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異世界とチートな農園主 作者:浅野明

まともな野菜を作ろう

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美味しいお芋の食べ方

「ふ、ふふふふふ」

無表情ながら、口からは妖しい笑い声が漏れている。

「お、お嬢?気でも触れたんか?」

「どうしたの、リン。壊れた?」

蚊トンボとメルが妖しい気配を醸し出し、不気味な笑い声を漏らしているリンの周囲を飛び回りながら、医者だ、薬師だと騒いでいたが、リンは我関せずと手元の物体を一心に見つめていた。

「とにかく医者や医者!」

「でもわたしたち人の医者は伝がないわ」

「そや、フェリクスに相談・・・・」

「僕がどうしたって?」

突然現れたフェリクスに妖精たちが目を白黒させる。

「おどかすなや!」

「いや、脅かしたつもりはないけどね。で、どうしたの?医者がどうとか聞こえたけど」

「そうや、お嬢が病気なんや」

「病気?!」

素早く立ち直った蚊トンボの混乱した言葉にフェリクスが顔を青くさせる。

「リン!どこが悪いんだ?!」

パニックになってがくがくと肩を揺さぶるフェリクスをしばき倒したリンが、地面に倒れたフェリクスを見て首を傾げる。

「あれ?フェリクスいつきたの?」

「リン、攻撃する前に気づいてくれるかい?」

地面とキスするはめになったフェリクスが半分涙目でリンに訴えるが、リンの妖しい笑顔を見て全力で跳ね起き、後退する。

「いや、病気って聞いたけど全然元気そうだよね!じゃあ僕は仕事があるからこれで!」

早口にまくし立て逃亡を図るも失敗。あっさりリンに捕まった。

「ちょっと待って。病気って?」

疑問に思って聞いたが、直ぐにバカな勘違いの原因に思い至るリン。ちらりと妖精たちを見ると、二人共に逃亡をしようとしていた。もちろん逃亡をやすやすと許すリンではない。素早くアイテムボックスからお手製ハエたたきを取り出すと、蚊トンボとメルをはたき落とす。

ドカンと実に良い音がして服や髪が焦げた蚊トンボとメルがぼとっと地面に墜落した。

「なんか今バクハツした・・・・?」

「フム、中々良い仕事した」

全力で引くフェリクスを尻目にリンはさわやかなかつ全開の笑顔である。やり遂げた感満載です。

「いっとくけど病気じゃないから」

「うん、どう見ても健康だよネ。で、なんか良いことでもあったのかい?」

聞きたいような聞きたくないような。しかしこのままでは話が進まないため、仕方なく聞いてみる。リンが無表情に戻ってコクコクうなずいた。リンに表情が(主に笑顔が)あるときは要注意と、今更ながらに悟ったフェリクス。無表情の彼女を見てほっと一息ついた。笑顔が見たくない子供などリンくらいのものだろう。

「あった。これ、見て」

フェリクスに手渡されたのは、先程リンが持っていたもの。それはどう見ても芋だった。

「これ、ケサ芋だよね」

「そう」

触ってもバクハツしないし不気味な笑い声もしない。表面に人の顔が浮いてもいない。空を飛ぶわけでも足が生えて歩くわけでもない。特別大きくもなく小さくもない。そこら辺の食料品店で売っているごくごく普通のケサ芋である。

「ただのケサ芋だよね?」

ためつすがめつ、様々な角度からじっくり見ても、変わったところなど見当たらない。再度確かめるとリンもただのケサ芋だと言う。

「これがどうしたのさ」

「聞いて驚け!このケサ芋は今朝この畑で採れたモノなのです!」

ドヤ顔でサムズアップするリン。フェリクスはリンとケサ芋を見比べ、ようやくリンの言いたいことを理解した。

「え、えええ?この畑でまともな野菜が?!」

屈折二年半。とうとう食べられる野菜が採れたのだ。快挙といわずしてどうする。メイスンの地獄のような仕事の割り当てと勉強会、精霊の力を上手く借りるためのオルトによる特訓の成果がとうとう出たのである。

「まだ一杯あるよ!どうやって食べるのが一番美味しいかな?」

せっかくなので一番美味しい調理法で食べたいというのが、人情だろう。何せ一ヶ月で作れるはずのまともなケサ芋を作るのに二年半である。農業の素人でも本に書いてある通りにすれば誰でも簡単に作れるのが売り(?)のケサ芋に二年半!とうとうまっとうなブツが出来たのだ。この感動!もっとも美味しい調理法で食べなくてはケサ芋に失礼というものだ。

「うーん、ケサ芋の一番美味しい調理法か。やっぱりナヴィア蜂の密がけが良いんじゃないかな?」

「ナヴィア蜂の密?」

フェリクスによると、最高級のハチミツらしい。ハチミツというが、まろやかかつ上品でさっぱりとした甘味は普通のハチミツとは一味も二味も違う。そのぶん養蜂が非常に難しい蜂で(蜂と言うが、実際は魔物の一種。巨大かつ凶暴らしい)市場の流通量はごくごく僅か。だが、その味は一度味わえば他のハチミツなどとても食べられるものじゃない。そのナヴィア蜂の密とケサ芋は最高の組み合わせだと言う。

