先日、大好評のなかで放送を終えたTVアニメ『SHOW BY ROCK!!』。サンリオのキャラクタープロジェクトを原作とする本作では、ボンズ主導の2D(作画)パートと、ライブ演奏や戦闘描写を中心としたStudioGOONEYS(スタジオ・グーニーズ)による3Dパートで、あえて質感(ルック)を明確に分けることで、今までにない新たなアニメCGを体現することに成功した。非常にチャレンジングだった本プロジェクトについて、仕掛け人たちに語り合ってもらった。
TVアニメ『SHOW BY ROCK!!』
原作:サンリオ/監督:池添隆博/シリーズ構成:待田堂子/キャラクターデザイン:大城 勝/サブキャラクター・プロップデザイン:ヒラタリョウ/コンセプト・メカデザイン:片貝文洋/キーアニメーター:永作友克/CG監督:佐々木 涼/CG制作:StudioGOONEYS/アニメーション制作:ボンズ
© 2012,2015 SANRIO CO.,LTD. SHOWBYROCK!! 製作委員会
サンリオ作品だからこそ、この3DCG表現が誕生した
ーーTVアニメ『SHOW BY ROCK!!』は、どのような経緯によって、2D(作画)パートと3Dパートを大胆に切り分けたアニメーション表現が誕生したのでしょうか?
StudioGOONEYS・斎藤瑞季CGプロデューサー(以下、斎藤):アニメーション制作のボンズさんとは、以前に別作品をご一緒させていただいたことがありました。そのときに本作で監督を務められた池添隆博さんと、本作のCG監督である佐々木 涼さん(※本プロジェクト制作時はStudioGOONEYSに在籍)も一緒に仕事をしていたんです。そうしたご縁から、今回の『SHOW BY ROCK!!』でもボンズさんから声をかけていただきました。
ーーなるほど。
斎藤:まずは「こんな企画があるのですが......」という、渡辺(プロデューサー)さんからのオリエンを佐々木さんと僕で受けました。当初のお話では、原作であるゲームアプリにおけるミューモンのような、FLASHアニメーション的な表現を、というオファーだったのですが、まだプリプロ段階のため流動的な要素が多かったことに加え、3DCGの強みを活かすという意味でも様々な表現を模索していました。その後、2回目の打ち合わせの際にサンリオのSHOW BY ROCK!!プロデューサーである髙橋(卓也)さんがお見えになられたのですが、その際にStudioGOONEYSが独自に取り組んでいた現在の質感のものをプレゼンさせていただいたんです。
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TVアニメ『SHOW BY ROCK!!』CGプロデューサー・斎藤瑞季氏(StudioGOONEYS 代表取締役社長)
サンリオ・髙橋卓也チーフクリエイター(以下、髙橋):『SHOW BY ROCK!!』のTVアニメシリーズ製作が決定し、アニメーション制作は昔からファンだったボンズさんに担当していただけるということで単純に「嬉しいなあ」と思ってました。当初から「ミューモンをCGで動かせたらおもしろいよね」という話は上がっていたのですが、そのCG表現とは、どのようなものになるのか僕の中でも具体的にはイメージできていなかったんです。
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SHOW BY ROCK!! プロデューサー・髙橋卓也氏(サンリオ チーフクリエイター)
ーーそうだったんですね。
髙橋:いわゆるセル・シェーディングの表現に仕上がるのかなあ、なんて思いながら初めてStudioGOONEYSさんを訪問させていただいたのですが、あのルックを観た瞬間にもうときめいちゃって、「こんなすごいのやれるんだったらぜひやりましょう!」って言ってました。池添監督としてはセル・シェーディング路線で描きたいとおっしゃってたんですけどね。
TVアニメのエンディングより。本作の3Dパートこと、ミューモンの3DCGアニメーションは、フィギュア(立体造形)のような質感が追求された
斎藤:セル・シェーディング路線が本命だったとは、僕たちは知りませんでした(笑)。
ボンズ・渡辺マコト プロデューサー(以下、渡辺):僕としてもセル・シェーディングでいくんだろうなと思いながら、髙橋さんにあのテスト画像(フィギュア的な質感の3DCGモデルのプロトタイプ)をお見せしていました(笑)。CG表現の質感については、いくつか選択肢がありましたよね。
斎藤:FLASH的なものと、輪郭線を加えたセル・シェーディング(アニメCG)、そして最終的に選ばれたフィギュアのようなリアルな質感の3種類ですね。
渡辺:CGの質感を決める上で、僕の中では「サンリオ作品であること」というのがポイントになっていました。いずれはキャラクターの商品化、という展望があったからこそ、この質感に決まったという面もあったと思います。もしサンリオさんの原作じゃなかったら、この質感をチョイスすることはなかったかもしれない。
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TVアニメ『SHOW BY ROCK!!』プロデューサー・渡辺マコト氏(ボンズ プロデューサー)
ーーTVアニメの企画自体は、いつ頃から動いていたのですか?
