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Planetreconstruction Company Online 第二部スタート  【VRMMO運営側+惑星改造企業再建】 作者:タカセ

地球編

1/66

白くて黒い運営会社

 とりあえずの導入としてVRMMO物の皮を被ったプロローグでいってます。
 イメージモチーフとした作品の某侵略会社的なノリになればと。
 このモチーフとした作者様原作の同世界観アニメを見てたら、設定とプロットだけ考えていたこの話が急に書きたくなったという突発的な感情が生み出した物ですが、お付き合いいただけましたら幸いです。
 基本サービス業においては自分の都合や休みの重要度は低く、お客様が最優先になる。

 ましてや週一のメンテ時間以外は年中無休二十四時稼働し続けるVRMMOのGMともなれば言わずもがな。

 1日8時間。週40時間労働を謳う労働基準法なんぞ遠い国の法律だって感じだ。

 特にここ2週間はその傾向が顕著。

 病欠による急な人手不足から始まり、イベント会場の手配ミスで代替え場所の確保に奔走。

 ゲーム内の小さなバグの発覚から修正による、さらなるバグ発生また修正のループに追われ。

 それが終わったかと思えば、お客様間のトラブルでのGMコールの頻発で対応に大わらわ。

 1日、2日の泊まり込みは当たり前。 

 1週間家に帰れずなんぞもざらにあっても、客商売なんだから仕方ないと思ってしまうあたり、徐々に社畜根性とやらが染みこんできているんだろうか。

 入社3年目の新人に毛が生えた程度の俺ですらこれなんだから、会社の仮眠室に巣を張って一月近く泊まり込みしている先輩方の精神構造はどうなってるのやら。

 借りているアパートの賃貸料と在宅時間の釣り合いが取れていないよなと考えつつ、視界の隅に浮かんで見える仮想コンソールに這わせた指を休み無く動かし、操る予定のボスキャラの姿を見ながらパラメーターとスキルの変更を続ける。

