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農園がなんとかカタチになりました
迷宮から帰った次の日、収穫物の配分があった。魔核や必要のない採取物はすべて昨日のうちにアリスが売り払い、お金にかえている。もっともパーティーにとってはたいした金額にならなかったようだが。
リンはただのお荷物だったにもかかわらず、公平に分配してくれた。一般的冒険者にとっては、むしろ装備や消耗品の方が高くつくかとんとんといった金額なのだが、そういったモノにお金をかける必要のないリンは、今回の冒険だけで目的のブツが買える。すばらしい成果である。
しかも!しかもですよ!
レア植物の種や植物栄養剤など、迷宮で拾ってリンが欲しいモノは売らずにとっておいてくれて、格安(市場の十分の一以下)で売ってくれたのだ。本当はただでもいいらしいのだが、売ればかなりいい値がつくものもあったため、リンから必要な金額を差し引いた残りを渡したのである。
彼らもリンの気持ちが分かったようで、何も言わずに笑顔で受け取ってくれた。とてもいい人たちなのだ。時々ニヤニヤしたり、幼女が・・・・とか呟いたり、うふふふと妖しげな含み笑いさえなければ。ええ、本当に。
しかしながら、これ以上借りをつくる訳にはいかないと、決意を新たにしたリンだった。
まだお昼過ぎだったので、昼食を済ませたあとパーティーの皆に別れを告げ、フェリクスのところに顔をだす。
ムダに顔の広いフェリクスに、格安で【魔素除去くん】を注文してもらっていたのだ。事前に今日行くことを連絡しておいたので、応接室でフェリクスと魔道具屋が待っていた。
机の中央に置いてあるのがそうだろうか?予想外のカタチをしているのだが。
この【魔素除去くん】、名前と見た目はともかく凄い性能です。と小太りで汗かきな魔道具屋が説明してくれた。どうやら、名前と見た目は彼の趣味ではないようだ。
「まず、普通にスキルで肥料を作ったり、水やりをいたします。すると、魔素が畑に染み込みますが、すぐにこの【魔素除去くん】を作動させますと、畑に染み込んだ魔素を綺麗に取り除きますです。ハイ」
「へえー」
「凄いだろ?十年前開発されたときは大騒ぎだったぞ。画期的な発明だってな」
「それまではクリスタルを付けた振り子のような装置を使ってましたからねえ。見た目に反して重量が十二、三キロありましたし。しかも特殊スキル【魔素変換】の持ち主しか使えなかったので、定価なんてあってないようなもの」
ちょっとまて。重量が十二、三キロの振り子ってなんだ。思わずツッコミをいれかけたリンであるが、彼女を置いてきぼりにさっさと会話が進んでいく。
「ああ、特殊スキル持ちは随分ぼったくってたな。中にはマトモなのもいたけど」
「それでも彼らの横暴ぶりは目にあまりましたよ。しかしこの【魔素除去くん】を使えばもう彼らに頼らなくてもいいのです!こちらにあるスイッチをご覧下さい」
言われて、横をのぞきこむと、五段階に調節できるスイッチがある。
「このスイッチで、除去する魔素の量を調節できるのですよ!」
どうです凄いでしょう、とドヤ顔されたが、いったい何がすごいのだろうか。
「えーと、そもそも魔素って全部除去するもんなんじゃあ??」
「おやあー?」
魔道具屋が不思議そうな顔でフェリクスを見る。
「そうか、リンは知らなかったか」
苦笑いしながら、フェリクスが教えてくれた。
野菜には大別して三種類ある。
まずは、普通の野菜。魔素が一%以下のもの。流通している野菜の七割はこれにあたる。リンがチャレンジして失敗した芋もこれにあたる。含有魔素の量が一定をこえると食べ物ですらなくなる。
次に、魔素野菜。魔素の含有量が六割以上八割以内の野菜だ。これは逆に魔素の量が少なすぎると毒があったり、パサパサして不味かったり、食べられなかったりする。しかし多すぎても食べられなかったり、魔化して畑全体をダメにしてしまったりする。三種類の中で最も作りにくく、流通している量も少ない。野菜全体の一割以下だ。何故なら野菜ごとに含有魔素量の微妙な調整が必要であるからだ。調理もむずかしく、高額でもあるため、王宮か、上流貴族、国一番の高級レストラン、もしくは余程の金持ちしか食べられない。
