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異世界とチートな農園主 作者:浅野明

養蜂を始めよう

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素材採取

迷宮都市ナセル。ゲームの頃には存在しなかった都市。そこは二重の頑丈な壁に囲まれた街だった。門には門番がいて、旅人らしき人々が三組ほど並んでいた。行商人らしき三人組、冒険者らしき五人組、神官と護衛の騎士四名。しかし誰も都市の中に入ることが出来なかった。行商人たちはしばらく交渉していたが諦めたのか早々に立ち去っていく。だが、冒険者と神官はいまだに門番に抗議している。騒いでいる彼らを華麗にスルーして、門の横についている小さな黒い箱にミネアが朱色のカードをかざすと、巨大な門、の横の壁の一部が音もなく消失した。

「…は?」

状況がいまいち把握しきれていないリンをクリフがひっつかみ、一行が素早く壁の穴から中に入るとあっという間に壁が元通りになった。こちらに気づいた冒険者の一人も目を丸くしているのが見えた。

なんというか、ムダに高度な技術ではないだろうか。…あの大きな門、いるのか?

「迷宮はかなり数があるし、当然迷宮都市も沢山あるがそのなかでもここは特に異色の都市だ」

ミネアが街の案内がてらリンに色々街のことを教えてくれる。彼女はこの街の出身らしい。あの朱色のカードはこの街独特の身分証のようなものだとか。一つ目の門と二つ目の門の間にはそこそこの規模の街が形成されており、ざっと見たところ普通の家やアパートらしきもの以外にも宿や食事どころ、公衆浴場に酒場、武器防具に道具、日用品に様々な露店がこの間の街にある。では一体二つ目の門の向こうには何があるのか。王城とか貴族の邸でもあるのだろうか。

ミネアは目的地があるらしく、迷うこともなく歩いている。美しい彼女は注目の的かと思いきや道行く人々はなぜか彼女を避けるように小走りで歩いている。かなりの賑わいをみせ、沢山の人が行き交う大通りだというのに彼女の前だけ人がまったくいないという不可思議な現象が生じている。おかげで、とても歩きやすいのだが。いったい何をやらかしたのか。非常に気になるところではあるがミネア以外の全員に『本人には絶対に聞くな』と声を揃えて言われてしまった。しかし彼らもまたあえてリンに教えてはくれない。世の中には知らなくても良いことがある、ということらしい。

ちなみにヴィクターは王子の前でもフードを取ることなくいまだにフードを被っている。聞いたところによると王様の前でもフードを取るのは拒否したとのこと。こいつもブレないな、と感心するほどの、ここまで徹底していると清々しいというかある意味潔いとすら言える態度である。知らない人が沢山いるなかで顔を見せるなど恥ずかしくて死ねる!と明言するだけのことはある。しかしフードで視線は遮れるが、その怪しい格好でむしろどこへ行っても注目の的。なんだか色々残念である。

かなり脱線したが、結局迷宮都市ナセルの何が異色なのか。一言で言うと『都市そのものが迷宮』となる。

「いやいやいや、都市が迷宮とか意味わかんないけど」

そもそも迷宮にヒトが定住出来るのか、いやムリ。

「君が何を考えてるかよくわかる。大抵初めてここのことを聞いた人は同じ反応をするからな。…どうでもいいが、君は見事に表情が変わらないな?」

本当にどうでもいい。ちなみにリンの表情が変わらないのは昔からだ。別に異世界に来たから、とか引き込もってヒトと話すことがなかったせいとかトラウマがあるとかではない。単に生まれつき表情筋を動かすのが苦手なだけである。

「まあ、迷宮と言ってもここはまだ外郭だからな。ほとんど外とかわりない。あそこにもうひとつ門が見えるだろう?あの門の向こうが内郭と呼ばれ区分的には迷宮となる」

どうやらこの都市を囲む二重の門は外敵から身を守る為のモノではなく、いざというとき迷宮からヒトを守る為のものらしい。外郭の大きな門も、通常は開くことなく、迷宮から魔物があふれでた時のみ開き、住人を逃がすのだとか。迷宮から魔物が出てくるなど、まずあり得ないが、ココは特殊らしい。色んな意味で。

