2美の壺・選「噴水」 2015.07.26


(テーマ音楽)
(セミの声)ああ夏も終わりだというのにまだまだ暑いですねぇ。
今年の夏宣言したんですよ。
「クーラーつけない」って。
何とか涼しさを感じられる方法が他にないものかとこうしていろいろ集めてみたんですけどね…。
(風鈴の音)ピュッピュッピュッピュッ…ピュー。
ああやっぱりアーツーイー。
草刈さん噴水のある公園に行って涼んでみてはいかがですか。
噴水?公園や街角で見かける噴水。
噴き上がる水は涼しげでしばし夏の暑さを忘れさせてくれます。
こちらは東京赤坂迎賓館の庭にある噴水。
2009年に国宝に指定されました。
中央に向けて優雅なアーチを描く水。
一面に細かな水しぶきが降り注ぎます。
水の中で跳ねるのはシャチ。
青銅で造られた動物たちが華を添えます。
高さを違えて噴き上がる水と絶え間ない水音が池全体を包み込む華やかな水の空間です。
時には水を飲んでみたい。
そういった五感で感じる要素が噴水にはあるんじゃないでしょうか。
噴水のルーツは自然の泉。
泉の水は人々の暮らしを潤してきました。
あの有名なイタリアローマのトレビの泉も古代ローマ時代に生活用水として使われていたんですよ。
豊かにあふれ出る水は権力者たちの心を捉えます。
18世紀ロシアのピョートル大帝は宮殿に150を超える噴水を造らせました。
五感で水を感じ楽しませてくれる噴水。
その深い魅力に迫ります。
まずはさまざまな水の表情を見てみましょう。
皇居外苑にある…ここではさまざまな水の姿を楽しむことができます。
まるで花びらのように広がって噴き上げる水。
こちらでは30メートルにわたって豪快に流れ落ちます。
これも噴水です。
この公園の噴水は自然の景観がモチーフになっています。
噴き上がる水は…流れゆく水は小川のせせらぎ。
落ちる水は滝のようです。
噴き上がり流れ落ちる水。
その営みは街にあって自然を感じさせてくれるのです。
今日最初の「壺」は…最近公共の広場や商業施設でよく見かける水の空間があります。
ガラスの上を流れる水。
この噴水が多くの人々に好まれている理由はこちら。
(水音)そうこの水音なんです。
噴水メーカーの香取良一さんです。
日本の自然環境にふさわしい水の音があるといいます。
あんまり大きい「ザーザー」「ドードー」という濁音ではない音そのへんがいいんじゃないかな。
(水音)木々に囲まれ街の喧噪を感じさせない静かな庭園です。
ここに江戸時代の終わりに造られた日本で最も古い噴水があります。
1861年に前田斉泰が造らせました。
水の高さは3.5メートル。
動力を使わず自然の力で噴き上げています。
噴水よりも高い位置にある池の水を管を使って一気に落としその水圧で噴き上げているのです。
空気を含んだ白い水は江戸時代地下から白い龍が立ち昇るようだと賞されました。
静かな庭に響く水の音。
抑揚あるその音は日本の原風景を思い起こさせます。
岩場に落ちる清水の音です。
水が豊富な日本ではいにしえより流れる水や水音に自然を思い安らぎを感じてきました。
藩主の前田斉泰は城の中にも噴水を造らせました。
水の戯れにしばし心を和ませたのでしょう。
目で楽しみ音で感じる水の営み。
とうとうと噴き上げる水には暮らしの中に自然を求めた先人たちの思いがこもっています。

