それにもかかわらず、平一氏が平壌入りできたのは、正恩氏が寛大だからではなく、平一氏の助けを借りなければならなかったからだ。正日氏に比べ、権力を世襲する大義名分が絶対的に弱い正恩氏が、政権を維持する大義名分は「白頭の血統」だ。王朝体制には王朝の元祖や家門の後援がなければならない。朝鮮王朝第7代国王・世祖も、譲寧大君(第4代国王・世宗の兄)という強力な後援者はいたために、王位を奪取することができた。正恩氏にとっても、同じように強力な後援者が必要とされる。正恩氏が処刑した張成沢氏や、その妻の金敬姫(キム・ギョンヒ)氏は、「白頭の血統」で唯一の本流であり、家門の大物だった。敬姫氏が張氏の処刑に激しく反発したことで、正恩氏は最も強力な後援者たちを失った。労働党組織部の中でも、敬姫氏の意見に同調する勢力がおり、それだけ事態は深刻だった。張氏の処刑は無知で粗暴な正恩氏が刃(やいば)をもって邪魔者を排除したものといえるが、その後遺症はあまりにも深かった。
「白頭の血統」の支持も十分には得られない正恩氏に対し、心から忠誠を誓うのは不可能だ。予測不可能な残忍さ、大義名分のない粛清で、北朝鮮の上流階級は恐れおののき、ただ事態を見守るという姿勢を見せている。家門の大物がいなくなり、家門からも見放された正恩氏が、絶対的な権力を握ったとしても、大義名分のある反乱が起これば、あっけなく失脚しかねない。このような状況で、平一氏が権力のない党書記政治局委員として迎え入れられ、正恩氏を支持するならば、正恩氏は権力を安定させる上で大きな力を得ることができる。(正恩氏にとって)危険人物ではあるが、その人物を呼んで活用しなければならないほど、金正恩体制は弱体化していることを示している。平一氏は海外を転々としながら、孤独な日々を送ってきたが、将来は予測できない。あまりにも孤独な正恩氏にとって、平一氏が果たしてどのような存在になるのか、今から見守る必要がある。