「まずは宿に行こうかと思っているが君は他に先に寄りたい所はあるか?」

今回はこの都市自体に用があるわけではないため、ダリーズ平原に近い南門(出入口は門のそばにしかない)付近の宿を取り素材採取の拠点にするという。とはいえ余程のことがない限りここでは二泊しかせず、その間に装備や道具を出来る限り整えるのだ。本当は今日全て準備して明日早朝に出られるはずだったのだが、今日の夕方落ち合う予定の、素材調達を頼んだ商人から一日遅れると魔道具を通して連絡があったのだ。どうやら何者かに襲われたらしい。時間的にかなりギリギリだが、ともかく商人が持ってくる素材が届かないと出発は意味がない。素材の特性上現地調合するよりないからだ。

「宿で良い。でもこの都市面白そうだからまた時間があるときにゆっくり来てみたいな」

「そうか、ではそのときはわたしを指名して依頼すると良い。この都市は通常の手段では君は入ることはできないからな」

「そうなの?」

驚くと同時に納得した。その通常の手段では入ることが出来ないというのは、門の前で拒否されていた彼らにも当てはまることだったのだろう。

「ああ、まっとうな手段では許可はおりない。迷宮ギルド登録者以外はな」

なんだか色々気にはなるが、今は関係ないと詮索を諦める。壁の内側には面白い種や食材もあるとミネアが言っていたので、近いうちに必ず来ようと心に誓うリンだった。





商人を待つ間、リンとヴィクターはすることがない。ヴィクターは宿に籠ってクリフたちの武器や防具の調整を、リンは街を見て回り露店を冷やかしたりしていた。優秀な護衛がついているためリンとヴィクターはついていくだけ(意外にも王子は【剣術】【近接戦闘】【剣闘士】【格闘術】のスキルも持っているらしい。多才である。ぶっちゃけ肥満体型の彼がどれ程戦えるのかは謎だが)だ。

リンはともかくヴィクターは鍛冶以外の適正はなく、採掘スキルすら持っていない。戦闘能力など皆無といって良い。本来ならここで待つか王都で待つか出来れば良いのだが、王都では敵の手が及ぶ可能性があるし、この都市は戦う能力の無いものにはかなり危険な場所なので、クリフたちも連れて行くしか選択肢がなかったのだ。この時期にクリフが接触していたというだけで、リンの家も狙われる可能性もなくはないし。リンとしても、まさかチート能力があるから誰が来ても即返り討ち、とは(本当のことだけに)言えないので、黙ってついてきたのだった。

商人との商談も無事に終了し、二日目の早朝にダリーズ平原に向けて旅立つ。

クリフたちのパーティーは強かった。とはいえそこまで魔物が出るわけでもなく、特筆すべきイベントもなく、つまり何事もなくダリーズ平原に着いた。まだ昼にもなっていない。素材もあっさり見つかり、はっきりいって拍子抜けである。もちろんなにもないならそれにこしたことはない。もうあまり時間も残っていないのだし。

素材の加工が終わり次第昼食をとり(リン作成。料理スキルは伊達ではない!高級食材を食べつけている王子が真顔で王宮料理人にスカウトするほどだ)ニナヴェール山脈へ向かう。

ニナヴェール山脈へはまともに行けば歩きで二日は掛かる。しかも麓まででそれだ。そこから山頂近くに咲いているであろう黒雪草を探さねばならない。山頂まではさらに半日、魔物とのエンカウント率も異常なまでに高い(少なくともゲームではそうだった。敵もほどほどに強く、ゲーム中盤でのレベルあげといえば、ここかジェレイザス迷宮と決まっていた)山脈なので、実際もっとかかるだろう。そこまで時間がかけられるのだろうか、と思ったらリアーナが転移魔術を使うらしい。

「うふふふふ。意外と高位の魔術も使えるのよ?」

別に侮っていたわけではないが、転移スキルのなかでも「ワープ」での多人数、長距離移動はゲームならともかくこの世界ではそれこそ宮廷魔導師クラスだ。さすがA級冒険者というべきか。

