別冊正論「総復習『日韓併合』」より
藤井賢二(島根県竹島問題研究顧問)
韓国の竹島不法占拠
「我々は、いま島根県の一角を韓国の暴力によって侵されようとしているのだ。武力なき平和国家が理解なく善意なき武力によって脅かされつつある。これは(略)わが国にとって決定的な重大問題である」
「島根県」を「沖縄県(東京都でもよい)」に、「韓国」を「中国」に置き換えれば、まるで現在の日本の危機を描いたかのようなこの文章は、60年以上も前の昭和28年7月15日に島根県の地元紙山陰新報(現山陰中央新報)に掲載された社説「韓国船の発砲と竹島の脅威」の一節である。この社説は7月12日に竹島で起きた巡視船「へくら」への銃撃事件に衝撃を受けて、不法占拠への警鐘を鳴らしたものであったが、その訴えは届かなかった。
翌29年8月23日には巡視船「おき」への銃撃事件、同11月21日には巡視船「へくら」「おき」への砲撃事件が起き、日本人の竹島への上陸は不可能になっていく。竹島での日本人の漁労は、29年5月3日に隠岐島五箇村久見漁業協同組合の組合員が島根県漁業取締船「島風」に乗船して実施して以来行われていない。
7月12日の銃撃事件の前に「へくら」に乗り込んできた韓国人警官は境海上保安部長に「李ライン、マッカーサーラインで見ても韓国領土であるだけでなく、第二次世界大戦終結後日本講和条約まで何も言わずに今さら日本領土というのは韓国領土に対する侵略行為ではないか」と、竹島が韓国領であることを主張したという(『獨島問題概論』)。
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韓国政府外務部政務局刊
「獨島問題概論」
「獨島問題概論」
この主張がまったくの誤りであることは言うまでもない。李承晩ラインは、27(1952)年1月18日の「隣接海洋に対する主権に関する宣言」いわゆる李承晩ライン宣言で韓国が設定し、竹島をこの海域に含めたものであるが、一方的に公海上に線を引いて主権を及ぼす行為が認められるはずがない。
占領軍が竹島への日本人接近・上陸を禁じたマッカーサーラインは日本人の漁業の限界線を定めたもので領土の最終決定とは関係がないことは、マッカーサーラインを布告した指令(SCAPIN-1033))にも明記されていた(韓国が根拠の一つにする竹島を行政上一時的に日本から分離したSCAPIN-677も同様)=地図A。
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日本の領土の最終決定は日本が戦勝国である連合国との間で結ぶ対日講和条約で行われた。韓国は連合国=戦勝国ではなかったが、26年7月19日に竹島を日本領土から除くことを、講和条約作成を進めていた米国に要求した。
米国は調査した上で、8月10日に「独島すなわち竹島ないしリアンクール岩として知られる島に関しては、この通常無人である岩島は、我々の情報によれば朝鮮の一部として取り扱われたことは決してない。1905年頃から日本の島根県隠岐支庁の管轄下にある。この島は、かつて朝鮮によって領土主張がなされたとは思われない」と記した文書(「ラスク書簡」)で韓国の要求を拒否。26年9月8日に調印され27年4月28日に発効するサンフランシスコ平和条約では、竹島の日本領としての地位に変化がなかった。これは東海大教授、塚本孝氏の研究でよく知られている事実である。
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竹島は朝鮮の領土であったことはなく、島根県の一部であると記した「ラスク書簡」
サンフランシスコ平和条約第二条a項「日本国は、朝鮮の独立を承認して、済州島、巨文島及び欝陵島を含む朝鮮に対するすべての権利、権原及び請求権を放棄する」の文言だけを見て、竹島の名前はないが「含む」のだからここに記されていない他の多くの島々と同様に竹島も日本が放棄したのだという主張があるが、そうではない。
なぜなら、条約解釈の基本ルールとしてウィーン条約法条約第三二条があり、そこでは、条約の意味を確認するため、または不明確な意味を決定するため「解釈の補足的な手段、特に条約の準備作業及び条約の締結の際の事情に依拠する」とされる。対日講和条約作成の過程で竹島に関する韓国の要求を米国が拒否したことは、これに当たるからである。
また、サンフランシスコ平和条約には韓国の要求で追加されたり韓国が対日外交を進める上で利用したりした条文があったにもかかわらず、韓国はこの条約の署名国ではなかった(韓国は戦勝国として対日講和条約に署名することを米国に要求したがこれも拒否された)のだから、この条約に拘束されないという主張がある。
さらには、この条約第二一条に韓国は第二条による「利益」を享有することができるとあるのだから「損害」を被ることはできない、よって竹島は日本の領土ではないという主張もある。だが、竹島が連合国との関係では日本領になったが、韓国との関係では日本領ではないということはあり得ない。サンフランシスコ平和条約では、竹島の日本領としての地位に変化がないことを否定しない限り、これらの主張は成り立たない。
日本の被占領期、マッカーサーラインによる規制以外にも在日米軍の爆撃訓練場とされたこともあって、日本人は竹島に近寄れなかった。この間に韓国人が竹島で密漁をしていた。先の韓国人警察官の主張は、竹島領有の根拠を国際条約ではなく、日本人がいない間に韓国人が竹島で行った不法漁労に求める誤ったものであった。