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異世界とチートな農園主 作者:浅野明

養蜂を始めよう

34/50

悲劇と喜劇の舞踏会(前編)

唐突だが、リンの家はそんなに大きくはない。リンが快適に過ごせれば良いわけだから、ムダに広い家など作る必要がなかったのだ。

そこそこの大きさのリビングダイニングに、大きめのこだわりキッチン。リンの寝室に客間が三つ。以上だ。

何が言いたいのか。つまり、今回転移してきた人数はリビングダイニングにギリギリ入る、がしかし、泊まる部屋はまったく足りないということだ。

そもそもが客など少々ストーカーチックなルイセリゼと親切フェリクスくらいのものであり、この人数は想定外である。今だかつてないほどヒトが溢れるリビングでテーブルを脇にどかし、床に円座になって座り、今後の話し合いをすることに。

「で、なんでここに住むことに?」

迷惑だ、という雰囲気を隠しもせずリンがメロウズを見る。

「まずそこなのか?!」

他に先に確認することとかあるだろう、とクリフが頭を抱えていたが、そんなものはない!リンにとっては同居者が増えるということはそれだけで精神的負担がハンパないのである。すでに蚊トンボとメルだけでいっぱいいっぱいなのだ。特に蚊トンボが日々彼女の神経を削っていくのである。これ以上はごめんだ。メロウズの調子だと必要な時だけ召喚するオルトと違って常時この家に住み着く感じだし。オルトのように必要なときだけ呼び出せて普段はいない、というのが理想です。

「簡単にいうとそなたらに手を貸しすぎたのだ」

意味がわかりません。が、オルトにはピンときたようだ。呆れ顔でため息をつく。

「そんなに何をやらかしたのですか、メロウズ。契約者に関わること以外で、ヒトと神々との古の契約ごとに我らが手を貸すのは掟に反します」

「お主は細かいことを気にしすぎなのだ、オルトよ。ハゲるぞ」

「ハゲませんよ!貴方は適当過ぎます。リンに迷惑かかるのでここに住むのは止めて下さい。一人で勝手にほとぼりがさめるまで山にでもこもっていてください」

よく言った、オルト!とリンが心の中で拍手をおくる。が、メロウズは実に面倒臭そうにオルトを見る。

「バカ言うな。一人でこもってもつまらんだろう」

「そういう問題ではありません。リンが契約の神に目をつけられたらどうするのです」

「知らん。そのときはそなたが何とかせよ」

まさかの丸投げ。バカにしたように鼻をふん、と鳴らす。ヒトのことなどどうでも良いさ、といわんばかりである。

「無責任にもほどがあります!」

「まあよいではないか」

どこかの殿様のような台詞を言い、ははははとわざとらしく笑う。

「ここに住む礼に家の改築とそこなドワーフを手伝ってやろう」

メロウズの背に乗っている時に、リンがヴィクターに蜂の巣箱を造ってもらうのだという話はしていた。どうやらそれを手伝う、と言っているらしい。しかし家の改築?

「この家で造るのであろう。ならば鍛冶場と我らが住む部屋が必要だろう」

「え?」

一瞬呆けてしまったが、言われてみればヴィクターには今鍛冶場がない。早く巣箱が欲しいなら確かにそれが最善だ。ということはヴィクターも同居するということか?恥ずかしがりやすぎるドワーフは同居となると非常に鬱陶しそうだ。ちらりと見ると満足そうな素晴らしい笑顔の紅顔の美少年。メロウズの中ではすでに決定事項のようである。覆すのはムリそうだ。オルトはと見ると、諦めたような顔で首を振る。

「ついでに巣箱の素材も我が用意してやろう。大船に乗ったつもりで待っているがよい。我が保有しているスキル【鍛冶】【建築】を駆使して素晴らしい作品に仕上げてやろうぞ」

ドヤ顔でサムズアップするメロウズに、泥船の間違いじゃないのか、と思ったが言わないでおく。

「おい、いい加減に話を進めてもいいか」

一息ついたところでクリフが低い声で話しかけてきた。大分イライラしているようだ。夜も更けてきたのでそろそろ詳しいことを話し合わなくてはならない。

「…えっと、ごめん」

話が終わるまでじっと待っていてくれていた面々につい謝ってしまう。

「貴女が謝ることはありませんよ。そもそも勝手に巻き込んだのはこちらですし」

「そうねレックスの言う通りだわ。それで、具体的にはどうするの?」

魔王が復活してしまえば、到底勝ち目はないだろう、というのが彼ら共通の認識である。そもそも魔王たるものをもっとも弱い者でもこの国くらい簡単に焦土にできるだろう。神の護りの結界はなぜか魔王には効かないのである。魔王に勝てるのは勇者のみ。勇者とはそれほどに常識はずれの恐ろしい力を持っている存在なのだ。

