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異世界とチートな農園主 作者:浅野明

まともな野菜を作ろう

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遠く険しい道のり

異世界に来てから早二年がたった。

早すぎる?イイエそんなことはありませんとも。

野菜なんて短いもので一月もかからずできる。モノによっては二年、三年とかかるモノもあるが大抵三ヶ月から半年あれば収穫可能だ。もちろん美味しいもの、品質のいいものとつきつめればそれこそ十年単位で手をかけねばならないだろうが。ともあれ、意外と農業に役立つ竜(なんと人化ができた)と蚊トンボや妖精もいることだし、バッチリ美味しい野菜が作れるハズ。

いずれは野菜だけでなく花を作ったり果樹園を作ったり、動物とか飼ってミルクを採ったり毛糸を作ったり、バターやチーズも作ってみたいし、養蜂して自家製蜂蜜とか夢が広がるわ~とか思っていた時期がありました。ええ本当に農園拡大の夢を本気で実現できると思っていたのですよ?

なんと、夢を広げる前に思わぬ巨大な壁がリンの前に立ちはだかろうとは予想も出来ないことだった。

農園拡大どころか、存続すら危ぶまれる事態にこんなに早くぶち当たろうとは。

そう、二年である。既に異世界に来て二年もたったというのにこのていたらく。

リンは畑に立ち、深く深くため息をつく。

「二年だよ」

その声はひどく沈んでおり、目はじっとりと目の前のソレを見つめている。

「早いもんでんなあ」

「早いわねえ」

蚊トンボと妖精のメル(当然蚊トンボのムダに綺麗な名前を呼ぶつもりは毛頭ない)がしみじみ呟く。暗雲を背負っているかのようなリンとは対照的にやたらと明るい。わざとらしい!

「いやいや、二年もたったんだよ?世界的大飢饉だって一年前には雨が例年通り降りだして今年はむしろどこも豊作よ?」

蚊トンボと妖精のムダな明るさがかんにさわるリンである。

「神さんは気まぐれやからなあ」

「良かったのではない?雨が降って。困っていたのでしょう」

「うん、そうなんだけど。それはいいけどさ」

リンが言いたいのはそうではなく、つまり二年とは結構ながいのだと言いたかったのだ。もっとも蚊トンボもメルもそんなことは承知の上である。

「良いじゃない。まあ、ムダと言えばムダだけどこれも一種の才能だと思うわ。むしろどうやったらこうなるのかすごく知りたいわ。私は要らないけど」

「そうやなあ。まあ、めったにない才能やなあ。要らんけど」

「私だって要らないよ、そんな才能!」

リンは疲れたように肩を落とす。

二年間、リンは畑仕事を頑張った。沢山勉強をし、竜と妖精と蚊トンボをこれでもかと言わんばかりにこきつかいまくり。

そうして、この二年で作った作物はと言えば。



叫び声をあげながら飛び回る(時々小さくて糸のように細い目から赤い涙を流している)キャベツもどき。
ヘタが触手のように長く、器用に動き、収穫する時破裂するトマトもどき。
ギョロりとした目がひとつ、上下半分になりそうな大きな口があり、近付くと悪態をつきまくるナスビもどき。
育つと勝手に抜けてくるくるダンスをひたすら踊るダイコンもどき。
壊滅的に下手な歌を枯れるまで歌い続けるピーマンもどき。
わたし美味しいのと連呼しまくる、猛毒を持つニンジンもどき。

そして極めつきは、今目の前にいる巨大な笑う芋である。

大きさはリンの五倍くらい。リンどころかフェリクスだって一口で食べられそうな巨大な口。ニタアという、表現がぴったりな気持ち悪く笑っている目。姿形は巨大なじゃがいもであるからこそ余計に不気味である。

ちなみにその大きな口からはつねにバリトンで(ムダに美声)うふふふふという、気持ち悪い笑い声が漏れている。溢れでる魔力は蚊トンボやメルも引くほど。なんと攻撃系統のスキルまで持っている(しかもかなり高威力)しかし、使い道は無さそうだ。リンの魔化させる才能(?)と同じくらいムダ満載の芋(?)である。

断っておくが、異世界農業初心者のリンが魔素野菜や魔化野菜にはじめから手を出すはずもなく、すべて普通の野菜の種である。

バッチリ『魔素除去くん』も活用したというのに、ひとつも上手くいかない。すべて魔化してしまうか、枯れてしまう。

当然、納得のいくはずもなく、魔道具屋に『魔素除去くん』が壊れてないか調べてもらったり、アリスにいい本がないか聞いてみたり、竜のオルトや蚊トンボやメルにも色々原因を探ってもらったが、まったく理由がわからない。

そもそも、普通の野菜の種を植えて、スキルを使った端から『魔素除去くん』で魔素を除去しまくっているのだから魔素がたまるはずがないのだ。試しに、とスキルを一切使わずに作ってもやっぱり魔化してしまったのは記憶に新しい。いったいどう言うことなのか。