渡辺:去年の冬くらいだと思います。今年の1月にStudioGOONEYSさんへ挨拶をしに訪問した記憶があるので。
斎藤:『SHOW BY ROCK!!』で提案させていただいた質感について改めて説明しますと、以前からセル・シェーディング以外の3D表現を模索していまして、実際にそうした案件を手がけたこともありました。その頃から「すぐには受け容れられないかもしれないけど、いけるんじゃないか?」と、自分たちとしては手応えもあったので、このプロジェクトで提案させていただきました。とは言え、「とりあえずプレゼンしてみるだけしてみよう」と、ダメ元での提案でもありました。実際、セル・シェーディングに比べれば確実にレンダリングコストは増えますし、毎週放送されるTVシリーズという枠組みの中で行うことに対しては(リスクが高すぎると)社内でも反対の声は上がりましたね。とにかく新しい試みでしたので、この質感に決まった後も多くの話し合いがもたれました。
渡辺:CGをどこで使うか? ということで3ヶ月くらいは試行錯誤していたんじゃないでしょうか? 自分の中では、コストがかかると思われるアクションや演奏表現は2D(作画)で作って、逆に「MIDICITY」(※作品の主たる舞台となる音楽都市)における日常芝居をCGでやれないかなって、考えていたんですけど......。そしたら、見事にひっくり返されました(苦笑)。
斎藤:僕らはCG屋なので、自分たちがやってみたい3DCGアニメーションという視点にとどまりがちです。ですが、「作品性としてどうだろうか?」といった、より大枠としてのCG表現の在り方を考えるという点で、池添監督が最も苦心されたのではないでしょうか? 同じキャラクターだけど、3Dと2Dでルックが大きく異なるわけなので、その整合性についてはすごく悩まれたのではないかと思うんです。
渡辺:「本当にCGを使うのが得策なのか?」といったことは、監督ともかなり協議しましたね。実際、今回は作画とCGの割合は半分くらいの比率をイメージしていたのですが、アクションや演奏といった高コストな表現にCGを用いることになった結果、カット数としては作画の割合が増えました。当初の計画では、もっとコンパクトに作品をつくっていこうというのがコンセプトでもあったので(苦笑)。
――渡辺さんご自身としては、CGWORLDでは"アニメCG"と呼んでいる、アニメにおける3DCG表現に対してはどのようなスタンスなのでしょうか?
渡辺:僕はアニメを制作する上でCGは絶対に必要だと考えているんです。現在の2Dベースのアニメーション制作は、コストや優秀な作画アニメーターの絶対数が不足しているなど、様々な面で厳しくなっていると思います。あくまでも個人的な意見なので、他のプロダクションさんだけでなく、ボンズ社内でも異なる意見があると思うのですが。
ーー同様の意見は、様々なところで聞かれますね。
渡辺:そうした閉塞感を打破する上でも「CGを利用することが不可欠だな」と。また、映像コンテンツの高解像度化という問題もあります。最近は、4Kを見聞きする機会が増えていますが、A4の紙に描かれたものをそこまで引き伸ばすというのは限界がありますよね。そうした新しいメディアへの対応という意味でも、何かしらCGが必要になってくると思います。絵コンテなど演出面でも、CGを用いることで新たにどんな表現が可能になるのか、どのように用いれば作業効率を高められるのか......。とは言え、僕としては2Dアニメが大好きなので、語弊を承知で言うと「3D表現が増えることによって2Dの価値を高めたい」というのが本心だったりもします。作画で培われたワークフローや、今2Dアニメをやっている演出さんやアニメーターたちの優れた才能を、しっかりと継承していくための方法論が必要だと思っているので。
© 2012,2015 SANRIO CO.,LTD. SHOWBYROCK!! 製作委員会
――髙橋さんとしては、「アニメなんだから、こんな表現を」といったこだわりはなかったのでしょうか?
髙橋:僕、CGはもちろんアニメの制作自体も、このプロジェクトで初めて深く関わらせてもらったので、そういった専門的な知識はほとんどなかったんです。だから、StudioGOONEYSさんから「こんな3D表現もあるのですが」と、ご提案していただいたときは単純に「すっげぇ! コレ超良いじゃないですか!」と、テンションが上がってしまいました。
斎藤:今回のような未知なる表現に挑戦する上では、多くの方々の意見を聞けば聞くほどネガティブな結果になるだろうと思っていました。そこで、まずはサンリオのSHOW BY ROCK!!プロデューサーである髙橋さんにご覧になっていただいて、少しでも好感触であれば自ずと道が拓けるんじゃないかという思惑もありました。
ーーなるほど。
斎藤:渡辺さんにもすごく感謝しているんですよ。渡辺さんが当時、「StudioGOONEYSさんがCGのトレンドを一番わかってるんだから、好きなものを推してもらって良いですよ」とおっしゃってくれて嬉しかったのをよく覚えています。もちろん最終的には監督がお決めになることですけどなんですけど、嬉しかったなあ。
渡辺:そんな適当なこと言ってました!?
一同:(笑)。
斎藤:先ほどもお話したとおり、1%くらいの一縷の望みだけで、あの質感を提案させていただきました。チャレンジングな表現なのに、渡辺さんが背中を押してくださったことが確かな一歩につながりました。