「王子、勇者とは連絡が付きましたか?」

クリフの問に王子が頷く。

「なんとか明日の朝にはこちらに来られそうだ」

本来、第一王女も勇者も舞踏会に参加する予定で、今日のうちには帰って来れるはずだったのだが、アクシデントがあり(おそらく公爵の妨害であろう)一週間は帰国が遅れるところだった。が、魔王のこともあり、第一王女は腕のたつ護衛たちに任せ、勇者のスキルや訪問先の賢者のスキル(勇者や賢者のスキルは便利ではあるが万能ではなく一人しか移動出来ないものが多い)に転移塔、とにかく使えるものをすべて使ったのだ。それでも明日の朝が精一杯だった。今回の件では勇者もかなり怒っている(勇者と第一王女は婚約中であり、今年中には結婚式が予定されている。愛する王女を危険な目に合わせた公爵に怒り心頭といったところだ)らしく、魔王はもとより公爵も第三王子も殲滅する勢いだという。ちなみに王子の護衛はニナヴェール山脈で王子を見失ったため、王子と魔道具で連絡をとり先に王都に帰っていて、今はリンの家の周囲に潜んでいる。

危険なので、闘う力のないヴィクターは明日からリンの家でメロウズと共に巣箱作りをすることになった。ただ、ヴィクターが造って騙し取られた武器の中には危険なものもあるという。

「じ、実は魔剣がいくつかあるんだ」

目が点になるとはまさにこのことだ。魔剣などまず滅多に作製出来るものではない。ゲームでは鍛冶の熟練度を最高まで上げて、特殊クエストをクリアしエクストラスキルを取得しなくてはならなかった。そこまでしても魔剣成功率は二割。八割は屑鉄になってしまう。リンの友人もようやく手にいれたヒヒイロカネや神鉄を屑鉄にしてしまって涙にくれていたものだ。そうまでして魔剣を造るには当然理由がある。魔剣は【使用】すると、職業が限界突破できるのだ。職業に【神の】と付けたければどうしても一定量の魔剣を消費する必要があり、更には材料や付加能力によっても上げられる職業が違ってくる。リンの職業も大量の魔剣を消費して上げたのである。どれ程材料を手に入れるのに苦労したことか…!

話が脱線しました。とにかく、魔剣を造るのはとても大変なのだ。他の面々の表情を見るに現実でもそう簡単に造れるものではないのだろう。ミネアなどは頬をひきつらせて「規格外にも程がある」と呟いていた。

肝心の魔王復活に魔剣が使われるとどうなるか。簡単に言えば、魔王の能力が強化される。復活直後は通常は弱っているもので、それもあって公爵側は魔王を操玉で操れると考えているのだろうが、ヴィクターが詳しく魔剣の性能を語るにつれ、皆の表情が強ばっていく。

「えーと、つまり?」

リンがもっと分かりやすく説明してほしいと言えばなぜかメロウズが教えてくれた。

「つまり弱るどころか通常の三割増し強い状態で復活する可能性が高いということだ。この国は確か焔の勇者だったか。復活する魔王とはあまり相性もよくないな。大丈夫かの」

今日の朝食を語るくらいのお気楽さでさらっと言われたその内容は、さらっと流せないものだった。大丈夫なのか、勇者!子供のリンもこの家に残る予定であったが、ここは強引に付いていくことにする。いやいや、うっかりこの国無くなった日にはリンの畑も壊滅的打撃受けるかも知れませんしね!王都には数少ない知り合いもいることだし、ここは手を貸さねばならないだろう。たかが農園主と侮るなかれ。たとえ職業が生産特化で戦闘向きでなくとも、伊達にソロで活動していたわけではないのだ。調合できるアイテムの中にはかなりお役立ちアイテムも多数あることだし。生産職を甘く見ると痛い目を見るのだ!とはいえもちろん表に立つわけではない。裏でコッソリ目立たず支援し、リンの作物を全滅させてくれやがった公爵とやらは確実に地獄送りである。容赦はしない。

リンの愛する畑の今後のためにも勇者にはゼヒ頑張って欲しいものである。

このあとも詳しい作戦を打合せし、あとは明日勇者が到着してからということで、今日は一先ず休むこととなった。

リンは自分の寝室で、王子とメロウズとヴィクターは客間で(メロウズはオルトと同室だ。オルトはひどく嫌がっていたがこればかりは仕方がない。ちなみに妖精はリビングの上にロフトがあり、そこで生活している)、その他はリビングに雑魚寝である。

その夜一晩中リンの寝室から妖しい笑い声が響いていたとかいなかったとか。
話が進んでいるような、いないような?
主に喜劇という点で後々歴史に残ることになる舞踏会、前編です。あと中編と後編と舞踏会のそのあとでがあります。

今月中に番外編も書く予定です。
「ルイセリゼ愛の観察ストーカー日記」
「とあるギルド職員の日常(アリス編)」
「小さな恋の物語(第一王子とお妃さま)」
「苦労性の商人とA級冒険者の飲みフェリクスとクリフ
「変態パーティーの普通の一日(『吹き抜ける風』メンバー)」
「妖精と竜のとある一日(メル、蚊トンボ、オルト)」
を今のところ予定しています。
もし、こういうのが読みたいとかあれば感想にいただけると嬉しいです。あと上記の中で先に書いて欲しいというリクエストのある話があるようなら、リクエストから書くようにします。リクエストがなければ完成順になります。
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