中塚久美子
2015年8月3日05時32分
おかずやおにぎりでキャラクターや動物を表現した「キャラ弁」。政府が、我が子のために毎日つくる母親を「輝く女性」と紹介したことが、多くの反発を招きました。このことを伝えた記事にいただいた様々な意見をもとに考えます。キャラ弁を通して、いまの子育てや社会はどのように見えるのでしょうか。
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「キャラ弁」に関する記事は6月下旬に掲載しました。内閣官房のツイッターが「女性応援」として、我が子にキャラ弁を作っている女性を「朝起きるのがつらい日も作るのがおっくうな日もある。それでも毎日早起きをしてキャラ弁を作れる理由とは?」と紹介したのに対し、政府に批判的なコメントが多く寄せられたのがきっかけです。
これをどう考えるかを親たちに尋ねると、キャラ弁が愛情の指標のようにみられることへの違和感などが返ってきました。本気で女性を応援するなら長時間労働や性別役割分担の意識改革に手をつけるべきだ、といった見方も紹介し、さらに意見を募集しました。
■弁当、心通わせる手段
キャラ弁への見方は、幼稚園や保育園によっても様々です。
関西大学幼稚園(大阪府吹田市)では弁当に限らず、持ち物全般について「キャラクターものが必要かどうかを考えてほしい」と保護者に伝えています。機関車のコップで遊び出すなど、キャラへのこだわりが、「本来の使途を見失わせる可能性がある」との見方です。週1日の弁当も、食事に集中してほしい狙いがあります。石倉千世(ちせ)園長(56)は「もの本来の意味を子どもに理解させるため、シンプルなものを勧めます」と言います。
石倉園長は親と接する中で、「みんなと一緒じゃないと安心できないんだな」と感じることがあります。目に見えるもので比べてしまい、自分ができないことを焦る姿が見て取れます。「今の子どもは多くのことを求められ、子の成長が親の評価にされる。だから『いいお母さん』をしようとする。キャラ弁もその一つでは。肩の荷を下ろして楽しい子育てをしましょう」
保護者の鈴木亜由子さん(41)は「私はキャラクターものを買わないけど、おばあちゃんが与えることもある。人や社会は色々だと学んでほしい」と言います。
吹田市の千里敬愛幼稚園は、保護者から週2日の弁当の写真を自由に投稿してもらって、ホームページ上に掲載しています。投稿写真には、キャラ弁も、そうでないものもあります。
タイトルは「手作り弁当を自慢しよう!」。小谷隆真(たかなお)園長(66)は「子どもにとってはどんなお弁当でも、親が作ったものが一番」。登園したがらない娘の励みにしようと、キャラ弁を毎回投稿する人もいたそうです。「家族3人の顔むすびです。ボクのお顔が一番おいしかった!そうです」など、保護者コメントも付いています。「お弁当はコミュニケーションの手段です」
千葉県内のある幼稚園は週3日が弁当。手のこんでいた弁当がそうでなくなるなど「変化があったら困難な事情を抱えているのかもしれない。お弁当はシグナルにもなる。教師はアンテナをはっていたい」と園長の女性は言います。
保育園は自園調理の給食が基本です。大阪府内のある園長の男性によると、ふだんは朝ご飯を食べてこない子もいます。園長は「子どもたちは、嫌いなものでもみんなと一緒にわいわい食べる給食が楽しみなようです」と話しています。
■海外を知る人たちにはどう映る?