(小便小僧の水の音)これも一応噴水だよねぇ。
ところで君何で噴水になったの?草刈さんベルギーの男の子が爆弾の導火線の火をおしっこで消して町を守ったというエピソードから作られたそうですよ。
へぇ。
君英雄だったんだ。
へえ。
続いては噴水の意匠に注目です。
東京上野。
明治以降数多くの噴水が造られ人々の目を楽しませてきました。
そのきっかけとなったのが明治時代に行われた博覧会です。
西洋の技術を導入し産業の振興を図った博覧会。
その会場に造られたのが西洋から来た噴水でした。
やがて博覧会が全国各地で行われるようになると噴水は急速に広まっていきました。
当時造られた噴水のデザインには風変わりなものがたくさんあります。
明治36年の博覧会で造られた噴水。
石の上にはローマ彫刻を思わせる子どもの姿。
その上に目をやるとなぜか観音さまが乗っています。
西洋と東洋の不思議な融合です。
酒が入った巨大なかめを持つのは3体の「猩々」。
能の演目に登場する酒好きの動物です。
なぜこうした意匠の噴水が造られたのでしょうか。
博覧会の花形だった噴水。
多くの人の注目を集めました。
西洋の噴水を日本の技で造り上げる。
その証しが日本的な意匠でした。
こちらは明治以降日本各地で造られた噴水の絵葉書です。
その意匠には新たな時代を築こうとする当時の人々の気概が込められています。
今日二つ目の「壺」は…大噴水で知られる…明治36年に当時の「東京市」が造った…開園にあたり造られた噴水があります。
「鶴の噴水」です。
松崎さんは戦前の古い噴水を調査してブログに書いています。
噴水に興味を持ったきっかけが「鶴の噴水」でした。
木々に囲まれた…その真ん中で高らかに水を噴き上げる「鶴の噴水」。
明治時代に造られた今では数少ない現役の噴水です。
今度はその水しぶきが落ちてきて羽や台座に当たっていろんな変化をつけて落ちるところがきれいだと思います。
松崎さんは「鶴の噴水」を調べるなかで意外な発見をしました。
公園の計画を紹介した当時の新聞。
「池を穿ち其中央に蝦蟇仙人の銅像を立て」と書かれています。
噴水のデザインは当初鶴ではなく蝦蟇仙人だったというのです。
その図案。
「蝦蟇仙人」とはカエルを連れた中国の仙人で日本画の画題としても知られています。
なぜ蝦蟇仙人から鶴に変わったのでしょう。
噴水のある日比谷公園。
日本初の洋風公園として誕生するまでにさまざまな紆余曲折がありました。
当時作られた設計案です。
こちらは日本庭園風。
一方こちらは中国風。
実は10回近い変更の末に現在の西洋風に和の要素を取り入れた設計に決まったのです。
そのなかで噴水の意匠も蝦蟇仙人から鶴へと変わりました。
そこで鶴に落ち着いたのかなと。
羽を広げまっすぐに首を伸ばした鶴。
その姿にはどんな思いが込められているのでしょう。
鶴を制作したのは金属工芸作家の津田信夫。
日比谷公園の中にある街灯も津田が作ったもの。
この時代公共施設の装飾を数多く手がけました。
日露戦争後に造られた日本橋。
その装飾も津田の手によるものです。
縁起の良い霊獣とされる麒麟の像。
その姿に日本の更なる繁栄と飛躍の願いを込めたのです。
後年津田は噴水についてこんな言葉を残しています。
明治から平成へ。
鶴の噴水は周りの風景に調和して四季折々に楽しませてくれます。
しかし100年あまりの歴史の中で思いがけないドラマもありました。
公園の中にあるレストランを経営する…80年間鶴の噴水を見守ってきました。
事件が起こったのは戦時中小坂さんが中学生の時でした。
寂しいですよね。
子どもの頃からこの辺は遊び歩いてましたから。
戦局が厳しさを増すなかで姿を消した鶴。
そのまま終戦を迎えました。
ところが。
びっくりしたですね。
溶かして何かになってると思ってたから。
あったんでびっくりしましたよ。
この間この公園課の人に聞いてみたんですけどね…名もなき人の好意で守られた鶴。
帰ってきた鶴は子どもたちの歓声に包まれました。
新しい時代の象徴として誕生した鶴の噴水。
伸びやかな姿は時を重ね今もなお愛され続けています。
