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迷宮に行く準備
そもそも迷宮とは何なのか、それが問題だ。
リンがそう言うと、ナゼか全員に変な顔をされた。
ここはリンの家のリビング。顔ぶれは一人を除いていつもの通りオルト、メロウズ、フードを深く被ったヴィクター、蚊トンボにメル、グリースロウ、それに勇者だ。出発は『吹き抜ける風』のメンバーの都合で三日後となったのだが(それまで勇者はここに泊まるらしい。迷惑であるが仕方がない)リンは今更ながらに迷宮とは何なのかを知らなかったことに気づいたのだった。
「君はバカ……」
最後まで言うことなく勇者はグリーに床に沈められた。一応死なない程度には手加減はしたようだ。手加減出来るようになったなんて素晴らしい!リンの教育の賜物だろう。満足である。
「ちいとまってや、お嬢。お嬢は迷宮【妖精の楽園】にきとったやないか。そんときに聞かんかったんか?」
「え……だってあのときは癒し兼農園要員確保で頭が一杯で」
つまりは迷宮の詳しいことなど二の次、三の次。ぶっちゃけどうでも良かったと。ゲーム中でも迷宮についての説明は特になかった気がする。ゲームなんだし、迷宮とかダンジョンは当たり前にあるものだと思っていた。
「あ、そうなん」
口をポカンと開けて黙ってしまった蚊トンボに代わり、メロウズが実に愉快だ、と笑う。
「中々どうして面白い。迷宮に行くのにまったく情報を集めないなんて。なあ、オルト。やはり譲らぬか?」
「冗談はいい。それより迷宮についてだが」
「あれは神々の箱庭さ」
笑い続けるメロウズに睨みをくれて、説明しようとしたオルトを遮ってメロウズがいう。セリフを奪われてオルトが若干落ち込んでいる。
「箱庭?」
「本当のところ詳しくは分かっていないんだ。誰にもね。迷宮を造ったのは古代の神々だとも、恐ろしいほどに力のあった異界よりの来訪者だとも言われている。でも造られたところを見たものはいない。時々古い迷宮は前触れもなく姿を消し、新しい迷宮がやはり前触れもなく姿を現す。だが、その理由も周期も不明だ。次にどの迷宮が消失するのかも誰にもわからない」
そのため、迷宮都市は移動都市とも呼ばれているとメロウズが笑った。
「都市が移動するの?」
「迷宮によって潤っている迷宮都市は迷宮がなくなればどうにもならない。だから万が一保有迷宮がすべて消失すれば、新たに現れた迷宮の近くに都市ごと移動する仕掛けが施してある。そのために迷宮都市のみは国に属しながらも自治権を持っているのだから。新たな迷宮が別の国であればさすがに諦めるしかないようだが」
淡々と説明してくれたのは床から素早くも復活を遂げた勇者である。この復活力は勇者の保有スキルの効果だろう。
「迷宮を失った迷宮都市はほぼすべて衰退してしまう。もともと産業といえるものがないのだから、唯一の産業である迷宮がなくなれば稼ぐ手段も無くなる訳で、人も離れて行くしな。とはいえ、迷宮が消失するなんて百年に一度くらいの珍事だがな」
「でも新しい迷宮の近くになんもあらへんかったらまたその近くに都市が出来るんやろ?」
「そうだね、人はそういうところがすごいと思うよ?とてもたくましい種族だよね」
蚊トンボとメロウズがうなずきあう。何やら通じるモノがあったようだ。
「大体わかったけど……」
「けど?」
首を傾げるメルにリンは同じように首を傾げる。
「何でなんにもわかってないのに神々の箱庭なんて呼ばれてるの?神様が造ったかどうかもわからないんでしょ?」
「さあ?」
「さあって」
「ホンマ何でやろうな?」
「さて。諸説あるらしいってのは聞いたけどな?」
「知っているか?」
「いや……」
上からメル、リン、蚊トンボ、フェイルクラウト、メロウズ、オルトのセリフである。
「何でかはわからんが、昔からそう呼ばれとんのや」
結局皆が首を傾げる中、蚊トンボがそう締めくくる。
「ふーん、謎だね」
謎、というのは気になるので、今度時間が出来たら調べてみるのもいいかも知れない。ともあれ迷宮については大体わかった。ちなみに迷宮は変異型と固定型とあるらしい。その名の示す通り、変異型は中の地形がコロコロ変わるタイプの迷宮で、固定型は中の地形が変わることなく安定している迷宮のことをいう。今度いく【焔の迷宮】(そのまま過ぎるだろう)は変異型らしい。攻略難易度は、変異型は固定型よりランク一つ上らしい。
「【焔の迷宮】は侮れん。焔タイプは攻撃力の高い魔物がおおいからな。油断していると録な目に会わん。
準備はしっかりしておいた方がいい。特に各種回復アイテムは過剰なほど持っておけ。でないとあっという間に殺されてしまうぞ」
「了解です」
フェイルクラウトの言葉にリンは肩を竦めて頷く。リンのステータスでそうそう遅れをとることはないとは思うが、確かにスキルと装備は見直した方が良いだろう。農家のおばちゃん的スタイルで高レベル迷宮をクリア出来るとはさすがに思えない。
その日、和やかな(?)夕食を終えたあと、リンは久しぶりにスキルと装備を見直すことにした。
現在のスキル構成は以下の通りである。
スキルスロット:植物の才能170 土の才能130 農業の心得183 採取120 採掘122 伐採132 召喚94 友好85 言語学68 水の才能94 料理150 魔力200 魔術の心得80 調薬92 生産の心得82
待機スキル:弓術総合80 体術総合80 合成術90 練金術110 鍛冶78 焔の才能66 看破77 付加95 風の才能83 光の才能42 貿易の心得83 商人の心得72 木工72 細工44 裁縫67 解体の心得72 水泳83
六年間ひたすらやりつづけただけあって高レベルでり、結構数も多い。今はがっつり農業用の構成にしているが、さすがに高レベルの迷宮に出向くとなれば戦闘用に切り替えなくてはならないだろう。とはいえ、リンはあくまで生産職。戦闘は苦手だし、いざとなれば勇者を盾にする所存。まあ、グリーがいればスキル構成がこのままでも余裕でクリアできそうではあるが。
「……なんかすごいムダなことしてる気分になってきた」
グリーを思い出した途端にもう準備とか要らないんじゃなかろうか、と真剣に悩む。
それでも一応、農業用のスキルを控えにまわし、弓術総合と体術総合、それに魔法関係の才能を入れる。
「うん、なんかもう適当でもいいかな」
やる気の大半を失いつつ虚ろな目で装備とアイテムを確認してくリンが、そう呟いたとて一体誰が責められようか。ちなみに、装備は中級プレイヤーならてに入れられるような程々のものにしておきました(全部リン自作である)

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