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異世界とチートな農園主 作者:浅野明

養蜂を始めよう

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素材採取②

「そなたオルトの契約者か」

言われたリンは目をぱちくりさせた。もしかしてオルトの知り合いだろうか。

「うむ、我ら竜種は長寿故か子が出来にくい種族なのだ。ゆえに種が違えど上位竜種はたいてい顔見知りである。その上暇人が多くてな。つまり面白い噂とか新しい話題は大歓迎なのだ。あの堅物のオルトが契約したというので今一番旬の話題だな。皆契約者を見てみたいと言っているがあのバカが中々承知せんでな。このようなところで会うとは我は中々に幸運であるな」

「あ、そう」

突っ込みどころが多すぎてすでにコメントのしようがございません。なんというか、他の皆さまの視線が痛いです。ええ、ひじょうに。どうしてくれようこの微妙な空気。

「ところでドラゴンさんは何でここに?」

「うん?この山には我の好物のアストロウズ鉱石があるのでな。時々食べに来るのだ。あと呼ぶときはメロウズでよいぞ。我の通称だ」

チョコ買いに近所のコンビニに行ってきた、というくらい軽いノリで言われた。ちなみに対峙しているだけで手が震えるような威圧感は種族的特徴らしい。これでも抑えてくれているとのこと。リンがオルトに感じないのは契約者だからだ。あとはレッドドラゴンとブラックドラゴンの差だ。

「そう言えば何でオルトの契約者ってわかったの?」

「うむ、オルトの気配がしたのでな」

ほう、つまり犬のマーキングみたいな?そう言うと大砲でも撃ったかのような轟音が響いた。

「面白い娘であるな」

どうやらブラックドラゴンの笑い声のようだ。ツボにはまったらしくしばらく笑っていた。耳が痛くなってきた頃ようやく収まった。

「してヒトの娘とその連れよ。そなたらこのようなところに何用か?」

リンはオマケの同行者であるのだが、誰もそこは突っ込まない。

「山頂付近に咲いてるはずの黒雪草とメシナ洞窟にあるはずのヘランの実を採りに来たの」

「ほうほう、この辺りでは確かに他に採取できるところはないな。ならば我が同行してやろう」

『…は?』

ほぼ全員が間抜けな顔で竜を見る。いきなり何を言うか、この竜は。よくよく見ると、なにやら楽しげである。

「・・・・もしかして暇?」

そう言ったのは意外にもヴィクターだった。ごくごく小さい、リンに辛うじて聞こえるような声だったが、メロウズにはしっかりと聞こえたようだ。じろりと黄金の瞳に睨まれてリンの後ろに縮こまる。どうでもいいけど、いい大人が子供の後ろに隠れるとかどうなんだろう。だが別にメロウズは睨んだわけではないようだった。

「うむ、暇である」

一言。その瞬間、姿が揺らぎ、巨大な竜が目の前から姿を消し、十五歳ほどの紅顔の美少年がその場に現れる。

「…もしかしてメロウズ?」

「我以外にあり得ぬだろう、ヒトの娘よ」

美しいソプラノで、竜の姿だったときにはマッチしていた言葉遣いが違和感があるが、こればかりは仕方がない。実際、時間もないことだし、メロウズは素材の場所も詳しく知っている上、近くまで転移魔法で転移してくれると(素材がある場所付近は魔力中和地帯らしく、直接その場に転移は出来ないらしい)いうので同行してもらうことになった。そもそも「ワープ」などの高位転移魔法はただでさえ消耗が大きいのにそれを連続使用した上、多人数の移動だ。リアーナもかなり限界に近い。もう大きな魔法は二日は使えないだろう。魔力回復ポーションで魔力は問題なくても、精神や肉体的疲労感まではどうにもならない。時間が限られている今は、竜の同行は願ってもない幸運と言えた。







人間の生活に興味があるというメロウズは色々経験も豊富だという。鍛治、木工、裁縫、料理などしょっちゅうヒトに姿を変え、人里に下りては一流と言われる職人や時には無名の村のおばちゃんに弟子入りして習い、スキルを身につけた。そのため、意外にも知識は豊富で、今回の素材採取も、素材を聞いて直ぐにピンときたらしい。そもそも五年に一度、同じ素材を王と護衛の騎士が採取に来るので近隣の村人もよく知っていたとか。

休憩を挟み(ちなみにリンの畑の報告はメルが一日二回やってくる。順調に野菜は育ちつつあるらしい。しばらくは水やりと草取りくらいで良いのだが、早いところ終わらせてヴィクターに巣箱を造ってもらわなくては。畑にも帰って様子を見たいし。リンは暇そうに見えても忙しいのである。どこかの暇竜とは違って)メロウズの力で山頂付近に転移して、素材がある場所までの道中、メロウズの話を聞くことになったのだが、かなり多才な竜である。

