1500億円にも上る不正会計が発覚した東芝。
元社員がその実態を証言しました。
今回、辞任した歴代3人の社長。
不正会計につながる過大な要求を現場に突きつけていました。
海外メディアは日本の企業体質を批判。
アメリカでは株主の集団訴訟の動きも出ています。
巨額の不正会計はなぜ起きたのか。
関係者の証言からその内幕に迫ります。
こんばんは。
「クローズアップ現代」です。
本来、計上すべき損失を先送りし意図的に利益をかさ上げすることで企業の業績を実際よりよく見せることは投資家や取り引き先を欺く行為です。
東芝の不正会計問題を調査した第三者委員会は経営トップのいわば経営判断として組織的に不適切な会計処理が行われていたと断定しました。
証券取引等監視委員会は有価証券報告書などの虚偽記載に当たるという見方を強め、東芝に対して課徴金を科すよう金融庁に勧告する検討を本格的に始めました。
利益のかさ上げは辞任したこちらの3人の社長のもとで行われていました。
西田氏が社長だった2008年度の282億円から始まり、佐々木氏が社長だった2012年度には858億円と拡大。
続く田中氏も不正会計を止めることができずかさ上げされた利益の総額は7年間で1518億円に上っています。
また不正会計を知りえた立場にあった経理部門や会計処理が適切か否かをチェックする役割を担っていた財務部など東芝の各部門における内部統制も機能していなかったと調査報告書に書かれています。
創業140年、従業員20万人。
日本を代表する大企業はなぜ不正会計に手を染めたのか。
そして社外取締役を置き外部の目で経営陣を監督する仕組みをいち早く作るなど経営の透明性法令やルールにのっとった経営を行う企業統治コーポレートガバナンスのいわばトップランナーであったはずの東芝でなぜ社長の暴走を止めることができなかったのか。
世界を相手にビジネスを展開する日本企業に対する信頼を損なうことにもつながりかねない東芝の問題の背景を元役員や幹部の証言から探っていきます。
不正会計の責任を厳しく問われた歴代3人の社長。
名門企業で何が起きていたのか。
私たちは100人を超える幹部経験者を取材。
20人が匿名を条件に内情を明かしました。
東芝に異変が起きたのは西田氏が社長だった2008年のリーマンショックのころでした。
世界的な景気悪化で売り上げが激減。
過去最悪となる3435億円の赤字に陥ったのです。
この時期から、西田氏は業績を上げるよう部下たちに強く迫るようになりました。
東芝はパソコンや電力システムなど事業ごとに独立採算とする社内カンパニー制度をとっています。
社長が、この各カンパニーを統括する仕組みです。
西田氏は、月に1度社長月例と呼ばれる会議に各カンパニーや主要子会社の責任者を呼び寄せました。
西田氏は、具体的な金額を挙げて利益を死守しろなどと発言。
利益をかさ上げする会計処理が行われるようになりました。
子会社の元社長は会計のチェック機能が働かなくなっていったといいます。
西田さんはあからさまに経理なんて言われたとおりに数字をつけておけばいいんだと発言しそうした考えがほかの幹部の間でも広がっていった。
西田さん以来経理の立場が弱まった。
利益のかさ上げが最も大きかったのがパソコン部品の取り引きを利用した不正でした。
当時のパソコン事業の営業利益の推移です。
6月、9月、12月と3か月ごとに大幅に利益が上がっています。
四半期決算のタイミングで利益のかさ上げが行われていたのです。
その方法です。
決算直前に、パソコンの製造を委託していた会社などに高値で部品を買ってもらい一時的に利益を確保します。
決算後に完成品を買い戻すため逆に利益が減ります。
再び決算前になると部品を高値で売り見せかけの利益を計上していたのです。
社内では押しこみや借金と呼ばれていました。
不正会計は2009年6月に西田氏から社長を引き継いだ佐々木氏の時代にさらにエスカレートしていきます。
その一因となったのが東日本大震災後の経営環境の激変でした。
経営の柱としていた原子力事業の先行きが見通せなくなったのです。
佐々木氏は社長月例の場で決算までの3日間で120億円の利益を出すよう迫るなど不可能な要求をするようになりました。
しかし、社長に反論する人はいませんでした。
会議に出ていた元取締役の証言です。
このころになると本来会計をチェックすべき部門が社長の意をくんで現場に圧力をかけるようになっていったといいます。
財務部の社員が社長はこの部分について攻めてくるぞとかここはきちっと準備したほうがいいぞといったアドバイスをしてくる。
社長の分身みたいな存在。
社長の意に沿う数字を作ることに一生懸命になってしまった。
内部のチェック機能がまひし歯止めが利かなくなった東芝。
他社に先駆けて外部の目で不正を防ぐ仕組み監査委員会を導入していましたがこれも機能しませんでした。
5人の委員のうち3人は社外取締役で、経営を監視して問題を見つけた場合は是正を求めるのが役割です。
しかし、会計の専門家は含まれていませんでした。
社外取締役を務めた人物の証言です。
自分も頼まれたから務めていただけ。
社外取締役が専門家じゃないとだめなんじゃないかとかそれは自分に言われても困る。
別の元社外取締役は不正の発見につながるような情報は一切提供されなかったといいます。
社内の悪い話を外部の私たちに積極的に出していくことは現実的には考えにくい。
監査委員会で出された資料を基に不適切な経理を見つけることは難しい。
田中社長の時代も利益のかさ上げは続きました。
誰も止められないまま7年にわたって続いた不正会計。
その総額は1500億円を超えました。
今夜のゲストは、企業会計がご専門で、企業の経営管理の研究を続けていらっしゃいます京都大学大学院教授、澤邉紀生さんです。
東芝のこの問題が非常に深刻だなと思うのは、調査報告書を読みまして、企業のトップだけでなく、社内カンパニーのトップやそして上層部、さらには、その役職員にまで関与あるいは容認していたというようなことが書かれていて、本当にまさに組織的。
どのように見ていらっしゃいますか?
