The Wolfpack監督:Crystal Moselle/2015年/アメリカ
両親に監禁されて育った子供たちのドキュメンタリー
友人に購入してもらい鑑賞。アメリカでは2015年6月に公開され、サンダンス映画祭ドキュメンタリー部門を受賞しました。購入する方法はいくつかありますが、DVDやBlu-rayはまだ出ておらず、日本からだとクレジットカードなどの問題があり手順がややこしいので頼みました。PayPalがんばってくださいお願いします。公式サイトはこちらになります。
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『The Wolfpack』親に監禁されて育った子供たちが外に出るドキュメンタリー、自宅学習してて(宗教絡みなのか?)家で映画だけ見てて映画の真似ずっとしてる。外に出たとき言うのが「3Dみたい!」でゾッとする。見たい。
— ナイトウミノワ (@minowa_) May 18, 2015
あらすじ:アパートに閉じ込められ映画だけを見て生きてきました。
マンハッタンの低所得者用アパートに住む父と母、そして7人の兄弟たち。両親の教育方針により彼らは14年間アパートから出ることを許されず、5,000本以上の映画を見てお気に入りを真似していた。
※ネタバレしています。英語字幕がなく、わたしの英語力の限界もあって、聞き取りが間違っている部分もあると思います。この映画をご覧になった方で、わたしの感想部分にではなく映画内容部分の記述に間違いがありましたら追記・訂正しますのでTwitterのリプライで教えて下さい。その際はツイートの引用をさせていただきます。
また、最後に、この映画の「ドキュメンタリー映画としての問題点・疑問点」を挙げています。それらに関わる部分には文末に※印をつけています。
- おすすめ
ポイント - 知りたいことはすべて明かされないままなので疑問が多く残ります。おそらく続編があるでしょうから、そちらを待ちたいところですが、続編でも謎は明かされるのかどうか……。
トレーラーに出てきたりサイトで紹介されているあらすじには「6人の兄弟」と書かれていますが、実際は7人です。末っ子に女の子がいるんですね。チラチラ映るだけで話をせず、後半に母親が自分の母親と電話しているシーンで「子供が7人いる」と言うまで気付きませんでした。名前はヴィシュヌのようです。
6人の男の子はバガヴァン、ゴーヴィンダ、ジャガディサ、クリシュナ、ムクンダ、ナラヤナ。
「外の世界は恐ろしい。ドラッグがはびこっているし、犯罪が多い。銃もある。政府は信用出来ない。
子供たちを危険から守るために、外には出さない」
これが父親の主張です(※)。子供たちは母親から教育を受けていました。母親は教員免許を持っていると言っていたけれど、事実なのかどうか……。
子供たち、特にインタビューをよく受けている2人は、自分らが置かれている環境について受け入れつつもそれが異常であるとは認識していて、きちんと言語化し他人にわかりやすく伝える能力を持っているんですよね。たくさんの映画を見てセリフを真似をしているからなのか、はっきり話してくれるので、わたしでもそこそこ聞き取れる。
「映画だけが外の世界を知る手段で、自分たちは社会と断絶されている。外は怖い。
もし親が死んだら自分が働かなくてはいけない、それは無理だとわかっている」
彼らは、家庭内へカメラが入るまでまったく外へ出なかったか、というとそうではなく、父親が買い物へ行った3時間の間に、長男がアパートを抜け出します。そのまま数ブロック歩き、店を見たりし、また戻ったようです(※)。
彼らが映画の真似をする方法は、DVDをコマ送りしてセリフをすべて紙に書き写し、タイプライターで清書して脚本を作るんですね。映画ごとにファイリングし、脚本の表紙もイラストを描いて(部屋の壁一面に自作の映画ポスターが貼ってあります)カメラワークも元の映画とだいたい同じようにして撮っている。カセットテープで音楽をかけながら、そのシーンを真似するんですね。
衣装や小物は当然手作りで、ダンボールやヨガマットを使っています。とくに銃の種類は多く、弾倉を外せるようにしてあったり、シリンダーが動くようにしてあったりと細かく作ってあります。
「一度、銃の密売容疑をかけられてSWATが家に来たことがある。
