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■翁長雄志・沖縄県知事

 日本の安全保障は、日本国民全体で考えて負担してもらいたい。

 よく本土の人から「あなたは日米同盟に反対なのか」と聞かれる。賛成だ。すると、「賛成なのに沖縄の米軍基地を認めないのか」と言われる。では、なぜ米軍基地を本土でもっと受け入れないのか。抑止力を維持するために沖縄に米軍基地が必要だという意見があるが、沖縄県だけに押し込めて日本全体で受け入れなければ、他国は日本の安全保障に対する本気度がわからないと思う。

 最近、本土メディアの世論調査で、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設先とされる名護市辺野古に基地を造ってはいけないという人の数が「造るべきだ」という人の数を上回ってきた。そういう意味では心強い。

 だが、安倍政権は、普天間移設問題の原点は(市街地に近く)世界一危険な飛行場を除去することだという。そうではない。太平洋戦争が終わり、普天間に住んでいた人たちが米軍の収容所に入れられている間に土地が強制接収され、飛行場が造られたというのが原点だ。住民から土地を奪っておいて沖縄から代替施設を差し出せというのは、日本の政治の堕落ではないか。

 沖縄は1952年発効のサンフランシスコ講和条約によって日本から切り離され、米軍施政権下に置かれた。日本国憲法も適用されなかった。戦争中、日本に操を立てて戦った沖縄を米軍施政権下に出しておいて、日本はアジアの盟主として復興を果たした。

 尖閣諸島(沖縄県石垣市)で何か起きたとき、沖縄ではどういう運命が待っているのか。私は日米同盟は重要だと認識しているが、それを最前線で過去も現在も支えている沖縄に対して本土が「思い」を持たないと、将来、(沖縄戦のような)歴史は繰り返すのではないか。

 日本には品格のある民主主義国家になってもらいたい。自国民の沖縄にこういった形でしか対応できない国が、自由、平等、人権、民主主義という理念を世界の国々と共有できるのか。大変疑問だ。

 米軍基地は、沖縄経済の発展にとって最大の阻害要因になっているということも言っておきたい。「沖縄は基地で食べているのだろう」という言葉が、いかに沖縄の人を傷つけていることか。アジアはどんなに経済が発展しても、戦争が起きれば終わりだ。沖縄は平和の緩衝地帯になり、日本とアジアの懸け橋になりたい。そう訴えていきたい。

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翁長雄志(おなが・たけし) 沖縄県知事。法政大卒。那覇市議、県議、那覇市長を経て、「辺野古移設阻止」を訴えた2014年11月の知事選で初当選。64歳。

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 〈米軍普天間飛行場移設問題〉 沖縄県宜野湾市中央部にある米海兵隊向けの基地。1995年、米兵による少女暴行事件を機に返還を求める県民世論が高まり、日米両政府は翌96年、県内移設を条件として返還に合意。2006年には名護市辺野古沿岸を埋め立て、V字形の滑走路を造る現行計画がまとまった。

 09年、鳩山政権は「最低でも県外」を掲げて県外・国外移設を模索したが、翌10年に断念。13年末、当時の仲井真弘多知事から埋め立て承認を得た安倍政権は、14年8月に辺野古で海底ボーリング調査を始め、今夏以降に埋め立て工事を本格化させる方針。

 04年には、米軍の大型ヘリが普天間近くの沖縄国際大学に墜落、炎上する事故が起きた。