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食材ギルド
ギルドのほとんどは15才以上でないと登録が出来ない。理由は自分がしたことの責任が自分でとれるのが15才以上とされているからだ。つまり15才から成人と見なされる。
しかし、中には年齢制限のないギルドも存在する。
食材ギルドもその一つだ。もっとも登録に年齢制限はないが、迷宮への通行許可や買える食材に対する制限、オークションへの出入りに対する制限など、15才以下の登録者にはかなりの制限が課せられる。そのぶん15才になるまでは年間に一定量の食材を納めさえすれば除名になることはないし、15才になったらリスクを負うことなくあらためてギルドの選択が可能だ。
これは幼い子供でも身分証が必要だが、街に定住していないなど難民や流れ者などの事情があるものに対する救済措置なのだ。
ともあれ、食材ギルドとは世界中の食材の情報を共有するというリンにとって夢のような組織。
リンは、食には並々ならぬこだわりがある。実家は都内にあり、庭さえないが、通っていた高校も大学も農業関係の学校だった。将来は田舎で土地を買って農業をするのだと決めていた。
残念ながら引きこもり生活に入ってしまったが、引きこもると同時に【楽しもう!セカンドライフ オンライン】が発売され、夢の農業ライフをひたすらプレイしまくった。なにげにトッププレイヤーな彼女は珍しい種のためなら【神々の迷宮】と呼ばれる、トッププレイヤーやトップギルドさえがっつり装備やアイテムを揃え、かつ最大人数のパーティーを組んで挑むという最上級難易度のダンジョンにぼっちを貫くためソロで挑む戦う農家なのだった。
そんな彼女にとって食材ギルドはまさに彼女のためにあるようなギルドといえる。
「はあ、まあギルドは成人したら正式に選び直せるしね」
食材について熱く語り出したリンに苦笑してフェリクスが呟く。
「それなら今日はまず食材ギルドに行こうか」
「ぜひ!」
即答し勢い良く頷く。
活気あふれる店内を物珍しげに見ながら、リンはフェリクスについて街へ出ると、思わず感嘆の声を上げる。
「おおおお~」
昨日は馬車の中でフェリクスと話していたからほとんど街中を見なかったが、こうしてじっくり見るとまさに中世ヨーロッパのような世界観だ。
ゲームでは中世ヨーロッパのような街もあれば、和風の街、中華風の街などさまざまあったし、そもそもプレイヤーが樹立した国は国王となったプレイヤーの趣味が反映されるので時には和洋折衷なんてざらだった。
しかしながら所詮はゲーム。たかだかNPC。現実となった活気あふれる街並みとはやはり迫力が違う。
街並みを見てファンタジー世界きた!と思わず興奮した彼女はまるで田舎から出てきたお上りさんのごとくあっちにこっちにふらふらして、街に出て五分でフェリクスと手をつなぐはめになった。
注目の的である。
なに、この羞恥プレイ。引きこもり歴6年のリンに耐えられるはずもなく、フェリクスの陰に隠れるようにして早々にギルドへ向かうのだった。
アリス・オーウェルはその日もいつもと同じように出勤した。
いつものように、ギルドカードをかざし、受付に座る。とはいえぶっちゃけ彼女はいつも暇を囲っている。冒険者ギルドや魔術ギルド、迷宮ギルドなんかは新規登録者も継続希望者も多いのだろうが、食材ギルドに新規登録者など週に一人くらいなのだ。継続希望者だって、せいぜい週に三、四人。登録者自体がそれほど多くない特殊ギルドなので、致し方ない。この新規・継続受付は一日中だれも来ない日だってあるくらいだ。
しかし、その日は違った。
朝受付に座ってすぐに新規登録者がやって来たのだ。それも、まだ成人前の可愛いらしい少女。
「新規登録ってここで良い?」
「あ、はい」
思わず間抜けな返事になってしまったのも仕方がないことだろう。少女の隣には商人ギルドでも将来有望と有名なライセリュート家の長男がいる。うわさ通りの色男だ。しかも金持ちとくれば求婚者があとをたたないというのも納得できる。
「商人ギルド所属のフェリクス・ライセリュートです。彼女の身元保証人は私がなりますので、登録願います」
「保証人が必要だった?」
「ああ、未成年の場合は保証人がいると登録しやすいんだ。保証人がいなくても登録できるけど時間がかかる」
「どれくらい?」
「ギルドによっても違うけどだいたい10日くらいかな」
「そう」
