バンド「シン・ジュンヒョンとコインたち」が『美人』で大ヒットした1974年、朴正煕(パク・チョンヒ)政権は彼らに「国民的歌謡曲」の作曲を依頼したが断られた。シン・ジュンヒョンはその後、一風変わったアルバムを発売した。「シン・ジュンヒョンとコインたち」2ndアルバムだ。このアルバムのジャケット写真は景福宮勤政殿前にシン・ジュンヒョン、イ・ナミ、クォン・ヨンナムのメンバー3人がスーツ姿で直立不動の姿勢のまま立っているというもの。アルバムには『美しい山河』のほか、『守ろう』『団結しよう』『肩並べて』などの曲が収録された。誰が見ても「間違えました」がこのアルバムのコンセプトだった。
大衆音楽評論家カン・ホン氏(53)はこのアルバムジャケットを「韓国大衆音楽史上、3番目の名ジャケット」と呼ぶ。カン氏はこのほど出版した本『転覆と反転の瞬間』で、「私がもし(フランス人哲学者)ミシェル・フーコーだったら、このジャケット写真で本を1冊書くかもしれない」と言った。カン氏は「名ジャケット1位」にハン・デスの2ndアルバム『ゴム靴』を挙げている。
この本は韓国大衆音楽評論の独歩存在であり、華麗なる文章力と語彙(ごい)力の持ち主カン氏が初めて出版した本だ。先日、ソウル・光化門で会ったカン氏は、これまで本を出さなかったことについて、「まずは意志が弱いから」と言った。カン氏のことを知っている人は百パーセント共感できる言葉だ。カン氏は「短い文を速く書くのは自信があるが、1000枚を超える文章は私の体質に合わない」と説明した。
この本は2013年夏、ソウル・大学路のカフェ「バンカー1」でカン氏が行っていた講義を基に書かれた。ジャズとロックンロールの誕生、韓国におけるギター革命とグループサウンズの登場、生涯「非正規職」だったモーツァルトとベートーベン、『死の賛美』の声楽家ユン・シムドクとトロット(明るい曲調の演歌)の主流ポピュラー音楽化というテーマで4章にわたり書いた。「難しく語る学者のことを軽蔑する」と言うカン氏は「新聞記事のように中学2年生が読んでも理解できるように書いた」と言った。「韓国でブルースは色事の前哨専用の音楽だと誤解されている」「ベートーベンは史上初のロックアーティスト」といったカン氏独特の表現でいっそう楽しく興味深い内容となっている。