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異世界とチートな農園主 作者:浅野明

養蜂を始めよう

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闘う理由

お昼になったので、お昼ご飯にすることになった。

相変わらずこの世界のご飯は美味しいとほくほく顔の(見た目無表情だが)リンです。この世界は食に関するこだわりがハンパないと思う。こだわりがあるからこそナヴィア蜂の養蜂などしようと思うのだろう。はっきりいってナヴィア蜂の養蜂は成功するまでに心が砕けそうな難易度であるからして。

「お嬢~お嬢~中間報告やで~」

和やかな昼食時に飛び込んできたハエ…もとい蚊トンボをリンは素早く取り出したお手製ハエ叩き(改)ではたき落とそうとするも避けられた。

「ちっ、避けるなよ」

「イヤイヤお嬢、それこないだ改造してましたやん!威力倍増してんの知ってますで。そんなん当たったら死んでまいますわ!」

身体能力を駆使して辛うじて避けた蚊トンボが猛抗議するもあっさり無視され、涙にくれる。

「あっしの扱い、だんだんひどくなってますやん」

「気のせい。で、何で蚊トンボ?」

リンは報告はメルに来るように言っていたのだ。当然だろう。畑には今オル芋と、ウィス豆とスィスィという野菜を植えてある。ウィス豆は絹さやに似た豆で、食べるときはさやが柔らかいうちに取ってオル芋と一緒に甘辛く煮て食べるのが一般的な豆。スィスィは見た目はほうれん草みたいな野菜で、そのままでは苦くて食べられない。一度塩水で茹でると苦味が取れる。味は苦味を取ったら玉ねぎのような味がする。スープに入れたり、炒めて肉と一緒に食べるのが普通だ。どれもあと一月半から二月で収穫出来る。非常に楽しみである。そんなわけで水やりやら肥料やら草むしりやら細かく指示して、一日二回、畑の様子を報告するように言っておいたが、二回である。見るならおっさんな蚊より、可愛い妖精の方がいい。

「そやそや、ちいとお嬢に報告せないかんことがあって代わってもらったんや」

「メルに伝言しとけば良かったんじゃ」

「どんだけあっしが嫌?!ヒトに頼んだら正確に伝わらんやないの!それにメルにはあっちに残ってもらわなあかんかってん」

「で、何」

「またスルーされた?!」

蚊トンボが泣き真似してもまったくさっぱりココロに響かない。どうでもいいのでさっさと報告を済ませろと再びハエ叩き(改)で叩こうとするがまたも避けられる。日々回避スキルの上がっている気がする蚊トンボだ。ヴィクターやクリフたちがドン引きしているので、蚊トンボいじりもこの辺にしておこうとリンはハエ叩き(改)をアイテムボックスにしまう。

「まったくお嬢はオチャメさんやな~。ほんで畑の状況やけど、まあはっきり言うて全滅やな」

「…全滅?」

あまりにあっさり言われて一瞬聞き違いかとおもったが、全滅や、ともう一度今度は重々しく蚊トンボが言う。リンの顔色が一気に悪くなる。まわりが心配するほどの動揺ぶり。それはそうだろう。やっと順調に野菜が育ち始めていたのだ。よりにもよって全滅とはどう言うことなのか。ほんの二日前までは順調に大きくなっていたのに。

「まあ、今回植えたやつは諦めた方がええよ。葉喰い虫ぎょうさんでよったから」

「葉喰い虫?」

初めてきく単語である。おそらくその名の通り葉っぱを食べる虫なのだろうが、虫なら全部食べられてしまう前に駆除すればいいのではないだろうか。それに芋までダメになるとは。

『葉喰い虫だって?!』

蚊トンボが植えた野菜を全部諦めた方がいいという理由が分からない、と首を傾げていると、意外にもクリフたちが反応した。しかも皆顔色がすこぶる悪い。先程のリンの比ではない。

「お嬢は知らんだろうから教えたるわ」

上から目線の蚊トンボがいらっとくるが、ここは我慢よっと自分に言い聞かせるリン。そんなリンにしてやったりとどや顔をする蚊トンボが得意気に話しだす。

「ええか、お嬢。葉喰い虫っちゅうのは単なる虫やない」

「魔物の一種ですね。それもかなり厄介な」

蚊トンボの台詞に被さるようにレックスが言う。

「厄介って?」

なぜかうちひしがれている蚊トンボはまるっと無視して、レックスに問いかける。

「葉喰い虫は通常の魔物とは違い千単位の群れで行動するのですよ」

一体はほんの一センチもないような小さな魔物であるが、とにかく数が多い。それも多いときは五千以上の群れが確認されている。葉喰い虫が通ったあとは草一本残らないと言われている。実際三百年前に発生した時には広大な森二つ、それに三つの国にまたがって農村が十八消えたと記録にはある。その被害の大きさと退治の厄介さから特級災害指定魔として登録されているのだ。本当に葉喰い虫が発生したのなら、すべてのギルドに通達し、即刻駆除しなくてはならない。

