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異世界とチートな農園主 作者:浅野明

植物栄養剤を作ろう

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火炎宮①

「ここは……」

先程の花畑とはうってかわって、妙に明るい洞窟にリンたちは立っていた。

『ようこそ、火炎宮へ』

無表情ながら戸惑うリンに、パーティー【吹き抜ける風】がにこやかに笑って、揃ってリンにそう言った。

洞窟の奥、と言っても二十歩も歩けば辿り着く位置に地下へ続く階段。その階段をぐるりと囲むようにオレンジ色の炎が壁のごとく床から天井まで覆っている。炎があるのに、なぜ、そこに階段があることが分かったのか?

簡単だ。

いかにもここから入って下さい、と言わんばかりに、一ヶ所だけ、まったく炎がない場所があるからだ。

怪しさ満点である。何かがありそうですごくイヤだ。ゲームなら、階段を守る門番のような敵でも出てくるところだ。

しかし、ここは現実。実際は何も出てはこないらしい。あの炎、なんか意味あるのか?要らなくない?炎のお陰で全体的に明るいのは確かだが、正直、光源以外の用途は思い付かない。いや、料理には使えるかも?

普段無表情かつ反応の薄いリンの戸惑う様子を、フェイルクラウトも含めた皆が、楽しんでいるように見える。グリーだけが、冷めた眼でリン以外の人間たちを見ていた。

「余裕?大丈夫なの?」

そう聞くと、フェイルクラウトが頷く。

「火炎宮で魔物が出るのは地下一階以降だからな」

ちなみに何故にフェイルクラウトに毎回聞くのかと言えば、理由は言うまでもないだろう。何か聞くたびに変態(?)たちでは、微妙な視線が鬱陶しいからに他ならない。

「下りても大丈夫ですよ、母上。何が出てきても私がおります。母上には指一本触れさせません」

すかさず、頼もしく言い切る、仔猫サイズの魔王サマ。こうみえて生産職のリンはもちろん、グリーを頼りにしている。ちょっとだけ、連れて来るのオルトにしたら良かったかなあ~、とか思ったのは当然秘密である。

だがしかし。

「グリー、目的は素材採取だから。必要な素材は残す方向で」

きちんといっておかないと、全ての魔物が跡形もなく消滅させられてしまう。やり過ぎ、という言葉は当然の如く、グリーの辞書には存在しない。リンのためなら、世界さえ滅ぼせるグリーなのである。

「わかりました、母上!」

しかし、殺るき満々で、頷くグリーに一抹の不安が。そして、無情にもその不安が的中するハメになると、気付いていたものはいない。





……なぜ、こうなった?

リンは眼前に佇むソレを見て、がっくりと肩を落とす。

思わず遠い眼をして現実逃避してしまうほどに、これは予想外の事態であると言えるだろう。

まず戦闘職でもないのに、わざわざ迷宮までやって来たのは何故だったのか、思い返してみる。

何故に迷宮に来てしまったのか。しかもかなりの高ランクの。

理由は簡単だ。完璧な植物栄養剤を作るためだった、ハズだ。

迷宮にきたのは、単なる素材集めで、それ以上でも以下でもない。随分ムダに時間をくったきもするが、それは些細なことだ。一分一秒を争うものではないからして。大事なのは、新鮮な素材をバッチリな状態で必要数より少し多目に採取すること。その一点につきる。少し多目に、というのはつまり、失敗した時の事を考えて、だ。もちろん、スキルはかなり高レベルのため、まず滅多に失敗などあり得ないが。

グリーが嫉妬するほど、農園に愛情を注ぎまくっているリンにとって、肥料と同じくらい植物栄養剤は重要だった。だからこそ、わざわざこんなところまで素材集めに来たのだ。

そう、決して魔神イーフリートと対峙するためではない。しかも、一人で。

重要なことなので、もう一度言おう。

リンは今、一人である。目の前には魔神イーフリートがいる。しかもどうやらお怒りの様子。更には、ここは特殊な場所らしく、召喚術が使えない。

……詰んだ?これって大ピンチどころの話じゃないよね?

