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異世界とチートな農園主 作者:浅野明

まともな野菜を作ろう

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メイスン・フロストの農業研修⑤

「僕はロウス皇国の第九皇子、リオール・フィルア・クリスファル・ロウセイルという」

一通り傷を治療し、自己紹介をしたあと目的地を話すと、少年も目的地は同じだという。厄介ごとのにおいしかしないので、はっきり言って同行は拒否したいところなのだが、うやむやのうちに一緒に行くことになってしまった。まったく事情が分からないといざというとき困るので、歩きながら少年の話しを聞くことにしたのだが。

「第九皇子?」

またずいぶん子沢山なんだな、とリンが目をパチパチさせていると、メイスンがさらに衝撃の事実を口にした。

「皇国は確か皇子が十五人、皇女が二十二人いるはずよ」

全部で三十七人とか、子沢山とかいう問題でもない。作りすぎだ、と思うのはリンだけだろうか。

「ロウス皇国は少々特殊だからな。他国と違って側室もその地位を保証されている」

ザジの言葉にリオールが肩を竦める。

「とはいえ通常は十人から十五人程度だぞ。いくら側室が認められているといっても、ムダに争乱の種を作る必要はないからな。今回が特別に多いだけだ。父上は歴代の皇帝のなかでも特に好色だから」

苦々しい口調で吐き捨てる彼は、父親のことをよく思っていないようだ。少なくとも、尊敬出来る人物ではないらしい。しかし、出会ったばかりのリンたちにこうもあからさまに言ってもいいものなのか?

「ああ、父上の好色ぶりは有名だからな。尊敬出来ない人なのは会えば一目瞭然だしな」

どうやら外見からしてろくでもないらしい。少年は一言「豚のほうがまだましだ」と。仮にも父親に対してひどい言い種である。わりとかわいらしい容姿の彼は母親似とのこと。皇帝の容姿は有名で、借金のかたに婚約者と別れて泣く泣く嫁ぐ姫君の話などが劇になったり吟遊詩人の歌で歌われたりしているらしい。逮捕とかされないのかと聞くと、当然こっそりやっているので、中々捕まえることも出来ないとのこと。

その劇、ちょっと見てみたいかもしれない。それはそれとして、リンの感覚では普通に十人以上とか多すぎる気がするのだ。男児が二、三人いても皇位を巡って争いになりそうな気がする。そう言うと、リオールは理由はあるんだ、と首を振る。

リオールの話しによると、王国に神のとの契約があるように、皇国は精霊王の加護をもって栄えている国だ。

精霊王との契約により、かの国は一定以上の強さの魔物が入り込めないだけでなく、農作物は豊かな実りを約束され、山海の幸も豊富で、自然災害もあまりないらしい。かなり恵まれた国なのだ。その代わり皇族にたいする縛りがかなり厳しく、上級精霊と契約出来る皇女二人は巫女として選ばれれば一生を神殿から出ることなく過ごさねばならず、結婚も許されない。

皇位を継ぐ皇子はこちらも上級精霊と契約出来る資質があるものでなければならない。当然、巫女にしても皇帝にしても資質だけではダメで、一定以上の強さの精霊と契約をしなくてはならない。契約した精霊が強ければ強いほど国は富むため、そこそこの人数の皇子が契約出来たとしても、皇位継承争いなど滅多におきない。契約精霊の強さが変わらなければ別だが。

いくら精霊王との契約があり、精霊と契約出来る資質があるものが多く生まれるとはいえ、上級精霊との契約は非常に困難であり、命がけでもある。実際いつの時代も生まれた子供のうちだいたい二割は資質がなく、資質があるものも半数は契約出来ず命を落としている。だからこそ、皇族は側室を認め、多くの皇子皇女をもうけるのだ。

リオールの兄弟も、皇子は七人、皇女は十人精霊と契約出来る資質がない。今回は資質の無いものが多かったのだ。その上資質があるものも契約に失敗して既に皇子三人、皇女六人が亡くなっている。だからこそ、子供の数が異様に多くても、称えられはするが、せめられることはない。

ちなみに、資質の無い皇子、皇女は一定の年齢に達すると神殿に入れられ、結婚も出来ない。そもそもが、資質の無い皇族は短命であり、二十歳を越えてもなお生きている者はまず滅多にいないうえ、子をつくる能力がない。リオールの兄弟姉妹も資質の無い者は既にほとんどが病で命を落としており、今だ生き残っているのは弟と妹が一人づつしかいない。そういった事情もあって、皇族の数は意外に少ないのが現状だ。そのため、皇帝の子沢山は歓迎されるのである。

