1100分de名著 小泉八雲 日本の面影(最終回) 第4回「心の扉を開く」 2015.07.29


安心してゆかたを楽しんで下さい。
小泉八雲といえば「怪談」です。
八雲は日本にやって来てすぐに怖い話の魅力に取りつかれ「日本の面影」の中でも数多く紹介しています。
しかし八雲が引かれたのは妖怪やお化けの怖さだけではありませんでした。
「怪談」の中に人間の情更には日本人の道徳観や美徳をも見いだしていたのです。
「100分de名著」「日本の面影」。
小泉八雲の生き方から他者を理解するその柔軟なまなざしを読み解きます。

(テーマ音楽)「100分de名著」司会の…さて前回は小泉八雲日本人の習慣であるほほ笑みとか美意識を代表する庭を日本人の立場に立って分析していくという。
伊集院さんどうでしたか?日本人の習慣をべた褒めするわけじゃなくて日本人に感じた違和感なのか我々と違うなという事を一度日本人の気持ちになって理解してくれるみたいな所が何かとてもうれしかったし新鮮でした。
さて小泉八雲といえばもう「怪談」ですよね。
はい大好きです。
実はこの「日本の面影」の中にもその元となるような民話がいろいろ紹介されているんですね。
八雲が民話や説話に引かれたのはどうしてだったのか今日はひもといていきたいと思います。
指南役は早稲田大学教授池田雅之さんです。
(一同)よろしくお願いいたします。
「日本の面影」の中にも晩年の「怪談」のようなお化けの話幽霊の話が出てくるんですね。
これは世界共通の価値意識道徳人間がどういうふうに生きていったらいいのかそういうものを描いてるわけですね。
そうすると八雲さんの文学というのは日本人が読んで喜ぶだけではなくてやっぱり世界中の人が読んでも楽しめ理解できるそういう普遍的な要素も持ってると。
そういう話をしていきたいなと思っております。
では「日本の面影」に紹介されている民話から一つご紹介いたしましょう。
松江の中原町にある大雄寺の墓地にこんな話が伝わっています。
八雲のフィルターにかかるととても温かい話になるっていうかちょっと何かまあお母さんはもちろんなんだけど亡くなったお母さんはもちろんなんだけど飴屋の主人のちょっとした優しさみたいなものもこんな短い文章の中に入ってる気がして。
八雲さんの作品というのはみんな…これは仏教説話だったり…こういう話を見つけてそして原作にない「母の愛は死よりも強い」という一句を付け加えたわけですね。
これは4歳の時に八雲さんはお母さんとギリシャ人のお母さんと生き別れをしています。
母との愛というものをこれを書き留める事によってかなわぬその母への思慕というものを表現したのではないかな。
母の一念がね飴を買いに行ってというこういう事ができるというのと確かに離婚して国に帰ってしまって距離も立場も隔たりがあるけどお母さんは多分自分の事を好きでいてくれるだろうという事がここに入ってますよねやっぱりね。
僕はこもってると思いますね。
八雲はこういった説話を集めて1904年に「怪談」を出版するんですけれども5つのテーマに分かれていると。
僕自身は…これは自分のやっぱり内面の記録だ心の記録としてそういうものをこう書き留めている。
自分の意にかなったものしか選んでない。
つまりその意にかなってるものというのはやっぱり自分の人生のどこかにビーンと触れてくるものだったと僕は思ってるわけです。
そうですね。
さっきの水飴の話はこれで言うと母の愛。
しかも永遠の愛。
死んでも子供を育ててるわけですから。
僕ね薄く「信頼」も思ったんですよね。
あの心配してくれる主に託すという瞬間が僕あると思うんです。
あんな短い中にもまず声かけてくれるじゃないですか。
どうしても気になっちゃって後をつけちゃうっていうのあるじゃないですか。
そこで多分初めて子供を託せると思うのかしらと思ったりとか。
そう考えるとちょっとずつキーワードは響き合ってて。
ほんといろんな響き合ってる感じですね。
一つには限定ができないですよね。
この世界は私たち日本人だから感じる事はできるんですけどこれアメリカで出版された時にこういうのは伝わるんですか?そうですね八雲さんの「怪談」が世界中で読まれてもういろんな言語に訳されているんですね。
人間の基本的なものの考え方常識とか倫理観とかそういうものが書かれてると思うんですね。
単なる仏教説話を種本にして書いた日本の物語というよりも…さて「日本の面影」には「怪談」の元になる民話他にもあるんです。
もう一つご紹介しましょう。
出雲の国の持田の浦という村にある農家の夫婦が暮らしていました。
2人は貧しかったため子供ができても育てる事ができず生まれる度に子を川に流していました。
6人を川に捨て7人目の子を産んだ時ようやく暮らし向きも良くなってきたのでその子を育てる事にしました。
息子はすくすくと育ち男は日増しに我が子がかわいくなっていきました。
夏のある夜5か月になった息子を抱いて庭に出た時の事です。
