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異世界とチートな農園主 作者:浅野明

まともな野菜を作ろう

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メイスン・フロストの農業研修②

翌日である。

実にさわやかな朝である。朝日が目に眩しい。

たとえ、四人のうち三人までもが目の下に見事な隈を作っていたとしても、さわやかな朝には違いない。

「うー、眠たい。なんでこんなに朝早く」

ようやくうつらうつらしはじめたところに乱入されたリンは、不機嫌の塊である。妖精たちもドン引きするほどのどす黒いオーラを撒き散らしている。

「まあ、何を言うの?農業とは日が昇ったら畑に出て、日が沈む頃帰るものなのよ?」

力説するメイスンはまったく眠そうでもなく、朝から溌剌としていて美しい。リンの不機嫌さも何のその。まったく欠片も気にしていない。だらけまくっているリンとは違って、生気と活力が全身に満ちている。

昨晩部屋に引き取った時間は早かったにも拘らず、リンが寝不足なのはもちろん理由がある。怪しさ満点の家で早速ぐっすり眠れるほどの神経の太さはなく(ちなみに与えられた部屋は壁も家具も真っ赤だった。こんな部屋で寝ろとかムリだから!)目が冴えてしまってまったく眠れなかったのだ。無性に苛々しながら、朝日が昇るころ、ようやく眠れそうだと思ったところを乱入されたものだから、たまらない。不機嫌なのもムリないと言えよう。

ちなみにメイスンは妖精に夢中で、家がカラフルな理由や屋根についているオブジェ、壁が怪しい液体?にまみれている理由が聞けなかったのである。寝る前に是非とも聞いておきたかったのだが。せめて理由が分かれば寝られたかもしれない(可能性は極めて低いが)

メルと蚊トンボは先程まで徹夜でメイスンにつきあわされ半分魂が抜けている。しばらくは使い物になりそうもない。

「いいこと?農業で一番大事なのは土よ!」

リンたちの様子に頓着することもなく、サクサク進める。

「アリスからの手紙と、わたしの推測からすると、貴女が失敗する原因はおそらく土なのよ!」

「・・・・土?」

思わずまじまじとメイスンを見る。ちょっと目が覚めた。

細かい事情はアリスが手紙で知らせてくれていたらしい。その手紙だけである程度の推測ができたらしい。流石は王都一の植物研究家。ただの変人ではない。

「土ってどういうこと?」

リンとてなんの勉強もせずに農業をしようと思ったわけではない。リンの土地の土は栄養豊富でかつ、水はけも良く、農業には向いている。その上、植える植物によってきちんと土を作ったのだ、問題などまったく思い付かない。そう言うと、メイスンは首を振る。

「そうじゃないのよ。もっと根本的なところが問題なの」

「根本的?」

「ええ。あの土地の地下には魔素溜まりがあるから。そもそもそのせいで王都周辺には農村が少ないのよ。魔素溜まりの上に生えている植物は毒のあるものや、繁殖力の強い雑草、特殊な草花ばかり。人が食べられるようなものはひとつもないわ」

わりと専門的な分野のため、一般にはあまり知られていないけど、と首を振る。商人であるフェリクスや主に冒険者として活躍している『吹き抜ける風』のメンバーが知らないのもムリはなかった。

魔素溜まりとは、その名の通り魔素が定期的に溜まる場所のことで、その魔素溜まりが地下にある土地は周辺一帯、人が食べられる食糧の生産には向かない。王都周辺にはそういった場所が多いらしい。

ではなぜそんなところに王都を造ったのか。食糧の調達などを考えるともっと別の場所に王都を造ったほうが良いのではないだろうか。リンの疑問にメイスンは肩を竦めた。

「ええそうね。輸送手段が現在ほど発達していなかった建国当時なら尚更ね。でも仕方なかったのよ」

あの場所に王都を造り、【契約品】を王城にて守る、その代わりに王国を守護する結界を張るというのが、始祖王レギオンと守護の神オルリオンとの契約だったらしい。当時は今よりも魔物が多く、さらには今より強い魔物も数多く生息しており、どの国も神々との契約は欠かせなかった。

