであっても、神という存在がどんなたち位置でも、直接リンの農園に関わらなければ、疑問は疑問のままでもなんら問題ないと断言しよう!

「……問題ない、ですか」

「そう。というわけで素材くれ。そしたら直ぐ帰って植物栄養剤作るから。うちの可愛い野菜たちが待ってるから急がなくちゃ!」

ランランと眼を輝かせて野菜について語りはじめたリンに、にこやかに笑っていたセキは若干ひきぎみだ。失礼な!






結果からいうと、素材はもらえました。

「本当に、他に聞きたいことはないのですか?」

「……くどい」

もうこの質問、三度目だ、とリンは眉をひそめる。耳が遠いのだろうか?

セキは困惑しているような、理解出来ない生き物を見るような顔で、リンを見ている。

「人間とは知らなくてもいいことまで知りたがり、身の丈に合わぬ力と知識を貪欲なまでに求める愚かな生き物だと思っていましたが……」

貴女は違うようだ、と興味深げにリンを見る。見るな、さわるな、興味持つな!とグリーがうるさく騒いでいるが、そんなものは無視だ。数百年ぶりに、面白い人間を見た、とセキが何やら考え込んでいる。

リンはというと、必要な素材を必要以上の量、労なくして手にいれて大満足である。当然セキの言葉など右から左。まったく聞いちゃいない。

今回もまた、心はすでに植物栄養剤製作へと飛んでいる。

そんなリンの横で、【吹き抜ける風】とフェイルクラウトが蜂の体に可愛らしい女の子の顔を持った魔物と親しげに話をしていた。

「……へえ、ポイントって魔力とは違うの?」

「そうですね!魔力値や体力値から自動的に値が決められて、全ての生き物が持ってますよ?そのポイントを支払うことで我々グリーン宅配便やウィーズ販売店など虫魔属の店が利用出来ますですよ!」

「それって、人間でも利用できるのかしら~?」

マナカが眼を輝かせて聞くと、蜂の魔物が頷く。名前はイルージアというらしい。然り気無く髪がモヒカン刈りになっているのが気になるが、誰も突っ込みたくないため、放置している。

「問題ないですよ!人間とは基本接点がないので、今まで利用者はいませんが、新しい顧客は大歓迎ですですよ!ポイントさえお支払頂ければバッチリお任せですですよ!ちなみに王都にも支店あるですよ。あ、これ名刺ですです!」

灰色のカードを差し出されて、ラティスとフェイルクラウトがそれぞれ受けとる。

「ついでにグリー様の母上様にも一枚渡しておいて欲しいですですよ!」

「じゃあ、私が渡しておくわ」

アリスがカードを受け取って、請け負う。そのあと、小さくて薄い冊子も三冊渡された。

「名刺の説明書ですよ!初回利用特典ついてますですですよ!あと、ポイントを手にいれる方法も冊子に書いてあるですですよ!冊子をよく読んで名刺カードを使いこなすことをおすすめするですですよ!」

名刺カードを使いこなすとか意味わからない。名刺だよな?全員で顔を見合わせるが、誰もイルージアには突っ込まない。いらないことを聞くと、ろくでもないことにしかならないと、リンと知り合ってから学んだ彼らなのである。

こうして、様々な疑問を覚え、しかし一つも解決することなく、収穫だけはしっかり確保してセキに送られて彼らはさくっと王都へと帰還したのであった。


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