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異世界とチートな農園主 作者:浅野明

養蜂を始めよう

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悲劇と喜劇の舞踏会(中編)

「……というわけでヨロシク!」

計画を説明し無表情で言い放つリンに、蚊トンボとメルが非常にイヤそうな顔を向ける。

「ホンマにやるんか、お嬢。やられる敵さんはともかく仕掛けるあっしらがイヤや」

「やめた方が良いわよ?趣味が悪いわ。そもそも貴女、私が女性だとわかっていて?」

「それにや、そんな大掛かりな魔方陣仕込むだけで一苦労や!面倒や!」

「そうよ。大体魔王が今日にも復活するかも知れないでしょ?魔方陣なんて仕込んでいる場合?」

「魔王は勇者がなんとかするでしょう?ただの農園主には関係ないよ。それに蚊トンボはこういう細かい作業が得意なの知ってるんだから。明日の夕方までなら余裕でしょ?」

しかし妖精たちから抗議をうけたリンは、なぜ反対されるのかがまったく分からない。リン的には修正の余地がないくらい完璧な計画なのである。

「すごく良い案だと思うけどな。だってこれだったら誰一人手殺すことなく貴族社会から抹殺できるんだよ?いくら何でもさすがに人殺すのには抵抗が。もちろん勇者とかクリフたちが頑張るんだろうけど、相手は王家に迫る権力をもつ公爵だって言うじゃない、権力を削ぐだけで精一杯かも知れないでしょ?」

だからリンが手をまわして貴族社会どころかこの国では顔を上げて暮らしていけないようにしてやるのだ。命は助かるのだから感謝されても良いくらいだと思うのだ。

「こ、怖い。こんな計画立てる農園主がどこにいるのよ?迷走してるわよ」

ドス黒いオーラを撒き散らすリンに、メルが青い顔でドン引きしている。

「逆らわん方がええで。あっしにもどこがただの農園主か分からんけど今のお嬢にはなにいってもムダや。よっぽど野菜ダメにされたんが悔しいんやなあ」

一般的な農園主なら泣き寝入りやけどな、しみじみと言って、同僚の肩をたたく蚊トンボの顔も心なしか青ざめている。

「とにかく!一人の漏れも許さないから!畑を台無しにした報いは受けてもらう」

敵リストはクリフにもらう予定だ。こいうときは手回しが良い。

珍しくも実に良い笑顔で拳を握りしめるリンに、逆らえる者はこの場にはいなかった。





翌日である。

リンはえげつない計画を考案かつ進行中であるとはとても思えない程に爽やかな目覚めであるようだが、蚊トンボとメルは眠れなかったと見えて、目の下に隈を作っている。リンはそんな妖精たちを容赦なく王宮に追い立てる。舞踏会は王宮で開かれる。会場もすでに聞いてあるのでその会場の床に誰にも気付かれないようにこっそりと魔方陣を仕込む予定だ。

リビングに行くと、すでに全員起きていて、リンが最後だった。別に遅くはないと思うのだが、この世界の人々は早起きのようである。

勇者はまだ到着してないとのことなので、朝食の前にリンは畑の様子を見に行くことにしたのだが、なぜか興味津々といった顔で王子もついてきた。特別面白くはないと思うのだが。

畑は荒らされたあと、きれいに整地しなおし、すでに種を蒔いてあるので今すぐにするべきことはない。ただ、今回の舞踏会が無事に終わり、養蜂のメドがついたらぜひヴィクターにもらう鉱石種を植えようと考えている。それに他にもいくつか植えたい。あまり一気に植えると手が回らなくなる可能性があるので、ちょっとずつだが。そのために今日することと言えば、畑に異常がないかの確認と、ナヴィリア花と鉱石種をどの辺りに植えるのかを検討するくらいだ。…そういえば、ナヴィリア花、手にいれる方法と栽培方法も学ばなくては。どうしよう。