 網膜ディスプレイに映るその姿は三頭六椀を持つ巨大スケルトン。

 ぼろぼろのマントを幾重にも纏い、腕の一本にはミイラ化した人間の頭部が鈴なりにぶら下がる杖を持っている。

 キャラクター名 『アスラスケルトン』

 不死を得るための死霊魔術研究の果てに、自分の妻と子供を喰らい不死を得た魔術師のなれの果て。

 このボスキャラは速射型魔導師が基本デザイン。

 特に遠距離攻撃魔術は種類も豊富にそろっているうえ、どれも軒並み高レベルに設定されている。

 前回、前々回、中の人を勤めたGMらの設定も遠距離魔術戦闘路線に固定されていて、強化スキルはほぼ同じ。

 スキルの設定レベルが微妙に違う程度だ。

 そのセオリー通りの設定を確認しつつ、俺はあえて遠距離魔術攻撃系の威力を牽制程度までに下げていく。

 攻撃魔術のレベルを下げた事で、大量の余剰スキルポイントを確保。

 生み出したスキルポイントを、遠距離攻撃を得意特性とするアスラスケルトンの場合は上昇効率が悪い近接距離スキルへとつぎ込んでいく。

 もっともアスラスケルトンは近接距離用攻撃スキルなんぞ、両手の指で数えれる七つしか所持してない。

 そのうえ実用性の面で使えるのといったら二つだけ。

 ここまで少ないと、目当ての物以外はばっさりと切り捨てられるので逆にありがたいくらいだ。

 右腕が接触した物を跳ね返すアクティブカウンターの使用回数を無制限に変更し、スキルウェイト時間も最短の五秒に変更。 

 もう一つの武器。プレイヤーキャラを毒殺して乗っ取りAI操作に切り替える左手のマリオネットポイズン、

 こちらは毒のレベルを最高まで上げると共に、同時効果キャラ数と効果持続時間を上げておく。

 二十種以上の高レベル遠距離魔術スキルを下げて生み出した大量のスキルポイントだったが、たった二個のスキル強化にほとんど消費していた。

 残ったスキルポイントは雀の涙ほど。

 その僅かな残存ポイントをパッシブ防御スキルの直接攻撃用、魔術攻撃用の二つのシールド強化に均等に振って、DFを上げられるだけ上げた所で設定完了。


『三崎。そろそろ準備はいいか? アカツキ迷宮第五、第六階層解放予定時刻まであと二分だ』


 俺が準備を終えたのを見計らったかのように、潜り込んでいた筐体のスピーカーから上司の中村さんの声が聞こえてくる。

 中村さんは当社の初期立ち上げメンバーの一人でゲーム全体のバランス担当をする主任GMの一人。


「はい。設定完了。いつでもいいっすよ」


 返事を返しつつ仮想コンソールを消して首筋のコネクタに刺さったケーブル配線を再度確認して座席の位置を調整。

 妙な体勢で潜っていると帰ってきた時に体が痛くなるので位置調整は重要。

 個人用完全調整がされた専用筐体ならばそんな心配をしなくても良いが、あいにくと我が社はゲーム会社としては中堅所。

 そんな贅沢品はなく、倉庫を改装して作られたGMルームには味気ないデザインの汎用共通規格筐体がいくつも並んでいるだけだ。

 そんな境遇の俺にとって尻の下に敷くマイ座布団は心強い相棒。

 形と柔らかさにこだわり抜いた品で、一プレイヤー時代からの必須アイテムだ。


『どら、確認させてもらうぞ』


 決められた範囲内でならスキル構成やパラメーターを自由にいじれるといっても、アンバランス過ぎてはゲームとしては成り立たない。

 攻撃一辺倒のスキル振りで壁プレイヤーを一撃で沈められても、こっちのDFが低すぎの紙だと興ざめ。

 かといって逆に防御スキルに鬼振りしたとしても、その代償で攻撃がしょぼくなれば、単に固すぎるだけで緊張感の無いつまらない雑魚ボスになる。

 ここら辺のゲーム性としての問題と、GMとレアアイテム狙いのプレイヤー間の結託を防ぐために平や臨時雇いGMが決めたパラメータとスキル設定は、毎回毎回主任GMによって監査され承諾して初めてゲーム内に反映される。

 監査の結果、問題なしと判断されれば設定通りに改変され、もし却下されればデフォルトでの出撃となるのだが、


『……相変わらず人を食った設定が好きだな。死にスキル扱いのマリオネットで同士討ち狙いか。久しぶりの出撃だってのに、こりゃお客さんからブーイングだ。巫山戯るなって声が山とでるな。中身絶対ミサキだろってな』


 言葉とは裏腹に中村さんが楽しそうに笑いプレイヤー間で悪名高い俺のGM名をあげながら確認コードを打ち込んできた。

 GM確認のシグナルを打ち込まれたスキルデータが俺の設定通りに上書きされていく。
 設定を承諾する主任GMは現在中村さんを含めて十人いるがそのさじ加減はそれぞれ微妙に違う。 

 その観点から見れば俺の今日の設定は中村さんの好みに直球で収まったようだ。


「そういう意地の悪い所もリーディアンオンラインの売りってもんでしょ。んじゃ三崎伸太っと、もといGMミサキ。アスラスケルトン出撃します」


 軽口を叩きながら俺は自分の右こめかみのあたりを指で軽く叩いて、脳内にナノマシーンで構築されたシステムに没入開始の合図を送る。

 次の瞬間、脳内を電撃が走るような高揚感とともに、俺の意識は仮想体験ゲーム世界『リーディアンオンライン』内へと飛ばされた。






 リーディアンオンラインのゲームデザインそのものは、よくあるVRMMORPGとさほどかわらない。

 種族を選び、職業を選んで、分身となるキャラの造形を終えたらあとは自由だ。

 ただひたすら狩りをしてもいい。

 アイテムを集めて生産して商店を開いてもいい。

 ソロで黙々と自己鍛錬に励んでも良いだろう。

 気の合う仲間を見つけてギルドを作るもよし。

 野良パーティでわいわいやるのもまた楽しい。

 大きすぎるリスクを覚悟なら他のプレイヤーに襲いかかる罪人プレイも止めはしない。

 逆に賞金首となった罪人プレイヤーを狩る賞金稼ぎプレイもある。

 とにかく自由。

 ここら辺は別段特筆するような内容ではなく、他のゲームでもよくあるデザイン。

 だが一つだけリーディアンオンラインには他のゲームと違う事がある。

 この一点こそが中堅所のソフトウェア会社が開発運営するリーディアンオンラインが、栄華零落の激しいVRMMO業界で稼働して六年も経つのに未だに一定の好評を得ている理由だ。