少女は先程からまったく表情が動かない。話し方も淡々としている。顔は非常に可愛いらしいというのに、残念だ。着ている服も黒いロングコートに光沢のある白いワンピース。せめてコートはもう少し女の子らしいものにしてほしい。装飾品もリングや腕輪をつけているが、大人の女性ならともかく、少女がつけるにはあまりにもシンプルだ。ものは良いのだろうが残念である。なんというか可愛いものに対する冒涜とさえいえる。
「・・・あの?」
「はっ、失礼しました。登録ですね。ではこちらの用紙にご記入ください」
ついじろじろ見すぎたらしい。少女にいぶかしげに見られて、アリスはわれにかえった。
「字はかける?」
「大丈夫」
青年の問いに短く答え、用紙に記入していく。ずいぶんきれいな字だ。
「出来た」
「はい、ありがとうございます。リンさんですね。ではカードができるまでに少々お時間がありますので、ギルドの規約をご説明させて頂きます」
食材ギルドで扱う食材は多岐に渡り、普通の野菜や肉、果物からモンスター肉、迷宮でとれる珍しい食材、果ては天空宮の食材や古代の種の栽培まで。ギルドで販売しているものもあれば、食材に関する依頼も仲介しているし、料理ギルドとは違った観点で料理の研究をしている者もいる。年間に二回、ギルドにてオークションが開催され、珍しい食材や種、貴重な魔法具などが出品される。オークションには一般からの参加も可能だ。
登録は自由だが、継続するには年に一回以上ギルドに張り出されている依頼を受けるか、新しい食材の発見、食材の研究をしているならその成果をギルドに提出するなど、とにかく何らかの形で食材ギルドに貢献していることを示さなければならない。それができなくても即登録抹消にはならないが、三年以内に一度も継続しに来ない、もしくはなんの成果も出さなければ登録抹消となり、一度抹消されると他のギルドにも通達が回って、どのギルドにも再登録はできなくなる。
「その場合、王国での市民証の発行すら出来なくなる可能性が高いのでお気をつけください。ただし、今回は未成年ということで仮登録となりますので、五年間ご自分の適正を見られて成人後、もう一度きちんとギルドを選び直してください」
今回は未成年の仮登録であるので、五年間は特に継続手続きは必要ない。が、ギルドで受けられる恩恵の半分以上は使用不可だ。
「食材ギルド登録特典としては、通常は食材ギルドで販売している食材、種、農具等の物品がすべて割引、珍しい食材種の買い取り価格の割り増し、リストにある飲食店の飲食代の割引、迷宮への通行許可証の発行、冒険者ギルドの冒険者を雇うさいの料金の割引、情報の閲覧、リストにある宿屋の割引、農地の斡旋、農地を手に入れる場合の割引などですが、貴女の場合は冒険者の割引と農地の斡旋、各種情報の閲覧だけですね。それにギルドで販売している商品の中には未成年ではお金があっても販売出来ないものもありますのでご了承ください」
「わかった」
特別がっかりする様子もなく素直に頷く。
「それとギルド員にはランクがあります。最初はHランクからスタートし、規定の量の依頼をこなすか、ギルドへの貢献によりランクアップが可能です。ランクはHからSSランクまであり、食材ギルドのS、SSランクともなれば、各国の王族方さえ敬意をはらうほどです。先程お伝えした特典は全員が受けられるわけではなく、ランクが低ければほとんど特典は受けられません。ランクが上がればそれに応じて特典が解禁されます。割引金額もランクが高ければ最高半額になりますよ」
「ほほう」
リンの顔がわずかに動く。どうやら感心しているようだ。
「それと、依頼を受けられる時にはあちらの壁に依頼表がありますので、受けたい依頼表を壁からはがしてあちらの依頼受付カウンターまでお持ちください。壁の右側はギルドからの依頼、左側は一般の依頼です。ランクの目安もありますが基本的に受けられない依頼はありません。ただしもし依頼に失敗すれば報酬の十倍の違約金が発生しますのでご注意ください。ランクアップ申請はあちらのカウンターで受付していますが、未成年の場合はEランク以上にはなれませんのでご注意ください。他に何かご質問はありますか?」
リンは少し考えて首をふる。
「ない」
「ではこちらがギルドカードになります」
「ありがとうです」
ペコリとお辞儀をして少女は青年と去っていった。
こうしてアリスとリンは出会ったのだった。

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