怖いですね。
怖いですね。
これも八雲の内面に迫ってるという分析ですか先生。
恐らく憎しみがあって…母親にも結局は捨てられたんですけれども母親は違うというふうに彼の中では思ってて思慕を募らせましたけれども父親は他の人と再婚したりですね。
戦死してしまいますけど。
ちょっと許せないと思ってたんじゃないかと。
八雲はこういう怪談話を妻の節子さんからたくさん聞いてたそうなんですが節子さんというのはこういう方でございます。
結婚する事になるという事なんですね。
すごいサポーターがついて。
これはもう最大な。
最大のサポーター。
だから恐らく…彼女いなかったらできなかった。
それで夜な夜な八雲さんがセツさんにおねだりをして怪談のおねだりをしてね怪談を聞かせるわけですね。
ちょっとこちらご覧頂きましょう。
これは「思い出の記」という節子さんが八雲との生活を振り返って書いた手記からの一節なんです。
なんというかわいらしいご夫婦像が目に浮かびますね。
八雲さんも日本語は達者じゃないし節子さんは英語がしゃべれるわけではないんだけどどんな会話をしたのかなとこれ不思議でしょうがないんだけどもう以心伝心とかしか言いようがない。
たどたどしい日本語をわざと彼女は使って八雲さんもそれをかみ砕きながら聞いていったみたいですよ。
多分節子さんはすごく頭のいい方でいろんなものを自分のものにした上で恐らく分かりやすい簡単な日本語にしないと分からないから八雲さんに分からないから簡単にシンプルにシンプルにするという事とそのシンプルだから響いた事をもう一回書くというこの作業はとても大切でやっぱりこれが生み出す力ってすごくないですか。
僕はそう思いますね。
やっぱりこういうものが生まれてくるというのはそこが何か一つ自分の磁場というか何かを生み出す場だったと。
そしてその作品を通して自分の生い立ちとかですね…僕は思ってるんですね。
これ描いてるのは幽霊とかお化けかもしれませんけれども…子供の頃にその孤独とかさみしさとかから幽霊を生み出していくその恐怖は自分の中だけのものじゃないですか。
でもそれをちゃんと物語として書くという作業はまさに向き合うって事ですよね。
いよいよ書けるという状況ってそういう事…消化するいよいよ消化する作業に入るという事ですもんね。
そう思いますね。
「怪談」というのはほんとにさっき自伝的作品と言ったけど総仕上げだったと思いますね八雲にとっては。
それはもう言うまでもなく節子さんを得た上での実現できる話だったというふうに思ってますね。
ではその「怪談」から一つ物語をご紹介しましょう。
時は室町時代。
能登に住んでいた友忠という若侍が二十歳を迎えた時の事。
京都の大名のもとに使いに出される事になりました。
真冬に旅立ったので辺りは深い雪に覆われていました。
慎重に馬を進めましたが2日目になると猛烈な吹雪が襲ってきてすっかり疲れきってしまいました。
その時わらぶき屋根の家を見つけたのです。
休ませてもらおうと雨戸をたたくと一人の老女が出てきてこう言いました。
(老女)まあどうなさいました。
さあさあ早くお入り下され。
友忠が家に入ると夫と娘がいました。
娘は青柳という名で身なりはみすぼらしいのですが顔だちがまれに見るほど美しく友忠は驚きました。
吹雪がやまないため老夫婦の家で一晩泊まる事にした友忠は青柳の立ち居振る舞いと顔だちの上品さに身も心も奪われてゆきました。
友忠は老夫婦に…。
(友忠)青柳を嫁に下さらぬか。
…と懇願したのです。
老夫婦は喜んで受け入れ友忠は青柳を嫁として京へ連れてゆきました。
その後京で友忠と青柳は結婚し幸せに暮らしていました。
しかし5年ほどたったある朝の事。
青柳が突然苦しそうな叫び声を上げます。
みるみるうちに真っ青になり弱々しい声でこう言いました。
(青柳)お別れする時がやってまいりました。
私はもうすぐ死にます。
おかしな事を言うものではない。
少し休むがよい。
いいえ私は死にます。
私は人間ではないのです。
私は木の精です。
誰かがたった今私の木を切り倒しているのです。
苦しそうな叫び声を上げると青柳の体はへなへなと床に崩れました。
畳の上には着物と髪飾りだけが残っていました。
その後友忠は仏門に入り諸国行脚の僧になります。
行脚の途中友忠は青柳の実家を探しました。
住まいは跡形もなくなっていました。
ただ3本の柳の切り株があるだけでした。
何か現代の環境破壊へのメッセージみたいなねとても新しいものに感じる。
ほんとですね。
そうですね自然を大切にしましょうというメッセージも見えるんですけどももうちょっとその八雲に沿って考えていくとこれも切り株が切られちゃうわけですね。
人間の手によってね。
それで絶命するわけなんだけども「なぜ私の根を切ったの」と言うわけでもないし恨めしいって事とか人を非難するという事はないんですよ。
その辺に僕は日本人の持ってる倫理観と言うのか美意識みたいなものがあるんじゃないか。