そしてリオールにも精霊と契約出来る資質がある。今だ契約精霊はいないが。

「あ、リン、その草採っといて」

「え、これ?」

「ええ、それは見掛けたら採取しておきなさい。上級の植物栄養剤を作るのに必要だから」

リンの知識にはない草だ。ゲームではなかった植物は意外に多い。ゲームにはあってもこの世界にい無いものも多く、ゲーム時代の知識は半分ほどしか役にたたない。そのせいか、生産系のスキルもいくつか使えないものもある。

「あと、こっちの草も出来るだけ採取しておきなさい。これは加工して肥料に混ぜると良いの。分量が難しいから今度どの植物にはどれだけ混ぜるのか細かく教えてあげるわ」

優秀な農家は肥料にしても、植物栄養剤にしても、自分だけのノウハウを持っている。リンも自分だけのノウハウを確立出来れば、一人前といえる、とメイスンは言う。もちろんそうするためにはかなりの月日と根気が必要であるが。

「・・・・知らないこと多い。もっと勉強しないと」

さすがにメイスンは本職だけあってよく知っている。植物に関する知識には脱帽だ。これで家さえ、家さえまともなら・・・・!

偉大なる植物学者として、様々な逸話と共に後世にその名を残すことになるメイスン・フロストが影で『残念な天才』と呼ばれていることを、この時のリンは知るよしもない。

色々な意味で落ち込むリンに蚊トンボとメルが声をかける。

「そらしゃあないわ。本に全部載ってるわけやないしなあ」

「そうねえ。わたしたちも人族のようにいわゆる農業はしないから詳しくないし」

蚊トンボとメルの慰めが珍しく心にしみる。と、しみじみしていると、少年の怒鳴り声が響いた。

「おい、聞いてるのか!」

話をしているのに、メイスンとリンは農業研修に終始している。一体なんのために事情を聞いてきたのか。とはいえ、別にリオールを無視しているわけではなく、二人ともきちんと聞いてはいるのだ。一応。優先順位の問題である。メイスンとリンにとっては招かれざる客であるリオールの事情よりも、農業研修が優先されるのは当然と言えるだろう。ちなみにザジはこの間、黙って先頭を歩いている。自分でトラブルを招いておきながら、すべてがどうでも良いという感じだ。なるようにしかならない、というのが彼の持論である。ちなみに、出会ったばかりのリンたちにこんなことを話しても良いものかを聞くと、情報通なら知っていることばかりだから問題ないとのこと。

「聞いてるわよ。それでなんで【洞窟】に向かっているの?それも護衛もなく一人で。資質があるということは皇位を継ぐ可能性はあるわけでしょ?皇位を継げる皇子があと五人しか残ってないならなおさら護衛がいるはずだわ」

畳み掛けるようにメイスンが言えば、リオールはため息をついて視線を落とした。

「・・・・・護衛とははぐれたんだ」

あきらかに何か隠している。しかし三人ともそこを追及するつもりはまったくない。こういうトラブルの類いは下手に隠していることをつつくとろくなことがないのだ。ぶっちゃけ深いところまで踏み込んで、これ以上余計な荷物を背負いたくはない。むしろ今すぐ少年とはおさらばしたい。

ともあれ、そこそこ事情がわかればそれでもいいので、ムダに深くは踏み込まない。以心伝心とでもいうのか、三人は打ち合わせた訳でもないのに、バッチリ心が通っていた。

三人にこれ以上護衛のことを聞く気がないと分かったリオールは、複雑そうな顔をしながらもあえて聞かれないことを説明する気もないようだ。

「【洞窟】にむかっているのは」

「ああいいわ。聞いといて何だけど、大体予想はつくから」

それでも律儀に質問に答えようとしたリオールの言葉を遮って、面倒くさそうにメイスンが手を振る。だったら聞くなよ、と言いたげにリオールがメイスンを見る。

「そうなの?」

「ええ、この時期【洞窟】に行こうとするなんて他に考えられないもの」

肩を竦めてメイスンが言うと、少年は苦虫を噛み潰したような顔でそっぽを向いている。

「【洞窟】が見えたぞ」

後ろの会話を聞いているのかいないのか。ザジが前方を指差す。

「【洞窟】?」

リンの眼前にあるソレは、どう見ても洞窟と呼べるような代物ではなかった。少なくともリンが想像していたモノとは似てもにつかない。それともこの世界の洞窟はこれが標準なのだろうか。

