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キャリアの「通信の最適化」から見るスマホ社会の課題
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キャリアの「通信の最適化」から見るスマホ社会の課題

2015/07/31

 今回は、各通信キャリアが実施していると最近話題の「通信の最適化」について考えてみます。

 まず初めに、そもそも「通信の最適化」とは何なのか。普段、スマホで画像や動画などのデータを送受信する際にはパケット通信を利用しています。これらのファイルを圧縮や変換してファイルサイズを縮小し、ファイルの表示速度や動画や音楽が再生されるまでの時間を早めるのが「通信の最適化」です。もちろん、これらの処理でデータ量が小さくなる分、元の画像や動画ファイルから品質が劣化してしまいます。この様な処理が利用者の気づかない間に行われていたことが問題となっています。

 この「通信の最適化」は全ユーザーが対象となっていて、キャリアの通信トラフィック(データ通信の量や密度)が増加した際に行われているようです。

通信の最適化はユーザーにメリットなし?

 「通信の最適化」がユーザーに何をもたらすのか、メリットとデメリットをまとめました。

メリット

  • データ通信量が削減されてパケット通信料金が減少する
  • 通信にかかる時間が減ってバッテリー消費が軽減する
  • 表示や再生の速度が早くなる

デメリット

  • 画像などの品質が劣化して、元のファイルに戻せない
  • メタデータ(写真の撮影日など、さまざまな付加データ)が削除される場合がある
  • 元のデータが改変されるので、電気通信事業法で保護されるはずの通信の秘密が守られない可能性がある
  • WEBサイトに使われている画像も圧縮されサイズ変更されるため、サイトが正しく表示されない場合がある
  • データを改ざんしたと判断され、アプリに不具合が発生する場合がある

 メリットであるパケット通信料金の減少は定額制ですので実質変わらず、電池の消費軽減も体感として大きく変わるものではないため、ユーザーにとってはあまりメリットは感じられないといえます。

 またデメリットの方では、この通信の最適化が原因で不具合が発生したゲームアプリがありました。ゲーム内の画像が最適化で表示できなくなって発生するもので、アプリ提供側も予測だにしなかった不具合でした。

通信の最適化をしたくない場合の対応は

 このようにユーザー、アプリ提供者にとってメリットが感じられない「通信最適化」ですが、これをユーザーの意思で利用のON/OFFを行うことができるのか調べてみました。

docomo

・設定が可能
 My docomoまたは151へ電話から変更が可能

KDDI

・設定が可能
 157に電話でをかけて変更が可能

SoftBank

・設定は不可
  通信の最適化は強制。設定を解除できない

 対応は通信キャリアによって異なり、SoftBankでは解除できないというルールになっていました。先ほど挙げたようなデメリット以外にも、ユーザーが不便を感じるシーンが今後でてきそうです。

通信キャリアはなぜ最適化を行うのか

 ユーザーにメリットの少ない「通信の最適化」ですが、実施すれば通信キャリアはトラフィックを軽減できます。そうすると、少ない基地局でユーザーを増やせるなどコスト面でのメリットがあります。

 今回の通信キャリアによる「通信の最適化」の導入は、高画質動画などコンテンツがリッチ化し、それを利用するスマホユーザーが増える中で、「通信最適化の解除」を有料のオプション契約で提供するといった新たな料金プランへの前触れではないかと筆者は考えています。実際MVNO事業者などによる一部のサービスでは、この通信の最適化や特定のコンテンツへのアクセス禁止を条件に格安のプランを提供しています。

 

今後の課題とは

 利用者の知識不足から、今まではこの様な事実上のグレードダウンになる契約内容の変更があってもあまり騒ぎにはならないことがほとんどでした。スマートフォンが普及してMVNOの利用がひろがり、利用者の通信に対する知識が大きく向上したことで通信の最適化が注目されたのではないかと思っています。

 通信キャリアが提供する公式コンテンツやキャリアメール離れが進み、MVNO事業者の格安SIMの利用が拡大しています。MNPで通信キャリアや機種を簡単に変更できるようになった今、ユーザーは通信料金だけではなくサービス内容を比較して乗り換えるようになってきました。

 今後のスマホ社会では利用者は自分の利用するサービスや価格について知り、選択をすることが求められていきます。また、通信キャリアはユーザーの求めている利用シーンにあわせてわかりやすい料金体系でサービスを提供することが課題になっていると言えるでしょう。

 衰退した端末メーカーだけではなく、今後は通信事業者もより慎重な対応が必要になりそうです。

mr_ikehata

池端 隆司

個人で1000台以上の携帯端末を保有する携帯博士。株式会社ウェブレッジの品質検証事業部長としてテストチームのマネージメントをするほか、「携帯電話研究家・品質コンサルタント」として活動。品質管理体制の構築・検証手法の提案、ニアショア・オフショア検証の体制構築提案を実施。そのほか国内、国外の携帯電話市場調査やアプリケーションの企画やアイディアの提案なども行う。


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