その契約のお陰で今でも王国内には一定以上の強さの魔物は入れないのだ。迷宮内は特殊な場所であるため、結界は作用しないが、迷宮の魔物は迷宮より出てくることはないため、問題はない。

「だったら魔物全部入れない結界にしたらよかったのに」

「駄目よ。そんなことしたら毛を採ったり輸送用に使ったり、ミルクを採る有用な魔物まで飼育出来なくなるわ。魔魔物使いが特殊契約をしている魔物ならどれだけ強くても王国内に入れるけど、一般の農村がすべての魔物と契約を結ぶなんてムリでしょう?」

「あ、なるほど」

言われてみればもっともだ。スケルトンやオーガなどとはべつに魔力をもつ動物もまた魔物と呼ばれるのだから。オルトや妖精たちはリンと契約した召喚獣のためなんの制約も受けなかったのだ。そして彼らにとって魔素溜まりとは、自然にあるもので珍しくもないため、まともな食べ物が育たない原因がそれとは気づかなかったのだ。

「ん?ってことはあそこではどんなにやってもまともな食べ物が作れないってこと?」

せっかく手に入れたのにそれはない。

リンががっくり肩を落として落ち込んでいると。メイスンが苦笑いしながら頭を撫でてくれる。

「やり方はあるわ。ただとても労力が掛かるし面倒だけど」

それに広範囲は難しい。だからこそ昔の人はあの辺り一帯に農村を造るのを諦めたのだ。手間と金銭的なことを考えると少し離れていて、輸送に多少難があっても王都周辺に造るよりはましだったのである。

「どうする?もしよければこのままこの村に定住してもいいわよ。村長にはわたしから話してあげるし。人手はいくらあってもたりないもの」

「いや、あそこがいい」

村で暮らすとか絶対ムリ。手間も労力もお金もいくら掛かってもいいからあそこがいい。リンの頑なな様子にメイスンは苦笑しつつも頷いた。

「わかったわ。まあ、アリスには少々借りがあるし、出来る限りの協力はしましょう」

準備もあるし、しばらくはここに住んで農業を手伝いなさい、と言われて思わず顔がひきつる。いったいどれくらいこの奇妙な家で暮らすことになるのだろうか?解決方法がわかったから早速帰れる気でいたリンは自分の浅はかさを呪うのであった。





「ひ、人使いが洗い~」

メイスン・フロントは甘くなかった。

人使いも妖精使いも荒かった。彼女の座右の銘は「働かざる者食うべからず」らしい。休みは適宜入るのだが、仕事量が半端ない。リンの体力が普通の子供以上にあると知られてからは尚更である。だがしかし、メイスンがゲームのステータスをもつリンの三倍は動いているため、文句も言えない。

いや、良いのだ。リンの身体能力をもってすれば、この程度の仕事はなんの問題もない。問題ないからこそ、メイスンも仕事を振ってくるのだ。彼女は意外と言ってはなんだが、きちんと計算はしていて、許容量以上の仕事や出来そうにないことは決して押し付けてこない。出来る範囲で最大の仕事をさせるのだ。人の能力を見抜いたり、使うのが上手い。

問題なのは、畑に迷宮並の異常なほど強い結界が張ってある場所が多く、下手に触れてしまうとものすごい音量の警告音が響き渡り(音はメイスンと結界に触れた者にしか聴こえない仕様になっている)二度触れると問答無用で村の入り口に転送されてしまう。ちなみに警告音はメイスンが来るまで解除出来ない。

「ああもう苛々する!」

結界を避けて仕事をするのは、想像以上に精神力を消費する。寝不足もあって、昼過ぎにはリンの苛々は頂点に達しようとしていた。

「困ったわねえ」

流石にリンの垂れ流す真っ黒なオーラに気付いた(ちなみにメルと蚊トンボはどこに行ったのか朝から影も形もない。リンの不機嫌さに早々に逃げだしたようだ)メイスンもこのままではまずいと(今さらである)感じたらしい。気分転換を提案してきた。

「ストレスを溜めるのは良くないわね!初日だし、今日は仕事はこのくらいにしてストレス解消に行きましょう」

実にいい笑顔でそう言うと、へたばっているリンの返事など聞くこともばく、リンを担いで、サクサク村を出るのだった。

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