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異世界とチートな農園主 作者:浅野明

養蜂を始めよう

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閉店のワケ

ドワーフの中でも珍しいという黄金の髪に黄金の髭(ドワーフには赤毛か茶色が多いらしい)。服の上からでも分かる鍛え抜かれた頑健な肉体。背丈は種族的特徴のため、壮年だというのにリンより少し高いくらいか。ドワーフ族は背丈こそ低いが、小説や漫画と違って意外に俊敏であり、戦士ともなると、ひとたび戦場に立てばその頑健な肉体とドワーフ族の造り出す最高級の武器によって一騎当千の強さを発揮するという。

しかし目の前のドワーフは見た目はアレだが、か細い声でおどおどと話す様はなんというか、上司の叱責に怯える新入社員のようというか、いじめっ子に怯えるいじめられっ子というか。相変わらず階段下のスペースに隠れて、時々顔を覗かせている。恥ずかしがりやにもほどがある!

「ところでなんでそんなサングラスしてるの?」

厳つい顔と相まってスゴく微妙だ。ヤーさんか山賊かってなものである。

「こここここ、これはひひひヒトの視線が」

あんたは鶏か。思わず突っ込みそうになったが、逃げられそうなので自重する。どうやらヒトの視線が苦手のようだ。恐いワケではなく、純粋に見られるのが恥ずかしいらしいが、そのサングラス、余計に目立って視線が倍増するのでは?

後日拝み倒してとってもらったサングラスの下には長い睫毛と大きくて愛らしいつぶらな瞳が隠されていました。美人さんとか可愛らしい女の子ならともかく持ち主はムサイおっさんである。どんだけムダなんだ!

「それで表の貼り紙はなんだ?一昨日来たときは何も言って無かっただろ」

クリフの問にヴィクターが涙声になる。

「そ、それが」

吃りまくるヴィクターの話しを要約すると、どうやら騙されたらしい。

一昨日の朝、ちょうどクリフと入れ替わるようにエルフの青年とドワーフの青年が店に来た。せっかくの新規のお客さんであるのに、当然のごとく恥ずかしいので呼ばれても出ていくことが出来ず、カウンターの奥からこっそり様子をうかがうのが精一杯だった。新規のお客さんでも、十分ほど待っててくれれば少し慣れて、声を掛けることくらいは出来るようになるのだが、生憎今まで新規に店にきて、十分も返事がまったくないのに店内にとどまってくれる奇特な人物はいなかった。とにかく、今回のお客さんも返事がないのですぐに出ていくかとおもいきや、店内を見回り始めた。店にはヴィクターが造った最高級の武器がところ狭しと並べられている。無造作に置いてあるようにみえても、盗難防止ようの魔法がかけてあるため、例えヴィクターが顔を出すことが出来なくてもそう簡単に盗まれはしない。

二人の客は、一通り店内をみてまわると、今度は気に入った武器や防具をじっくり見る。その間に多少慣れてきたヴィクターが意を決して声を掛ける。しばらくして、中々顔を出すことは出来ないものの、なんとか会話は出来るようになった二人の客とヴィクター。

二人の話によると、実はこの店はかなり有名だというのだ。最高級の武器防具を造る店として。そう言われれば、嬉しくないワケがない。ドワーフ族はおだてに弱い者が多いのである。

「冒険者ギルドや傭兵ギルド、迷宮ギルドは常に強い武器や防具を求めています」

二人は言葉巧みに店の商品を褒め、ヴィクターをこれでもかと持ち上げる。そして冒険者たちの間で有名なこの店の噂が騎士団にも届いたのだと。

「ものは相談なのですが」

騎士団の団長が、最近この店の噂を耳にして、どうしても剣を一振り造って欲しいと。もちろんヴィクターに否やはない。なぜ青年が言いづらそうにしているのかまったく分からなかった。だが、次の青年の言葉で彼が言いづらそうにしていた理由が判明した。

「団長はオリハルコン製の剣が欲しいと」

鍛冶屋の支払は当然納品時である。余程のことがないと前払いなどしない。したがって、材料の仕入れもひとまず店側の出費である。が、ヴィクターの店は常に閑古鳥がないている。オリハルコンの材料などという高価な物品を仕入れるほどのお金はない。はっきり言って月々の家賃さえ滞っている有り様なのだ。恥ずかしくて小さな声になってしまったが、それでも言っておかねばならない。とても依頼を引き受けられる経済状態ではないのだ。店にある完成品を買ってもらうか、ストックしてある材料だけで造れる依頼しか受けられない。

するとドワーフの青年が、自分は金貸しもしている。良ければ仕入のお金は自分が貸そう、と。

「担保はお店にある武器防具で良いですよ。もちろん武器ができさえすれば団長は通常よりも二割ほど高く買い取る予定だと聞いておりますし、出来によっては更に割増しても良いとおっしゃっているとか」

ヴィクターはこの話に飛び付いた。相談できる知り合いは今近くにはいないし、家賃どころか明日の食費もままならなくなっているのだ。飛び付かないワケがない。それにエルフの青年は騎士団の紋章を、ドワーフの青年は王室御用達商人の証明書をそれぞれ所持していたため、騙されるなど夢にも思わない。どちらも偽造出来るような代物ではないからだ。

