竹島問題の現状
島根県の「竹島の日」条例制定は韓国を刺激し、平成24年の李明博韓国大統領の竹島上陸という事態を招いた。この結果国民の関心も高まり、日本政府も竹島問題への取り組みを強めつつある。
日韓条約が結ばれた昭和40年、佐藤首相は「竹島問題が解決しないかぎりそのほかの日韓懸案を進めないというわけにはいかない事情なので、この点を地元でもよく理解してほしい」と島根県知事に述べて(同10月8日付島根新聞)、竹島問題は「寝た子」にさせられた。
53年には島根県は鳥取県と共闘して竹島近海での日本漁船安全操業をめざしたが、かなえられなかった。しかし今、竹島問題は国民的課題になっており、島根県は過去の限界を越えつつあるように見える。
ただし、現在の竹島問題に関する言説には懸念されるものが多い。
まず、日韓友好のために竹島を共有しようという主張が日本人の間にある。背景にあるのが次のような考え方である。「日韓両国の言い分はそれぞれあって、どっちが百点という話じゃないだろう。どちらにも言い分はあり、日本政府の主張にもおかしな部分があるのは間違いない」(「領土という病―国境ナショナリズムへの処方箋―」平成26年)。これは17年3月27日付朝日新聞で、日本が竹島を譲るかわりに韓国が「周辺の漁業権」を譲ることを提案した元朝日新聞主筆の若宮啓文氏(当時は論説主幹)の発言である。
このような日韓主張のどちらにも瑕疵があるから双方とも譲歩すべきだという「相殺論」に説得力はない。韓国は現在の日本の領土を最終決定したサンフランシスコ平和条約に反して竹島を不法占拠した。根拠のある日本の主張にも間違いがあるとすれば、韓国の主張には根拠自体がないのであり、根拠のあるものとないものを同等に扱うことはできない。
この竹島領有根拠「相殺論」は日本の主張に疑問を抱かせ、その結果韓国を助けているのである。
次に、朝鮮半島にあった政府が竹島を自国領土として支配していた根拠を示さないまま、もっぱら日本と竹島の関わりを問題視して日本を動揺させようとする主張がある。
とりわけ、明治10年に明治政府が出した「竹島ほか一島のことは本邦と関係がないものと心得よ」とした太政官指令で、竹島は日本領から除外されたのだという論者は多い(この主張に対しては「太政官指令『竹島外一島』の解釈手順」(http://ironna.jp/article/700)で説得力のある反論が行われている)。
しかし、これは日本政府内部におけるやりとりであって、日本政府が対外的に表明したものではない。仮に日本政府がこの時点で竹島の領有意志を持っていなかったとしても、後に領有することが認められないということはない。そもそも、相手国の領土主張を否定するだけでは自国領土であることにはならない(塚本孝「元禄竹島一件をめぐって―付、明治十年太政官指令」『島嶼研究ジャーナル』二巻二号)。
明治10年の太政官指令をめぐる論議は、「日本領からはずされたならば朝鮮領になったのではないか」という錯覚を利用して日本を揺さぶろうとするもので、竹島問題の本質とは関係ない。竹島問題の本質に迫るためには、韓国は、明治38年以前に朝鮮半島にあった政府が竹島を自国領土として支配していた根拠を示し、その上で戦後韓国が国際条約に反して竹島を不法占拠したという主張に根拠を持って反論せねばならない。
そして、竹島は古来欝陵島と一体だったという「属島論」がある。韓国の新聞が竹島を「独島」として報道し始めた昭和22年以降、韓国はこの主張を繰り返してきた。17世紀末の日朝間の外交交渉は欝陵島をめぐるものであって竹島ではなかったにもかかわらず、江戸幕府の欝陵島渡航禁止令で竹島は欝陵島とともに朝鮮領になったなどという主張もそうである。近年の韓国では「欝陵諸島」という言葉まで飛び出している(獨島研究保全協会二〇一三年学術大討論会)。
日本統治期(明治43~昭和20年)についても、大正14年に欝陵島在住の島根県出身者がアシカ猟以外の漁業権を買い取って竹島で漁業をしたこと、その使用人の朝鮮人が竹島で密漁したらしいこと。これらから、日本統治期の竹島経営は欝陵島の一部の日本人漁業者が独占し、戦後日本人に雇われていた欝陵島の朝鮮人が「主体的に」渡航を行うようになった。さらには、日本統治期に竹島は隠岐島の「属島」から欝陵島の「属島」へと変化し、それによって解放後の朝鮮人の「実効支配」に繋がる基礎が形成されていったとまで書く論者が現れた。
竹島の漁業権は本来島根県が隠岐の人々に許可したものであることや、竹島の行政権が朝鮮総督府に移った事実はないことを無視してここまで書く勇気には驚くが、大きな流れとして、韓国は昭和28~29年に「島」を奪い、53年に「海」を奪い、そして今日本とのつながりの「記憶」を奪おうとしている。
以上三つの論点は、今後竹島に関する領土教育が進められる中で、教育現場でも避けることのできない問題となるであろう。