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異世界とチートな農園主 作者:浅野明

養蜂を始めよう

30/50

おうじサマ登場

結局その日は暴走寸前のリンを宥めて終わった。と言っても大事なことは既に話してあるので特別問題はない。

翌朝まだ夜があけきらぬうちに蚊トンボが葉喰い虫と毒素の処理が終わったとしらせて来たので、早速畑に転移し、ケサ芋(そろそろ飽きてきた)とオル芋とフィス豆にスィスィを植える。そのあと宿の部屋に帰って二度寝する。これが上手く育てば、もっと種類を増やして色々な野菜を作るのだ。

ぐっすり寝て頭もスッキリ冴えたリンが一階に下りると、昨日のメンバーに加え、見知らぬ男が一人。

「遅い!」

クリフと話していた見知らぬ男が、こちらを見ることもなくいきなり怒鳴る。遅くなったのは確かなのでそれはいいのだが、背中に目でもついているのだろうかと思ったが、どうやらリンに言ったわけではなくクリフに対して言ったようだ。しかしそもそもアレは誰だ。だいたい予想はつくものの一応聞いてみる。

「誰?」

「護衛対象の方だ」

近くにいたミネアの返答にやはりと思いつつも落胆を避けられない。そうとも。いくら裏切られようともそれでもリンは期待していたのだ。だっておうじサマなんだよ?!普通に考えてこう、キラキラした感じの?なんというか白い服とレースが似合いそうなというか。隣国のリオール皇子とてファンタジーに普通に出てきそうな容姿だったのだ。第一王子とか、命を狙われているとか王道ファンタジーにありがち設定だよね!となればキラキラ王子を期待するよね!

リンは改めてこっちを見たおうじサマをこっそり観察する。

金の髪に蒼い瞳。雪のように白い肌。そこまではいい。だがしかし、少し、と言うより明らかに肥満としか言い様のない体型。ぶっちゃけ樽である。ニキビだらけの顔にタラコのような唇。肉に半分埋もれたような小さい目が二つ。やたらに長い睫毛が腹立たしい。ハムのような腕は今にも服を破ってしまいそうだが、どう見ても蓄えられているのは筋肉ではなく脂肪であろう。服装はちょっと裕福な商人の子弟といった具合。フェリクスと似たような服装なのに、おそらく二人並んだら王子は引き立て役にしかならないだろう。仕草がやたら上品なだけに微妙に笑いを誘うというか。

「ハジメマシテ」

何気に期待していたぶん落胆してしまうのも仕方あるまい。あとで聞いたところによると、太っているのは幼い頃かかった病気の後遺症であり、統治者としての能力は兄弟の中(この国の王子は三人いる。他の二人はまさにファンタジー仕様のキラキラ王子らしいのだが)でもっとも優れているらしい。既に父王を補佐して様々な画期的改革を行っているとか。あと、意外にも超美人でラブラブなお妃サマがいるようだ。一体この王子のどこが良かったのかゼヒ聞いてみたいものだ。

「…子供?まあいい。よろしく頼む。私のことはストルとでも呼んでくれ」

リンが席に着くと、一寸不思議そうな顔をしたものの直ぐに真面目な顔になってそう言った。リンのことは待っている間にクリフたちに聞いたようだ。リンもまた王子は性格は真面目であるがそこそこ融通もきき、下の者にもそれなりに気さくに話しかけると聞いていたが、どうやら間違った情報ではなかったようだ。人柄よく統治者としても優れている。これで容姿さえまともならと思わずにはいられない。ヒトとは何かしら欠点があるものだという良い例(?)であろう。

「リンです。よろしくです」

「敬語はなしにしてくれ」

「…わかった」

舞踏会までは皆とここに泊まるらしい。護衛は密かにつけているようだ。見えるところにはいないが、そこかしこから気配は感じる。とはいえ、かなり上手く気配を殺しているので、リンとクリフのパーティー以外に気づいた者はいないだろう。

王子にいきなりタメ口もどうかと思ったが、本人がいいといっているのだから普通に話すことにする。その方がリンとしても楽なので。皆リンを待っていたとのことで食事をしながら(実はおうじサマもまだだった)今後の打ち合わせをすることにした。





まずしなければならないことは、素材の採取である。その前にそもそもなぜ何の素材が必要なのか、ということなのだが。

「この国が神との契約により守られていることは知っているか」

意外にも王子本人が話してくれるらしい。穏やかでゆっくりとした話し方で聞き取りやすい。

「神はこの国を守る代償として王城の地下であるものを封じつつけることを我々に課した。その封印の要は『神酒』。幻想級のアイテムだ。調合素材と方法は我が国の王族直系の者にのみ伝えられる。何故なら『神酒』は五年に一度新しい物に取り替えねばならぬからだ」

幻想級アイテムだけあって、素材は集めるのにかなりの実力者が必要であり、また調合にも適性が必要で、王族の直系といえど、造れる者は少ない。だが王位を継ぐためには『神酒』を造れねば話にならない。それが王位継承のほぼ唯一にして絶対の条件なのだから。だからこそ、王子は一定の年齢になると『神酒』を造る能力があることを示さなくてはならないのだ。第一王子である彼は一週間後には十八歳になるその日『神酒』披露のための舞踏会が開かれる。