 リーディアンオンラインの特徴。

 それはゲーム内の迷宮にそれぞれ月一で出現する500体のボスが、雑魚モンスターのようにプログラムでは無く、中に人が入った有人操作である事。

 ボス操作を行うGMは他のVRMMOゲームで廃人として名を馳せた元プレイヤーなんてのもごろごろいる強者揃い。

 他にも年末年始や夏休み突入週間などはイベントが開催され、スペシャルゲストとしていろいろ変わり種をボスの中身として引っ張ってきたりしている。

 引退したばかりの有名格闘家やスポーツ選手など脳内神経が肉体操作に特化した連中は目にも止まらない俊敏性でプレイヤー達を翻弄する。

 碁や将棋の高段位棋士等の戦略派が配下のNPCモンスター群を流れるように操って、次々にプレイヤー達を毒牙にかけていく。

 VR技術は元々軍事用に開発されていたので、最初期からVR訓練を腐るほどやっていたアメリカ海兵隊のエリート小隊を呼んだらおもしろいんじゃないかなと宣った社長発言から、あらゆるコネを動員して投入した時なんかは、高位ボスキャラとその取り巻き中ボス五体に対してキルレシオは40000:6を突破し、お客様からは大人げなさ過ぎると大好評を受けたりもした。 

 そんな経験も分野も職種も違う連中なのだから、同じキャラでも自然と戦い方は多種多様となる。

 見かけたプレイヤーに猪突猛進で襲いかかるのを好むGMもいれば、迷宮内に罠を張り巡らして追い詰めていくGMもいる。

 プログラムの癖を見抜いた必勝法など存在しない、毎回毎回違う攻略法を求められるボス討伐戦。

 これこそがリーディアンオンラインの特徴であり売り。

 そしてこの売りを最大発揮させる要因としてプレイヤーのボスキャラ操作権利争奪戦がある。

 これは文字通りプレイヤーに特別にボスキャラ操作を行わせるというもの。 

 ゲーム内で行われるボス戦は全て録画され、オフィシャルホームページ上で次の月まで公開されており、この映像から一番良かった物、盛り上がったボス戦などを選ぶプレイヤーによるベストバウト投票を行い、先月の一位から三位までが決められるといった具合だ。

 この一位から三位までの戦いの中で最も活躍したと判断されたMVPプレイヤーに召還状が送られ、本人が承諾すれば一回分のボスキャラ操作権利がプレイヤーに与えられる。

 最もこの判断というのがくせ者。

 MVPの選定は、主任GM達の合同会議で決められるからだ。

 ただボスに一番ダメージを与えただけの プレイヤーをMVPに選んだのでは、支援職や回復職が日の目を見ない。

 それにせっかくボスキャラをやらせるのだ。戦い方がおもしろくなくてはいけない。

 だから主任達の選定基準は自然と厳しくなる。

 いかにゲームをおもしろくするか、お客様に楽しんでもらうか。

 これにこだわる中村さんを初めとする主任GM達の選定があるから、特定のプレイヤーをGMにしようとする組織的投票などが難しいので公平感を生み出している。

 さらに実際のボス操作を行って討伐戦を大いに盛り上げて見せれば、その才能はゲームに有益と判断されることもある。

 そうなれば今度は逆に会社側からスカウトされ、時折ボス操作の声が掛かるバイト登録や、さらには俺のように常勤の社員として雇われる道すらあったりする。

 しかしこれが罠だった。

 ゲームをやって金がもらえると喜んだのは最初だけ。

 常勤になったら、リアルでの雑用にイベント手伝いがメインとなり、ゲーム内でもチート監視巡回やらお客様間の喧嘩仲裁などの下働きばかり。

 一番楽しみだったボスキャラ操作なんぞ月に一回回ってくるかどうかだったりする。

 しかもそれがしばらくしたら当たり前だと思うように教育されるのだから質が悪い。

 そんな当社のモットーはお客様第一。

 ゲームのクオリティが第二。

 自分の生活? 

