神崎卓征 奥村智司
2015年7月31日16時19分
九州電力が8月の再稼働をめざす川内原発(鹿児島県薩摩川内市)の事故時に備え、同市が指定した避難ルートにある橋の耐震化が進んでいない。市管理の橋107本のうち、約4分の3の81本は、阪神大震災のような地震が起きた場合に損壊して通れなくなる恐れがあるという。市は一部の橋で補強を始めているが、大半は未着手の状態だ。
市は、事故発生時に原発から30キロ圏内の住民約9万4千人を鹿児島市などに避難させる計画を立て、避難ルートを指定している。市によると、ルートにある市管理の橋は107本で、築50年以上の橋は35本あり、全体の7割以上の76本が築30年以上だ。96年前の1919年築の石橋もある。
橋の耐震性の基準は、国土交通省が「道路橋示方(しほう)書」で示している。阪神大震災後の96年の改訂で、内陸直下型地震が起きても致命的な損傷を受けない設計にすることが定められた。96年以前に造られた橋についても、同省は必要に応じて耐震化を進めるよう求めている。
薩摩川内市によると、107本のうち、この基準に適合していると考えられるのは、地震に強い構造の14本と96年以降に造られた12本。ほかの81本の設計は内陸直下型地震を想定していない可能性があるため、落橋するなどして避難の障害になる恐れがあるという。
市は96年の改訂を受け、避難ルートにある長さ50メートル以上の橋7本のうち、耐震性に問題がないとみられる2本以外の5本について、耐震性を調査。その結果、5本とも落橋などの恐れがあることが判明し、2006年に2本に落橋防止装置を取り付けた。だが、その後、橋脚の耐震性不足が新たにわかったため、今年度は4千万円をかけ、この2本の耐震設計をしている。
落橋などの危険がある橋の大半は、設計図が保管されておらず、耐震性の計算は難しいという。X線などを使って橋の構造を調べる方法はあるが、市建設維持課の担当者は「耐震性調査や設計だけでも数千万円単位の費用が必要。全ての橋の耐震化には相当な時間がかかる」としている。
市内の避難ルートには鹿児島県が管理する橋も108本ある。県は15本の耐震工事を終え、1本は架け替え工事中だ。今後も必要に応じて補強するという。また、国管理の橋は市内に56本あり、うち34本の耐震性が不足していたが、13年までに全ての補強を終えた。
避難ルートの橋が使えなくなった場合について、薩摩川内市の新屋義文危機管理監は「市職員が現地に向かい、鹿児島県警などと協力して住民を迂回(うかい)路に誘導する」と説明している。(神崎卓征)
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