環太平洋経済連携協定(TPP)の交渉が、物別れに終わった。参加12カ国の閣僚は今月中に再び会合を開く考えというが、今回の会合で掲げていた「大筋合意」にたどりつけなかった痛手は大きい。

 開始から5年余り、曲折を経てきた交渉は瀬戸際にあるが、TPPを漂流させるわけにはいかない。

 世界貿易機関(WTO)での自由化交渉が滞るなか、世界経済を引っ張るアジア太平洋地域で貿易や投資の自由化を進め、成長をさらに押し上げる。これは、デフレからの完全脱却を急ぐ日本はもちろん、交渉に加わるすべての国にとって欠かせない課題だ。

 一方、この地域は、政治・外交面では米中2大国がせめぎ合う舞台でもある。TPPは、東アジア包括的経済連携協定(RCEP)や日中韓自由貿易協定など、中国が関わる他の通商交渉に刺激を与え、先導する役回りを担ってきた。中国を取り込み、アジア太平洋を繁栄と平和の地域としていくためにも、TPPの頓挫は許されない。

 安い後発医薬品の普及を左右する新薬のデータ保護の期間と、乳製品の市場開放策。今回のTPP閣僚会合では、この二つの問題が絡み合い、解きほぐせなかったようだ。大詰めを迎えるほどに険しくなる通商交渉の難しさを改めて見せつけた。

 交渉を主導してきた米国は今後、来年の大統領選を控えて政治の季節を迎える。TPPの成立と発効に不可欠な共和・民主両党の妥協が難しくなっていくだけに、残された時間は少ない。今秋に国政選挙があるカナダなど、動向が気がかりな国は他にもある。

 ここは、TPP参加国の中で米国に次ぐ経済大国である日本の出番ではないか。

 甘利・TPP相は閣僚会合後の共同記者会見で「もう一度会合が開かれれば、すべてが決着するだろう」と語った。実際、交渉担当者には「大筋合意まであと少しだった」との思いがあるようだ。

 ならば、まずは次回会合の日程を確定させ、そこを目標に実務担当者が協議を重ねていくべきだ。甘利氏がリーダーシップを発揮し、提案してはどうか。

 TPPは、自由化の水準でWTOを上回るのに加え、環境や労働者の保護と自由化との調和など、WTOが手つかずのテーマも掲げている。

 21世紀型の新たな通商ルール作りという目標を見失わず、各国は不退転の決意で交渉をまとめてほしい。