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【社会】

厚木訴訟 米艦載機移転まで賠償 騒音被害の懸念は消えず

米軍と自衛隊が共同使用する厚木基地=30日、神奈川県で、本社ヘリ「まなづる」から(安江実撮影)

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 米海軍と海上自衛隊が共同使用する厚木基地(神奈川県大和市、綾瀬市)の周辺住民約六千九百人が、国に米軍機と自衛隊機の夜間・早朝の飛行差し止めや騒音被害に対する損害賠償を求めた第四次厚木基地騒音訴訟の三十日の東京高裁判決(斎藤隆裁判長)は、基地騒音訴訟で初めて、将来分の損害賠償を認める判断を示した。 =判決要旨<26>社説<5>面

 将来分は、厚木基地から岩国基地(山口県岩国市)への米軍の移転計画(二〇一七年ごろ)が実現するまでの約十二億円で、国に総額九十四億円の支払いを命じた。

 判決は、一審と同様、自衛隊機の夜間・早朝(毎日午後十時〜翌午前六時)の飛行差し止めを命じた。一審横浜地裁は差し止めの期間を明示しなかったが、高裁は米軍の移転計画に考慮し一六年末までとした。

 一次から三次までは民事訴訟だけだったが、住民側は四次訴訟で初めて、飛行差し止めを求める行政訴訟も起こした。判決は、「睡眠妨害の程度は相当深刻で、賠償金による補填(ほてん)では回復できない」として、自衛隊機の差し止め請求は行政訴訟の対象になると判断。「自衛隊機の運航は、防衛相に与えられた権限の範囲を逸脱し、違法」と指摘した。

 一方で、騒音被害の大半を占める米軍機の飛行差し止めは、「国の支配の及ばない第三者の行為の差し止めを請求するもの」として一審に続き、住民側の訴えを退けた。

◆横須賀に空母 訓練で飛来も

 厚木基地の米空母艦載機が岩国基地に移転する計画を考慮し、二〇一六年末までの期限付きで自衛隊機の夜間・早朝の飛行差し止めを認めた控訴審判決。だが、移転が実現しても整備や訓練で米艦載機が基地に飛来する可能性は高く、騒音被害は今後も続くおそれがある。

 三十日の判決言い渡し後、防衛省や外務省を訪れ、騒音被害の解消を求める第四次厚木基地騒音訴訟の原告住民らの姿があった。判決が米軍機の飛行差し止め請求を退けたことから、住民らは、担当者に「騒音被害が大きいのは米軍機。米側に対処してもらってほしい」と訴えた。要請に参加した原告団事務局長の相沢義昭さん(71)は「米軍機が自由に飛べることについては怒りを感じる」と語った。

 厚木基地は、米艦載機の拠点だが、海上自衛隊も第四航空群を擁し、日本周辺海域で他国の潜水艦などの動きを監視する哨戒任務をはじめ、捜索救難・災害派遣などに従事する。海自にとって重要基地の一つだ。

 軍事評論家の前田哲男氏は「安全保障関連法が成立すれば、自衛隊と米軍の軍事的運用の一体化が進む」とみる。厚木基地にはすでに垂直離着陸輸送機MV22オスプレイが飛来し、今秋には同基地と表裏一体の米海軍横須賀基地(神奈川県横須賀市)に新空母が入港する。「米艦載機の移転後も、整備や訓練の途中で米艦載機が厚木基地を使うことも考えられ、一七年以降に騒音軽減が期待されるとは言い切れない」と指摘。第四次訴訟の副団長の福田護弁護士は「高裁が自衛隊機の飛行差し止めの期限をつけたのは、その先のことが今は分からないため。一七年以降も騒音が続けば、提訴すれば飛行差し止めは認められるだろう」と話した。

 

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