「調理法はシンプルだ。ケサ芋を少し大きめにスライスして両面を強火で炙り少し焦げ目を作る。そのあとじっくり蒸して柔らかくなったら出来上がりだ。最後にナヴィア蜂密をケサ芋の皮を刻んだものと一緒に煮詰めてかけるだけ。簡単だろ?」

蜂密はナヴィア蜂密でなくても良いらしいが、味はまったく別の料理かと思うほど違う。

「そんなに?」

「それだけ特別な蜂密だからね」

たまたま先日手に入れたナヴィア蜂密があるので、少し分けてあげるとリンに言えば、さすがに希少な蜂密なので悪いと遠慮する。いつになく殊勝なリンにフェリクスは笑ってお祝いだといった。

「お祝い・・・・」

「そう。ようやく野菜の栽培に成功したお祝い」

「ありがとう」

変わらぬ無表情でそれでも嬉しそうだ。妙に迫力がある威圧感溢れる笑顔や満面の笑みなのに足元に死屍累々何てのより、無表情の方が良い。無表情なのに声音からは嬉しいという彼女の感情が伝わってくる。

フェリクスが何やら悟りを開いたその日、リンは数少ない知り合い全員に手紙を出し、数日後パーティを開く事にした。








三日後、リンはオルトと蚊トンボとメル使って敷地内にパーティ会場を用意した。パーティの飾りつけはバッチリである。

メインはもちろんケサ芋だ。他の野菜も肉も魚もケサ芋の引き立て役にすぎない。今だかつてないケサ芋パーティなのだ。

大量のケサ芋の料理がすべてのテーブルにこれでもか、とばかりに並べられ、中央の大きなテーブルにはケサ芋の密がけが堂々と鎮座している。とはいえ、ナヴィア蜂密は少なかったので、中央の皿一枚分だけがナヴィア蜂密がけで、他の密がけは、フリッカハチミツを使用している。フリッカハチミツもかなりよいハチミツなのだが、やはりナヴィア蜂密にはかなわない。リンは両方味見をしたが、まったく味が違うのだ。ケサ芋の美味しさを引き立てるにはナヴィア蜂密が最高だと一口で理解出来た。

今日の料理はケサ芋料理以外ははっきり言ってお情け程度にしか置かれていない。ケサ芋料理は蒸し芋から始まり、いためたもの、煮たもの、他の野菜との煮込みに揚げ芋。とにかくリンが思い付く限りの料理を作って並べてみた。転移者が沢山いるというだけあってこの世界には多種多様な料理法がすでに存在していた。

「どうしよう、美味しすぎる」

ケサ芋のナヴィア蜂密がけは、まさかの5つ星のお味。上品でほんのり甘いソースにねっとりとした食感の甘味と酸味の絶妙なバランスのケサ芋が絡みあいえもいわれぬ美味しさに。他の料理など比べ物にならない。某スナック菓子のごとくやめられない止まらない美味しさ。このままでは一人で食べ尽くしてしまいそうだ。

「このナヴィア蜂密って定期的に仕入れるにはどうしたら良い?」

「ムリ」

リンの質問に間髪いれずに返答するフェリクス。彼が今回手に入れられたのも偶然なのだ。極少量手に入れるのも普通はものすごく大変なのである。ナヴィア蜂密は市場に滅多に出てこない上に、市場に出てきたと思ったら即刻買い占められてしまう。それを定期的に仕入れるなどあり得ない。余程の伝(それこそ栽培農家の知り合いであるとか、王族とつながりがあるとか。ライセリュート家ですらナヴィア蜂密をたまにならともかく、定期的に仕入れるのは不可能なのだ)がなくては不定期の購入すら出来ないほどのものなのだ。

「・・・・だったら自分で作るか」

さらっと呟くリンにフェリクスが目を白黒させる。

「作るって・・・・は、ははははは。リンは本当に退屈しないな!まさかナヴィア蜂の養蜂をするつもりかい?」

「ナヴィア蜂の養蜂??」

フェリクスが腹を抱えて笑いだしたところにアリスがたち『吹き抜ける風』のメンバーがやって来た。

「ムリ」

一言の元に切り捨てたのはシオンだ。相変わらずか言葉数が少ない。まともな文章を話してほしいものだ。

「ご免なさいね?シオンに悪気はないのよ?でもそうね~ちょっと止めておいた方が良いと思うわ」

マナカが心配そうにリンを見て言えば、ラティスとスレイも頷く。

「アレはすでに蜂とは言えないからな」

「迷宮に潜るのとどっちが危険かな?」

「低ランクならナヴィア蜂の養蜂より迷宮に潜る方がましだと思うわ」

アリスが肩をすくめて言う。どれだけ危険な蜂なんだ。しかしリンに諦めるという選択肢はない。美味しいもの、食べたいものを作る、それが彼女の夢であり、すべてなのだ。最高に美味しい食材があるとなれば作らねばなるまい。ケサ芋作りに成功し、他の野菜も順調に育ちつつある今、リンは自信満々である。

今挑戦せずしていつするのか!

その後、ケサ芋パーティはつつがなく終了し、リンは新たな目標に向かって突き進むのであった。









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