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メイスン・フロストの農業研修⑥
「こらこら、そこ、さっさといくわよ」
うっとうしい蚊トンボをどうしてやろうかと思っていると、メイスンから声がかかった。
ここからが本番だと豊かな胸をはるメイスン。
「・・・・本番?」
イルヨンとメイスンの会話を聞いてはいたが、アレとかソレとかばっかりでさっぱり意味が分からなかった。二人の会話で唯一分かったのは、気分転換と言ってリンを連れ出したメイスンであるが、実のところ思いつきではなく、初めからここへは連れて来るつもりだったのだろうということだ。出結局のところ、何一つ知らされないまま連れてこられたリンの、あからさまにイヤそうな顔をものともせず、メイスンが拳を握りしめて力説する。
「この先にココロ癒される絶景があるのよ!」
『おい』
「・・・・ホントに?っていうかそこが目的地?」
「なぜそっち!?」
思わずザジに確認したリンは悪くないだろう。この場合メイスンの言葉よりは信じられる・・・・はず?
「確かに絶景はある。が、ココロ癒されるかどうかは人による。あと、それはおまけだ」
『おい』
ザジの表情から察するにどうやら彼はココロ癒されはしなかったようだ。そしてやっぱり目的地ではなかったのか。
「人によって、てなんかやだなあ」
「あの発言を聞く限りメイスンはココロ癒されたようだけど、そもそも彼女に癒しとか必要なのかしら?」
メルの言葉にメイスンを見て、思わずうなずく一同。あのパワフルな彼女と癒しという言葉はどうにもマッチしない。そもそもあの怪しい家に普通に住める謎センスの彼女なのだ。一体どんな光景であれば癒されるのか。ザジの言葉もあるし、絶対ろくでもない光景に違いない!
『おいって!』
というわけで聞いてみた。
「メイスンは癒しが必要な時なんてあるの?」
「貴女直球ね。もちろんあるわよ。わたしをなんだと思ってるの」
少なくともごく普通の一般人とは口が裂けても言えないだろう。
「ここにはよく癒しを求めて来ていたわ。主にザジがらみでトラブルに巻き込まれたときとか、ザジのおかげでココロ荒んだ時とか」
笑顔でいうメイスンの目はまったく笑っていない。その背後にドス黒い殺気がみえたのはリンだけではないはずだ。妖精たちも若干引きぎみだ。動じてないのは殺気をモロに向けられているザジだけ。さすがは双子の兄弟というべきか。
しかしよほどイヤな目にあったのだろう。興味深いが、地雷を踏みそうなのであえて聞きはしない。それにしても短すぎる付き合いでも思い知ったこの、パワフルかつ傍若無人なメイスンをしてここまで言わしめるとは。トラブル体質恐るべし。
「そ、そう」
『おい!いい加減わかってるのに無視するのやめろよ、お前ら!』
微妙に涙目になりつつもリオールが怒鳴っている。なぜか服は所々穴が開いているし、怪我もしているようだ。とはいえ、行動に支障がでるほどではない。しかし、何気に透けているような?
それにしてもよく怒る少年である。こんなにいつも怒っていて疲れないのだろうか?いつか頭の血管切れそう。
「いや、悪い。つい面倒で」
「あんまり反応がイイからつい。ごめんなさいね?」
「確かにいじると楽しい」
「若いなあ、少年!ここは突っ込みドコロやで。もっと勉強しや」
「なんの勉強?あなたみたいなバカ二人も要らないわ。気にしないでね?子供は素直なのが一番よ」
次々声をかけると、だんだんリオールの眉間にシワが。それぞれが(ザジ以外)わりとリオールを気に入っていることを伝えたというのに、一体何が不満なのか。
『全部だよ!お前らの態度が問題なんだよ!皇子だぞ?少しは敬えよ!』
「皇国にはろくでもない思いでしかない」
苦虫を噛み潰したような顔でザジが呟けば、メイスンが深くうなずく。
「そうね。主にあなたのおかげでね、ザジ」
「そんなことより体が透けているぞ、少年」
笑顔かつ殺気のこもった目で見るメイスンをさっくり無視して、話題を変えるザジ。失敗したな、と小さく呟く。
「失敗?」
聞こえたリンが首を傾げると、全員の視線がザジに集まる。こころなしかリオールの顔色が悪い。