「こんなにゆっくりしている場合ではありませんよ。群れはどれだけの大きさで発生はいつ頃ですか?一刻も早く情報ギルドに情報提供してすべてのギルドに情報を回してもらわなくては。下手するとこの国から緑が消え失せますよ」

葉喰い虫が発生するのは容易に考えられる事だったのに、と悔しげだ。その可能性を忘れていたのは自分達の落ち度だと。

「それは大丈夫や」

「何が…!」

「忘れたんか、クリフはん。お嬢の畑にはレッドドラゴンとあっしら妖精がおんねんで」

それがどうかしたのか、という一同の視線を受けて、蚊トンボはすでに結界を張ってあるとサムズアップする。

「ああいった結界はあっしよりメルの方が維持するのに向いとるんや。張るんはあっしの方が得意なんやけど。発生したのがお嬢の畑で良かったなあ」

蚊トンボの話を総合すると、どうやらリンの畑で突如葉喰い虫が発生(この魔物はどこからともなく突然現れる。それも千から五千匹と発生にも幅がある)した。始めに蚊トンボが異変に気付き(発生する直前に妖精や精霊にしか感知出来ない歪みがでる)メルとオルトに指示して畑を三重の結界で封鎖した。三枚目の結界が完成すると同時に結界内に葉喰い虫が発生した。結界は最高硬度を誇る特級魔法のひとつであり、葉喰い虫の抜け出す隙もない。いくら特級災害指定魔といえど、葉喰い虫自体はそう強い魔物ではないのだ。強力な結界に閉じ込めさえすれば何も出来はしない。

「よわいなら結界三枚も張る必要なくない?」

「葉喰い虫の本当の恐ろしさはな、ちょっとした結界やったら虫が纏う毒素によって溶かされてまうし、そうでなくても結界一つ、二つやったら毒素が結界をすり抜けて回りの植物を枯らしてまうねん。しかも葉喰い虫の毒が触れた場所は十年は草の一本もはえへんわ。あとな結界に閉じ込めた言うても、根絶にはコツがあってな、そう簡単にはいかんねん。今オルトとメルで何とかしとるし、明日の朝には根絶出来るやろうけど」

どっちにしても畑は毒素におかされているうえ、葉喰い虫に食い荒らされてすでに更地同然の状態とのことだ。それでも妖精たちと精霊、竜の力を借りて、何とか畑の毒素を消し、葉喰い虫さえ殲滅すればまたすぐに野菜が植えられると蚊トンボは言うが、何の慰めにもならない。リンの落ち込みぶりはすさまじかった。が、クリフたちにしてみればそのていどの被害は被害とも言えない。

通常は発生の時期や場所が特定出来ない上、その小ささと天馬でさえ追い付けないスピードで駆除が困難を極めているのであり、今回のように発生と同時に結界に閉じ込める事ができたというのが異常なのだ。同時に幸運であると言える。

「って言うか何でそんなんいきなり発生したのさ」

じっとりと蚊トンボを睨むと蚊トンボもさあ、と肩を竦める。

「どこぞの魔王でも復活するんとちゃう?」

「はあ?」

「葉喰い虫は別名魔王の遣いとも呼ばれる魔物です。どの魔王が復活するときでも必ず事前に葉喰い虫が発生しているからですが」

国を覆う古の神の結界であっても葉喰い虫だけは防げない。だからこそ今回も葉喰い虫には気を付けるべきだったと、せめて情報ギルドに言っておくべきだったとレックスが悔やむ。今回何事もなく収まるのは(リンには大打撃だが)単なる幸運に過ぎない。

「…ちょっと待って、と言うことは私の野菜が全滅したのはさっき言ってたヴィクター騙した貴族のせいってこと?」

話の見えない蚊トンボを除く全員が揃って首を縦に振るのを見て、リンは首謀者を地獄に叩き込むことを固く心に誓ったのであった。












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