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異世界とチートな農園主 作者:浅野明

養蜂を始めよう

33/50

最後の素材

ヘランの実はメシナ洞窟の最奥にあるはずだが、メシナ洞窟自体たいして大きい洞窟ではないので攻略はそこまで難しくはないだろうというのが、パーティー『はみ出し者たち』の共通の見解だった。洞窟にはかなり高レベルの魔物が出る上、聖水の効力はそろそろ切れる頃だが、もともとパーティーメンバーのレベル自体高いし、メロウズがいるので特別問題はないだろう。彼は存在しているだけでほとんどの魔物が避けて通る、どっかの隠居が持っている印籠のような存在なのだ。一パーティーに一体いると便利ですネ!

そういったわけで、一行は迷うことなく洞窟に足を踏み入れる。

洞窟内は微妙に明るい。洞窟の壁に光る苔が生えているからだとメロウズが教えてくれる。ただ、これも魔物の一種らしく、本体は別の場所にあり、この苔で洞窟を通るヒトや魔物の魔力を少しずつ吸いとっているので気付かず長時間洞窟の中を歩き続けると、いずれ力尽きて倒れてしまうらしい。今回は洞窟に入る前にメロウズが全員に体に纏わせるタイプの防御結界を張ってくれたので、餌食にならずにすんだ。

パーティーの誰もこの苔の魔物を知らなかったので、メロウズが居なければ危なかっただろう。「我がいてよかったであろう」とドヤ顔でいいはなつ彼は非常に鬱陶しかったが。「後でオルトをいじめてやろう」とコッソリ呟いていたのは聞かなかった振りをするリンである。仲が悪いと言う訳ではなく、どうやらメロウズはオルトをいじるのが趣味らしい。オルトは族長ではあるが、若くて真面目なぶんいじられやすいタイプのようだ。「愛あるコミュニケーションの一環だ」というのが、メロウズの主張である。どうでも良いことだが。

洞窟内はメロウズがヘランの実のあるところまで案内できる(この洞窟にも彼の好物があるようだ)と言うことなので、案内してもらう。そのため、まったく迷うことなく、魔物に襲われることもなく、予想以上にサクサク進める。時間が限られている今、進み具合が早いに越したことはない。クリフたちがこんなに楽な依頼は初めてだ、と思わず愚痴ったくらいだ。しかし、出番がないというのは冒険者にとって良いことなのか悪いことなのか微妙なところだ。

などと余計なことは言うもんじゃないな、リンは思う。その愚痴がフラグだったのか、洞窟も半ばまで進んだところでなぜか入り口に戻ってしまった。

『…え?』

一瞬の出来事に皆何がおこったかわからない。リンもメロウズも咄嗟に何がおこったか理解出来なかった。普通に歩いていただけで、特に罠を踏んだとかもなかったのに、なぜ今洞窟の入り口に立っているのか。そもそもメロウズがいて罠にかかることはまずない。魔物の仕業であってもメロウズがそう簡単にしてやられるとは思えないし、仕掛けてくる無謀な魔物がいるとも思えない。

当然といえば当然のこと、もっとも早く立ち直ったのはメロウズだった。

「神のイタズラか」

「神のイタズラ?ソレは一体なんなのですか」

レックスが冷静に問いかける。他のメンバーも順次意識を切り替える。分からない現象がおきたとていつまでも驚き呆けていては、死ぬのと同じ。とにかく素早く自分を立て直す。それが冒険者に求められる資質の一つだ。

「世界には時に魔素が狂っている場所がある。通常は分からないほど微細なモノだ。我々ドラゴンのような魔法に長けた存在や、魔法と自然にこれ以上ないほど影響力を持つ精霊ですら、気づかぬほど。だからか、こういったことを知っているものもごくわずかだ。恐らくヒトでは知っている者はまずいないだろう。だが、そういった場所は間違いなく存在している」

「へえ、初めて聞いた」

ゲームにそんな設定あっただろうか?細かい設定までは覚えていないのでなんとも言えない。が、少なくともリンには覚えがなかった。

問題はその場所が及ぼす効果だ。

「魔素狂いと我らが呼ぶその場所は、ごくまれに瞬間的に爆発的に魔素が集まり、その場にいるものを強制的に転移させる。転移先は完全にランダムだ。ものすごく遠いときもあれば、ほんの一キロ先ということもある。何処に飛ばされるのかは運次第なのだ。その現象を我々は神のイタズラと呼ぶのだ」

一度転移させられてしまえば、次は十年から十五年はまず大丈夫とのことで、一同が胸を撫で下ろしたとき、メロウズが爆弾発言をした。

「似ているがここはメシナ洞窟ではないぞ」

「…え?」

王子が呆然とメロウズを見る。この竜は一体何を言っているのかと。

「なんで分かるの?」

「この洞窟からは我の好物の匂いがせん!」

リンの疑問に答える、その言葉はあまりにも自信満々で、疑う余地すらない感じだ。食いしん坊(メロウズは好物の食べ物のためだけにわざわざここまで来ているのだ)のこの発言は真実味がある。

