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失敗作?
ケケケケケケケケケケケケケケケ
ヒョヒョヒョ
ウヒヒヒヒヒヒ
ニシシシシシシシ
ウケケケケウケケケケ
ケタケタケタケタケタケタ
キョキョキョキョキョキョ
クックックックックックッ
クヒクヒクヒクヒ
ノホホホホ
おーほほほおーほほほおーほほほ
「・・・・・・どうしてこうなった」
さまざまな笑い声に囲まれて、リンはがっくり肩を落としたのだった。
事の起こりは三日前。
いつものように畑に出ると、なにやらささやくような声が聞こえる。本当にかすかで、ともすれば聞き流してしまいそうなほど小さな笑い声。
リンは首を傾げて辺りを見回すが、もちろん誰もいない。フェリクスやルイセリゼが五日前に来たきり、この畑を訪れる知り合いなど居はしない。
注意深く、スキルまで使って辺りを探るが人の気配はやはりない。けれど、ささやくような声はやっぱり聞こえる。
「??」
念のため、それぞれ一本ずつ芋を掘って見るも特には変わった様子もない。
オル芋はまだ小芋というのもおこがましいほどの大きさであるが、ケサ芋は既に食べられる大きさだ。後は2、3日待って赤く色づいたら食べ頃。そうなると、葉っぱの一部が黄色く変色するので、すぐわかるらしい。しかし、傷むのも早いため、葉が色づいたら三日以内に掘らないとダメとのことだった。意外と繊細な芋なのだ。
しかし、芋が笑うハズもなく。
あまりに笑い声もささやか過ぎてどこから聞こえて来るのかも分からない。
「もしや、幻聴?!」
そんなバカな、と自分で即座に否定する。
「うーん」
分からないまま放っておくのも気持ち悪いが、そうかといってどうしようもない。
とりあえず、警戒を強化して、何かあっても即座に対応出来るようにして2、3日様子を見よう。どうにもならないようならフェリクスに相談するということで。そろそろ収穫だし、四日後休みだからまた顔を出すと言っていたし。
仕方なく、そのまま放置ということで。
それから三日後。
笑い声は日に日に大きくなり、そして犯人が判明した。
やはり芋だった。
葉が色づいたので、ケサ芋を掘りました。抜いたとたん「ケーケケケケケケケケ」とけたたましく笑い声を上げた人面芋。
赤い小芋すべてにぎょろりとした大きな目と裂けんばかりの大きな口が。その口からはさまざまな、かつ甲高い笑い声が響く。
「ナニコレ」
もはや芋とは呼べまい。ものすごく気持ち悪い。何気にふるふると震えているのが更に気持ち悪い。
「わー、サイアク」
これはこれでいいのか?いやいやいや、コレを食べるとかどんな罰ゲームだ。そもそも食べれるのか?コレ。
少なくともフェリクスの屋敷で食べた芋も、売ってあった芋にも顔はついてなかった。ということはやはりコレは何か間違えたのだろう。
いわゆる、失敗作?
迷ったリンだったが、笑い声以外に特別害はなさそうだったので、フェリクスが来るまで置いておくことにした。あのあと色々試してみたが、この笑い声、なんとリンが知るなかでは最高の防音性能を誇る、オリハルコン繊維で作った特別製の袋すらものともせず響き渡ったのだ。
コレを街中で持ち歩く勇気は、もちろんリンにはない。
次の日やって来たフェリクスは、畑に響き渡る不気味な笑い声の大合唱に、思わず聞かなかったことにして来た道を引き返してしまったのはご愛嬌だ。
ちなみに、帰ろうとしたところを、見張っていたリンに捕まりました。
「いきなり回れ右して帰るとかあり得ない」
「いや、むしろこの畑があり得ないだろ。ナニコレ、何なの、このあやしい笑い声。すっごく耳に残る上、非常にうるさいんだけど」
「こっちが聞きたい。本に書いてある通りに基本に忠実に育てたのに、ナニコレ」
そう言って昨日収穫した芋をフェリクスに見せる。収穫したのは昨日で、地下保管所にそのまま放置しておいたのだが、今日も元気?に笑っている。ただひたすらに笑っている。非常に気持ち悪い。
「あらら、ケサ芋魔化しちゃったのか」
「魔化?」
「ああ、肥料作る時とか、水やりするときスキル使わなかったか?」
「もちろん使ったけど」
「そのせいだな。いいか?植物や動物が成長の途中で大量の魔素を取り込むと魔化してしまうんだ。例えば今回の場合、肥料を作ったときスキルで作ったから肥料に魔力の残滓、いわゆる魔素があった。その上魔法を使って水やりしていたからそこでも少量ずつ魔素が芋に吸収されていったというわけだ。魔法系統のスキルは当然として、魔力を使うスキルや魔法具の使用でもわずかに魔力の残滓、魔素が発生する。ケサ芋は成長が早い分魔素を吸収しやすく、魔化しやすい」
「うーん、ちょっと待って、そもそも魔化ってなに?」
「そうだな、分かりやすく言うと、魔物になるってことだ。魔素を許容量以上に吸収してしまうと、体内で魔素が凝って結晶化してしまうんだ。結晶化した魔素は魔核、すべての魔物が持つ魔物を形作る中核になる。その魔核が形成されると後は時間の問題だな。魔核を中心に体が魔物に作り変えられていく。それを魔化するという。トレントって魔物知ってるかい?木の魔物なんだけど、実はあれはもともと普通の木が成長途中で大量の魔素を取り込んで魔化してしまった魔物なんだよ」
「そうなんだ。ん?ということは、この芋から魔核取れるの?それを売ったら大儲け?」
「それができれば冒険者なんて商売あがったりだろ」
フェリクスが苦笑して肩を竦める。
なんでも、ケサ芋からでは加工できるほどの大きさの魔核は取れないとか。魔核を加工するには、一定以上の大きさと、含有魔力が必要で、それこそトレントほどの魔物にでもしないと最低限必要な大きさの魔核は取れないらしい。小さかったり、含有魔力が足りなければ、何にも使えないので、焼却処分するしかないとか。その辺にいる魔物を倒しても半分くらいは規格に足りなくて、破棄されると言うのだから、それを人工的に作ろうとすると、十年単位の年月と大量の魔力が必要で、更に木が魔素に負けて枯れてしまうことがほとんどらしい。確かにそんなに簡単に魔核が作れるなら、誰かがとうに商売にしているだろう。
「ということは、この芋使い道は」
「ない。あと、魔化したケサ芋は毒があるから食べられないよ」
「あ、そう」
つまりは不気味なだけでなんの役にも立たないらしい。
「・・・・もしかしてオル芋も」
「どうかな。破棄した方が良いとは思うけど。あれも魔化したら食べられないし」
ガッカリである。
ではスキルを使って農業出来ないのかと言えばそうでもないらしい。
魔素を完全に取り除けるその名も【魔素除去くん】という道具があるらしい。魔法具ギルドに行けば作ってもらえるとか。特殊道具なので注文がないと作らないとかで、食材ギルドも魔法具ギルドも在庫は置いていないようだ。そもそも毎日スキルを使って農業する人はそうはいないうえ、特殊道具で高額なためギルド職員も言わなかったのである。
「フェリクス、はじめに教えてよ」
「忘れてたんだ」
あっさり言われて、リンはまたもやがっくり肩を落としたのだった。
その後、芋は全て焼却処分しました。
こうして、リンのはじめての芋は完全なる失敗作となったのだった。

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