 そんな物は屑籠に放り込めといわんばかりの超絶ブラックな会社。

 それがリーディアンオンラインを運営管理する、我が愛するくそったれなホワイトソフトウェアだ。












 現実から仮想世界に降り立った瞬間はいつも違和感がつきまとう。

 いくら精巧になったといっても再現の限界があるのだろうか?

 現物の脳とダイレクトリンクした仮想体は、理論上は本当の体と変わらない感覚で操れるはずなのだが、どうにも意識と体のずれを感じてしまう。

 だがそれも仕方ないとは思う。

 三つの頭蓋骨を乗せた頭部に六本腕で宙にふわふわと浮く身長4メートルの巨大骸骨。

 今の俺の姿は化け物そのものなんだから。

 今更の違和感を気にしている時間は無い。ともかくお仕事といきますか。


「NPC軍団起動」


 俺の呼びかけに周囲の空気が揺らぎはじめる。

 灼熱の炎を纏う死霊の群れが出現し、足下に広がる不気味な黒色の水をたたえる底なし沼から、さび付いた弓や手斧、剣を携える二つ首のスケルトンと、両眼と額の三つの瞳孔を見開いたゾンビ魔術師軍団が水滴を纏いながら水面へと這い上がってきた。

 数はそれぞれ四千体。計一万二千の大軍団。

 こいつらはすべてAI制御NPCで自動戦闘を行うボス護衛モンスターだ。

 護衛といっても設定レベルは30台でそれほど高くない。

 一体一体は弱くしかも集団での簡易命令しか受け付けない木偶の坊。

 だがこれだけの数がいると中堅レべルプレイヤーには十分脅威であり、並の高レベルプレイヤークラス相手でも足止めの壁くらいにはなる。

 ここアカツキ迷宮は、ゲーム世界の東方地域における最大級の迷宮。

 古い地下墓地をイメージした迷宮の最深部に広がる大沼は暗く陰惨な雰囲気にデザインされている。

 背後に立つ朽ち果てた鐘楼の鐘が風もないのにガランガランと動き、不気味で気色の悪い音を奏で始めた。

 この鐘は俺が入ったアスラスケルトンが出現した事を東方地域全域のプレイヤー達に通知する役割を持つ。

 ボスキャラは出現地域は定まっているが、その日時だけは完全ランダム。

 だからといってずっと張り込んでいたのではプレイヤーから見れば効率が悪い。

 俺たち運営側的にも、月一回の高位レアボスモンスター出現という一大イベントの開始を大々的に宣言したい。

 そんな思惑からゲーム内にボスキャラ出現を広く知らしめるために導入されている。 
 現在日時と時刻は日曜日の午後三時きっかり。

 ゲームに入っているプレイヤーもさぞ多いだろう。

 迷宮内情報を呼び出し数を確認してみる。

 アカツキ迷宮の常時開放階である第1階層から第4階層全域で、狩りに来ていたプレイヤーは俺の出現時には235人だけ。

 しかし鐘が鳴り響くと共にプレイヤー数が急上昇。うなぎ登りに増えはじめた。

 俺の出現から一分少々しか経っていないのに、迷宮内に突入してきたプレイヤー数はすでに一千人に到達し、まだまだ増加傾向だ。

 今もWISチャットやギルドメッセージ、はたまた広域ボイスを用いて仮想世界中で、出現を知らせる報告と討伐参加を募る募集が飛び交っていることだろう。

 リーディアンオンラインのボスキャラのHPは、他のMMOにおけるボスキャラと比べても膨大に設定されている。

 特に大型ともなれば億の単位を超えるボスはざら。

 大型に属し、しかも最高位ボスキャラの一つであるアスラスケルトンの場合は脅威のHP150億。

 ゲーム内でのカスタム武器披露の場でもある武道会における、単独プレイヤー攻撃スキル部門最高ダメージ記録が8000ちょいだといえば、これがどれほど無茶な数値であるか判るだろうか。