早速契約が交わされ(書類はエルフの青年がバッチリ用意していた)ヴィクターはドワーフの青年から大金を借りることとなった。ただし、そのお金はオリハルコン購入のために使うということで、ドワーフの青年が近日中にオリハルコンを仕入れて持ってくるといった。なので、現金は銅貨一枚ヴィクターの手には渡っていない。それでも、契約書にバッチリ住所も名前も店名も記載されているし、紙は神殿が売っている契約用のモノ(特殊魔法がかかっていて嘘偽りは記載出来ない)だった。それもあって疑うこともなくあっさり契約したのである。

ともあれ、契約は完了した。そして二日後、借金取りだというやからが大勢でやって来て、店にあっためぼしい商品もわずかにあったインゴットや鉱石も洗いざらい持っていったのである。それが今朝の事だ。

「なにそれ、契約した二日後ってあり得なくない?」

「そそそそうなんだ。けけけ契約の日付がかかかかか改竄されてたんだ」

声が震えている。よっぽど悔しかったらしく階段下のスペースから出てきて小さく拳を握りしめている。感情が高ぶったり、慣れないヒト相手だとどもってしまうらしい。

「ふん、なるほどな」

「クリフは騙した奴らの心当たりあるの?」

「ああ、まああくまで予想だがな」

肩を竦めて頷くと、ヴィクターにこれからどうするのかを聞く。

何もかも奪われてしまったので田舎に帰るしかないとほろほろと泣き出すヴィクター。厳つい顔にがっしりした体躯のグラサンかけたおっさんがしくしくめそめそ泣いている。破壊力抜群である。リンの中で何かが崩れたような気がする。主に異世界に対する期待とか、ファンタジーに対する幻想とか?

「ん?」

そこでようやくリンは重要な事に気がついた。

「あのさ、ここってヴィクターの持ち家・・・・じゃないよね?」

先程会話の中に家賃がどうとか出てきた気がする。

リンが何を聞きたいのかよくわからないながらもヴィクターが頷く。

「工房とか、住居も賃貸?」

「う、うん」

王都は地価が高いのでヴィクターの稼ぎではとても買えない(まともに仕事できればともかく、恥ずかしがりやが高じてろくに接客も出来ないせいだが)のだ。この店や工房兼住居は知り合いが格安で貸してくれたのである。

「いつまでここにいられるの?」

「あ、明日まで?」

早くね?と思ったリンだったが、よく聞くと今回の詐欺とは別らしい。いくら知り合いとはいえ、他の半分以下の家賃で貸してもらっているというのに、すでに五ヶ月も家賃を滞納している。そんなヴィクターに対して一週間以上前から期日迄に一月分でも家賃を入れられなければ出ていってほしいと言われてしまったのだ。それでも半年近く待って、なおかつ一月分でも払えれば継続して住んでも良いと言ってもらっていたのだ。知り合いとはいえ随分優遇してもらった。だがしかし、期日は今日であるのに、ヴィクターは洗いざらい借金取りだと名乗る男たちに何もかも奪われて、家賃どころか今日の食費田舎に帰るための旅費も残っていない。これからどうしようかと途方に暮れて階段下にうずくまっていたところにクリフたちが来たのだという。

つまりリンの依頼は受けられないだろう。明らかにそれどころではない。しかし放っておくのも何やら見殺しにするようで気持ち悪い。そう、今ここでリンとクリフが見捨てたら、野垂れ死に決定だろう。ヴィクターが言うにはクリフ以外の常連は今王都にはいないし、しばらく誰も帰ってこないらしいので。他に助けてくれそうなヒトはいないし。

さすがに家を貸してくれた知り合いには、これ以上は悪くて頼み事は出来ない。恥ずかしがりやレベルMAXの彼では知らないヒトに声を掛けるのはほぼ不可能であるし、にっちもさっちもいかないとはまさにこのこと。

「取り戻したいか?」

あまりにあっさりした口調で言われたのでウッカリ聞きのがすところだった。

「ももももちろん。」

取り戻せるなら取り戻したいに決まっている。ヴィクターが頷くと、クリフは少し考えて鉱石種はあるかと聞いた。

「鉱石種?あるけどどうするの?」

ヴィクターの問いをスルーしてクリフはリンを見る。

「リン、ヴィクターを騙した奴らを探して仕置きするのを手伝ってくれないか。報酬は鉱石種で。問題が片付いたら蜂の巣も造ってもらえるだろう」

ちらっとクリフがヴィクターを見るとヴィクターが急いで頷く。

「う、うん鉱石種は趣味で集めてたから沢山種類あるよ。でもあんなのどうするの?」

コレクションしているのかと不思議そうに聞かれたが、答えようがない。そもそも鉱石種とやらをリンは知らないのである。でもクリフが怒っていることはわかった。ヴィクターが騙されたせいだけではないような気がする。熊のような顔には笑顔が浮かんでいるが、いつもの優しげな雰囲気は消え去り、室内の温度が二、三度下がったような気がする。抑えていても怒りオーラが全身から漏れてますから!

「えっと、でもクリフ明後日から別の仕事でしょ?大丈夫なの」

リンはオルトと妖精と蚊トンボに畑の管理を任せれば一、二週間はなんとでもなるし、手伝うのはやぶさかではないが、肝心のクリフは確か次の仕事があると言っていたはずだ。しかしクリフはあっさり頷いた。

「問題ない。リン、ヴィクター、金は俺が出すから今日は王都にある宿に泊まってくれ。というより一週間は泊まりになると思ってくれ」

クリフの言葉に二人は逆らうことなく頷いたのだった。

これが後に歴史上「悲劇と喜劇の舞踏会」と呼ばれる事になる王室主宰の舞踏会の誰も知らない始まりであった。













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