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恥ずかしがりやのドワーフ登場
昼食を食べ終わると(お昼は当然自家製ケサ芋料理が中心だ!)講義を再開かとおもいきや、外に行くから準備をするようにという。
まず、蜂を見にいくらしい。
「蜂を見て、花を見てそれでも養蜂をしたいとなればヴィクターのところに行こう」
ドワーフの鍛冶屋はヴィクターというらしい。
「蜂を見るのって今日中に行って帰れるの?」
「問題ない」
「もう一個質問があるんだけど」
「なんだ?」
「ナヴィリア花ってこの近くにある?」
「ないな」
首を振り、ここは土地も広いので作ればいいという。種の採取さえできれば普通の魔化植物を作るのと労力は変わらないそう。ただし自分で育てても当然野生のものと危険度が変わるわけではない。それも踏まえた上で本当にナヴィア蜂の養蜂をするかどうかを考えると良いとクリフがリンに言い聞かせる。妥協も大事だと言いたいらしいが、あいにくリンはナヴィア蜂の養蜂を諦める気は毛頭ない。最高級のモノを知ってしまえばランクを落とす事など出来るわけがない。リンも状態異常を無効出来るしいざとなれば妖精もいる。最悪オルトもいるのでなんとかなるだろう。
蜂の巣は一番近いところでも馬で四日はかかる。しかしクリフも今日しか時間がとれないので転移することになった。転移石はかなり高額だが、スポンサーのフェリクスが金に糸目はつけない!と言ったらしく、移動時間その他を考慮して転移石を購入してきたという。
というわけで、蜂と花を見に行くことになった。さくさく、特に何もすることなく花の群生地へと到着した。所詮蜂と花。ゲームで培ったチートな能力があればなんとでもなるさ、と自分の力を過信していた時期がリンにもありました。
そう、所詮蜂と花。されど蜂と花。
「いやいやいや、ナニコレ」
死んだような目をして呟くリンの肩をクリフが慰めるようにぽんぽんとたたく。
話に聞くのと見るのとでは大違いである。
誰が想像出来るだろう。リンと同じくらいの大きさの蜂が百匹単位で辺りを飛び回る悪夢のようなこの光景を。しかも花はクリフの倍くらいの背丈があるのだ。蜂は花の触手による攻撃を華麗に避け、逆に口からストローのようなものをだし、花の蜜を吸いとっている。蜜を吸う間も花は触手で蜂を攻撃し、蜂は先程のように華麗に避けることは出来ないが、異常に長い六本の足で触手の攻撃を防ぎ続けている。しかし中には撃墜されている蜂もいる。花の蜜を集めるのも命懸けのよう。
そこまでしてナヴィリア花の蜜を集めなくても他の花の蜜にすればいいのに、とリンは思うのだが、クリフによるとナヴィリア花の蜜だけに含まれるフィフィナと呼ばれる成分がナヴィア蜂が生きるために必要だとか。ちなみにそのフィフィナのお陰で、他にはない味のハチミツになる。
どうでもいいけど、蜂は大きいわりにはかなり素早い。敏捷度は普通の蜂と同じくらいありそうだ。あまり戦いたい相手ではない。
「リン」
「何?」
蜂とどう戦えば勝てるか考えていると、クリフが少し花の群生地の向こう側にある、巨大な岩を指差す。どれぐらい巨大かというと、サッカーグラウンドが四つは楽々入りそうと言えば、大きさを想像出来るだろうか。仄かに光を帯びている。ただの岩というわけではなさそうだが。
「あの岩がどうしたの?」
そんな巨大岩を見せて何が言いたいのか。リンは蜂との戦いのシミュレーションに忙しいのだが。もともと戦闘職ではないので、戦闘は苦手なのだ。
「あれが巣だ」
「・・・・もう一回言って。何て言った?」
空耳だろうか。なんだか今あり得ない言葉が。
「あれがナヴィア蜂の巣だと言ったんだ」
空耳ではなかった模様。巣ですと?