 だが当然といえば当然だが、イベント戦闘でもないのにゲーム内に倒せないボスなどいてはならない。

 かといってこの馬鹿げたHPを削りきるのに何日も時間が掛かるような設定になっているわけでもない

 このHPを数時間で削りきる仕掛けがある。

 それがボス戦時にだけ適用される迷宮全域連結蓄積型戦闘システム。

 プレイヤー間での通称『数集めてともかく殴れ』システム

 これは簡単に言ってしまえば、大型ボスキャラとその取り巻きモンスター、さらには迷宮内に存在する雑魚モンスターに攻撃を与えたプレイヤー数+倒されたモンスターの数だけ、ボスへの攻撃に追加ダメージが加算されるシステムだ。

 たとえばこれまでに1000人のプレイヤーがボスとその他のモンスターに攻撃を加えた状態から、新たにLV1プレイヤーの攻撃が第1階層に存在する最弱モンスターに攻撃を加えただけでボス討伐戦参加者が1人増えたと計算される。

 この場合はボスへの攻撃に追加ダメージ1001がプラスされるといった具合で、さらに倒した場合はもう1追加ダメがプラスされる。

 この連結蓄積の効果を十二分に発揮する最低限の目安ラインである攻略推奨プレイヤーというものが、それぞれのボス毎に出されていて公式HPで確認することができる。

 膨大なHPに加え広範囲攻撃魔術を多数持つゲーム内屈指の高難度ボスアスラスケルトンの場合は、攻略推奨プレイヤー数はゲーム内最高クラスである所のS1級。

 S1級は迷宮全域で五千人以上のプレイヤー参加が推奨されている大規模討伐戦。

 この大多数参加を前提としたゲーム設定にはちゃんとした意味や狙いがある。

 一つは他のMMOでたまに見られるボス独占問題の防止策。

 高レベルかつ悪質なギルドによるボスキャラ狩り場占有やそれに関するトラブルというのは最初期からのMMOに付きものの問題点。

 この問題に対してリーディアンオンラインは、プレイヤー達の良識や話し合いに期待をするのではなく、ソロや単独ギルドでの討伐が不可能なボス設定とすることで対処している。

 もう一つの理由はボス討伐戦の楽しさをより多くのプレイヤーに共有してもらうためだ。

 参加人数が増えれば増えるほどプレイヤー側が有利になるこの戦闘システムは、ゲームを知り尽くしたベテランが効率的な勝利を求めて積極的に討伐者を募る習慣を作り出す。

 そしてゲームを始めたばかりの初心者でも、十分勝算がある初級モンスターを倒すだけで、簡単にボス攻略戦に参加でき楽しめるという、敷居の低さをうむ。

 しかもボス出現時は迷宮全域でドロップと経験値が通常時の3倍になり、普段は出ないプチレアも出るお得仕様。

 また高位ボス討伐後にはその達成感や戦闘の高揚感の残滓から、討伐記念と銘打った露店が近くの街で立ち並ぶ即席の露店市場ができ、大勢のプレイヤーで賑わう事も多い。

 こういった場は同時に出会いの場ともなる。

 めざましい活躍を見せた期待の新人がギルドから勧誘されたり、はたまた偶然隣り合わせて戦ったプレイヤー同士が意気投合してギルドを組んだりと。

 兎にも角にもMMOの楽しさを追求したゲームデザインは先達達の努力の結晶。

 お客様に楽しんでもらうMMORPG。

 これがリーディアンオンラインというゲームの基本方針にして最終目標。

 そんなゲーム会社の思惑に、俺も見事なまでに乗ってしまった一人だろう。

 このゲームにはまってキャラを鍛えて、ギルドを作って、ボス攻略やって、露店やって製造もと、遊んで遊び倒した時間は何より楽しい時だった。

 プレイヤーだった頃は近い将来に自分がゲームを楽しむプレイヤーでなく、お客様を楽しませるGMになるとは予想もしていなかったが、やってみるとGMにはGMのおもしろさがあった。