『な、なんだよ、失敗って』
「まあ気にするな、ちょっとした呪いだ」
『気にするわ!なんだよ、呪いって!』
「もしかして精霊の呪い?」
「お前も知らないのか」
首を傾げて問いかけるメイスンをザジが意外そうにみる。
「話に聞いてはいたけど見るのは初めてだもの。でもあれはよっぽど精霊との相性が悪くないと発動しないはずでしょ?」
メイスンの言葉に、さらに顔色を悪くするリオール。それはそうだろう。精霊と契約する気でいるのに、精霊との相性が悪いのでは話にならない。契約失敗して命を取られるのが落ちだ。冗談ではない。
「例外もある。今回のように特殊魔法陣を踏んでしまった場合だ」
特殊魔法陣とは、世界にたった三つだけしかなく、しかも人の顔くらいの大きさしかない魔法陣で、さらに精霊以外には見ることすら出来ないという代物だ。新しい精霊が生まれるためのもので、まずあり得ないが、もしうっかり踏んでしまったら精霊の呪いを受けてしまう。三つしかなく、小さく、目に見えず、かつ常に世界中を移動しているため、踏むなんていうことはまずない。
「あ、それあっしも聞いたことあるわ。せやかてものごっつ運悪ないとあり得ん確率やって聞いたで」
「つまり彼はよほど運がないのだろう」
思わず皆が同情のこもった目でリオールを見てしまう。
『やめろ!そんな気の毒そうな目で見るなよ!』
涙目になりつつもグッと拳を握りしめてリンたちを睨み付ける彼は漢といえる。運はないが。
ともあれ、ザジによると、精霊の呪いは何種類かあるが、リオールにかけられたのは、そのなかでももっともおもい、【存在力の低下】という呪いらしい。存在そのものが薄れていき、放っておくと、この世界に存在していたという事そのものがなくなってしまい、関わった全ての人から彼に関する記憶がなくなってしまう。当然、服や持ち物など、すべてがきれいさっぱりなくなる。
『そんな・・・・どうすれば』
顔色はすでに青いを通り越して真っ白である。
「ここの精霊と契約すればいい」
あっさりいうザジに疑いの目を向けたリオールは悪くないといえる。
今日この洞窟に現れるのはかなり力のある精霊。メイスンがリンを連れて来たのもその精霊と契約できればもうけもの、契約までいかなくても気に入られさえすればその力をある程度借りられるので、リンの畑の地下の魔素溜まりも簡単に除去できるという理由からだ。むしろ魔素溜まりの魔素を栄養に変換すらできるだろう。なにせ十年に一度だけ人前に姿を現すその精霊は太古の始まりの十五精霊の一人、大地と豊穣の精霊のカケラであるから。
『とにかくその精霊と契約できれば俺は元に戻れるんだな?』
「そうだ。精霊の呪いは精霊と契約することで打ち消される」
「ゆうても一定以上に力のある精霊やないとムリや。ここのは太古の始まりの十五精霊の一人やからなあ。カケラとはいえど契約はよっぽど気に入られなムリやで?そもそもや、太古の精霊のカケラは特殊条件下でしか姿を現さんもんがほとんどやし、契約出来る者は一世代一人おったら上等やっちゅう代物や。そう簡単にいかへんで」
「そうね。わたしも太古の精霊のカケラのうわさはいくつか聞いたことがあるけれど、十年に一度だなんて、そんなに頻繁に人前に姿を現すカケラは珍しいわね」
蚊トンボとメルの言葉にリオールは声もでないようだ。口をパクパクさせて、またもや涙目になっている。
「ザジは言葉が足りない上にこうみえて結構腹黒よ?あと意地が悪いわ。この場所自体が特殊な場所だもの。契約も太古の精霊のカケラとできなくても他にも精霊の現れるスポットとよばれる場所がいくつかあるわ。そのスポットでそこそこ力のある精霊と契約すればいいのよ。太古の精霊のカケラと契約なんて、ムリに決まっているでしょう?ここの精霊との最後の契約者は四百年以上前の【異界の魔術師】らしいわよ」
メイスンの言葉に、無難なところに落ち着いたらつまらないだろう、と呟くザジは確かに意地が悪い。どうやらリオールの反応がツボにはまったようだ。リオールの反応を見たいがために肝心な部分をぼかして話していたとのこと。彼のトラブル体質はその性格のせいもあるのではないだろうか。メイスンの苦労がしのばれる。まともそうに見えて、そうでもないようだ。やはりメイスンの双子の兄弟である。