表面上は平静だが、内心焦りまくっているリンである。

プレイヤースキルは高く、ゲームではソロを貫き通したリンであるが、ここは現実。リンは闘えはするが、あくまで生産職。

敵の攻略サイトがあるわけでもない。敵の力量は当然不明。更には頼みの綱の召喚術も使えない。【吹き抜ける風】も勇者フェイルクラウトもグリーさえいない。敵は怒り心頭という感じで、話し合いは期待できない。だが、リンには闘える力はあっても、現実での戦闘経験はほとんどない。

「ナニコレ、なんなのこの無理ゲー」

明らかに詰んだ。人生終わった。

「まあ、ちょっと落ち着こうよ。お茶でもどう?」

とりあえず、声をかけてみたが、ギロリと睨まれただけだ。いや、わざとじゃないのよ?

言い訳をしたいが、聞いてくれそうにない。

ちらりと足元を見て、イーフリートの怒りの原因に気付く。

リンの足元にはトカゲ……もとい、サラマンダーが一匹、死にかけているのだった。





事の起こりは数十分前。

地下四階への階段を下りた直後、リンはトラップに連続で引っ掛かってしまった。

普通なら、まずあり得ない。

基本的には、リンのすぐ前はアリスがいて、その更に前にはラティスとスレイが歩いていたのだ。トラップに引っ掛かるとしたら、彼らが先だし、トラップがあるとわかって避けているのなら、もちろん、リンに警告するハズだからだ。

それに常に腕に抱いているグリーもいる。すぐ後ろにはマナカが、その後ろにシオン、最後にフェイルクラウトと続く。

どう考えても、トラップになど引っかかることはない。

あえていうなら、運が悪かった、ということだろう。

三階までは順調だった。前を行くラティスとスレイで敵はほぼ殲滅され、目当ての魔物がさっさと出てこないかなあ、などとリンは考えていたくらいだ。

しかし、三階攻略も半分まで進んだところでグリーが【呼び出し】が掛かった、と不機嫌かつ不本意といった顔でリンに告げた。

「物凄く不本意ですが、行かねばなりません。母上、直ぐに、本当に直ぐに戻って来ますので、どうかお気をつけて。私がいない間は人間たちよ、母上を命に代えても守るのだぞ!傷一つついても許さぬ!母上、何かあったらこやつらを盾にしてくださいね。あと、……」

延々と続きそうなグリーの言葉をさくっと遮って、「大丈夫」というと、リンはさっさと送り出す。結局、【呼び出し】というものが何なのかききそびれたがまあいいだろう。どうせこのパーティーで、高ランクとはいえ浅層で傷付くことなど滅多にない。いざとなったら召喚術でオルトも呼び出せるし、と高を括っていたリンはその直後、強烈なしっぺ返しを食らうことになる。

とはいえ、もちろん油断していたわけではない。どんなに楽勝に思えても、迷宮だ。何があるかわからない。もっとも戦力の高いグリーが離れたことで、むしろリン以外のメンバーは気を引きしめ直した。グリーが言い残していった言葉が、本気だと知っているから、尚更だ。

通常より気をはって、階段を下りた。なのに。

階段を下りきった、と思ったらそのままリンは落下した。というより、衝撃も何もなかったから、落下というより、転移のトラップだったのかもしれない。

何が起こったのか、理解する前に眼前に怒っているイーフリートがいたのである。あと、気付くのが遅れたが、足元には死にかけのサラマンダー。

数秒、現実逃避していたが、こうして思い返してみると、恐らくリンは転移トラップれここに運ばれ、その際、サラマンダーを運悪く踏んでしまったのだろう。そんなことあり得ない、と思うが、実際に起こってしまったのだから、なんとも言えない。そして、サラマンダーを大事に思っている(?)イーフリートが怒った、と。

「おお、もしかして踏んじゃった?」

イーフリートも直ぐにでもリンに攻撃しよう、と言うわけではないようだ。となれば、やることは一つ。

足元のトカゲのような精霊を、癒しの魔法で癒やしていく。

精霊を癒すには特殊なスキルが必要だったが、リンはゲームイベントで手に入れていた。このスキルが手にはいるイベントは、後にも前にもこのイベントっきりだったので、発売当初からゲームしていてよかった、心から思ったリンだった。

サラマンダーの傷が癒えると同時に、イーフリートも落ち着きを取り戻したようである。

ほっと一息ついたリンだった。







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