国文学研究資料館の大型プロジェクトに関わる、初めての国際研究集会が、本日と明日、国文研で開催されている。今日は、オープンサイエンスに関わる九州大学名誉教授有川節夫先生の基調講演と、古典籍データベースをめぐる4つの報告、およびパネリストの方々の討論があったが、想像以上に面白かった。
有川先生の「古典籍共同研究とオープンアクセス」の講演。ちらっと九州弁らしきことばが出てきたと思ったが(「〜しきらん」)。
オープンサイエンス、シチズンサイエンスという概念で、古典籍データベースの活用の可能性について、いろいろなご提言があり、非常に説得力があって面白かった。NACSISが、全国の図書館の目録入力業務のためのプラットホームになっているということの具体的な説明で、共同構築・共同利用のイメージが鮮明になった。上の人を動かす時は、「これは〇〇で初めてです」というのが殺し文句になるという話、なるほど、なるほど、である。
オープンサイエンスとは、研究成果の広く容易なアクセス・利用が可能になるということ、現在、科研費研究成果公開促進費に、オープンアクセス雑誌のスタートアップを支援するための応募区分を新設しているということ。日本学術会議でもオープンアクセスの取り組みに関する検討委員会ができているらしい。京都大学では、論文の機関リポジトリによる公開を義務化したという。
またシチズンサイエンスというキーワードも印象的。市民の中にはすごい人がいることは確かである。このブログにコメントしてくださった方で、江戸文学作品の翻刻をこつこつやってくださっている方がいた。いくらでも利用してほしいんですが、どうしたらよいのかわからない、ということを書いておられたが、今回のプロジェクトでは、そのような市民が参加できる翻刻プラットホームを作るという構想も語られていた。シチズンサイエンスという言葉は、しっかりと私の中には刻まれた。
さて、続いて「古典籍研究の近未来」というパネル。寺沢憲吾氏が「ワードスポッティング」という研究について紹介。古文書の文字を画像として認識し、検索するシステムの開発。これは国際的には結構歴史のある研究だそうで、1996年にはじまり、近年の学会では17件もの報告があったということである。
次の橋本雄太さんは、我々のプロジェクトの研究協力者で、8月からは特任研究員でもある。古典籍をめぐる国際共同研究には、現にある制約を解消する必要がある。その制約とは場所的制約と、能力的制約。場所的制約についていえば、古典籍に関する共同研究には研究者間の綿密なコミュニケーションが不可欠であるが、なかなかそれが実現しにくいので、対面でのコミュニケーションに近い環境をWeb上に実現する構想。たとえば共同翻刻。離れたところにいるチーム全員のPCに同じ古典籍画像と進行中の翻字が表示され、一緒に翻字作業を進めるイメージ。スカイプなどを併用して、Web上で「手紙を読む会」が実現できるという話。これは非常に有意義であろう。リアルタイム共同翻刻である。
ついで北本朝展さんの報告の中で、印象に残ったのは、「利用」だけではなく、「関心」で人を集めることができるということ。昨今の「人文社会科学無用論」が、「ニーズ」をキーワードに語られていたことに対する、きわめて重要な反論根拠になるだろう。かつて立花隆が『宇宙からの帰還』の中で、宇宙開発というのは、天気情報を知るとか、そういう「役に立つ」ということでなされるのではなく、もっと根源的に「宇宙のことが知りたい」という本能的好奇心に基づいてされるべきだし、そのために国家がお金をつけるべきだというような意味のことを言っていたように思うが(これは、ものすごく前に読んだ本の記憶ですから、間違っていたらすみません)、それに通じる発想である。
報告の最後の永崎研宣さんの報告では、大蔵経データベースが紹介されたが、世界でもトップクラスのアクセスを誇るだけあって、このデータベースはすごい。テキストに、辞典や該当箇所の英訳文参照システムなど、さまざまな注釈機能が付いているのである。新新日本古典文学大系というのができるとしたら、Web上で、この大蔵経のイメージではないか。
世の中進みすぎていて、私には理解できない用語もあったが、また非常に有益な情報もありで、大いに収穫がありました。
それにしても、今日はかなり多くの方が参加していた。この事業への関心は広いということで、文科省へ大いにアピールすべきでしょう。、
個人的にはコニツキー先生と二十数年ぶりにお話ができたのは嬉しかった。
2015年07月31日
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