「では、ここはどこなのですか?」

レックスの問にメロウズは首を傾げる。

「ふむ、恐らくグレン島にある洞窟だな。あの植物はグレン島にしかないものだったはずだ」

メロウズが指差した先には真っ赤な花。それはリンにも見覚えのある、上級調合で使ったことのあるアイテムだ。そういえばあれは入手先がどこかの無人島だった。ゲームのときもそこでしか手に入らないということで、一時期(グランドクエストクリアに必要なアイテムの素材だった)人が押し寄せすぎて人数制限されたほどだ。ちなみにメロウズが知っているのは、昔調合をヒトに習った時に素材調達にこの島に来たかららしい。経験豊富な竜なのだ。彼がここをメシナ洞窟ではないと判断したのは、別に好物の匂いがしないというだけではなかったのだ。

「ここからメシナ洞窟までどれくらいかかる?」

クリフが聞くと、竜は少々ためらう。

「そうだな、普通に行けば一月はかかろう」

「転移すれば良いのではないですか」

レックスの問に首を振ったのはリアーナだ。

「無理ね。ここは魔法が使えない。理由は分からないけどさっきから索敵魔法すら使えないわ」

「そうだ。この島にははるか昔、愛の女神シルヴィリアがかけた禁呪が今も効力を残している。魔法だけでなく、魔力を使うスキルはまず発動不可だ」

「そんな…ではもう間に合わないのか」

間に合わなければ、王子に与していた貴族は軒並み殺されるだろう。復活した魔王に国そのものも滅ぼされてしまうかもしれない。舞踏会までに帰りつくことさえ出来ればまだ打てる手もあろうというものだが。間に合うことさえ出来ないのでは話にならない。がっくりと膝をつく王子に、メロウズはため息をつく。

「何か方法あるんだね、メロウズ」

リンが確認するように問えば、メロウズも首を縦に振る。

「ああ、だが…」

何かためらう理由があるようだ。が、リンをじっと見つめたあと、肩を竦めて仕方がない、と呟く。

「ここまで関わってしまったものを今更知らん顔もできまいて」

何かを吹っ切るようにそう言うと、竜形に戻る。

「我の背に乗るが良い。我ならば全力で飛べばメシナ洞窟までは二時間もあれば戻れる。オルトの契約者と魔法使いの娘よ、神の力場の外に出たら皆に結界魔法を掛けよ」

竜が全力で飛べば、なにもしなければ乗っている人間はあっという間に昇天してしまう。比喩でなく。そうならないようにメロウズも魔法を掛けるが、流石に負担が大きすぎるため、三人で負担を分散しようと言うのだ。リンとリアーナは揃って頷く。

三人はそれぞれが使う魔法を素早く決めると、一行は大空へ旅立ったのだった。





あっという間に戻って来ました。そのまま洞窟に突入し、ヘランの実を入手、加工してその場で『神酒』も調合してしまう。調合アイテムのせいか当然熟成なども必要ない。後は舞踏会までに城へ戻れば良いだけだ。通常であれば。今回は魔王が明日にでも復活するかもしれないので、できるだけ早く王都まで戻らねばならない。戻る方法はこれから考えるとして、ムダに時間をロスした以外に特別問題もなかったことにパーティーメンバーは内心ほっとしていた。こういうイレギュラーな事態はロクなことがないと彼らは身を持って知っているからだ。

「もう夜だけどどうするの?明後日はもう舞踏会でしょ?間に合うかな」

リアーナは魔力の使いすぎで、迷宮都市までワープを使うのはあと二、三日はムリだろう。いくら魔力回復用のポーションを使ったとしても、疲労や精神的な消耗までは回復出来ないのだ。

「どんな手段を使ってでも間に合わせるさ」

リンに笑いかけるクリフは今までで一番頼もしい顔をしていた。とりあえず夜の移動は危険だということで、安全な場所を探して野営すると話していたところに、とっくに家(?)に帰ったと思っていたメロウズが声をかけた。また少年の姿になっている。

「我が転移魔法で送ってやろう」

ただし、王都には行ったことがないため転移できないらしい。経験豊富な竜にしては珍しいと思ったら行く機会がなかっただけらしい。そういうこともあるよね!

ではどこに転移するのかと言えば、

「リンの家に決まっておろう」

なぜそんな当たり前のことを聞くのか、と心底不思議そうな顔をされた。そのココロはリンの家にオルトがいるかららしい。言われてみれば、今回家を留守にすることに決まった時、蚊トンボとメルだけでは不安だったのでオルトの常時召喚をしていたのだった、と思い出した。

「まあ送ってくれるのは良いことだけどね!」

しかし、メロウズは家(?)に帰ったのではなかったのか。

「オルトに言わねばならぬことがあるしな」

そっちが本命か。理由はどうでもとにかく家に送ってくれるのはとても助かる。

そういったわけで、またもやあっという間に家に帰りついたリンたちだった。







「いやいや、お嬢!どっから出てきとんねん!」

「む?メロウズ?なぜ貴様がリンといるのだ」

「あら、お客さまかしら?困った主ね。こんなに沢山のお客さまが来るなら事前に言っておいて欲しいわ」

突然リビングに現れたリンたちにあたふたする蚊トンボ、メロウズがいることに訝しげなオルト、ムダに冷静なメル。三者三様の反応をする留守番組に、転移してきた者のなかで始めに口を開いたのは、誰あろうメロウズだった。

「うむ、今日から当分我もこの家で世話になるゆえよろしく頼む。あとこのドワーフもこの家に住むことになるであろう」

全員の目が点になった瞬間だった。メロウズと共にはからずも注目を集めるはめになった分厚いフードを被って、サングラスをかけている恥ずかしがりやのドワーフは視線を集めた途端に、真っ青になって気絶してしまった。合掌。
農業仲間が増えた!

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