「なんや。まあそらそうやわなあ」
非常に残念そうに肩を落としたと思ったら、突然顔をあげて、拳を振り上げ、ここは劇的に太古の精霊のカケラと契約して皇国に嵐を巻き起こさんかい!と熱く語る蚊トンボ。非常にうっとうしい。なぜか今日はパステルカラーの小花を散らしたピンク色の帽子に、白いフリルがたっぷりのかわいらしいドレス。メルヘンな姿をしたくたびれたおっさん妖精なんて害悪以外のナニモノでもない。やはり抹殺すべきだろう。
【洞窟】はそれほど長くはなく、まずは目的地から、と最奥に一気に進むことにした一行。メイスンは先に絶景とやらを見せたかったらしく、がっかりしていたが、無視である。彼女に付き合っていたら肝心の目的地につく前に日が暮れてしまうだろう。中では魔物が出ることもなくあっさり何事もなく最奥までたどり着くことができる。
この【洞窟】強力な魔物が多数襲いかかってくる森をぬけ、入り口を通過するのが厳しいだけで、中に入ってさえしまえばあとは楽勝なのだそうだ。
【洞窟】内はいくつか横道があったが、どの道にも重厚かつ見事な装飾のなされた扉が設置されていた。最奥へはまっすぐ進めばよく、その道にはごつごつした岩ばかりで他には雑草ひとつない。
殺風景かつじめじめした道を進むこと二十分。眼前にも重厚な扉が現れた。
「どうやって開けるの?」
ものすごく重そうだ。そして大きい。メイスンの身長の三倍はある。
「これは見かけだけよ。触れたら勝手に開くわ」
まさかの自動ドアデスカ。
軽く触れるだけで開いた見かけだけの扉に遠い目になるリンである。
扉の奥には広い空間が広がっている。岩だらけの人工物など一切ない、どうみても天然の空間。
「・・・・なんにもないけど」
「ないわよ?」
あっさり言うメイスン。
「は?何でここ来たの?なんにもないのに」
「よく見て、魔法陣がみえない?」
メイスンの言葉に辺りを見回すが、何も見えない。
「見えない」
「おかしいわね」
リンならいけると思ったのに、と首を傾げるメイスンの横でさらに薄く透けるようになったリオールが、驚愕の表情を浮かべて食い入るように前方を見ている。
「どうしたの?」
『で見えないんだ?!あんなにでかくて目に痛いくらい輝いてる魔法陣なんて初めて見るぞ!こんな力が溢れて・・・・なんなんだよ、これ!魔王でも召喚する気か?!』
「魔法陣の大きさはどれくらいだ?」
わずかに顔をしかめてザジが問う。どうやら驚いているらしい。
『大きさって』
リオールは目をうろうろさせ、この空間一杯に広がって。と言う。どうやら彼らの足元ぎりぎりまで魔法陣があるらしい。
「なんてこと」
メイスンがあり得ない、と頭を抱え、ザジが小さくため息をつく。
『おい、なんなんだよ』
「魔法陣がその大きさで輝いて見えるならお前は太古の精霊のカケラに気に入られたということだ」
『は?』
「つまり精霊と契約出来るってことよ。おかしいわね、てっきりリンが気に入られると思ったのに。魔法陣すら見えないなんて」
納得いかない、とメイスンが首を傾げていると、リンの首にかけている石が輝き出した。
「オルト?」
珍しく召喚して欲しいと催促がきたため、オルトを召喚してみる。とはいえレッドドラゴンの姿では何かと不便なので、人形での召喚だ。これは竜の姿より魔力消費が二割は大きいので普段はしないのだが、仕方ない。
「主よ、ソナタに精霊の召喚陣は見えぬ」
姿が固定すりなりそう言ったオルトに、皆の目が点になる。
「召喚獣、か?」
「突然なんなの?だれ?」
『今度は誰だよ』
「珍しいやん、召喚催促するやなんて」
「そうねレッドドラゴンもまた古き種族。族長のあなたなら何か知っていそうね?だから出てきたのでしょう?」
ドラゴン、という言葉に驚く三人を無視してオルトが話を始める。
「主は『来訪者』ゆえ召喚適性があり、特に古き種族に気に入られやすい。そこな妖精もまた古き血を継ぐもの。だからこそ主に目をつけたのであろう」
ちらりとオルトが蚊トンボを見ると、蚊トンボが然り気無く目をそらす。
