夏山シーズン到来。
山に見せられ集う人々。
最近、こんなグループが増えているんです。
かつて、ひたすら高みを目指して山岳部の若者が挑んだ登山。
その後、中高年を中心としたレジャー登山がブームに。
そして今、山ガールと呼ばれる女性たちを巻き込んだ登山人気が沸騰しています。
ブームの広がりを支えているのがインターネット。
山の情報が簡単に手に入り気軽に登山仲間を見つけることも可能となったのです。
一方で、新たな問題が浮かび上がっています。
氾濫する情報をうのみにして自分の実力に見合わない山に挑みトラブルを起こすケースが相次いでいるのです。
インターネット時代の登山ブーム。
安全を確保するにはどうすればいいのか課題に迫ります。
こんばんは。
「クローズアップ現代」です。
夏山シーズンが本格的にスタートしています。
日本百名山などの山の頂上を目指す人もいれば自然や美しい山の景色を楽しみたいという人などさまざまです。
登山人口は840万人。
中高年に加えて山ガールと呼ばれる女性たちも気軽に山を楽しむようになり登山のすそ野は以前では考えられないほど広がりを見せています。
その一方で山岳遭難件数は2300件と過去最悪となっています。
登山人口の増加に伴って件数が増えている面はありますが中高年がみずからの経験を過信して山に登り遭難しそうになったり初心者が自分の実力に見合わない登山に挑み救助を求めるケースも増えています。
登山人口が増加する中で増える遭難。
こうした傾向の背景には登山者が積極的にインターネットを活用していることもあると見られています。
ネットを使って登りたい山の情報を手軽に入手できるだけでなく一緒に登山を楽しむ仲間も簡単に探すことができるのですがそうした中でネットの情報をうのみにして危険な登山になったりあるいはトラブルが起きるケースも増えています。
かつてのように山岳部などの組織に所属して登山のスキルを学ばなくてもインターネットを入り口に登山を楽しめるようになった中で起きている登山のトラブルの実態から、まずはご覧ください。
年間130万人が訪れる上高地。
中高年や山ガールと呼ばれる女性たちなど、さまざまなグループでにぎわっています。
そんな中、最近目立つのがインターネットで出会ったという人たちです。
ネットパーティーと呼ばれる登山者たち。
いつでも、どこからでも仲間を募ることができるとあって急速に広がっています。
登山仲間に出会えるサイトは年々増え続けています。
行きたい山や日時を書き込むと全国から参加希望が寄せられます。
中には3万人を超えるユーザーを抱えるサイトもあります。
その一方で予想外のトラブルも起きています。
登山歴16年の今村量紀さん。
3年前、ネットパーティーによる登山で、危うく遭難する事態に陥りました。
今村さんが目指したのは奥秩父にある鶏冠山。
標高2000メートルを超え初心者には難しいといわれる山です。
ネットで参加者を募集したところ全国から7人が集まりました。
登山当日、メンバーの一人に登山歴2年の女性がいました。
女性は事前のやり取りで北アルプスに登ったことがあると書き込んでいました。
朝6時、リーダーの今村さんを先頭に8人が出発しました。
1時間後、一行は川に出ました。
前日からの雨で川は増水していました。
今村さんはメンバーに靴を脱いで渡るように指示。
靴がぬれると、その後の登山に支障をきたすと判断したのです。
登山ではリーダーの指示に従うのが鉄則です。
しかし女性は石伝いに渡れると考え靴を脱ぎませんでした。
そして、川を渡ろうとしたそのとき、足を滑らせ転倒。
ずぶぬれになってしまいました。
その後も単独行動を取ろうとした女性のため一行のペースは乱れました。
しかし今村さんは女性に強く注意をすることができませんでした。
そのうち、女性の足取りはどんどん重くなっていきました。
辺りは暗くなり気温も低下していきました。
あわや遭難という危機に追い込まれた一行。
山小屋にたどりついたのは予定から3時間半後のことでした。
登山に参加した女性です。
ネットでのやり取りだけでは自分の経験や技術に見合う山なのか分からなかったといいます。
互いの認識のずれが招いた遭難の危機。
