政府の説明を聞けば聞くほど納得できなくなる。

 参院に移った安全保障関連法案の審議で、改めてあらわになったのは、歯止めを欠いた法案の危うさである。

 象徴的なのは、南シナ海での戦時の機雷掃海だ。

 安倍首相は、集団的自衛権を使って南シナ海で機雷除去を行う可能性について「(武力行使の)新3要件に当てはまれば、対応していく」と述べた。

 同じ首相が、先月の衆院審議ではこう言っていた。「南シナ海には迂回路(うかいろ)がある。なかなか想定しえない」

 首相がこだわっていた中東のホルムズ海峡は、遠い。日本の存立が脅かされる「存立危機事態」が起きると言っても幅広い国民の納得を得るのは難しい。そこで今度は、中国の進出が目立つ南シナ海を強調し始めたように見える。

 「想定しえない」から「対応していく」へ。わずか2カ月で変化した首相答弁は、拡大解釈の余地を大きく残した法案の無限定な性格を映し出す。

 米軍など他国軍への兵站(へいたん、後方支援)についても、質問者が突けば突くほど、法案の対象が広がっていく。

 共産党の小池晃氏が「米軍のミサイル、戦車は運べるか」と問うと、中谷防衛相は「除外した規定はない」。ロケット弾の提供についても「排除する規定はない」。爆撃に向かう米軍の戦闘機に空中給油することも否定しなかった。

 これだけ対象が広がっても、憲法が禁じる「武力行使との一体化」にはあたらないというのだから、驚くばかりだ。

 小池氏はさらにこう問うた。「米軍ヘリが敵の潜水艦を攻撃し、海上自衛隊のヘリ空母(護衛艦)に着艦して燃料補給を行う。こういう活動が可能になるということか」

 中谷防衛相はこれも否定せず「海自の護衛艦は魚雷の攻撃を受けない安全な場所で活動を行う」と答弁した。

 兵站を担う護衛艦が常に安全な場所にいられるはずがない。戦場の現実を無視した机上の空論と言うほかない。

 首相はきのうの集中審議で、集団的自衛権の行使を容認しても「(他国の)戦争に巻き込まれることは絶対にないと断言したい」と述べた。

 何を根拠に「絶対に」と言い切れるのか。政権が正しいと言えば正しい、安全だと言えば安全だ、合憲だと言えば合憲だ、そういうことなのか。

 これで国民の納得がえられると思っているなら、甘すぎる。