「ワープ」での移動を二十回くらい繰り返しほんの二時間ほどで目的地にたどり着く。多少の休憩をいれたにせよ、中々の魔力と精神力だ

「あっというまに山の麓だ」

リアーナの魔力が尽きるとか、盗賊や暗殺者に襲われるとか、追われるお姫様を助けるとか、イベントは一切ない。あればあったで鬱陶しいが、ここまでなにもなく順調だと、それはそれでモヤモヤするというか、微妙というか。後が怖いと思うのは、リンが小心者だからだろうか。

「まだ日も高い。急いで山頂に向かおう」

素材の傷み具合から考えるに、今日中に黒雪草を見つけて加工、明日早朝にはヘランの実を見つけてその場で調合しなくては間に合わない。昼を過ぎるとググリクの花が使い物にならなくなる。帰還の日数を考えると再度素材調達は不可能である。そもそも商人から仕入れたのも一回調合出来る量しかないのだ。失敗は許されない。

王子が魔物避けの聖水を全員に振りかける。これは神殿で販売しているもので、かなりお高いが、そのぶん効果は絶大だ。こちらのレベルに関係なく、レベル百以下の魔物は近寄ってこない。ニナヴェール山脈ならボス個体以外はほぼ寄ってはこないだろう。

「なるべく時間短縮しないとね。それに…」

「それに?」

気になるから途中で言葉を切らないでほしい。最後まで言い切れ!

「王子?」

クリフたちも王子が何か言いたそうにしているのを見て、言ってほしい、と促す。レックスだけは何か思い当たることでもあるのか、わずかに眉を潜めている。

「これはまだ未確認情報なんだけど、最近ニナヴェール山脈頂上付近にはブラックドラゴンが住み着いたらしい」

その言葉に全員が王子を見る。ヴィクターなどはガクガク震えて、今にも失神しそうだ。それもそのはず。ブラックドラゴンといえば、竜種の中でもレッドドラゴンと並ぶ上位種であり、純粋な戦闘力だけでみればレッドドラゴンをはるかに凌ぐとさえいわれている。ブラックドラゴンは肉体派、レッドドラゴンは頭脳派なのだ。

「ここの主は確か原種ワイバーンだったか」

クリフの確認にレックスがうなずく。原種、とははるか古代より生きている個体で、原種ワイバーンは普通のワイバーンにくらべ十倍以上強い上、スキルも独特のモノを使ってくる。出会い頭に攻撃してくる、というわけではないので、見かけたらとにかく逃げるのが常識だ。原種とついている魔物は戦わずに逃げるのが正しい冒険者のあり方なのだ。

「いくら原種でもブラックドラゴンは別格ですからね。もしかしたら追い出されたのかもしれません」

「レックスの情報網には何かかからなかったのか?」

「残念ですが。ミネア、貴女が思うほどわたしの情報網は優秀ではありませんから」

悔しそうにいうレックスの情報網はけれど、情報ギルドにもひけをとらないほど優秀だと、パーティーの全員が知っている。そのレックスが掴めず、王子が知っているとなると。

「もちろんわざとわたしに流されたのかもしれない。ブラックドラゴンがいる場所になど、どんな事情があろうと踏み込むのは死ぬのと同じことだから」

いてもいなくても足止めになる。

「ブラックドラゴンはいるよ」

考え込む面々にそう言ったのはリンだった。

「なぜ分かる」

ウィドクライの疑問にリンは肩を竦めてあっさりこたえる。

「だって、あそこに見えるし」

リンの指差す方向を全員がゆっくりとみた。

雲一つない青い空に一点の漆黒の染み。それは見るまに大きくなっていく。

「ブラックドラゴン…」

震える声でささやくように呟いたのは誰だったのか。

彼らの目の前に降り立ったソレはまさに黒い死神。闇よりも黒い、光すら全て吸収してしまう漆黒の鱗に覆われた巨体。その大きさは頭から尾の先までで十メートル程だろうか。大きさはオルトと大して変わらないように見える。

黄金の瞳が一同を一瞥する。

その威容に飲まれ、リンを含め誰一人動けないままに竜の巨大な口がゆっくりと開く。





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