北欧雑貨や食器を扱うECサイト「北欧、暮らしの道具店」。おしゃれなライフスタイルを提案する写真や読みものが充実しており、FacebookやInstagramでも多くのファンを獲得しています。今回は、当サイトを運営する株式会社クラシコム代表取締役・青木耕平氏にお話を伺いました。

おもしろくて役に立つコンテンツを大量に配信し、広告を出稿する側から配信する側に

――株式会社クラシコム創業当時は、ECサイトではなく、不動産のマッチングサイトを立ち上げていたそうですね。

そうです。賃貸不動産の大家さんと借主さんがダイレクトに取引できるeマーケット・プレイスを開発しましたが、まったく需要がありませんでした。これからどうしようかと考えていた頃、妹(「北欧、暮らしの道具店」店長・佐藤友子氏)がスウェーデン旅行に行って、夢中になって帰ってきたんです。もう一度行きたいと言うので、会社の残金100万円を使って、北欧へ社員旅行に行くことになりました。

私はそれまで北欧にまったく興味がなかったのですが、いざ行くと決まったら商売っ気が湧いてきて。ビジネスとまではいかなくとも「交通費くらいは取り返せるアイデアはないか」と考えるようになったんです。そのとき、インテリアに関わる仕事をしていた妹から「北欧のビンテージの食器類は人気があるけど品薄だから、現地で調達して日本で販売すれば利益が見込める」と教えてくれました。そこで、会社の現金も私のカードも全部持っていき、限度額まで購入したんです。

――商品を販売するアテはあったのですか?

ないですね。ヤフー・オークションや骨董市で売ろうという程度で。ただ、当時のネットショップは、どのお店も品切れが続いていて、これだけ需給ギャップがあるなら、商品を持ってくれば何とかなると思いました。しかし、輸送方法を調べていなかったことに加えて、梱包のノウハウがなく、日本に届いたときには商品の半分以上が割れてしまっていて......。結局、残ったものを全部売ってもトントンくらいでした。利益は出せなかったものの、これを何かの機会にして、先につながる取り組みができないかという発想が浮かんできたんです。私はビジネス全般に興味があり、いろいろなビジネスを研究していたなかで、機会があればやってみたいと思っていたのが通信販売でした。そこで、試しに北欧のビンテージ食器を扱うネットショップをつくってみようと始めたのが「北欧、暮らしの道具店」だったんです。

――最初から今のようなメディアECを志向していたわけではないのですね。

もちろんそうです。当初は、需要を拡大するよりも、まずは安定して商品を供給する仕組みをつくることが最大のテーマでした。というのも、実はネットショップを開いて1週間ほどで、商品がほぼ完売してしまったんです。このペースで売れていくようなら、品物がなくなるたびに北欧に出かけていてはとても間に合わない。そこで、現地にバイヤーのネットワークをつくりました。こうすることで、ビンテージというコレクティブな一点物を、工場のように提供しつづけることが可能になったんです。バイヤーが買いつけた商品を送ってもらい、私たちはそれをひたすら洗って出品するだけ。商品が売れたら粗利益の何割かをバックするというような報酬システムで運営しました。

ですが、ビンテージは有限の資産なので、永遠には続けられませんし、スケールも難しい。そこで、ビンテージ以外の商品も販売していくことにしました。最初の数年は供給の問題を解決することに注力しながら、同時に広告で需要の拡大も狙っていった時期でしたね。

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――その広告費が販管費を圧迫したことが、メディア化にシフトしたきっかけだそうですね。

売上が上がるにつれて増大する販管費のなかで、最も割合が大きかったのが広告費でした。一般的にはもっと広告費を増やしても良いと言われていましたが、逆に、この広告費を限りなくゼロに近づけることができたら粗利が倍になったくらいのインパクトがあると考えたんです。基本的に、ネット通販は広告でリードを取り、そこで獲得したお客様に対して、ポイント付与やセールの告知によりリピーターを増やすことで成り立つビジネス。そのため、入口たる広告をゼロにすることは基本的にはありえません。でも、その"ありえないこと"が起きたら、ハッピーですよね。

そこで考えたのが「自分たちにとって広告って何だろう?」ということ。そのとき私が出した答えは「おもしろいコンテンツや役に立つコンテンツをたくさん提供することで、集客力のあるメディアに、自分たちへの動線をつけてもらう行為」でした。それならば、自分たちがおもしろくて役に立つコンテンツを大量に配信すれば、広告を出稿する側から配信する側に変わることができ、広告費が必要なくなると考えたんです。また、当時スタッフが書いていたショップブログがお客様に好評で、それをどのように強化できるかを考えたことも、メディア化につながりました。

――広告からコンテンツ重視にシフトチェンジするにあたって、広告費をどのように削減していったのでしょうか?

当時出店していた楽天の占有率を落とし、その出稿費を自社ドメインサイトに集客するための広告費にあてました。ですから、楽天への出店を止めたタイミングでも、自社ドメインサイトの広告は生きていて、その時はまだアフィリエイト広告、各種リスティング広告、プロダクトリスティング広告など、当時の一般的なプロモーション手法はほとんど試していました。そのなかで、効果の薄い広告を一度止めては効果を見てというPDCAを繰り返して広告費を圧縮し、その予算を人件費に回していきました。

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――御社は編集者やカメラマンなどクリエイティブ職の経験のないスタッフの方がほとんどだと伺いました。そのようななか、クオリティの高いコンテンツを作成するために工夫していることはありますか?

難しいことをしないということに尽きますね。たとえば、写真は一切人工光を使わず、自然光だけで撮影します。そのため、オフィスは必ず日当たりのよい場所を選びます。それだけで、素人が撮ってもかなりいい写真が撮れるんですよ。また、機材などのハードウェアには積極的に投資します。人が育つには時間がかかるけれども、設備は買えばいきなり使えるわけですから。そして、撮影はもちろん、部署の立て方、企画の立て方、マイルストーンをどう置いてどのように管理して進めていくかを、全部ルール化していくことですね。

人材については、年に1回中途採用を行っていますが、そのときに決まったロールプレイングのテストを行っています。商品をスタイリングして撮影するというテストや、ライティングのテストを全職種の採用試験で行います。その際に見るのは技術ではなく、頭の中に我々のメディアにフィットするビジョンがあるかどうか。ビジョンさえあれば、その取り出し方が今はわからなくても、教えることができます。ですから、その人が経験者かどうかは問いません。

後編では、「北欧、暮らしの道具店」の運用やSNS活用、新しくスタートした広告事業「BRANDNOTE(ブランドノート)」などについて伺います。

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