 俺が楽しんでいた事を新たなプレイヤーに知ってもらい彼らにも楽しんでもらえる喜び。

 これが厳しい労働環境や、リアルでの仕事に追われ、なかなかゲームにも入れない現状でも俺のモチベーションを維持する大きな理由の一つ。

 もう一つのやる気の理由は、ゲームで知り合った友人知人そしてギルドメンバーの存在だ。

 気の強かった相棒との狩りやら、スキルを駆使したサバイバル鬼ごっこといった遊びをワイワイとやっていたギルドメンバー達。

 そしてボス戦で協力した友好ギルド。

 彼らの大半は今もプレイヤーとしてゲームに参加している。

 日曜午後三時という絶好の時間帯。幾人もの知り合いが今回も迷宮へと突撃をしているだろう。

 そんな旧友達を楽しませるためにも、がんばりますかと気合いを入れ直して、迷宮内のプレイヤー情報を更新して最新のプレイヤー数とレベル分布を確認する。 


「お、なかなかの数。しかも高レベルプレイヤー揃いか、こりゃ楽しみだ」


 迷宮内へと進入してきたプレイヤー個別認識は不正防止策の一環でGM側からはできないが、レベル帯からある程度の強さは予想できる。

 手強そうなプレイヤーが多い予感を感じ俺は歓喜の声を上げる。 

 現在の迷宮内プレイヤー数は公式推奨数より6割も多い8521人でまだまだ増加傾向にある。

 さすが日曜といった所か。

 そのうち80以上の高レベルプレイヤーが2割。

 50までの中堅プレイヤーと、20までのプレイヤーが3割ずつ。

 後2割はそれ以下のレベルのプレイヤー。

 ここは初心者。もしくはセカンド、サードキャラといった所か。

 大半はボス狙いでなく雑魚での稼ぎ狙いのプレイヤーだろうが、通常のボス戦では1割程度の80代が今日は倍近く来ている。

 ボスへの与ダメージトップ10に配られるレア狙いに来た廃人プレイヤーもいつもより多いのだろう。

 せっかくマリオネットポイズンを最大値まで上げてあるんだから、なるべく高レベルプレイヤー狙いでいってみるか。

 内心でほくそ笑んだ時、解放毎に新設されるランダム設計のアカツキ迷宮第五階層『背徳者の胃袋』を突破してきたプレイヤーが出たことを知らせるシグナルが響く。

 それから一瞬のまもなく、俺が鎮座する最深部『不死者の大沼』を封鎖していた頑強な鉄門型モンスターが、火を噴く巨大な火山弾の雨によって外側から突き破られた。

 地属性最高位魔術の一つ『ボルケーノブレイカー』

 爆発的な噴火を続ける火山火口と直通ゲートを繋げ無数に打ち出される火山弾をマシンガンのようにばらまく、ど派手かつ高位力な魔術スキル。

 こいつの前では並のスキルではびくともしない耐久性を誇るゲートモンスターもさすがに刃が立たない。

 高位魔術の一撃によって一気に打ち破った門の残骸をすり抜けて、飛翔魔術を纏った五人のプレイヤーが一丸となってなだれ込んできた。

 高速飛翔魔術による風のなかでは魔術防御用結界が放つ金色の粒子が踊っている。

 プレイヤーが構えるそれぞれの武器には崩したアルファベットとルーン文字を組合わせて創作された魔術文字が激しく点滅し、獲物を早く食わせろと吠えていた。


「うぉ!はえーなおい」


 俺の出現からたった5分で最深部まで到達してきたプレイヤー達にさすがに舌を巻く。

 護衛モンスターの出撃が完了する前に、一気に第五階層を抜け第六を塞ぐ門を突破をしてアスラスケルトンへ相打ち覚悟の接近。

 己の命と引き替えに高位ボスにも効果があるエンチャ込みバットステ武器で魔力低下の一撃を与え、地上かレアアイテムで作成された復活地点でリスポ-ンし後続の大部隊と合流し再攻勢を仕掛ける。