海外を知る人たちにはどう映るのでしょう。中高一貫のインターナショナルスクール「コリア国際学園」(大阪府)で、最近韓国から来た生徒たちに、日本で初めてキャラ弁を見たときの感想を聞くと、「食べるのがもったいない!」と口々に言いました。キム・カヌさん(17)によると、韓国ではほとんどが幼稚園から給食。食堂でセルフサービスです。遠足は弁当で「ご飯にスープ、キムチと果物」が定番だそうです。シン・ドンヒョン先生(29)は「キャラ弁はかわいさを重んじる日本の文化。韓国では、見た目よりご飯のあたたかさが大事」と言います。
外国にルーツのある児童が約4割を占める大阪市立南小学校。保護者でフィリピン出身の小宮路レアさん(35)は最初、弁当に戸惑いました。フィリピンの地元では保護者が温かいスープなどを届けたそうです。食の細い娘に食べてほしくてネットで作り方を研究。今では、日本の弁当は「冷たいままでもおいしいし、バランスも取れている」と思うように。アニメのキャラ弁をねだられたら、魚やひよこの形に作ると喜ぶので「それで十分」。5人の子がおり、できるだけ無理しないようにしています。同校は、弁当の写真を載せた英語のチラシを参考に配っています。ただ、山崎一人校長(60)は「無理に日本のやり方に近づけるのはよくない。お互いの文化を認め合うことが大事」と話しています。
●キャラ弁は、何を食べているのか分からないのでは。例えば、ブロッコリーの一部を飾りや彩りに使うと、形や硬さを実感できない。「こんな味かあ」と考えることも必要です。(大阪府吹田市 女性 自営業 45歳)
●将来、仕事と家庭を両立できるか不安です。高校時代、母が毎日弁当を作ってくれました。友人から「いいお母さんだね」と言われました。母を尊敬しています。でも、同じことができる自信はないし、他の家事に比べて「弁当は母の愛」という意識が根強いのは居心地が悪いです。(大阪府茨木市 女性 大学生 20歳)
●長男が2歳の頃、キャラもののご飯を作り始めました。理由は小食。「食べてくれないとクマさんが泣いちゃうよ」と声かけしました。今思えば、無理に完食させる必要はなかったかも知れませんが、初めての子育てできっちりやろうと必死でした。(静岡市 女性 パート 37歳)
●私の時代はモノがなく、普段は麦飯だけど、遠足の弁当は母が巻きずしを作ってくれました。弁当を持って来られない子はみんなに分けてもらっていました。今の親御さんも、おにぎりでいいから作ってあげて。親の温かみは思い出になります。(福岡県田川市 主婦 68歳)
●キャラ弁とまではいかないまでも、朝早く起きて奮闘しました。仕事で帰宅が遅くなったり、参観が終わりそうなころに到着したら子どもが半べそかいていたり。せめてもの償いだと思うと、幼稚園の週3日の弁当も苦ではありませんでした。(仙台市 女性 事務職 47歳)
●育児に悩んで子どもにつらくあたる人の話を聞き、子どもを守るには、母親を守るのが一番だと思いました。母親が笑っていることが大切です。私はキャラ弁を作ろうと思いませんが、一緒に楽しく遊びます。子どもに「母もそれぞれ」と分かってもらいましょう。(新潟県新発田市 主婦 27歳)
●18年間、子ども3人の誰かの弁当を作っています。キャラ弁は園児時代の末娘だけ。正直、頑張ってうまく出来た日はどっと疲れました。私の頑張りを示すためと、3人目は写真が少なくなるので、証拠写真は必ず撮りました。(愛知県岡崎市 主婦 49歳)
●キャラ弁どころか、弁当持参を廃止し、給食か食堂への移行を提案します。食材に火を通し、レンジでチンし、弁当箱を洗う。日本全体でどれだけの水やエネルギー、働く母の時間を使っていますか? 温かくバランスのよい昼食が大事。「母の愛情信仰」が合理化、生産性向上、省エネを邪魔していると思います。(長崎市 主婦 53歳)
●周りの若い母親たちが、「うちの子だけ違ったら」と何事にも横並びを意識しているのが気になります。「人と同じ」を強要してきた教育の弊害では。キャラ弁だけでなく、「自分は自分、人は人」で、他人を認めることができればみんな生きやすい。(秋田県湯沢市 女性 会社員 47歳)
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たかが弁当、されど弁当。日常だからこそ見えてくる社会のひずみを感じました。
私も中学3年生の息子に毎日弁当を作ります。忙しい日はつらく、マンネリ防止など考え出したらキリがありません。入学前、3年間で市内全中学に給食を整備する、と説明がありましたが、その気配はなく、もうすぐ卒業です。
記事には24件のご意見をいただきました。痛感したのは「男性の不参加」。一人で背負う「お母さん」は、親としての評価や子どもへの影響を心配して周りに同調したり、そうした「圧力」への違和感を抱えたりしていました。「みんな違ってみんないい」はずなのに、なぜでしょう。
それに、弁当を持たせられる家庭ばかりでもありません。男性の家事・育児へのさらなる参画と、行政が児童・生徒の昼食を保障する。キャラ弁を通じて、この両輪が必要だと改めて思いました。(中塚久美子)
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◆中塚と稲垣大志郎、河合真美江が担当しました。
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