東芝のような、日本を代表する、しかもコーポレートガバナンスでも、先進的な試みを次々とやっている、いわばトップランナーの企業で、こういう会計不正が起きたというのは、大きなショックでした。
ただ、この報告書を読みまして、その中身を見ていきますと、これは恐らく東芝だけの問題じゃないなと、日本の優良な企業でも、あるいは優良な企業であればあるほど、トップが会計、あるいは利益について間違った考え方を持つと、こういったことっていうのは起こってもおかしくないなというふうに思っています。
そのトップがどうしてそういう間違った考えを持つようになるのか。
一番大きな間違いというのは、利益は操作できる、利益は会計捜査でどうとでもなるというふうに思ってしまったところではないかなと思います。
というのは、利益というのは、会社にとっては、あるいは社長にとっては、成績表のようなものなんです。
それを自分で成績を書き直すことができる、こういうふうに思ってしまうと、いったん始めたうそを次々と重ねていかなければいけなくなる。
そういう深刻な問題があって、それが長年続いた結果として、東芝ではこういうようなことになってしまったんだろうなというふうにいえるかと思います。
トップをなかなか止められないということですけれども、こちらにそのチェックの仕組みなんですけれども、形としては非常にそのコーポレートガバナンスの先進的企業で、トップランナーだといわれていて、内部には経営・財務の部門のチェックもあるでしょうし、監査委員会というのも設けられていたということなんですね。
そして外部には監査法人、まず、この内部の部門で、経理・財務の部門ですけれども、今のリポートにありましたように、非常に不可能な要求が出ても、なかなかその元取締役も言ってましたけれども、なかなか異を唱えられない。
あるいは次第に関係者が社長の意に沿うような数字を作るようになっていったと。
どうしてそういうことが起きるんですか。
これはもうひと言でいうと、残念ながら、会社人間でしかなかったと。
本来ならば、経理・財務のプロとして、高い倫理観、使命感を持って仕事をすべき立場の人たちが、これはどうしようもないことかも分かりませんけれども、日本の企業風土では、会社のため、でも会社のためといっても会社のためではなく、社長のためというレベルで、仕事をせざるをえなかったということではないかなと思っています。
しかし、自分がそういうことをすれば、ほかの従業員の背信行為にもなるし、結果として、会社のためにならない、そうしたいわば倫理観というものもあるかと思うんですけども。
そうですね。
ところが日本の場合には、就社するというんでしょうか、就職するとはいえ、会社で勤め上げるというのが、特にエリート層においては理想になって、います。
そのもとでは、社内で頑張れば頑張るほど、長年、勤め上げれば勤め上げるほど、社内独自の会社の中での狭い倫理観に染まっていき、社会全体の倫理観からずれてしまっていることに気付かないということがあってもおかしくない、そういう事例ではないかなというふうに思います。
そして、先進的な取り組みとして、社外取締役が、5人のうち3人が占めるこの監査委員会があったわけですけれども、ここでもそのチェックが効かなかったと?
そうですね。
この監査委員会は、委員会と設置会社の一つの大きな仕組みとして、社外取締役がその実力を発揮する場所のはずなんですけれども、残念ながら、東芝の場合には、監査委員会の委員長が歴代の財務の最高責任者が横滑りしてきてしまったということがあるので、どうしても止められなかった。
その財務責任者は、もともと不正会計の処理に関わっていたと?
というような人たちなわけで、これは、仕組みとしては外部の仕組み、社外の取締役に活躍してもらう仕組みのはずなんですが、実質としては、社内のしがらみに縛られたそういったものになってしまったと。
仏を作っても魂を入れないという、そういう話ではないかなというふうに思っています。
そうすると、最後のとりでがこの外部の監査法人ですけれども、こうした不正な会計というものは、見つけやすいものなのかどうか、これ、どう見たらよろしいでしょうか?