「これがリンの畑か。思ったより広いな」

王子がキョロキョロと畑を見回す。

「作物がまだないようだが」

「今まだ種を蒔いたばっかりだから。どっかのお貴族さまのせいで葉喰い虫とやらにやられて、せっかく良い感じに育ってた野菜軒並みダメにされたからね」

「そ、そうか」

なぜかわずかに後退りする王子。顔もやや青い。リンは辺りを見渡したが特に怪しい人影があるわけでもない。体調でも悪いのだろうか。

「体調は良いぞ。本当に」

心配したらなぜか力強く頷かれた。

「?なら良いけど」

畑を一通り見て回り、朝食が終わって一息ついた頃それは起こった。

始めに気付いたのはオルトとメロウズだった。

「始まったぞ」

「なかなかだな」

二人で顔を見合わせてニヤリと笑う。人間たちには何が何やらさっぱりだ。

「魔王が復活したのだよ」

『な…』

理由を告げたオルトを、けれど人間たちはにわかに信じようとはしなかった。というより、信じたくないというのが本音だろう。概要は打ち合わせ済みでも肝心要の勇者が今だ現れないために必要な打ち合わせはできていない。いくら勇者といえど一人で魔王を挑むのは愚策というもの。ある程度サポートする人間も必要なのだ。つまりパーティー組む必要がある。ソロでボスに挑むなどゲームくらいです。

「勇者は、フェイルクラウトは間に合わなかったのか」

顔を青ざめさせた王子の言葉に、しかしメロウズが首を振る。

「いや、交戦中のようだぞ?」

『はあ?』

予定では王都ではなく、ここに転移してくるはずだった。魔王は今朝にでも復活する(現実にそうなった訳だが)と言うことだったため、本来なら王都で落ち合いそのまま王宮に向かいたいところだったのだ。しかし、魔王復活の影響で周囲の魔素が乱れ、転移系統のスキル、魔法は一切王都付近では使用不可、転移塔すら使えず、リンの農園に辛うじて転移可能(それもオルトが魔素を安定させていたからだが。実は昨夜ここに転移出来たのもメロウズだったからだ。他の者では到底不可能であった)だったので転移の際はオルトとメロウズにサポートさせて、ここで落ち合うことにしたのである。だと言うのに、一体勇者はどうやって王都に転移出来たのか。

「バカな、どうやって王都に……それに一人で闘うなんて無茶だ!フェイの力は復活する魔王とは相性が悪すぎる!」

王子の口調からは勇者に対する信頼と心配が滲んでいる。

「そんなに相性悪いの?」

聞けば、勇者は焔の能力を有しているが、魔王は水と氷を操るのを得意としているという。そもそもがこの国はの魔術師は焔の能力を有する者が多いのだ。それは確かに相性は悪そうだ。というか、勇者は馬鹿なのか。ここで落ち合う約束であったのに、王都に転移したあげく一人で魔王と交戦中とは。

「でも騎士団とかいるでしょ?他の冒険者とかも。その人たちは一緒に戦ってくれないの?」

魔王復活は極秘事項である。一般市民に知れたらパニックが起こるからだ。だが、当然密かに冒険者ギルド、傭兵ギルド、魔術師ギルド、魔道具ギルドの長には報せてあるし、国王や騎士団長、宮廷魔術師長など主だった者で敵の息のかかっていないものにも報せて、対策はある程度たててある。王族や一般市民を復活する魔王から守らなくてはならないからだ。となれば、その人たちが勇者に助力している可能性もある。

「騎士団長と宮廷魔術師長は勇者に助力するだろうが、他の者ではそもそも力量差がありすぎる」

「だな。冒険者ギルドも傭兵ギルドも高位の者は確か出払っているはずだ。召集はしたが間に合わないと言っていた。残っている者たちでは到底魔王を相手取ることはできまい。俺らだってサポートくらいしか出来んしな」