彼がいうには王都で魔素の歪みがあるという。高位の魔物たちは気づいて、王国結界には近寄らないようにしている。

「そう言えば気になっていたことが」

リンは今までの疑問をメロウズに聞いてみることにした。曰く、ほとんどの国が神や精霊の結界に守られているなら高位の魔物はどこに住んでいるのか、このニナヴェール山脈周辺はなぜ高位の魔物が住めるのか。

「ふむ、簡単なことだよ。そもそも護りの結界はヒトの住む場所を確保するというだけのものであり、こういった山脈や森林などのもともと魔物が住み暮らしていたところは結界が作用しないようになっているのだ。とはいえ結界に阻まれて一定以上の強さの魔物は山脈周辺からは出ることは叶わぬのだがね」

「はあ、単純に国全体を囲ってるだけってわけでもないのね」

ちなみにメロウズはどうやって行き来しているのかと聞けば、上位竜種は魔物ではなく、神族の末席に名を連ねる神属となるので、魔物よけの結界には引っ掛からないらしい。

「竜殿」

唐突にウィドクライがメロウズに声を掛ける。

「メロウズで良いぞ、竜人の若者よ」

「ではメロウズ殿、魔素の歪みがあるということはまさか」

「うむ、そのとおりである。魔王復活に向け準備が整ってきつつあるのだろう」

魔王誕生は思ったよりも早そうだ。メロウズの予測によるとこの調子でいけば、舞踏会の前日の朝が封印が解ける可能性が高いと。王国お抱えの勇者にはすでに使者が出ているためこちらに向かっているのだろうが、なんとか間に合ってくれるよう祈るしかない。ちょっとした実力者でも魔王にかかれば瞬殺であるからして。

そろそろ頂上、というところまで歩いたとき、メロウズが立ち止まった。

「あそこに紅い樹が見えるな」

メロウズの指差す方向には確かに紅い樹が一本ある。樹が紅いというより、紅葉のように紅葉した葉っぱに彩られているのだが。あまり近付き過ぎると、あの樹が出す幻覚系の神経毒にやられるらしい。

「あの樹の根元に黒雪草がある」

言われて根元に眼を向けるが、なにもない。比喩ではなく本当になにもないのだ。いや、土はある。

「土だな」

「雑草もないな」

「中々旨そうな」

「土しかないわね」

「鍛治に使えるかな」

「調薬には使えないかな」

「どこからどうみてもただの土ですね」

上からクリフ、ミネア、ウィドクライ、リアーナ、ヴィクター、王子、レックスの台詞である。一部おかしな台詞があるような気がするが、とりあえず誰が見てもやはり土しかないようだ。

「あの、メロウズさん?土しか見えないんだけど?」

リンがメロウズを見ると、彼はにやにや笑っている。

「そこにあるのは間違いないぞ」

言われて再度見るがわからない。物凄くいい笑顔だ。聞かれたら教えてやろうと言わんばかりだ。

「そこの暇竜さん?」

ここのところストレスがたまっていたリンはドヤ顔でサムズアップする暇竜に若干いらっときていた。思わずドスの効いた声がでる。

「う、うむ。すまん。あの土に調合者の魔力を流してみるとよいぞ。黒雪草は土の下にあるのだが、魔力を外部から与えると一気に成長し土の上に顔を出すのだ」

注意すべき点は、その時流す魔力は調合者のものでなければならないというところだ。別の魔力では調合時に拒否反応がおきて八割の確率で調合に失敗する。

「魔力を流す時の注意点は他にはありますか」

相手が高位の竜だからか王子はなぜか丁寧語である。

「他に?そうだな、流し過ぎると許容量を越えたら一瞬で枯れる」

「許容量を越えたら即?」

「うむ、即枯れる。魔力に敏感な植物なのだ」

王子の問に重々しく頷く美少年。王子とメロウズが並んで立っている姿はシュールだ。人は外見ではない、内面だというが、二人が並んでいると、王子が気の毒なくらい引き立て役にしか見えない。

近付くのは危険だということで、メロウズの指導で、離れたところから魔力操作して魔力を土中に流す練習をする。たいして難しいやり方でもなかったのか、王子は直ぐにコツを掴み、日が陰る前には黒雪草を手にいれて加工することができた。あとはヘランの実だけである。

「予定よりも順調に進んでいるな。まだ日が暮れるには三時間はあるだろう。どうするのがベストだろうか」

こういったことは専門家に聞くのが一番と、王子はこのままヘランの実も採りに行きたそうだったが、自分の意見をごり押しすることなくクリフに判断を任せる。

クリフはちらりとメロウズを見て、王子にうなずいてみせた。

「洞窟へ行きましょう。幸運にも俺たちには強力なドラゴンもついてきてくれているし、まだ日も高い。行けるうちに最後の素材を回収して、『神酒』を完成してしまった方がいい。あえて山中で野宿するより迷宮都市まで戻って宿で寝た方が良いですしね」

ニヤリと笑ってクリフが言う。王子もほっとしたようにうなずいた。

こうして彼らは最後の採取地であるメシナ洞窟へ向かうことにしたのだった。


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