これはいろいろな大きな会計不祥事と比べますと、今回の事例というのは、比較的、多くの部署において、繰り返し行われていたような、そういう会計操作になっています。
ですので、本来ならば、これは難易度としては、発見することが容易だったような種類の会計操作、会計不正だというふうにいえるかと思います。
言ってみますと、これは、この点については、今回の第三者委員会の報告書というのは、対象として扱っておりませんので、この点については、さらなる調査が必要だというふうに、私、会計の専門家としては感じております。
今回の報告書では手続きや、その判断に問題があったか田舎は、取り上げていないというわけですから。
本当にうみが出しきれたかどうかというのは。
そこのところは、今回の調査だけで結論を出すというのは、まだ時期尚早ではないかなというふうに思っております。
今回の問題で問われました社長の暴走。
それを防ぐために外部の目をどう活用すればいいのか、模索するある企業の動きをご覧ください。
電子部品や医療機器などを製造するオムロンです。
4年前、外部の目を入れて社長を選びました。
私は先月の21日に正式に代表取締役社長に就任をいたしました。
就任した5代目の山田義仁さんです。
オムロンでは、創業家出身の社長が3代続きました。
4代目は創業家出身ではありませんが前社長の指名でした。
経営環境が大きく変わる中5代目の選任に当たっては社内のしがらみにとらわれない社長指名が必要だと考えました。
会社では社外取締役をトップとした社長指名諮問委員会を設置。
社長の実質的な選出を初めて社外の人間に委ねることにしたのです。
委員会のトップに選ばれた経営コンサルタントの冨山和彦さんです。
粉飾決算で経営危機に陥ったカネボウや日本航空の再建に携わりました。
社内で次期社長候補に選ばれたのは10人。
そこから社外取締役の冨山さんが中心となり2年半かけて候補者一人一人の適性をチェックしていきました。
取締役会での発言や部下との接し方。
さらには飲み会での様子まで徹底的に調べ上げ3人にまで絞り込みました。
さらに半年かけて面談を重ねた結果所属する部署は主流ではありませんでしたが海外での実績を評価し山田さんを選んだのです。
社長就任後も短期的な利益を追い求め過ぎていないか部下の意見にしっかりと耳を傾けているか冨山さんは、山田さんを監視していきたいとしています。
万が一経営トップが暴走した場合社外取締役は解任を迫る覚悟が求められるといいます。
今の企業、社長の暴走を止めると、防ぐという意味での今の取り組み、どうご覧になられましたか?
その点についてはまず2つあると思うんですね。
1つは、どういうような基準で社長を選ぶか。
それともう1つは、選んだ社長が、きちんと仕事をしているかをどういうふうにチェックしていくかと。
最初のほうの社長の選び方なんですけれども、オムロンさんのケースは、これは大いに参考になると思います。
社内の狭い論理で選ぶのじゃなく、グローバルな、また将来を見据えて、大きな基準で選んでいくと。
これはいってみると、そのガバナンスということばのもともとの意味あいからも理解できるかと思います。
ガバナンスというのは、大海原で船のかじを取るという意味で、社内の論理で人を選ぶ場合には、瀬戸内海、あるいは琵琶湖でヨットに乗る人のかじ取りを選ぶと、そういうレベルの話で、それに対して、グローバルな基準で選ぶというのは、太平洋の荒波にもまれても大丈夫な、そういうような選手を選ぶと、かじ取り役を選ぶということで、この部分というのはすばらしい試みだなというふうに思います。
もう1点のほうが、社長を選んだあと、どうするかとこちらについては、社外取締役がある種、バランスの取れた緊張関係、建設的な緊張関係を社長を持つということが必要かなと。
それを持つためには、社外取締役は、いざとなればいつでも解任動議を出せると。
別の言い方をすると、いざとなれば、いつでも自分を選んでくれた会社を離れてもいいんだという、そういうような胆力、肝が据わった心と実際にそれができるような環境を持った人ということが重要かなというふうに思います。
ただ、その社外取締役には、すべての情報が入ってくるわけではない、やはりその内部において、きちっと上司やその上の人にものが言える空気っていうのが、非常に大事かと思うんですけども、東芝の場合は、そこが言えなかった。
どういうふうにすれば、風通しのいい企業になっていけるんでしょうか?
これは、1つの会社だけで努力してどうにかなるような話でもないように思います。
やはり、社内外の風通しをよくしようと思うと、会社の外部との交流、会社の中だけで成長するのではなく、会社の外でも成長できる、そういうような機会を社会のほうで用意していく必要があるんじゃないかなというふうに感じております。
具体的にはどういうことですか?
具体的にはエグゼクティブ・エデュケーションであるとか、あるいは。
2015/07/29(水) 19:30〜19:56
NHK総合1・神戸
クローズアップ現代「東芝 不正会計の衝撃〜グローバル企業で何が〜」[字]
歴代3人の社長が辞任を表明する異例の事態となった東芝の不適切会計問題。日本を代表するグローバル企業でなぜこうした問題が起きたのか。最新の取材を通して背景を探る。
詳細情報
番組内容
【ゲスト】京都大学大学院教授…澤邉紀生,【キャスター】国谷裕子
出演者
【ゲスト】京都大学大学院教授…澤邉紀生,【キャスター】国谷裕子
ジャンル :
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
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