「あれって岩だよね?」
「岩は岩でもミスリル銀を大量に含んでいる」
あの仄かな輝きはミスリル銀とナヴィア蜂蜜が反応しているためだと言われている。ナヴィア蜂が巣を作るにはミスリル銀が不可欠なのだ。ちなみに蜂退治してミスリル銀を採掘しないのかといえば、しない。理由は明白で、コストがかかりすぎるためだ。
「百匹以上の蜂退治してミスリル銀掘り出す人手が必要になるからな。しかもここなんかは鉱脈というわけではなく、岩が無くなったらそれで終わりだ。恐らく出費の方が多すぎる」
むしろ赤字だろうという。言われてみれば確かにそうだ。大きな鉱脈であれば別だろうが。
「あの巣を畑に設置するわけ?」
「もちろんだ。巣がないと養蜂なんて出来ないだろう。もっとも設置するのはもう少し小ぶりになるな。どれぐらい縮小出来るかも鍛冶屋の腕のみせどころだ」
妙に詳しい、と思ったらどうやら事前にドワーフの鍛冶屋に聞いてきていたらしい。わりとマメで気のいい熊・・・・もとい男だ。
しかしながらここにきて、道具屋でなく鍛冶屋に依頼する理由がようやく分かったリンだった。
蜂と花の実物を見ても、どうしてもナヴィア蜂の養蜂をすると言い張るリンを連れて王都のはずれにある鍛冶屋に来たクリフであるが、リンと二人仲良く呆然と目の前の扉を見ていた。いや、問題は扉ではなく、そこに貼られている紙だ。
『一身上の都合により閉店致します。ご愛顧ありがとうございました。』
「先生、閉店してますヨ」
「おかしいな、一昨日は普通に開いてたぞ?」
首を傾げるクリフであるが、どう見ても閉まっている。鍵もかかっていて開かない。呼び鈴を押して待ってみても誰も出てこない。
「どうしよう」
他の店にいくべきか、店主を探してみるべきか。この場合他の店にいく、が正しい選択だとリンは思うのだが、クリフは違うらしい。
「工房の方に回ってみるぞ」
二人は店の横にある細い路地を通って、店の裏手にある工房に向かう。
工房の出入口は鍵がかかっていなかった。クリフは躊躇なく扉を開ける。
「ヴィクター、いないのか」
声を張り上げ店主を呼ぶ。あまりの声の大きさに、リンはとっさにしゃがんで耳をふさいだ。普通の声で呼べば良いのに。ただでさえ地声が大きいのだから。
・・・・・・・・・・
クリフが声を張り上げてからゆうに十分はたっただろうか。
「な、なんだい?金目のモノはもうないよ」
か細い、少年のような声がようやく聞こえてきた。綺麗な耳に心地よいテノール、優しげな口調。リンが美形の少年を期待したのも当然といえよう。そもそもこの世界の美形遭遇率は異様に高い。引きこもりとはいえリンとて一般女子。美形は大好きです。期待は高まるばかりだ。
ファンタジーの王道を裏切り続けたこの世界、なめてました。
「クリフだ。出てきてくれ、ヴィクター」
クリフの声に反応しておずおずと階段下から顔を出したのは、見事な黄金の髪に、美しく立派な黄金の髭のドワーフだった。ちなみにおっさんである。まごうかたなきおっさんである。ある意味王道といえるだろう。ファンタジーのドワーフって大抵おっさんだよね!美形ってあんまりいないよね!しかも黒いサングラスをしており、頬には謎の古傷が!一見どこのヤーさんだ、と言いたいくらいに柄が悪い。
「リン紹介しよう。鍛冶屋のヴィクターだ」
「は、始めまして。ビビビ、ヴィクターです」
おどおどと腰の引けた自己紹介をしてまた階段下のスペースに隠れてしまう。外見とのギャップがものすごい。
後に鍛冶の王として世界中に名を轟かすことになるドワーフ、ヴィクター・リオハとリンはこうして出会ったのだった。

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