ふと隣を見ると、リオールが口をぱくぱくさせて【洞窟】を見ている。

「おい、コレのどこが【洞窟】なんだ!?」

『え?』

リオールの怒鳴り声に、メイスンとザジが同時に首を傾げる。なるほど、双子というのも納得のシンクロ率。見事にまったく同じ反応である。

「どこって言われても・・・・ねえ?」

「言っておくがここ以外に入り口はないぞ?」

リオールが何を問題視しているのか、二人にはまったく分からないようだ。思わずリオールに同情してしまうリンである。

「いや、おかしいだろう?!明かにどこからどう見ても洞窟には程遠いだろ!そもそもどうやってこんなか入れと?!」

息切れするほど大きな声出さなくても聞こえるんだけどねえ、若いっていいわーと、年寄り染みたことを思いつつ成り行きを見守るリン。疑問は多々あれど、ここは意外に常識人らしき皇子サマに任せることにして体力を温存するリンだった。

しかしコレが異世界の常識かと思いきやリオールの反応を見るに、そうでもないらしい。

だがしかし、ザジもメイスンも小さい頃からコレが【洞窟】だと教えられてきたので、本当にリオールが何を言いたいのかさっぱり分からない。互いに顔を見合せ、またもや首を傾げる。

「そうはいってもコレが【洞窟】なのは間違いないわ」

「入りたくなければ今すぐ帰ればいい」

「んじゃお言葉に甘えて」

然り気無く帰ろうとしたリンの襟首をがっつりつかみ、「あなたが帰ったら意味ないでしょー?」
と実にイイ笑顔でメイスンが言う。リンは逃亡に失敗した。無念である。

リオールはと言うと、葛藤のすえコレに入ることにしたようだ。よっぽど中にいいものがあると見える。

リンは改めて、眼前にあるソレをみた。ソレはどこからどう見ても巨大かつ危険な食虫植物にしか見えなかった。










【洞窟】とは、がけや岩などにできた洞穴。

昔読んだ辞書にそう書いてあった気がする。

眼前にあるソレはどこからどう見ても植物で、遠い目をして、リンは思う。踏み込んだら確実に溶かされて栄養にされそうだな、と。

【洞窟】の入り口というソレは、地球にあったいわゆるウツボカズラによくにている。それも地球産とは違って六階建てのビルくらいの大きさがあり、仄かに青白い光を放っている。間違っても【洞窟】などと呼べるような代物ではない。リオールが怒鳴りたくなるのも分かろうというものだ。

「さっさと行って終わらせよう」

面倒くさそうに言って、ためらいもなくソレに向かって歩き出すザジ。

「そうね。行くわよ、リン」

メイスンも足に根がはえたかのように動かないリンをひきずってザジのあとに続く。

さすがにコレに入るには勇気と覚悟が必要ではないだろうか。あと時間が!などとぶつぶつ言っている間に、メイスンに抱えられてウツボカズラに激突・・・・激突?

「あれ?」

激突はしなかった。代わりにリンはウツボカズラをすり抜け、ごつごつした岩に囲まれた洞窟に立っていた。

「は?」

ココハドコと言いたい。いつの間にこんなところに来たのか。振り返っても、重厚な扉があるだけで、ウツボカズラどころか小さい雑草すらない。

「なるほどなあ、あれは幻覚系の結界やなあ。それもかなり高レベルや」

「状態異常系のスキルはきかないはずだけど」

いつの間にか肩にくっついていた蚊トンボがしたり顔でうなずく。でこぴんで蚊トンボを追い払いながら、リンは首を傾げる。あれが幻覚とか怖すぎる。スキルがきかないなら何か状態異常に関する対策をとらねば。

「あれは精霊術を使った特殊な結界や。たとえスキルで状態異常無効を持ってたとしても防げるもんやない」

「そうね。わたしたちも見事にやられたくらいですもの」

メルの言葉にリンは納得した。基本的に妖精族は状態異常系が効きにくい。蚊トンボとメルは状態異常無効も持っていたはずだ。その彼等も幻覚を見せられたというのだからリンが騙されるのもムリはない。そもそもが、精霊術はかなり特殊なものであり、ゲーム時代とは違い、謎も多い。リンにも分からないことだらけなのだ。妖精にとっても精霊はよき隣人であると同時に謎に満ちた種族でもあるのだ。

「それにしてもあっしも永く妖精やってんけど、ここまで大がかりな精霊術の結界見たんははじめてや。お嬢は運がええなあ」

「どの辺が運がいい?」

そんな要素があったか、と蚊トンボをジト目で睨むと、普通に暮らしてたら絶対遭遇出来ないような激レア現象が見れたから、とニヤニヤ笑う。相変わらずひねり潰したくなるような鬱陶しさだ。いつか縁を切ってやる、と決意もあらたにするリンだった。


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