全員手錠をかけられ、家の中を見られたが、うちにあった大量の銃は全部プロップだよ」
一人がさも楽しそうにこう言うのですが、ふっと思ったんです、これ、作り話じゃないのかな。誰かが外に出ていて他人とコソコソやりとりしたり、密告されたり、警察がある程度の調査をしなければ、SWATが出動するまでの事態にならないんじゃないか。彼らが好み真似する映画は警察がイマイチうまい働きをしないし、すぐSWAT出てきますから、もしかしたら……と。彼らが現実と映画を混同しているとか嘘つきだと言いたいわけではなく、彼らにとって、そして彼らが想像しうる範囲での「人に披露したい、おもしろ話」「こんなに銃が良く出来ているんだよ自慢」なんじゃないのかなって。
「『ゴッド・ファーザー/パート2』は素晴らしい。『ダークナイト』は最高だ。
『ロード・オブ・ザ・リング』も『市民ケーン』も、何がいいのかよくわからない」
彼らが真似する映画、クエンティン・タランティーノ監督作がちょいちょい出てくるんですね。『レザボア・ドッグス』は特にお気に入りのようだし、『パルプ・フィクション』の真似もしている。
これ面白いなと思ったのが、『パルプ・フィクション』でみんなが真似したがるシーンってサミュエル・L・ジャクソンのエゼキエル書のところじゃないですか。彼らはそこじゃなくて、ハーヴェイ・カイテルが来て命令されて文句言いながらクルマの中を掃除し、水ぶっかけられるところなんですよね。ちなみに水はね、霧吹きでシュッシュッてしてます。ささやか。
『ダークナイト』『ダークナイト ライジング』の真似をするシーンもあります。ヒース・レジャーのジョーカーは当然として、トム・ハーディ対クリスチャン・ベールのアクションシーンもやってます。
『バットマン』本当に好きみたいで、衣装の凝り方は半端ないですね。
またハロウィンには、部屋の真ん中に藁人形を立てて『ナイトメア・ビフォア・クリスマス』の音楽をかけながら、レザーフェイス、ジェイソン、フレディなどの衣装を着てロウソクを持ち、藁人形の周りをまわりつつ、最終的にそれに火をつけます。わたしホラー映画あまり詳しくないのでわからなかったのですが、友人が「すごいマニアックなホラー映画のキャラクターもやってる……」って言っていました。
ただね、本来って、ハロウィンはそういうお祭りではないじゃないですか。子供だったらお菓子もらう、がメインでしょう。でも、お菓子をもらう真似、はしないんですよ。彼らがすでに、お菓子もらうような年齢ではないにしてもね。映画に出てくるハロウィンが、わりと怖いものとして扱われることが多いからかなあ、とかね。なんかねえ、切ないんですよ見ていて。
「デヴィッド・O・ラッセルとクリスチャン・ベールは最高だ!」
兄弟らが製作者に連れられ、初めて映画館へ行くシーンがあります。家を出る前に母親は息子たちひとりひとりをハグし、あまりにも心配げなので、何するんだろうと思っていたら映画館です。ハッキリ言ってたかが映画館ですよ。危険なことなにもないんですよ、それなのに母親は、まるで二度と会えないかのような見送り方をするんです。
映画館の看板を見落としたので何を見たかわかりません、見返して確認すれば済むんですが、なんとなくここはね、彼らが好きそうかどうかって思いめぐらしたい。カメラが家に入ったのは2010年からのようなので『ザ・ファイター』かな。
「お父さん? 呑んでるよ。昨日も呑んでた。毎日呑んでる」
両親は子供たちや夫婦の映像をたくさん残しています。ビデオの日付のところ、2006年〜2008年が多かったです。雑魚寝しているようすとか、電車ごっこみたいなのしているようす、夫婦のキスシーンとか、KISSのフェイスペイントしてダンボール製のギターを演奏しているようすとか。のちに彼らは本物のギターやドラムを買ってもらい、演奏しています。
両親は、外から入ってくるような物をすべて遮断することはなく、むしろ際限なく買い与えているようにも思えるんです。とくにDVDはね。映画の内容で検閲するわけでもない。
最終的に彼らは自分たちで映画を撮ります。アパートの中にセットを作り、衣装を用意し、おそらくこの映画のスタッフである女性にも協力してもらい「檻の中に閉じ込められた『感情』を表現する」という内容のものです。そして子供たちのうち数人は、髪を切り服装も変え、外の世界へ出てゆく、家を出るんですね。父親と残ることを決めた子もいます。家族は完全にバラバラになっていくのです。