さらに、このさいと魔化野菜を作ってみたが、今度はすべて枯れてしまう。どうやら枯れる原因は魔素の量が多すぎる、ということらしい。

そう、つまりリンが直面した農園存続にかかわる問題、すなわちまともな野菜が一切作れないというものだった。そんなバカなことがあるか!と声を大にして叫びたいリンだったが、これが現実であるからには逃避したところでムダというもの。

しかし、まともな野菜が一切作れないとか意味がわからないし、あり得ないだろう、普通。

「そんな農園にこだわらんと諦めて冒険者とか迷宮探索者にでもなったらええんちゃうの。そこらの冒険者より強いんやし」

「そうねえ、農業に関する才能はゼロね!なにせ食べられる野菜がひとつも作れないんですもの。農園経営以前の問題よね」

笑顔で言い切るメルを思わずはたき落としたリンに非はないだろう。

ついでにはたき落とした蚊トンボがなにやらわめいている気がするが気にしない。

とにかく、リンは長年の夢であった農園を諦める気など、毛頭ないのだ。そもそも冒険者とか探索者とかか弱い乙女になんてこと言うんだ、蚊トンボめ!いつかトンボの唐揚げにして食卓にのせてやる、とひそかに心に誓うリンだった。




「というわけで、何かいい案ないかな?」

何でも言ってよ、と笑顔で言うリン。こういう時はとにかく沢山の人の意見を聞いてみるべき、と早速数少ない知り合いを集めて作戦会議とあいなった。

リンの家の居間に集まったのはパーティー『吹き抜ける風』のメンバー、ルイセリゼにフェリクス、オルト、蚊トンボ、メルである。

真っ先に手を挙げたのは蚊トンボだ。

「農園は廃業して冒険者に・・・・」

「却下」

最後まで言わせることなく容赦なく叩き落とし、笑顔で糸でぐるぐる巻きにして床に放り出す。ついでにウザいのでメルも一緒にぐるぐる巻きにして床に転がしておく。ちょっとスッキリした。若干皆の顔がひきつっている気がするが気にしない。

「共に世界の果てまで冒険を・・・・」

淡々と無表情で勧誘してくる(珍しく語彙の多い彼に仲間達も驚いている。普段どれだけ話さないんだ、この男)シオンにも猛毒ニンジンもどきを加工した強力麻痺薬を無言でお見舞いする。一瞬で昏倒した彼も放っておいてさて他に意見は、と他のメンバーを見る。

「わたくしの子供服ブランドのモデルになって、共に」

「ハイ、却下」

こんなんばっかりか!空飛ぶキャベツもどきを加工した強力睡眠薬で昏倒したルイセリゼもさっくり放置。

「人を雇って作ってもらえば良いのではないか?」

竜からではあるが(人化中。ムダにキラキラしたその外見なんとかならないだろうか。なぜ竜とか人形になると皆美形なのか。理不尽だと思うリンである)ようやくまともな意見が出てきた。だがしかし。

「ダメだよオルト。自分で好きな野菜が作りたいの。それに他人なんて雇ったら色々めんどうでしょ」

リンは農園の経営がしたいのではなく、農業をしたいので、当然却下だ。

「誰かに師事したらいいんじゃないか?」

「師事?」

「あ、それいい!独学でダメなら誰かに基礎から習えばいいのよ」

フェリクスの言葉にアリスが同意し、他のメンバーも納得、というように頷いている。

「そうか、そうだね。良いかも」

結局のところ、異世界からきたリンはもとより、竜も妖精も農業なんてしないわけだし、彼らでは気づけないことでも、本業に習えばわかることもあるかもしれないのだ。

リンは早速フェリクスの案を採用することにした。

「じゃあ知り合いを紹介してあげるわ。ちょうどいい人がいるの」

アリスがニッコリ笑って、その場で紹介状を書いてくれる。

「明日話を通しておいてあげるから、明日の昼以降なら好きな時に行っていいわ。地図も書いて置いておくから」

断られることなど考えてもいないようだ。リン的には助かるが。アリスの紹介なら変な人ではないだろう(妖しい趣味の持ち主かもしれないが)

「ええと、趣味仲間?」

でも一応聞いてみたり。

「あら、違うわ。食材ギルドの先輩よ。変な人だけど、野菜とか育てる腕は確かだから」

変人か。アリスに断言される程なのか。だが、趣味仲間でないだけましだろう、とリンは納得することにした。

「じゃあ明日行ってみることにする。ありがとう、アリス」

「いいのよ~、でもお礼なら今度ルイセリゼの店の新作着て私達と一緒に食事でもしてちょうだい。もちろん私の奢りよ?」

ニッコリ笑って言うアリス達を見て、なぜだか取り返しのつかないことをした気分になるリンだった。

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