これを機に今村さんは、ネットで仲間を募ることをやめました。
登山ブームをけん引するインターネット。
その利便性とリスクは紙一重です。
16万人ものユーザーを抱えるこのサイトでは会員たちが登頂までのコースや時間などを投稿。
こうした実践的な情報は登山者にとって極めて有用なものとなっています。
しかし一部では派手な成功体験が独り歩きしたり記録を競い合う風潮を生むなど思わぬリスクにつながっています。
登山歴6年の森浩介さん。
サイトに登山体験を投稿してきました。
短時間で難しいコースを制覇するたびに高まるネット上での評価。
森さんにとって注目されることが目的となっていきました。
そんな森さんが3年前に挑んだのが、日本で2番目に高い山、北岳でした。
難所が多く、通常1泊2日は必要とされますが日帰りで登ろうとしたのです。
森さんは、往復9時間を切るタイムで登りきりました。
これならネット上でも注目されるはず。
ところが下山後異変が起きました。
その後、体調は回復しました。
今、森さんは登山体験がネットで評価される状況に怖さを感じています。
今夜のゲストは、世界中の山を登った経験をお持ちの、登山ガイドの山田淳さんです。
まさに登山の様変わりを実感するんですけども、その象徴が、にわかパーティー。
インターネット上で、仲間を募って、そして山を登る、見ず知らずの人に、一緒に登るわけですけれども、今のリポートにありましたように、リーダーが少し遠慮してしまって、きちっと言えなかったり、あるいはリーダーと、そしてメンバーの、このコミュニケーションがうまくいかなかったり、この危うさっていうのはどう見たらいいんですか?
そうですね、人間関係を作るっていうところの危うさだと思うんですけど、そもそもリーダーっていうものが、旧来の山岳部だったり、社会人の山岳会だったりって、定義されてきたリーダーと違う形のリーダーになってしまっていて、スレッドを立てた人というのが、言いだしっぺがリーダーになってしまっているという状況が多いと思うんですね。
そのパーティーの?
その人はもうリーダーとしての資質があるかっていうのを、例えば、組織から認定を受けてるわけでもなければ、だから、今までの形のリーダーとは全然違う形になってしまってると思うんですね。
ただ一方で、この人たちを止めることはできないですし、長い目で見たときには、この人たちに登山経験がどんどんついてくることによって、安全性っていうのが保たれるわけなので、この人たち、こういうような形で登っている人たちっていうのを、どういうふうに、どういうふうな枠組みで受けていくかということを、考えなければいけないタイミングにきているんだと思います。
旧来型のリーダーですと、リーダーというのは、かなり絶対的な存在なんですか?
そうですね、例えば、私のいた山岳部でいうと、3年生になって、1年生が入って、3年生になって、ようやくリーダー山行っていう試験みたいなものを受けさせてもらって、そこに今までリーダーをやった人がついてきて、リーダーをやれるかどうかっていうことを、認定するというような形になります。
そのリーダーは、それまでメンバーと、コミュニケーションも取ってますし、どのぐらい、この人がスキルがあって、体力があってというところが分かってますので、判断もしやすいですし、リーダーの判断については絶対だっていうところは、共通認識としてあると思います。
もし体力がないと思ったら、もう、これ以上、進むなということも言えるような存在なんですか?
そうですね、行く前に、もうもちろん、計画を立てて、このメンバーで行けるかどうかっていうところを判断しますし、行ったあとに関しても、リーダーの判断っていうのは絶対、メンバーの中で守られますね。
ただ、同時にインターネット時代になりますと、自分が、この山を登れる力量があるのか、体力があるのか、技術があるのかって、いろんな人の書き込みの情報であふれていて、いわば判断材料が豊富にあるんではないかと思えるんですが、一方で、今のVTRにあったように、称賛を目的に書いているケースもあるのではないかということで、この情報の量と質、ご自身も、初心者向けのネットを使った情報発信されてますけど、これは判断材料として、どう使えばいいんでしょうか?