 俺のプレイヤー時代から存在するアスラスケルトン戦での基本戦術の一つ……というか俺が考案した作戦。

 とにかくアスラスケルトンの厄介な所は、各種属性のそろった広範囲攻撃魔術とそれを連発できる底知れずな最大MPと1秒20MPも回復するMP回復能力。

 魔術スキル発動の順番を考えてMP管理さえしっかりやれば無限範囲魔術の雨すら可能となる鬼畜仕様。

 しかもこの第六階層はワンフロア丸々ぶち抜きとなった遮蔽物のすくないステージ。

 ここでアスラスケルトンに好きにさせると、広範囲攻撃魔術の一撃だけで簡単に死傷者の山ができる。

 この状態では死者蘇生もままならず地上のリスポン地点帰還組が続出するだろう。

 だから強力な魔力攻撃の頻度を抑えるために、バステ武器による攻撃で魔力回復能力を低下させるのが最優先となる。

 しかし広範囲魔術を連発されている最中では接近もままならない。

 なら出現直後で取り巻きである護衛モンスターが周囲に大量に屯っている状態ならば、広範囲魔術に巻き込み無駄に消費することを惜しく思って魔術使用を控えるはず。

 ゲームにおけるボスキャラの性能でなく、中のGMの心情から考えた攻略法。

 これがこの特攻作戦の肝。

 広大な五階層迷宮に対し早期突破の成功率を上げるために、通常5人一組でパーティを組み、計10パーティくらいが高速特攻組として送り込まれる。

 彼らのうち一つでも最深部の第六に突破できれば、後は情報共有でMAPを伝達し最短ルートが構築される。

 また無傷のボスに突っ込むことになる特攻組に課せられるデスペナも、ボスへのファースト攻撃による特別ボーナスで補完される計算なので、死を前提とした片道切符の特攻攻撃であっても参加希望するプレイヤーは結構多い。

 そんな選抜者揃いのパーティの中でも一番に突入してきた今日の一番槍は、どいつも最高レベルクラスのプレイヤーのはず。

 それは操作性の悪い飛翔魔術を淀みなく操る動きからも見て取れる。

 相手にとって不足無し。 

 一瞬の迷いも躊躇もなく飛翔するプレイヤー達は、足下の沼地に広がる死人軍団が射かける矢や、錆びついた投げ斧を物ともせず突き進み、炎を纏って突っ込んでくる死霊軍団を軽やかに躱し二手に分かれて俺を目指す。

 右から接近するのは、軽装の剣士キャラが二人とジャマダハル装備のアサシンキャラが一人。

 左側からは大剣と長柄の槍を携えた二人の重装騎士の姿。

 挟撃でこちらの気をそらしつつ、範囲限定された攻撃魔術を周囲の結界で防ぐなり、高いHPで耐えることでステ低下の一撃を決めようというといった所か。

 しかし残念。

 今日のアスラスケルトンは魔術攻撃主体でなく、死人を操る死霊魔術師仕様。

 その厳重な魔術防御結界に意味は無い。

 飛び込んできた五人のプレイヤー達に対して、俺は本来六つの魔術を同時使用するための三対の右手と左手を振りかぶりながら、自ら詰め寄り直接攻撃を開始する

 まさかこちらから接近してくると思っていなかっただろうプレイヤー達の反応は遅れた。

 アクティブカウンターの掛かった右手が剣士達を大きくはじき飛ばし、天井の岩肌に叩きつける。

 左手のマリオネットポイズンの毒がしたたるかぎ爪が、重鎧に身を包んだ騎士二人の纏った防御結界を易々と突き抜け、体に食い込みその勢いのまま沼地へとたたき込む。

 疾風のごとき突入の勢いそのままに、アクティブカウンターによって天井に叩きつけられた剣士達のダメージは軽くない。

 だが、彼らはよろめきながらも、それでも魔術を制御し空中で体勢を立て直そうとしている。

 ではさらに追撃と。

 配下の死霊軍団に追い打ちをかけさせる。

 業火を纏う死霊達は一斉に炎の弾丸と化して、剣士プレイヤー達に体当たりを開始する。

 前後左右さらに下。

 5方向から無差別にうち放たれた弾幕攻撃には、さすがの高プレイヤー達も対処がむずかしいのか面白いように攻撃が当たる。

 もっとも低レベルモンスターである死霊の攻撃なんぞDFの高い彼らからすれば、一発喰らってもHPゲージが1くらいしか減らないだろう

 しかし数が数だ。蓄積するダメージは馬鹿にならない。

 休む暇も無い連続攻撃に翻弄される剣士達が大声を上げる。


『……!? ………………!?』


『…………!!』


『……!!!』


 剣士達は声を上げて怒鳴りあっているが、俺はその会話で交わされる言葉を聞き取ることはできない。

 ピントが合ってないというのか、雑音混じりの理解不能な言語としか認識できないからだ。

 これは別に俺の耳がいかれたとか脳がおかしくなったわけでは無い。

 GMとプレイヤー間での不正を防ぐため、ボス戦闘中はゲームシステム側からフィルターが掛かりプレイヤーの声だけでなく、仮想体の容姿や名前、性別すらも認識ができないゲーム仕様となっているからだ。

