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メイスン・フロストの農業研修④
目が覚めたら、見知らぬ場所でした。
フロスト父娘の白熱したバトルの間に、うっかりと寝てしまったもよう。聞き耳立てていたはずだったけど、途中から記憶がない。しかし、少し寝たため頭がスッキリしている。いつの間にか傍らにメルと蚊トンボも帰って来ている。
ようやく回りを確認する余裕が出てきた。だがしかし、リンが居たのはなぜか見知らぬ森の中。傍らにはメイスンと見知らぬ男性一名。・・・・おや?
「やっとお目覚め?まったく移動中も起きないとかどうなの?」
「子供に無理を言うものではない」
メイスンが呆れたように肩を竦めれば、傍らにいた男性がちらりとリンを見て、たしなめる。
「そうは言うけど」
「誰?」
リンの警戒のこもった声が、メイスンの言葉に重なる。
そもそも、もと引きこもりのリンにとって、ヒトは苦手なのに、最近やたら新しいヒトに出会う。出来ることなら自分の家と畑だけで平穏に暮らしていきたいリンなのだ。だというのに、ここ最近のヒトとの遭遇率ときたら。ストレスも溜まろうというものである。
メイスンの知り合いだし、メルも蚊トンボもまったく警戒していないので怪しいヒトではないのは分かるが、新しい出会いを歓迎しないリンが警戒するのも無理はない。
「そうだな、先に自己紹介をするべきだった。俺はザジ・フロスト。こいつの双子の兄だ」
思わぬ答えに、リンの目が丸くなる。ということは今後の同居人の一人?そもそもメイスンって双子だったのか。リンはまじまじと男を見る。メイスンとはまったくといっていいほど似ていない。かといって、あの村長さんに似ているかといえばそうでもない。そもそも彼の耳が細長く、尖っているのはどう見てもエルフってやつですよね?特徴的な耳に加えて金髪碧眼の美しく整った顔立ち。エルフ以外の何者でもない。金髪というところしか共通点が見いだせない。二人共美人ではあるが、系統が違う。あえていうなら、メイスンは夜が似合うが、ザジは太陽のもとでこそ輝くというか。・・・・分かりにくいけど、月と太陽ほどに違うのだ。美人さんを表現するのは難しいデス。これだけ顔立ちが違って、双子?もちろん、まったく似ていない双子だって世の中にはたくさんいる。問題はそこではない。
つまり、はっきり言ってイルヨンもメイスンもどう見ても人間種である。人間種からエルフが生まれるのか?
「わたしは髪以外は父に似たの。ザジは母に似たのよ。母はエルフだったから」
「つまり二人共ハーフってこと?」
メイスンが父親に似ているかどうかは疑問が残るが、一応納得はできる。
「そうよ。人族とエルフのハーフは忌み子として生まれてすぐに殺されるか、生かされても酷い扱いを受けることが多いけど、わたしたちはごく普通に育ててもらったわ」
リンが混乱しているのがわかったのだろう、メイスンが説明してくれる。
元々エルフやハイエルフといった種族は、他の種族との婚姻自体を禁じている。理由は生まれてくる子供の大半が魔素を異常なまでに吸収しやすく、成人するまでに魔物化してしまうことがほとんどだからだ。ただ、成人するまでに魔物化しなかった者は、一般人より高い身体能力や魔力を得ることが出来ると言われている。その上、特殊な能力も得られるらしい。もっともその力故に恐れられることもあり、魔物化してもしなくても生きにくいのだ。
国によっては婚姻することが罪に問われたり、子供が生まれたら即刻殺すことを義務付けているところもある。ましなところでも生まれたばかりで教会に預けるのが普通だ。この国のように特別明文化してなくても、忌み子は教会に預けるのが暗黙の了解というやつで、成人する前に魔物化すれば抹殺され、ぶじ成人出来れば、隷属の首輪を付けられて死ぬまで教会のために働かされる。
通常は普通の村で普通に育てられるなどあり得ないが、イルヨンと妻のフィーリアは子供たちを村で育てることを選択した。村人もまたそれに賛成し、メイスンたち三人の子供たちは一人も魔物化することなく成人出来たのだ。そうなるまでには、もちろん色々あったらしいが、今は関係ないので置いておく。
ともかく、ザジがメイスンの双子の兄なのは間違いないということだ。
で、なぜ彼が同行しているのかと言えば、彼が成人して得た特殊能力によるらしい。それはズバリ。
「魔物避けだ」
一言。それだけで説明しきったとでもいうかのように、彼は口をつぐむ。
「へ?」
思わず間抜けな声が出たが、それも仕方ないだろう。意味が分からない。メイスンも呆れたようにザジを見る。