量と質というのは全然違う方向性のもので、量に関しては、ネットのアクセスが増えたことによって、多種多様な情報にアクセスができるようになって、量に関しては圧倒的に増えたと思います。
これはすごくポジティブなことだと思うんです。
ただ一方で、質の部分に関しては、玉石混交になっているということ、それから発信者に関しては、読まれること、もしくは読まれて、それを前提に、山に行くことを前提に考えて書いているわけではないので、書くときというのは、自分の書いた記録を載せたいという思いで、先ほど、称賛されたいというのがまさにそうだと思うんですけれども、自分の書いた記録を残すため、もしくは人に記録を見てもらうために書くのであって、その記録を見て登る人のために書くわけではないので、今までの例えば、雑誌だったり、例えばガイドブックだったりに載っている情報とは、全然書き手の思いというのが異なってくるっていうのはあると思いますね。
後はもう一つ、オフィシャルな情報ではないということですね。
例えば、県だったり、例えば、山岳の雑誌だったりが出しているオフィシャルな情報ではなくて、あくまで個人の判断なので、その人と行こうとしている人というのは実力が違えば、もちろん感想も違いますし、受け止め方も全然違うので、そのオフィシャルじゃない、客観性がないっていうところに関しては、情報を受ける側、調べる側が意識しなければならない問題だと思います。
なるほど。
さあ、こうした中で、インターネット時代の、その登山において、どう安全を確保していくのか、その模索も始まっています。
インターネットで仲間を募っている登山サークルです。
メンバーの多くは登山経験の浅い20代から30代の若者たち。
この日は、白馬岳に登るイベントに14人が集まりました。
このサークルが最も重視しているのは安全対策です。
メンバーが費用を出し合い経験豊かなガイドをつけます。
さらに、メンバーの中からリーダーを任命。
より細かく目配りできるようにしています。
白馬岳の最難関3.5キロ続く大雪渓です。
ガイドは初心者のために雪上の歩き方を丁寧に指導します。
いよいよスタート。
しかし、あいにくの悪天候。
ガイドはリーダー役のメンバーと共に、一行の体調をこまめにチェックします。
サークル結成から3年。
これまで30回以上の登山を無事成功させています。
ほかにも、このサークルでは登山用具の講習会なども開催。
きめ細かな安全対策が受け現在、メンバーは800人に達しています。
一方、個人の登山記録を公開してきたサイトでも新たな取り組みを始めています。
サイトを運営する的場一峰さんです。
無謀な登山をあおるような情報を削除。
登山日数のランキングの掲載をやめました。
その一方で遭難などトラブルの体験を載せたコーナーを新設。
リスクに関する情報を積極的に発信しています。
的場さんは今、サイトを活用した安全対策の輪を広げようとしています。
この日は、山岳救助に関わる警察や消防関係者の会合に出向きました。
その場でサイトを使ったあるサービスをアピールしました。
登山者は警察に対して事前に登山ルートや緊急連絡先などを記した計画書を出すことが求められています。
しかし、実際はあまり提出されておらず捜索や救助活動の遅れにつながっていました。
そこで的場さんはサイト上で簡単に計画書を作成でき直接警察に送れるシステムを開発。
現在12の県警に送信が可能となっています。
遭難対策の有効な手だてとして今後、全国への普及を目指しています。
安全対策ですけど、まず最初にありました、にわかパーティー、これは今後、止められないトレンドだって、おっしゃってるんですけども、今のケースでは、ガイドをみんなで雇って、そしてリーダー、サブリーダーを決めて登ると。
このやり方は、どうですか?