「ここの精霊もまた太古のモノ。主を気に入ったのであろうよ。そのため、この大きさの魔法陣が現出したのだ。これは契約のための魔法陣だ。だが、主にはすでに我がいた。ゆえに主には魔法陣が見えぬ」
「・・・・どういうこと?」
さっぱり分からない。もっと分かりやすくいってもらえないだろうか。
「我らは共に【番人】であれば。『来訪者』一人に【番人】は一人と決まっている。『来訪者』はほぼ全員『役目』がある。が、主には『役目』がない、『来訪者』の中でもまた異端の存在。だが、その異端ゆえにまた我らは惹かれるのだ」
「ん?ちょっと待って。わたしみたいな異世界からの転移者って何人もいるの?っていうか『役目』って?」
「世界は調整のため様々な【世界】から定期的に『来訪者』を招いている。太古の昔からの決まりごとだ。すべての『来訪者』には調整のための『役目』が与えられる。それは魔王を倒す勇者であったり、魔素を分解する魔術士であったり、神と対話する巫女であったり様々だ」
その役目とやらは誰が決めるのかと聞けば、結局のところ最終的に決めるのは本人だという。たとえば、平和を望む者は巫女に。戦いを望む者は建国の英雄に。名誉や名をあげることを望む者は勇者に。といった具合だ。リンに役目がないのは、一人で農業をするのが彼女の望みであり、地位も名誉も戦も平和すら望んでないからだ。召喚された本人の【望】や【願い】が役目を決める決定打であり、もっとも必要な部分といえる。
「それってリンが無欲ということ?」
まだイロイロ納得のいかないメイスンであるが、話はキチンと聞いていたメイスンがオルトに聞く。どう考えても無欲ではないな。とリンが苦笑してオルトを見る。
「いや、そうではない。役目はいくつか設定されていて、最終的な決め手が本人の望みであり願いなのだ。しかし主の望みは設定されていたどの役目にも当てはまらなかったため、役目が消失してしまったのだ」
役目自体は百単位で設定されていたのだが、とオルトが肩をすくめる。
ただ来訪者に関しては、番人ですら知らないこともおおい。すべてを知るのは創世の神のみなのだ。
役目がなく、未来の定まらぬ理をはずれし者。それゆえに定められた道をだた行くことしか出来ない番人には魅力的に見えるのだ。
「なんだか分かったような分からないような・・・・どうでもいいけど、結局ここの精霊の力は借りれないってこと?」
「いや、契約は出来ぬが、力を借りるくらいなら可能だ。そもそもそこの少年に魔法陣が見えるのはこの中でもっとも精霊適性が高く、少年が契約すれば主に力を貸せるからであろう。もちろん少年が気に入ったというのもあるだろうが」
つまり、精霊は基本的にこの世界とが別の次元に存在している。そのため、人と契約しなければこちらがわの世界には中々干渉出来ない。だが、人と契約すれば自由にこちらの世界に干渉出来るようになる。とはいえもちろん制限もあるが。それでもふるえる力も大きくなる。人との契約は精霊にもメリットがあるのだ。
「少年に異存がなければ精霊を喚びだし、契約を結ぶがいい。我が手を貸そう。するなら急いだ方が良いぞ、少年。ソナタ存在が無くなってきている。恐らくすでにソナタの記憶が消えた者も居よう」
「なんだってー!」
オルトの言葉を聞いたリオールの絶叫が響き渡る。
「ナニソレ、どうすんの??なあおれ消えちゃうのか?!記憶が消えたってどういうこと?!元に戻るのか??」
どうやら混乱しているようだ。うるさい。
「ソナタにかけられし呪いが消えればすべては元に戻る。契約をするか、しないか選ぶが良い、人族の少年よ」
「え、するよ!もちろん契約するとも!いやでも一見選択肢あるようで無くない?選ぶ道って一個しかないだろ?この場合」
なんか納得いかない、と呟くリオールは無視してオルトがさっさと準備を進める。準備が整うと、リオールをまじまじ見て一言。
「しかしこの呪いを受けるとはソナタ、運がないな」
「うっさいわ!!」
竜にまで感心されるほどの運のなさ。洞窟でたら即効別れる、と一人ココロに誓うリンであった。

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