「ザジ、言葉足りなさすぎだわ」
「そうか?」
何が不満なんだ、と首を傾げるザジ。本気で何が問題なのか分からないらしい。
「ザジの持っている称号が『魔物嫌い』っていうモノなのよ。称号自体持っているのは珍しいけど、彼の称号はそのなかでも変わりダネでね。強さが一定以下の魔物は近寄れないの」
この森では、彼に近づけるほど強い魔物はいないらしい。・・・・そんな称号、あったっけ?もちろん、リンとてすべての称号やスキルを知っている訳ではないが。
「ザジがいれば危険をおかすことなく目的地まで辿り着けるわ」
そういうメイスンはどことなく不満そうである。なぜなのかを直球で聞いてみる。遠慮などする気はまったくない。
「魔物は近寄れないけど、ムダにトラブルを呼び込むのよ。それが称号のせいか本人の資質のせいかは分からないけどね」
聞かれたメイスンは、苦虫を噛み潰したような顔で理由を教えてくれた。
引き寄せるトラブルもまた多岐にわたり魔物と遭遇するほうがまだましと思えるようなことも多い。それでもイルヨンからすれば小さいリンを連れているのだから、魔物が近づいて来ないならそれに越したことはない、ということだ。目的地がそれほど遠くない、というのもあるのだろう。このくらいの距離なら、そこまで変なトラブルを呼び込むことはないと考えたようだが、メイスンからすれば冗談ではない、と言いたいらしい。もっとも近くでもっとも迷惑を被っているメイスンに言わせると、どれ程目的地が近かろうが、ザジのトラブル体質を侮るとろくな目に合わない、とのこと。ザジと行動するよりは魔物退治のほうがいいらしい。
「【洞窟】まではほんの三十分ほどだろう、我慢しろ」
ザジだって仕事中に呼び出されて迷惑しているのだ。彼としてはリンも目を覚ましたことだし、とっとと行ってとっとと帰って来たいのだ。忙しい彼にはムダに消費できる時間などないのである。もっとも、メイスンに言わせると彼が忙しいのは仕事のせいではなく、主に自分が引き寄せたトラブルの後始末のせいらしいのだが。
ともあれ、理由は違うがさっさと行って帰りたい、というのはここにいる全員の共通の思いであったため三人と妖精たちは移動を開始することにしたのだった。
森の中を一人の少年が歩いている。
透き通るような青い髪、煌めく薄紫の瞳。一目で出生の分かる特徴的な容姿。
「いいこと、リン。農業の基本は好きなものをまず作ってみることよ!手当たり次第ではダメなの」
【洞窟】にいく道すがら、魔物と遭遇することはまずないので、メイスンが講義をすることにした。時間は有効に使わねば、ということらしい。もちろんリンに異存はない。
「そうかなあ」
「家業を継ぐとか、商売にしたいとか言うなら別だけど、貴女の場合はまず好きなものを作らないと。好きなものがすぐに新鮮な状態で手に入る、今でも美味しいけど」
「おい」
「もっと美味しくしたい、その意欲が大事だわ。嫌いなモノや思い入れの無いものでは難しいでしょう。だから」
「おいって」
「まずはリンの少し好きなものをいくつか植えてみて、成功してから次に手を出すと良いわ」
「やってみたけど全然ダメだよ。とりあえず、食べたいモノとか簡単に出来そうなモノにチャレンジしてみたんだけど」
「大丈夫、今度はうまくいくから。ここにいる間に教えられることは全部教えてあげるし」
「無視すんなよお」
傷だらけ(とはいえ小さな擦り傷ばかり)で後ろからよろよろ着いてくる少年が、無視され続けてとうとう涙目で訴えてくる。
「えーと、どうしよう、メイスン」
リンがあからさまに迷惑そうな目で少年を見つつメイスンに問う。彼女としては非常に面倒なことになりそうなため、関わりたくない。さくっとこの場に少年を放置して先に進みたい、と言うよりもう帰って(村長さんの家に)ぐっすり寝たい。
メイスンも面倒そうな顔をしている。彼女もおそらく少年を放置出来たらな、と考えているだろうことが手に取るように分かってしまったリンだった。
ザジは、と見るとこちらは妙に達観した表情である。諦観と言ってもいいほどだ。悟りを開いたお坊さんのようである。つまるところ、これが、今回彼が呼び込んだトラブルなのだろう。
青い髪と薄紫の瞳、それは隣の皇国の皇族しか持ち得ない色合い。一人でこんな隣の王国の森のなかをさ迷っているなど、あり得るハズもない身分の少年。
厄介事のにおいしかしない。とはいえ、ずっと無視し続ける訳にもいかないので三人は仕方なく立ち止まり、少年と向き合ったのだった。

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