すばらしいと思いますね。
本当にこのやり方が広がっていけば、リーダーがやれる人、旧来型の意味でのリーダーをやれる人というのは、広がってくると思いますし、ガイドからのスキルのトランスファーですよね、ガイドのスキルを一般の人に広めるって意味でも、すごく、いい取り組みだと思います。
ただ、一方で考えなきゃいけないのは、全体で800万人いる中の今で800人、1万分の1の動きなんですね。
だから、この形が本当に多く広がってきて、マクロで見たときにも、動きとして見えてくれば、すごくいい動きだと思うんですけど、まだ、今の段階では、ちっちゃい動きとして捉えないと、全体の中から見ると、見失うかなという気がします。
でも実際、リーダーを務めた人が、あとからプロの山岳ガイドの方に、どこがよかった、悪かったっていうフィードバックも必要でしょうね?
そうですね、リーダーというものになるときに、われわれが、旧来型の組織の中で受けてきたものっていうのの、先輩リーダーを、ガイドが役割を果たすわけなので、フィードバックというところで、自分のリーダーのスキル、クオリティーというのを高めていくということに動きは必要だと思います。
そして、ネット上の情報の客観性をどう高めていくかということにも、チャレンジしていたと思うんですけど、無謀な競争をあおるような部分を減らして、そしてリスク情報を出して、さらに、計画書を警察署に出しやすいようにしたということですけれども、この計画書というの、みんな出してますか?
現状では、たぶん全員出しているという状況ではないと思います。
ネット上で出しやすくしたっていうのは、すごく大きな、いい動きだと思うんですけれども、じゃあ、これで今まで出さなかった人が出すようになるかというと、ちょっと遠いかなという気はしますね。
どうすればもっともっと出すようになりますか?
計画書を出すことに対しての、インセンティブというのをつけていかなければならないのかなと。
一つのアイデアですけど、例えば保険と連動させて、計画書を出してなければ保険が出ないとか。
登山保険に入れないとか?
もしくは登山口で、計画書を出してない人は入山できないとかっていうような形での、計画書の必要性をもっと提示していくってことが必要なのかなと思います。
こうした新たな登山の実態を踏まえて、安全性を高めていくうえで、どういう取り組み、どういう制度が必要だとお考えですか?
インフラ作りということを非常に重要だと思っていて、これまでずっと登ってきた人たちというのは、日本人ばっかりだったのが、今までと全然違う形の人たちというのが増えてきてるわけですよね。
この一つのネットから流入してきている人たちっていうのも、一つ、今までになかった動きだと思うんですけれども、一方でインバウンド、外国人登山者という問題も抱えていて。
増えてるんですか?
だから、登っている人たちが変わってきているので、新たな制度、新たな仕組みということで対処していかないと、今までの考え方、今までの仕組みではもう対処できない動きになってしまっているということだと思います。
一つはやはり、きちっとした客観的なオフィシャルな、この山は自分に合ってるかどうかっていうところも知りたいですよね。
そうですね、自分自身のスキルを、客観的に判断しなきゃいけないですし、その上で、次の山に行けるのかどうかというところを判断しなきゃいけない、この2つのスキルの物差しが必要だと思います。
長野県ではグレーディング、出してますけれども、もっとはっきりと自分は次、どこ登れるかっていう物差しが必要だと?
そうですね。
その物差しがあることによって、自分自身が…2015/07/29(水) 01:00〜01:26
NHK総合1・神戸
クローズアップ現代「夏山トラブルに注意!ネット時代の登山ブーム」[字][再]
登山仲間を募ったり、山の情報を集めたり、インターネットのおかげで登山はぐっと身近なものとなった。一方、頼りすぎると思わぬ落とし穴も。ネット時代の最新事情を追う。
詳細情報
番組内容
【ゲスト】登山ガイド…山田淳,【キャスター】国谷裕子
出演者
【ゲスト】登山ガイド…山田淳,【キャスター】国谷裕子
ジャンル :
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
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音声 : 2/0モード(ステレオ)
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