 しかし言葉の意味が判らなくても彼らの焦った動きから会話の内容は何となく予想は付く。

 いつもと動きが違う。

 どうなってんだよ。

 知るか。

 こんな所だろうか。

 焦りや動揺は仮想体の制御に強く影響する。

 動きが鈍りさらに攻撃を避けられなくなり、余計に焦りが生じるさらに動きが悪化する悪循環。 

 このままいけばタコ殴りで死亡させられるかなと思った時足下から鋭い声が上がった。


『……!!……!!……!』


 沼にたたき落とした長柄の槍騎士が泥にまみれながら絡みついてくる死人達を大きく横に振った長槍で打ち払うと、被っていた兜を脱ぎ捨て大声で何かを叫んでいる。

兜を捨てた騎士プレイヤーの顔は俺からは薄もやがかかっているようにみえて、男か女かの判別すらできないが、その獅子奮迅ぶりの活躍は昔なじみを思わせるあばれっぷりだ。


『……! …………!!!』


 予想外の攻撃に動揺し動きが乱れていた他プレイヤー達だったが、その騎士があげたであろう指示に正気を取り戻し、死霊を無視して一気に後ろへと下がりはじめる。

 剣士組の撤退に合わせ水上で戦っていた騎士達も再度飛翔魔術を用いて彼らに合流した。

 ファースト攻撃でのバステを諦め退却して一度仕切り直しするつもりだろうが、そうは問屋が卸さない。


「マリオネットポイズン発動。一番近くのプレイヤーに攻撃開始」


 プレイヤーにはうめき声でしか聞こえない命令を俺が謳いあげた瞬間、プレイヤーからは死亡スキルと思われているマリオネットポイズンが発動。

 最高レベルまで鬼上げしていたマリオネットポイズンの毒は高レベルプレイヤーすらも一瞬で絶命させその体を乗っ取る。

 次の瞬間には槍持ち騎士が横を飛んでいた剣士二人の体を長い槍で深々と貫き、大剣の騎士が背を守ってくれていた暗殺者を切り伏せていた。










 特攻隊を全滅させた俺は即座に大沼からモンスター軍団を出撃させ、その数で陽動を仕掛けつつ、自身は単独で五階層に向かい縦横無尽に迷宮内を移動しながら次々と出会ったプレイヤーをマリオネットポイズンの毒牙にかけていった。

 通常なら有利である六階層からアスラスケルトンが出てくることはないので、これもプレイヤー側には予想外の事態だったのだろう。

 まともに防御行動する事もできないプレイヤー達を面白いように蹂躙できた。

 あちらこちらで同士討ちが連発。

 しかも毒殺後に一定時間を普通にモンスター側を攻撃をさせていた連中もいたので、横で肩を並べて戦っているこいつも本当は死んでいて操られているんじゃないかというプレイヤー間の不信感を引き出すことにも成功。

 この瞬間アスラスケルトンの攻撃魔術を捨てた、新たなる戦法をお客様方にご披露するという俺の目論見は達成された。

 プレイヤー間での信頼を踏みにじられ、連携網をずたずたにされながらも、不屈の闘志で戦線を立て直したプレイヤー達に俺が追い詰められ討伐されたのは、出現から三時間後のことだ。

 この夜のリーディアンオンライン関連の掲示板は、中村さんの予言通りの俺に対する罵詈雑言……もといお客様からの大好評の声で大いに盛り上がっていた。


『あの悪辣さは絶対ミサキだ』


『裏切り者ミサキに制裁を』


『アリスと別れろ腐れGM』


 等々。

 網膜ディスプレイに踊るそんな文字群を見てボス戦で楽しんだ余韻に浸りながら、久しぶりの帰宅を祝って缶ビールで一人祝杯。

 これが最近の俺の楽しみだ。    
お読みくださりありがとうございます。
ご意見、ご指摘いただけますとありがたいです。 
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