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親切な商人
草原から歩くこと3日。
ようやく街らしき所にたどり着いた。
街をぐるりと囲う壁。門の所には人が沢山いる。よくよくみると、ゲーム内でも見かけたような獣人やエルフ、妖精等がいる。最も割合的には当然ヒューマンタイプが一番多いのだが。
中に入るのに身分証かお金がいるだろうか。彼女は暫く考えて最後尾にいた商人らしき団体に声をかけることにした。
「あの、すみません」
「何か?」
警戒心丸出しで、護衛らしき女性騎士が振り向いた。
「ええと・・・」
はっきり言おう。彼女は引きこもりなのである。当然コミュニケーションが苦手だ。ゲーム内でもソロを貫いていたほどには苦手なのだ。
知らない人に声をかける、それだけのことで彼女の精神力はすでに限界を突破している。だというのに女性騎士の鋭い眼光に耐えられるはずがあろうか、いやムリ。
「な、なんでもないです」
すごすごと引き下がり、他に声のかけやすそうな人を探すことにしようとその場を離れようとしたところを騎士の後ろの馬車のなかにいた商人らしき人が馬車をおりて声をかけてくれた。
「ローズ、そんな怖い顔したらダメだよ。まだほんの子供じゃないか」
そういってにっこり笑いかけてくれたのは二十歳くらいのイケメンだった。鮮やかな青い髪に琥珀の瞳。優しい笑顔。モテ要素満載です。しかも金持ちっぽい。リア充?リア充ってやつね!何となく腹立つ。バクハツしてしまえ!
「お嬢さん、どうしたのかな?」
しゃがんで目線をあわせて聞いてくる青年にちょっとほっとしながら、親はおらず、一人ぼっちであること、街に入りたいが方法を知りたいことをたどたどしく伝える。あきらかに日本人でも日本語でもないのに言葉が通じるのは、どうやらスキル【言語学】の効果のようだ。親切な人だ。バクハツしろ何て思ってすみません。本気じゃないですから。
「異国からきたのかい?」
「わかるの?ですか」
とってつけたような敬語もまったく気にしたようすがない。それどころか普通に話していいよと気さくに言ってくれる。いい人だ。
「この国では黒髪黒目はあまりいないからね」
そういって親切にも街に入るまで一緒に行ってあげようとまで言ってくれる。子供が困っていたら取り敢えず助ける、というのが家訓なのだとか。
子供ってお得だ。外見子供に設定して良かった。さんざん迷った挙げ句子供の外見を選んだあの時の自分を褒め称えたい。
「名前は?」
「・・・・リン」
少し考えて、ゲーム内の名前を名乗る。
こうしてリンはフェリクスと出会った。
★★★
彼の名前はフェリクス・ライセリュート。リヒトシュルツ王国王都リストリヒトに本店を構える大商家ライセリュート家の長男だ。
東大陸で最も大きいリヒトシュルツ王国だが、ここ3年まれにみる大飢饉が頻発し食料不足が深刻なため、フェリクスも一団を率いてそこそこ豊作の続いている隣国アスターヴィル王国へ食料の仕入れに、月に一度は往復している。
国も税収は落ち込んでいるが、元々鉱山が豊富でお金はあるため、近隣の国々からかなりの量の食料を輸入して商人ギルドに安く卸したり、大きな街だけでも配給したりしているが、近隣諸国もそこまで余裕があるわけでもなく、食料はいまだに値上がりし続けている。
それでも国からわずかでも配給があるだけましだ。同じように飢饉の続くナイセイ帝国は食料を輸入するほどに国庫に余裕はなく、そのわりに王族や一部の貴族は宴を開いたり、贅沢な食生活を送っているため、暴動続きだというのだから。
ともあれ、商人たちは各自で食料を仕入れ、仕入れた端から飛ぶように売れる。フェリクスも今回も長年の取引先を回り、予定の量の仕入れが出来たため、急いで王都に帰ってきたのだが、王都へ入るために城門に並んでいるところで一人の少女に出会った。
少女はリンと名乗った。
十歳ほどの黒髪黒目の少女で、親はいないという。
3日ほど草原をさ迷って、ようやく人の住む街を見つけたので、なんとか街に入りたいが、入る方法がわからないと。
親のことやなぜ草原にいたのかは口を濁して話したがらなかったが、綺麗な顔や労働をしたことのないような白い手、高価そうな服をみるにかなり裕福な家の子供だろうから、盗賊にでも襲われた可能性がたかい。顔色も悪く、どこか怯えているようすなのも、そう考えるとなっとくだ。彼女だけがどこかに隠されていて助かったのだろうか。両親か護衛が隠蔽のスキルもちだったのかもしれない。
東の大きな草原ならばフェス草原だろう。あそこは危険な魔物は出ないが、最近かなりの規模の盗賊が住み着いているという話だ。今冒険者ギルドに討伐の依頼が出されていると聞く。
当然、身分証もなくお金は持っているが、使ったことがないので、価値がわからないという。
フェリクスは気の毒になって、一緒に馬車に乗せて街に入ることにした。
「若様!見知らぬ者を車内に入れるのは危険です!」
幼なじみであり護衛の騎士ローズが忠告してくれるが、フェリクスは笑って取り合わなかった。
「危険なんてないさ。馬車には最上級の魔法無効結界が張ってあるし、僕だって君に負けないくらい剣技のレベルは高いんだから。こんな小さな子供に遅れをとるほど非力じゃないさ」
「それは・・・・わかりました。しかし車内にはアルフレッドも同席させます」
怯えている子供に剣を持った護衛と同席はどうかと思うが、それがローズの最大の譲歩だとわかるので、フェリクスは苦笑を浮かべつつも了承した。
「王都に入るには各種ギルド発行の身分証か、銀貨3枚が必要なんだ。今回は僕の連れってことでそのまま入れるよ」
「ありがとう。助かる」
無表情で、淡々とした話しかたはどうやら彼女の癖のようだ。敬語は苦手のようなので普通に話していいよとフェリクスが言うと少しほっとしたようだったし。
「あとお金は半銅貨、銅貨、半銀貨、銀貨、金貨、晶貨がある」
そういってフェリクスはリンに貨幣を並べて見せる。
「半銅貨一枚で1クロム。百枚で銅貨一枚。銅貨からは十枚で半銀貨一枚、半銀貨も十枚で銀貨一枚というふうに換算される。晶貨は高額だからまず出回ることはないね。商人が高額取引の時に使うくらいかな。価値としてはパン一個がだいたい百クロムだけど、今は値上がりがすごいから、パン一個が三倍にはなってる」
「・・・・ありがとう。すごく分かりやすい。今は食料不足なの?」
「ここのところ飢饉が続いててね。雨が降らないから食料も水も不足してる」
リンはよい教育を受けているのだろう。頭がよく国の状況や魔道具の話、果ては冒険者や迷宮の話などフェリクスの話しを興味深く聞いては的確な質問をしてくるので、フェリクスもついいろいろな話しをしてしまった。いつもなら街に入るまで退屈でイライラしがちだが今回はリンのおかげでずいぶん有意義な時間が過ごせた気がする。
「良かったら今日はうちに泊まりなよ」
なかなか、この歳の少女を一人泊まらせる宿はないだろう。ここに着くまでいろいろ大変だったようだし、今日はフェリクスの屋敷に泊まらせて今後のことをゆっくり考えたほうがいい。
そう進めると、リンは少し顔をほころばせてうなずいた。

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