王子の中で調合の適性があるのは、正妃の息子である彼と側室の息子である三番目の王子のみ。適性がなければならないとはいえ、そこまで適性持ちが現れないというわけではないし、皇国のように王子の命が危険というものでもない。それに大抵適性があれば直系の者であれば『神酒』は調合出来る。余程出来が悪ければ別だが。

キレイン公爵は第三王子の祖父にあたる。第三王子は調合の腕はかなりのものだが祖父の言いなりだというし、第二王子は調合の適性がないため王位を継ぐのは不可能。公爵としては第一王子を亡き者にすれば第三王子を国王にし、すべての実権を握れる気なのだろう。そのために邪魔になりそうな者は喚びだした魔王に処分させる気に違いない。今は国の最大戦力である勇者が第一王女とともに他国に赴いているので千載一遇の機会だとでも思ったのだ。

「愚かなことであるがな」

魔王の力をヒトごときが制御など出来るはずもない。一度封印をといてしまえば、倒すことはおろか、再封印すら困難を極めるであろう。そう吐き捨てる王子の顔は苦渋に満ちていた。

「質問です」

「なにかな」

「別に王子サマが自分で調合しなくても腕の良い調薬師を雇って調合させればいいのでは?」

「もちろん歴代の中にはそう考えた王子もいたがね。残念なことに『神酒』を調合出来るのは初代国王の血を継ぐものだけだったのだよ。他の者が調合しても、似て非なるモノしか出来なかったようだ」

それが神との契約ということなのだろう。必要なのは初代の血を引くものと『神酒』で、どちらが欠けても駄目なのだ。

「事情はわかった。それで素材はどこにあるの」

「ニナヴェール山脈にある黒雪草、ダリーズ平原に咲くググリクの花、メシナ洞窟最奥に実るヘランの実、メシナ洞窟のどこかにあるドゥーラ移動湖の水、ワイバーンの牙、神速鹿の目玉だな」

ニナヴェール山脈はここから普通の乗り合い馬車で十日の距離にある。迷宮都市ナセルの近くである。ダリーズ平原もナセル街のすぐ近くだ。というより、迷宮都市ナセルを南下したところにダリーズ平原があり、さらに南に行くとニナヴェール山脈がある。また、ニナヴェール山脈の中腹にメシナ洞窟があり、山脈にはワイバーンも棲息している。神速鹿はダリーズ平原の西に広がるバディア森林に棲息している。

「つまり迷宮都市ナセルに行けばほぼ全て採取出来るってこと?」

「そうだ。だが手に入れるには強力な魔物たちが沢山いる場所を通らねばなければならない」

「何で直接王子が行くの?買ったりとか人に頼んだらダメなの?」

「もちろん構わないさ。実際私も移動湖の水とワイバーンの牙、神速鹿の目玉は既に知り合いの商人に話をつけてあるしね」

「?全部買えば…あ!」

そう言えば、とゲーム時代、リンもクエストで『神酒奉納』というモノを受けたことがあるのを思いだした。材料は王子が言ったものと少々違うが(あの時はリヴァイアサンの鱗とか魔人の紅血玉とか使った)黒雪草とググリクの花、ヘランの実は使った。そしてこの三つは調合するものが取りに行かなくてはならない『特殊調合素材』と呼ばれるものだった。

『特殊調合素材』とは、採取したその時に適切な処理を施さねばならない上、アイテムボックスに収納できず、なおかつ異常とも言える速度で腐ってしまう素材のことだ。基本的に最上級の調合素材に多く、採取したその場で調合するより仕方がない薬師泣かせの素材であった。そんな厄介な素材なので、当然市販などされているはずもない。あまりにもひどいと苦情が殺到し、確か次のアップデートで修正されると告知されていた気がする。クエストを受けたのはかなり前だったのでスッカリ忘れていた。

どうやらこの世界でも『特殊調合素材』は健在らしい。

「買えない理由を君は知っていそうだな」

「思いだした」

「ならば話は早い」

王子はリンが知っている理由を聞こうとはしなかった。王子の持っているスキル(何かまでは教えてくれなかった)により、リンには余計なことは一切聞かない方が良いと出たらしい。

「その三つは何としても私自身で採取に赴かなくてはならない。そのために護衛として君たちを雇ったのだから」

キレイン公爵のなかば押し付けたような護衛だったが、相手がパーティー『はみ出し者』で助かったと苦笑する。彼らはかなり前にも王子を助けたことがあり、それが縁でちょくちょく依頼も受けていた。信頼関係はバッチリ構築されているのだ。でなければ一介の冒険者から唐突に国の重鎮である公爵が魔王の復活を企んでいるとか言われても、まともに取り合うはずもない。

「もう一個」

「なんだい」

「一週間じゃ迷宮都市のにすらたどり着かない。そもそももっと早く準備しとけば良かったんじゃ?」

「仕方がない。君たちには迷惑かけるが、これ以上時間がとれなかったのだ。キレイン公爵の妨害もあったしね。まあ、せいぜい仕事量を増やされるってだけだったけど。あと、迷宮都市ナセルへは転移搭が使えるから」

行き帰りは一瞬で出来る。王子の言葉にリンは頷く。対策がとれているなら問題ないのだ。

その後彼らは長いこと話し合いを続けた。他の客がその異様な雰囲気に当てられて一人残らず店に入る前に踵を返して去っていく。宿としては非常に迷惑な客であった。



こうして復讐の計画は着々と進められていくのだった。











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