果たして彼らにとってこの結末はベストであったのか、家庭の問題について他人が過干渉してもいいのか。最後にテロップで「わたしたちは彼らをこれからも追い続けます」みたいなのが出ますが、製作者側にとって彼らが「コンテンツとして有用である限り」なのではないか、とも思うのです。
子供たちのうちの一人が言っていたように、外に出たからには働かなくてはなりません。社会と断絶し映画の世界しか知らずに生きてきたら、歩める道は映画関係しかなく、役者にはなれないでしょうから製作者になるしかない。サンダンス映画祭で賞をとった今は、脚光を浴びています。実際、彼らはこの映画をきっかけとして、ロバート・デ・ニーロなどに会っています。ずっと映画の中でしか見ていなかった人に会えてしまう、夢の様な出来事ですが、あまりにも「過去」と「現在」とのギャップが激しい。
では「未来」は? 人から注目されなくなったら? どこまでがんばれる? がんばって欲しいって、言うのは簡単だし、そう思うけれども、心配になります。余計なお世話だったとしても。
最初にも書きました通り、この映画では描かれない謎が多く残ります。父親は何の仕事をしているのか。ほとんど出てこなかった女の子は家庭内でどういう扱いを受けていたのか。子供たちはみんな仲が良く、ケンカしているふうな場面はありませんでしたが、衝突はなかったのか(わたしが聞き取れていないだけかもしれません。特にインタビュアーと母親の英語が聞き取りづらく、電話シーンはわかりましたが他は自信がないので触れませんでした)。
性的なものに興味を持ったときはどうしていたのか。ひとりにしておいてってことがあったのかなっとしか想像出来ないのですが……。反抗期はどうだったのか。こちらに関しては、反抗期がない子供もいると聞きますし「他人と比べてうちはこんなだから反抗してやる」みたいな、社会との関わりから来るものも少なからずあるのかと思うので、子供の心理に詳しい人の意見が聞きたいです。
もうちょっとライトな興味としては、彼らはもちろんインターネットもやりませんから映画の感想は他人の影響をまったく受けないわけで、兄弟間で感想の言い合いは当然あるにせよ、特に人間関係に重点が置かれた映画に対しては同じ境遇の持ち主どうしの感想ですし大幅に視点が違うこともおそらくないと思うんです。 好みは当然違って「『◯◯』がオールタイム・ベストだね」「俺はそれは2番目に好き」みたいなやりとりはありました。そんな彼らが書く映画のレビュー、ものすごく読みたい。
『The Wolfpack』ドキュメンタリー映画としての問題点・疑問点
父親はペルー人で「Hare Krishna follower」とありました。劇中でそれに触れられたかは聞き取れていませんし、この書き方が教徒を示すかどうか、間違っていたら申し訳ありませんが、ハーレークリシュナ教徒だとしても、信仰と教育方針とは関係がないようです。そもそもお父さん酒飲みなので厳格な教徒ではないと思います。ただ、子供らの名前は特殊ではあるので、これは……もしや……とは思ってしまいますよね。まったく触れていなかったとしたら、故意に宗教問題を避けたとも取れてしまうし、閉じ込めて育てたことが宗教と関係ないのなら、ないで、明確にしてもいいと思うため、踏み込んでおいても良かったのではと思います。
「子供たちは外へ出なかった」「父親の目を盗んで長男が外へ出た」については、けっこうな問題であって、なぜなら劇中では語られませんが、カメラが家に入るきっかけになったのは「6人全員で『レザボア・ドッグス』の格好をして外を歩いているときに、たまたま通りかかった監督が彼らを見つけ、話しかけたこと」だからです。もちろん父親が外出を許すはずはないでしょうから「父親の目を盗んで『全員が』外に出たこと『も』あった」のだと思いますが、そこを隠すとドキュメンタリーとしての信頼度が落ちてしまうと思うのです。
以上についてのソースはこちらになります。そもそもこれをソースとしていいのか、もうちょっと調べるべきというのはありますが、すいません疲れました。
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