王子とクリフが苦虫を噛み潰したかのような表情で言い合っていると、突然扉が開いて何かが飛び込んできた。





部屋に飛び込んできたのは羽虫、ではなく二体の妖精。慌てて飛び込んできた途端に何やら言い訳を始める。

「あっしらのせいやないで、お嬢!大事なことやから二回言うけどあっしらのせいやないで!」

「そうよ?私たちは悪くないわよ?強いて言うならあの勇者が悪いわね」

「あっしらかて止めようとしたんや」

「間に合わなかったのよ。あれは無理ね。タイミング的に止めるのは不可能よ。神でもない限り有り得ないわ」

「こればっかりは不運っちゅうやつやな。あと一秒でもずれていればこないなことならへんかったのに」

「どうにもならないことって有るわよね。あきらめてちょうだい」

飛び込んできた蚊トンボとメルが口々に言って、最後は互いに慰めるように肩を叩きあっている。

「……な・に・をしたのかなあ、君たち」

ものすごくイヤな予感がしているのはリンだけではなかろう。

「あー、その、な。お嬢、怒らんとってよ」

「うっかりよね♪わざとじゃないのよ」

ウフフ、アハハと笑いあう妖精たち。乾いたその笑いは何をやらかしたのか聞くのが躊躇われる。本当にイヤな予感しかしない。

「で?」

「……例の魔方陣描いてるときにな魔王が復活してん」

「とりあえず隠れようとしたらタイミング悪く勇者が近くに転移するスキルを使ってたみたいで」

引き寄せられて来ちゃった、てへと笑うが、笑い事ではない。というよりこいつらのせいだったのか。リンは頭痛がし始めた頭に手をやってため息を押し殺し、ふと気付く。

「ちょっと待て。あの魔方陣、そんな機能無かったよね?」

「……一部書き間違えたんや」

目を反らして答える蚊トンボ。

「ふむ、ということはやはりそなたの責任であるな」

「そんな殺生なこと言わんといてや、ダンナ。そもそもあんな魔方陣作成するんがおかしいんや!あんなろくでもない効果の魔方陣なんてやる気起きるわけないやろ!大体魔王復活して王宮は崩壊や!描く意味まったくあらへんかったわ!」

「そうよねー。ムダに複雑な割りに効果があれでは割りにあわないわよねー」

なぜか逆ギレされた。その上周囲の視線が痛い。いやいや、あれすごく高度な魔方陣よ。本当よ。

「まあ、起こってしまったことは仕方ないよね!で?勇者見た?どんな具合だった?ぶっちゃけ魔王に勝てそうだった?」

矢継ぎ早に問いかけると蚊トンボとメルは顔を見合せ、揃って首を振る。

「無理ね」

「ムリそうやったなあ」

二人が言うには、すでに王宮は崩壊したらしい。王族は避難済みであり、市民も順次王都を脱出しているが、そもそも逃げる場所がない。百万もの難民を受け入れてくれるところなどありはしない。多少遠くに逃げたとて、魔王から逃げられるとは限らない。それでも一般市民の心境からすれば、とりあえず王都からは離れたいのだろう。魔術師総出で王宮を囲むように守護結界を張ったうえ、勇者が頑張っているためなんとかまだ都自体に被害は出ていないので、辛うじて市民も恐慌状態に陥ってはいないようだ。各ギルドも総出で市民の誘導やパニックを抑えることに尽力しているらしい。

「ゆうても魔王かなり強かったからなあ。あの結界なんぞ本気で攻撃されたら二撃持たんで」

「勇者も強かったけど攻撃が今一通ってないのよねえ」

うんうんとうなずきあう。

「何てことだ。すぐ助けにいかねば!」

王子にとって勇者は二人といない親友でもある。見殺しにするわけにはいかない。勇者が負けたらこの国の未来はないも同然であるし。

クリフたちも当然王子一人で行かせることなどできるはずもなく、立ち上がる。

オルトとメロウズは行かないようだ。留守は任せろ、と胸を張っている。

「魔王なんざお嬢が本気でやれば……」

何か言おうとした蚊トンボをハエ叩きで黙らせる。

「メル、王宮近くに転移出来る?」

「それくらいは出来るわよ。オルトも魔素の安定くらいは手伝ってくれるでしょう」

「む、それくらいなら良いぞ」

すでに用意は出来ている。リンは不振な目で見られつつも大きな荷物を持って、クリフたちはフル装備で余計な荷物は持たず。王子も軽鎧を身につけ、メルが一斉に転移させる。

淡い光に包まれ、一瞬後、彼らは王宮近くに転移していた。



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