最後が魔化野菜。中には魔化しないと食べられないモノもある。これもまた育てるのがむずかしく、流通している量も少ない。魔素野菜ほどではないが。ちなみに、三種類の中で最も美味しいのは、この魔化野菜だ。これは高級レストランや、金持ちの家で食べられる。あと、そこそこの家ならパーティーなどで出したりもする。魔素野菜ほどではないが、調理もむずかしく、お抱えの料理人が調理できない時は、料理ギルドから人を呼ぶこともある。一般庶民でも結婚式などで奮発して、料理ギルドから人を呼んで、出すこともある。
つまり、魔化野菜は高級寿司のようなものか、とリンなりに理解した。
ともあれ、野菜として食べられるモノにはこの三種類があり、かつて魔素量の調整が特殊スキル持ちにしか出来なかったため、普通の野菜以外は価格もはねあがっていたが、十年前、【魔素除去くん】が開発されてから価格も二割ほど下がって(とはいえ一般庶民には高値ではあるが)手にいれやすくなった。
「そうなんだ」
「特に迷宮なんかで手に入る種なんかはほとんど魔化植物だな。魔素植物の種も食材ギルドか特定の場所でしか手に入らないし。あと、回復薬や強化薬なんかは中級以上は一種類は必ず魔素植物か魔化植物をつかうぞ」
食べる以外にもそこそこの需要があり、供給が間に合わないこともあり、そういった植物は高価に取り引きされる。特に上級の回復薬や強化薬はB級以上の冒険者や傭兵、各国の騎士団などに重宝されており、常に一定以上の需要がある。どれだけ高くても買わざるを得ないので、かつては特殊スキル持ちがどれだけ理不尽かつ高い報酬を要求しても飲まざるをえなかった。
だが、今はちがう。画期的発明【魔素除去くん】のお陰で価格は高いなりに安定し、供給量もわずかではあるが(【魔素除去くん】があろうと栽培が非常に難しく、技術がいることにかわりない)増えたのだ。
【魔素除去くん】はまさに農業に革命をおこしたのである。
熱く語るフェリクスは何やら特殊スキル持ちに思うところがあるようだ。魔道具屋のおっちゃんもちょっと引いている。
かなり語り手の感情が入っているが、おおむねそのとおりだと、魔道具屋のおっちゃんがさりげなくフォローをいれる。
「大体理解した。でも本には普通の野菜の育て方しか載ってなかったけど」
「基本的に魔素植物も魔化植物も村単位の栽培してるし、素人がそう簡単に栽培出来るものじゃないから、育て方の本は一般には出回ってないよ。必要がないからね」
「そうなんだ」
がっかり、と肩を落とすリンを見て、フェリクスが苦笑する。
「だからって本が存在しない訳じゃない。基礎の本ならうちに何冊かあるから持っていくといい」
「いいの?」
「ああ。うちには必要ないからね。あと、迷宮でも希に拾えるらしいよ。冒険者ギルドにでも依頼してみれば?」
「そうか、そのうちするかも。ありがとう、フェリクス」
「どういたしまして」
話が一段落したところで、魔道具屋との交渉にはいり、フェリクスの口利きもあり、通常よりもだいぶ安く【魔素除去くん】を購入したリンだった。
手に入れたソレはリンの頭くらいの大きさのショッキングピンクの毛玉だった。丸い毛玉に枝をくっつけたような手足。大きな真ん丸の目。毛玉の下半分は巨大な口だ。そして背中には申し訳程度の大きさのコウモリのような羽。上から下までピンク一色の怪しい物体である。
あえてなぜこんな姿にしたのか。機会があればぜひ開発者に聞いてみたいいと思ったリンなのだった。
農園に戻ると、ドラゴンや妖精、蚊トンボを奴隷のようにこきつかうリンの姿があったとか・・・・・・・・
農園にハウスが出来た!
農園の畑が少し広がった!
農園に水場が出来た!
農園に妖精の棲みかが出来た!
農園に【魔素除去くん】が設置された!
こうして、一先ず農園がカタチになったのだった。

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