(削る音)ああいいね。
面白いなこれ。
(削る音)おお形になってる。
いや氷でね鶴を彫ってるんですよ。
鶴に見えるでしょ?え?見えない?ほらここが頭でこれが羽ですよ。
ああ!氷の彫刻!ひんやり涼し〜い!最後は演出です。
(歓声)東京六本木。
夏の夜噴水のショーが繰り広げられています。
噴き上がる水はまるで花火。
飛び散る水滴の一粒一粒が七色の光で輝きます。
水の動きに光や音を組み合わせる演出によって噴水は心躍らせるエンターテインメントとなるのです。
(歓声)札幌市北東部にある…広さ189ヘクタールもある巨大な公園です。
園内には不思議なモニュメントをはじめ人工の山やビーチなどが造られています。
この公園はある有名な彫刻家が設計したものです。
彫刻家の名は…地球そのものを彫刻の題材にするという大胆な発想で従来の彫刻の概念を打ち壊しました。
ノグチは数多くの噴水を手がけています。
1970年の大阪万博では水を噴き下げる画期的な噴水を発表しています。
モエレ沼公園の真ん中にノグチは巨大な噴水を配置しました。
池の直径は48メートル。
(水音)2005年に完成した「海の噴水」です。
(水音)噴き上げる高さは最大25メートル。
1,800トンもの水によるダイナミックな演出です。
実はノグチは噴水の完成を見ずして亡くなりました。
建築家の川村純一さん。
20代の頃からノグチと親交が深く公園の全体構想から共にかかわりノグチの思いを最終的に形にしました。
先生が言ってたのは植木鉢でも植物でも…ノグチにとっての噴水。
それは動く水の彫刻だったのです。
今日最後の「壺」。
40分にわたって繰り広げられる水のパフォーマンス。
真ん中から噴き上がった水は中心の鉢の部分にたまり徐々に波打っていきます。
やがて水は大きくうねりはじめます。
噴水では見ない斬新な動きです。
ポンプから噴きだす水の出方に強弱をつけることで生まれた「海の噴水」の見どころのひとつです。
この動きはノグチの希望で取り入れられました。
「海の噴水」の場合はね最初にイサム先生が泊まった…壊れた噴水が偶然に引き起こした水の動き。
ノグチはそこに人知を超えた自然の遊びを見たのです。
高く噴き上げ激しくうねった水はやがて穏やかになります。
あたかも誕生から死までの人の一生を表しているかのようです。
「海の噴水」は既成の概念を打ち破り続けた彫刻家が水の動きに託した最後のメッセージだったのです。
そして夜。
暗闇のなか躍動する水はいっそうダイナミックに輝きます。
まるで命を宿したかのような水の乱舞。
その姿は見る者を魅了してやみません。
ああ「水の彫刻」見事ですねぇ。
あれ?草刈さん?氷の彫刻はどうなったんですか?あっ…あれは…。
あ〜!かき氷になったんですね!でもまあおいしそう。
(セミの声)う〜ん!夏はこれに限る。
あ〜残暑厳しいけどクーラーなしで乗り切るぞ〜!今日は東京の上野公園にある2015/07/26(日) 23:00〜23:30
NHKEテレ1大阪
美の壺・選「噴水」[字]

身近なテーマを中心に、美術鑑賞を3つのツボでわかりやすく指南する新感覚美術番組。今回は「噴水」。案内役:草刈正雄

詳細情報
番組内容
夏空に高く水を噴き上げる光景が涼しさを誘う「噴水」。自然にわき出る泉をルーツに持つ噴水は、町にあって五感で水を感じて楽しむことのできる安らぎの空間だ。日本では明治以降、博覧会が開かれるたびに噴水が人寄せとして作られ、全国に急速に広まった。江戸末期に作られた日本最古の噴水や、明治時代に作られた噴水の意匠に秘められた謎、彫刻家イサム・ノグチが手掛けた究極の噴水など、噴水の奥深い魅力に迫る。
出演者
【出演】草刈正雄,【語り】礒野佑子

ジャンル :
趣味/教育 – 音楽・美術・工芸
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化
情報/ワイドショー – 暮らし・住まい

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