裁かない人をおとしめないというところそこを八雲さんは日本人の美質としていい点としてずっと見てきてるんですよね。
何か美しい意味での諦めみたいなとても日本人らしいと思うんですね。
だからいろんな…この「青柳」を典型にしてねいろんな作品を読んでみるとそこにやっぱりこう深い情感の通い合いがあって。
自然がきれい花がきれいというだけじゃなくて人間に通い合うような情感感情と言いますかそういうものにも「美」を見てたんじゃないか。
これまで「日本の面影」読み解いてまいりましたけれど八雲は私たちにじゃあ一体何を投げかけているのか。
まず一つは「オープンマインド」。
そして「マルチアイデンティティ」。
彼が生き抜いてきた一つの知恵というのはやっぱり自分の感覚というものを非常に大事にして解き放して人に接し物事に接してきた。
それからやはり他者に対して温かなまなざしを持っている。
他者の立場に立って考えていく。
それから他者への共感・共鳴。
これも2番目とつながるんですけれどもこの他者に沿わせるという事ですね。
その中に入ってって理解すると共感・共鳴をしていくというそういうものがこれから必要じゃないか。
それからマルチアイデンティティというのは日本人はこれまで海外から学ぶという時にはいわゆるトップネーションから学ぶ。
戦前はイギリスでありその前はオランダであり戦後はアメリカだというんで日本人全体のね異文化へのチャンネルというのはどうも一元化されてきている。
自分の中にもいろんなチャンネルを異文化理解のチャンネルをねいくつか作っていくと。
前はアメリカイギリスフランスだったかもしれないけどもやはり隣国であったりアジアであったりというふうにそういう事が。
そういう意味での…僕がずっとやっててすごく思うのはオープンマインドの3つ目「他者への共感・共鳴」これがもうとても感動するしそうありたいと思うのって何か相手の立場を考えて相手を褒めた途端に「じゃあお前日本は駄目なのかよ」みたいな感じになりがちじゃないですか。
僕共鳴・共感はできるはずだと思うんです。
共感・共鳴するためにはやっぱり私たちは日本人としての自分のよりどころみたいなのをもう一回確かめないと何か共感も共鳴もしようがないですね。
しっかりと俺たちの中にこれが流れてるというのが分かるために多分確認して俺らは日本人であるという誇りとあとそれをもしかしたら見失いつつあるんじゃないかという恐怖と両方とも感じますけど。
八雲に帰ろう八雲さんが持ってるオープンマインドを自分の中に育てようというそういうメッセージなんですけれども。
八雲さんの作品を深く読んでいくとですね問い詰めるんじゃない非難するんではなくて何かこう美しい形で乗り越えていく道が探れるんじゃないかなって思ってるんですけども。
小泉八雲が初めて来たようなその立ち位置と同じぐらい僕は日本の事が分からなくなってると思うんです。
だから小泉八雲に負けないぐらいの感性を磨く事で日本を見つけられるし日本の良さをもう一回取り戻せるから僕はそこの感性を磨いていこうかなと思いました。
今後の伊集院さんに期待しています。
ありがとうございます。
本日はありがとうございました。
ありがとうございました。
2015/07/29(水) 22:00〜22:25
NHKEテレ1大阪
100分de名著 小泉八雲 日本の面影[終] 第4回「心の扉を開く」[解][字]

小泉八雲は自らの魂の傷を癒やすものとして日本の古い民話や説話を発見し「怪談」という傑作へと昇華する。それは「開かれた心」を持ち続けた八雲ならではの芸術作品だった

詳細情報
番組内容
小泉八雲は自らの魂の傷を癒やすものとして日本の古い民話や説話を発見し「日本の面影」の中に採録する。やがて八雲は「再話文学」という方法を使ってそれらを「怪談」という傑作へと昇華していく。さまざまな文化が融合したその作品は「開かれた心」を持ち続けた八雲だからこそなしえた芸術だった。第四回は、「日本の面影」が傑作「怪談」に結実するまでの軌跡を追い、八雲が目指した「魂の理想」を描き出す。
出演者
【講師】早稲田大学教授…池田雅之,【司会】伊集院光,武内陶子,【朗読】佐野史郎,【語り】好本惠

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 文学・文芸
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化
趣味/教育 – 生涯教育・資格

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
サンプリングレート : 48kHz
2/0モード(ステレオ)
日本語(解説)
サンプリングレート : 48kHz

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